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1423/1475

1423:他にもグリフォンさんが。

 グリフォンさんたちの顔を撫で、朝ご飯を摂り、執務を終えて昼ご飯を済ませたあとは自由時間となっていた。


 ユーリとたくさん遊んだあと、屋敷のサンルームでお茶を嗜んでいる。今日はフソウの緑茶を選ばせて貰い茶請けも和菓子だ。懐紙の上にちょこんと乗っている。ちょうどグリフォンさんの卵さんの色と同じで『水仙』を形どったものだった。中はたっぷりと餡子が詰まっており、口の中に広がった甘みをお茶で中和するのが凄く楽しい。

 ジークとリンと午後の時間を過ごしていれば、ジャドさんたちがまたサンルームの窓から顔を出しこちらを興味深そうにみている。ジャドさんは私たちのことを知っているけれど、他のグリフォンさんたちは人間の生活が珍しく面白いらしい。


 「大きいから、こっちにこれないみたいだね」


 私はジャドさんたちに向けていた視線を戻してジークとリンを見ながら笑う。以前、ジャドさんは庭へと繋がるサンルームの入り口に身体を詰まらせていた。彼女が目を丸くして驚いていたあと、私たちと一緒にお茶ができないことにしょぼくれていた。

 ジャドさんより他の雌グリフォンさんは体格が小さいのだが、彼女たちも入り口に身体を通すことがギリギリできず少し前に諦めていた。そこから彼女たちはサンルームの外でこちらをじっと見つめていたわけである。


 「みたいだな」

 

 「仕方ない」


 そっくり兄妹が肩を竦める。ジークとリンもグリフォンさんたちが通れない現場を見ていたので苦笑いになっていた。私の肩の上に乗っているクロが首を動かして、サンルームの外を見る。


 『構って欲しそうにしているねえ。外に行く?』


 「行きたいのは山々だけれど、今日は寒いから。それに"おばあ"は入り口を通れたから良いかなって」


 クロの声に私は足元へと視線を向ける。そこには背中を丸めて昼寝をしているヴァナルと彼のお腹の所でぽよんぽよんしているロゼさんと、雪さんと夜さんと華さんが毛玉ちゃんたち三頭を見守り、毛玉ちゃんたちは『おばあ』と呼ばれるグリフォンさんと一緒に戯れている。

 桜ちゃんはおばあの脚に頭を押さえつけられ、どうにか抜け出そうともぞもぞと動いていた。どちらも牙や爪を剥いているわけではなく遊びの範疇に留まっている。酷くなれば雪さんたちが割ってはいるつもりなのだろう。


 『おばあは他の仔より細いみたいだねえ』


 おばあという名前はジャドさんがそう呼んでいるので私たちも倣っている。おばあ的には私の屋敷にこられたことが嬉しくて、名前はなんと呼ばれても良いのだとか。


 『ピョエ!』


 『えー? ボクはそんなつもりで言ってないよ~怒らないでー』


 クロとおばあが会話をしているのだが、クロがデリカシーのないことを言ってしまったらしい。おばあは抗議の声を上げて、桜ちゃんの頭を押さえたままクロを見つめていた。おばあの目の周りの肉は加齢により落ちていて、タレ目になっているのが特徴的だ。他にも毛並みはボロボロだし、脚の爪は欠けているところもある。


 『しかし、おばあの匂いをどうにかいたしませんと』


 『ジャドたちに見つけて貰って良かったですねえ』


 『ええ。生きる気力があるのであれば、命を全うしなければ』


 雪さんたちが目を細める。少々、過酷な環境で過ごしていたためかおばあから漂う匂いは独特だ。桜ちゃんがおばあに頭を脚で抑えられていた原因も『くちゃい!』という一言から始まった。どうやらおばあに桜ちゃんの言葉の刃が胸に刺さり、彼女の頭を押さえるに至ったようである。


