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1451/1475

1451:理想の食材。

 俺とユルゲン、そしてフィーネさまはナイさまの屋敷からアルバトロス城へと戻っている。


 フィーネさまがナイさまとどんな話をしたのか聞き取るため、俺とユルゲンは外務卿からの命を受けているのでフィーネさまを城の賓客室に案内していた。シャッテン外務卿から命を受けたということは、陛下からの命でもあるのだろう。

 やはりアストライアー侯爵位を持つナイさまの婚姻相手が誰になるのか、アルバトロス上層部も気を使っているようだ。ジークフリードはナイさまからの返事をゆっくり待つと言っていたが、外野はヤキモキしているのかもしれない。


 絨毯を敷き詰めた部屋の豪華な椅子に腰を下ろした俺たちはお互いに礼を執る。正面にフィーネさま、俺の左隣りにユルゲンが腰を掛け、顔を上げれば三人とも笑みを浮かべていた。


 「お疲れさまです、フィーネさま」


 「お疲れさまでした、大聖女さま」


 俺とユルゲンがフィーネさまへと先に口を開く。公式な場ではないので、どちらが先に発言をして上下関係を示すなんて面倒なことはしない。

 相変わらずアストライアー侯爵家は広い屋敷であるものの、他家と比べると使用人の数が少ない。同じ位を持つユルゲンの感想なので間違いはないのだろう。言われてみれば、俺の実家であるメンガー伯爵家の領主邸よりアストライアー侯爵家のタウンハウスの方が人の気配が少ない。


 ただ妖精が元気に飛び回っている屋敷はナイさまの家以外ないだろうと断言できた。領主邸の方は天馬さま方とグリフォンが増えたと聞いているし、畑の妖精が黄金色で誕生したとか、今でも話題を提供してくれている。でもまあ、今一番ホットな話題はジークフリードがナイさまに告白した件だ。だからこうして俺たちが集まっているのだから。


 「エーリヒさまもユルゲンさまお疲れさまでした。ジークフリードさんはなんと仰っておりました?」


 フィーネさまが小さく笑う。大聖女の衣装を纏った彼女は相変わらず可愛らしい笑みを浮かべ、俺たちに綺麗な瞳を向けている。どうやらフィーネさまはジークフリードの様子も気になるようだ。


 「告白したとはいえ、今まで通りに過ごしていると。ナイさまからの返事はゆっくりでも問題ないと」


 「いきなり恋心を抱いているとジークフリードに言われた閣下は長い年月を一緒に過ごしてきたことで、彼のことを家族と捉えているようですからね。なかなか難しいようです」


 俺とユルゲンがフィーネさまの疑問に答えた。ジークフリードは告白の返事を待ち続けているというのに凄く落ち着いていた。ナイさまの性格を見越していたようで、直ぐに返事は貰えないだろうと分かっていたようである。

 だから、ナイさまが心を決めるまで待っていると。告白しただけで安心してなにもしないのは駄目だと、俺たちは彼にアドバイスを送っておいたのだが……少し心配である。凄くゆっくりとした歩のジークフリードとナイさまだから、変な奴が湧いて出てこないかとも考えている。でもまあ、ボルドー男爵閣下も二人を推しているようだし、きっと大丈夫。


 「そうでしたか。ジークフリードさんの方は問題なさそうですね……ナイさまの方は凄く悩んでいらっしゃるというか、自己評価の低さで『どうしてイケメンから告白を受けたんだろう』と悩んでおられるようです」


 フィーネさまが片眉を上げて苦い表情を作って、大丈夫かなあとジークフリードとナイさまを心配しているようだ。


 「あー……」


 「少々雲行きが怪しそうですねえ」


 俺とユルゲンはお互いに視線を合わせて『宜しくないな』『そうですねえ』と無言で言い合った。外から見た俺たちの意見であれば、ジークフリードとナイさまはお似合いだと言える。でも、ナイさま自身が認められないなら、告白をOKしても関係は続かないのではないだろうか。貴族だから表面上だけ整えることはできるけれど、そんな事態になって欲しくない。