 「お風呂入ろうね。庭の水場にぬるま湯がでるように魔石を用意して貰っているから」


 本当は昨日、ジャドさんたちが屋敷に降り立った直ぐ一緒にきていた、というかグリフォンさんたちに助けられたおばあを洗いたかったのだが、流石に真冬の時期に外で身体を洗うのは酷なことだと一日待って貰っている。

 水場で安易にお湯が使えるのは有難いし、おばあもお湯で洗って貰った方が気持ちが良いはず。私の声におばあが『ピョエ!』と一鳴きして、桜ちゃんの頭から脚を放す。

 桜ちゃんは解放されたことで身体をブルブルし、おばあはテーブルに顎を乗せてきょろきょろとお菓子とお茶を眺めている。美味しそうとテーブルの上を眺めているけれど、流石にグリフォンさんに和菓子を渡すのは如何なものだろう。あとでジャドさんに食べても良い物なのか確認しようと決めていれば、雪さんたちが声を上げる。


 『水で良いのでは?』


 『我らは水でも良いですが、おばあの身体は堪えましょう』


 『アルバトロスはフソウより暖かいので妙な感じですねえ』


 三頭が顔を傾げながらおばあを見上げている。おばあはどうしたのと言いたげに雪さんたちに視線を移して、こてんと首を傾げた。なんとなくだけれどおばあの仕草は毛玉ちゃんたちのように幼い気がする。

 おばあがどんな環境で暮らしていたのかジャドさんから教えて貰っていない、というかジャドさんもあまり分からないそうで、おばあのみ知るという状況である。酷い環境に身を置いていたならば、これから今までを取り戻すように楽しく過ごせば良いだけ。おばあの過去より今からだ大事だろう。


 「じゃあ、お風呂入ろうか。きっと気持ち良いよ」


 私がおばあに声を掛けると、雪さんたちから視線を外してぐっと顔を近付けてくる。撫でてと言っているのか、タレ目で確りと私を見ていた。


 「はいはい」


 『ピョエ~』


 私がおばあの顔を撫でると目を細めながら情けない声を出している。気持ち良いのだろうけれど、おばあから漂う匂いが気になると撫でている手を止めれば、もっとと身体を寄せてくる。おばあの力に押されて私の身体が椅子から落ちそうになった。ジークとリンが席から立ち上がったのか椅子の引く音が直ぐに聞こえる。


 「ナイ!」


 「ナイ!?」


 そっくり兄妹が慌てた声を上げて私の背を支えてくれた。私は椅子から落ちることはなくほっと息を吐く。おばあは驚いているのか、不思議そうな顔をして首を傾げた。


 『ごめんねって。人間が自分より弱くて驚いたみたいだよ』


 クロがおばあの気持ちを代弁してくれる。おばあはクロの声を聞いたあとサンルームの床に身体と首をべったりと付けた。


 『ピョエ~ピョエ~』


 何度も悲しそうな声で鳴くおばあはどうしたのだろう。クロが私の肩から飛んでおばあの顔の前に行き『どうしたの~? 怒ってなんていないよ?』とこてんこてんと首を動かす。アズとネルもおばあの行動になにかを感じ取りクロと並んで、小さい声で何度も鳴いている。私はおばあの顔の下に行きしゃがみ込んで手を差し出す。


 「そんなことしなくて良いから。今度こそお風呂に行こう。ね?」


 私はおばあの顔を撫で、腕に力を精一杯込めて首を起こさせ立ち上がるのを促す。ジークとリンも手伝ってくれ、おばあが床から立ち上がった。おばあは不思議そうな顔をしているものの、私たちの機嫌を凄く気にしているようだ。