 「小柄なことも気になさっていましたし……その、女の子の日がきていないことも裏切りになってしまうのではと」


 フィーネさまが言い辛そうな顔を浮かべて教えてくれた。ナイさまの個人情報になってしまうが知れて良かった。知らずに後手に回るより、知っていて先に行動できるのだから。


 しかし……厄介なことになっているのかもしれない。ジークフリードは長期戦を見越して構えているが、答えを導こうとしているナイさまの心に負担が掛かりそうである。

 面倒事に巻き込まれて不本意で成り上がったナイさまだが、押し付けられた爵位――仕事ともいう――を放り出して好き勝手するという道も選べたはずである。

 けれど彼女はきちんと向き合って、日々領地運営に励んでいた。前世は普通の社会人だったというのに、いきなり人の上に立って領地を守り、多くの人たちの命を未来へ繋げなければならない。アストライアー侯爵家の血も残さなければと、ナイさまはきっと考えているだろう。最悪、ユーリちゃんがいるから問題はないけれど……やはり望むのは直系である。


 「こればかりは自然のものですしね」


 「……女性の身体について詳しくはありませんが、どうにもならないことなのでしょうか?」


 少し男だと立ち入り辛い話題であるが、話し合いの場なのだから口に出さねば。とはいえフィーネさまも女性である。あまり突っ込んだことは言えない。

 ナイさまは内包している魔力量が多過ぎて小柄なのかもしれないと聞いたことがある。魔力を放出し続けていれば、体内の魔力量が減り身体の成長が期待できるだろうか。それとも単にホルモンが分泌されず、月のものがこないだけなのか。


 「なにか対応できる魔術があれば希望はあるものの、あまり聞いたことがないので」


 フィーネさまも原因が分からず微妙な顔をしている。魔術を頼れないかと考えていたようだが、聞いたことはないらしい。俺も教会と魔術師団に問い合わせてみるか。

 聖王国とアルバトロス王国教会で取り扱う魔術は微妙に違う。大陸中の教会や王家に聞いてみるのもアリかもしれないが下衆な勘繰りをされそうである。それならいっそヴァルトルーデさまとジルケさまに相談した方が良いのだろうか。教会に祈りを捧げればグイーさまに声が届くかもしれないから、それも最後の手段として考えておこう。


 「思い詰めて欲しくないので、裏切りなんてことはないと伝えておきましたけれど……でもやっぱり小柄なことが、ナイさまの気持ちにストップを掛けている気がします。男性の立場に立てば、胸が大きい女性の方が良いですよねと。揉むなら断然大きい方ですよねと仰られていましたし」


 フィーネさまが少し呆れた顔になっていた。他に女性陣がいれば凄く怪訝な顔をされそうだけれど、賓客室には俺たち二人と護衛の人しかいない。聖王国側の護衛に女性がいるけれど、私はなにも聞いていませんと言いたげな顔で立っていた。


 「ぶふっ!」


 「いや、関係ないような……?」


 ユルゲンが口から空気を吹き出し、俺はフィーネさまから視線を逸らして声を出す。うん。フィーネさまの人並み以上の胸を持つ方なので、胸に俺の視線が向けられていると思われたくない。ナイさまは……ナイさまは、小柄な方なので相応だろう。うん。


 「おっぱいが大きくなる魔術も探すべきかな……キャベツを食べると胸が大きくなるって聞いたことがあるから、食材関係でも攻めてみようかな。ナイさまの屋敷の料理人ならなんでも作ってくれそうだし」


 フィーネさまがボソボソとなにか呟いているけれど、話題に触れれば男の俺たちは火傷を負うヤツだ。聞こえないフリをしておこうと、俺とユルゲンはフィーネさまから視線を逸らしたままである。護衛の男性陣も微妙な反応を示しており居づらそうにしていた。そうしてフィーネさまがはっとした顔を浮かべて口を開いた。


 「あ、エーリヒさま!」


 「は、はい?」


 良いことを思いついたというような顔をしたフィーネさまが前のめりになって俺に問うた。いきなりで驚くものの、なにか妙案でも浮かんだのだろうか。協力はやぶさかではないと俺は背筋を伸ばして視線を前に向ける。ユルゲンも気になるようで前に顔を向けていた。


 「おっぱいが大きくなる食材を知りませんか!?」


 フィーネさま、大聖女さまの口から『おっぱい』なんて台詞を吐き出してはいけませんと言いたいけれど、俺はアルバトロス王国の人間である。注意すべきは聖王国の方なのだが、護衛の人たちはフィーネさまの発言に目を丸くして驚いている。多分、今のフィーネさまは素なのだろう。少し前まで胸と称していたのに、考え込んだ末に出た答えによって俗語になってしまったようである。


 「……いや、えっと……すみません、分からないです」


 俺はフィーネさまから視線を逸らしてどうにか声を絞り出す。ユルゲンは俗語に反応して顔を赤く染めている。ちなみに胸を大きくする食材は海藻類やナッツ類などに多く含まれるボロンやビタミンCが効果的なのだと聞いたことがある。他にもタンパク質やアミノ酸を多く含む食べ物が良いとされている。

 前世のラジオ番組で女性パーソナリティーが胸が大きくなる方法を教えて! と視聴者に投稿を募集し、特別企画回で聴いたことを覚えていただけだ。


 決して誰かの胸を大きくしようと料理で画策したわけじゃない。


 でも知っているのに黙っていることはできないから、アルバトロス上層部には知らせておこう。俺の尊厳がなくなってしまうけれど、ジークフリードには幸せになってもらいたい。もちろんナイさまもであるが、俺が応援しているのはジークフリードである。

 

 「ですよね。失礼しました」


 フィーネさまがしょぼんと椅子の背凭れに体重を預けて天井を見上げる。そうして『ただの脂肪の塊なのになあ……』とぼやいている。ナイさまが聞いたら殺意を抱かれるのではと発せられない。

 なんとなくこれで話し合いは終了という空気が流れ始め、本題から脱線した話を始める。南の島についてや、フソウの温泉のことを相談し聖王国の情勢を語り始めれば、フィーネさまが『あ』と声を上げて俺たちを見た。


 「フォレンティーナさまのこともお伝えしました。いつかナイさまにお会いして謝罪をしたいと。でも、ナイさまは微妙な顔をしていましたね……」


 フィーネさまが残念そうな雰囲気を醸し出しながら応接机を見つめる。


 「前代表がアレな方でしたからね。ナイさまも報告書で顛末を知っているので、関わらない方が得策と考えているのかもしれません」


 「現代表を直接知っていれば悪い方ではないと分かりますが、侯爵閣下はお会いしたことがないですから」


 俺とユルゲンは肩を竦めてフォローを入れた。神の使いを務めていたナイさまに前任の代表の態度がアレだったから、自由連合国に関わりたくないのだろう。本当に嫌いなものには嫌いと態度に示してくれるのからナイさまは分かりやすい。分かりやすい分、距離を詰めたい方にとっては取っ付きにくい相手とも言えるが。現代表はナイさまと顔を合わせられるだろうか。


 「なにかの機会に顔を合わせることになれば良いのですけれど……うーん」


 フィーネさまがまた天井を見上げて悩んでいる。これも神のみぞ知るだろうなと俺たちは苦笑いを浮かべるのだった。


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― 新着の感想 ―
うーん、十年くらいかければ、来るんじゃないかなー、アレ まぁ、ジークは男だから、10年待っても遅くはならないからいいのでは……………… ただ、生まれたとしても、子供が普通に育つかはまた、別…
月のものと今後の成長については、ジルケさまもヴァルトルーデさまもその辺は事情がよくわからなさそうだから、ここはテラさまに相談ですね!
生理は体重が重くなることで体が成長したと体内が認識して始まるのが普通とか、胸は牛乳やらも効果が有るとか無いとか言うな、あとは豆乳に女性ホルモンに似た物質が入ってるとか。 いっそ北大陸ならエロゲー世界だ…
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