 侯爵邸での生活でおばあの嫌な記憶が薄くなれば良いのだが……これは屋敷の皆さまとエルたちにおばあの様子を話していろいろと手伝って貰った方が良いのだろう。

 私はおばあに『外に出よう』と促せば『ピョエ』と短く一鳴きする。そしてサンルームの外へ繋がる扉を私が先に抜け、おばあが後に続いた。更に後ろにはジークとリンと目覚めたヴァナルたちも一緒である。外に出て直ぐ、ジャドさんが雌グリフォンさんを四頭後ろに引き連れて私に声を掛けた。


 『ナイさん、ナイさん。少しばかり宜しいでしょうか?』


 ジャドさんの声に雌グリフォンさん四頭がうんうんと頷いている。同調している動きが可愛いけれど、真面目な話をしたいようだ。


 「ジャドさん、どうしたの?」


 私がジャドさんの顔を見上げると、彼女が嘴を開く。


 『気になることを思い出したので、おばあと出会った森に戻って参ります。直ぐに戻る予定ですが、おばあと卵をよろしくお願い致します』


 ジャドさんたちの行動を特に止める理由はない。おばあと出会った森になにかあるのか、とんぼ返りをするようである。卵を産み落としたあとだというのに四頭の雌グリフォンさんも一緒にジャドさんと森に向かうようだった。


 「分かった。ジャドさん、気を付けてね。他の方たちも」


 『はい。お気遣い感謝致します』


 ジャドさんたちはおばあに一鳴きしたあと大きな翼を広げ、侯爵邸の庭を飛び立って行く。竜のお方が飛び立つ姿は雄大だけれど、グリフォンさんたちが飛び立つ姿も力強い。おばあは不思議そうな顔をしており、飛び立った彼女たちの姿を見上げている。するとエルとジョセが私たちの下へと歩み寄ってきた。昨日、戻ってきたジャドさんたちが侯爵邸を飛び立つ姿を見てなにがあったのかと気になったようである。


 「おばあを見つけた森に戻ってみるって。気になることがあるみたい」


 『そうでしたか。直ぐに戻ってこられるのですね。安心しました』


 『私たち天馬が多くいて邪魔なのかと……』


 私の声にエルとジョセが息を吐いている。確かに天馬さま方が多くいるので、以前より侯爵邸の庭は狭くなっているかもしれない。時折、侯爵領内をお散歩しているけれど、天馬さま方は陽が暮れる前に戻ってきている。

 そこに大きな雌グリフォンさんがいれば、広い侯爵邸の庭といえど狭くなってしまうのだ。これから共存しなければならないし、どうなることやら。でもまあエルとジョセとジャドさんが上手く取り計らってくれると、私は隣にいるおばあの首を撫でる。


 「卵を預かっているからちゃんと戻ってくるはずだよ。じゃあ私たちはおばあと水場に行くね」


 エルとジョセが心配しているようなことにはならないだろう。ジャドさんたちは言葉通り直ぐに戻ってきて、ジルケさまのベッド役を果たさなければ。私たちはエルとジョセと別れて、水場へと足を進める。

 

 『ピョエ?』


 タレ目のおばあが私の顔を覗き込みながら一鳴きした。どうしたのかと思えばクロが『水場でなにをするの?』と問うていると教えてくれた。


 「おばあの身体の汚れを落としてスッキリするんだよ」


 そうしておばあの中にある嫌な記憶も一緒にスッキリできたなら私は嬉しい。冬場に外で汚れを落とすのは少々キツイかもしれないけれど、屋敷の方たちと交流するなら身綺麗にしなければ。良く分かっていなさそうなおばあに私は苦笑いを浮かべ、水場に辿り着いた私たちは泡の立たないおばあの身体に何度も汚れを落として、四度目でようやく泡が立つのだった。


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― 新着の感想 ―
何か起きてた…?
邪神に吸われてオバアになってるとか?
更新お疲れ様です。 ヤーバンでは神聖視されているグリフォンが痛々しい姿で放置されていた森・・・何やら不穏な気配ですねぇ・・・ヤーバン国王陛下が聞いたら激怒しそう (;´・ω・) 年老いていたとはいえ…
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