表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1421/1475

1421:新年早々。

 年末が即過ぎて、新年を迎えている。


 アストライアー侯爵邸では屋敷で働く方々と新年を祝うパーティーを開いて、今年もよろしくお願いしますと私は当主として頭を下げた。幻獣と魔獣の皆さまともよろしくねと言葉を交わしていた。

 ユーリを始めとした未成年組の子たちには『お年玉』を渡している――かなり少額――ので、お菓子でも買って楽しんで貰えば幸いである。少し変わったことといえば、アンファンに打診をしていた侍女養成校に通うかの返事が舞い込んでいる。

 

 侯爵邸の皆さまからの助言により、ユーリと離れてしまうのは寂しいけれど、訓練校を卒業して資格を持っていた方が良いと判断したようである。

 アンファンを保護した当時、逆毛を立てていた猫のような子が本当に大きくなったものだ。成長期に入っているのか背が伸びる速さが半端ないし、いろいろと出るべきところが出始めている。羨ましいと私がアンファンを見ていると、彼女は不思議そうな顔をしている。何故、私が意味ありげな視線を向けているのかまでは分からないようだった。


 とにもかくにも四月からアンファンが侍女養成校に通うこと、そしてテオも王都の騎士訓練校に通うことになるので屋敷が少し寂しくなる。


 奨学金制度ではないけれど、似たようなものを彼らに利用して貰うので栄えある第一号と二号だ。有用に活用して欲しいし、王都のミナーヴァ子爵邸から彼らは学び舎に通うため生活費は抑えられるだろう。

 みんな順調に年齢を重ねていくなあと私はユーリの部屋で玩具で遊ぶ彼女を見守っている。毛玉ちゃんたちはユーリに遊んで欲しいのか、玩具に夢中になっている彼女の側で尻尾を床にぺしぺし叩きつけていた。

 ユーリがアンファンくらいの年齢になれば、王立学院に通うことを見据えている頃だろう。黒髪黒目のユーリだから、ジルケさまくらいにしか成長しない可能性がある。低身長だと馬鹿にされれば怒り散らすのかなあと、ユーリに視線を向ければ玩具と玩具をくっつけて何故かきゃっきゃと楽しんでいた。


 「ユーリも大きくなったら、王立学院に通うことになるだろうね」


 数年前まで私たちが身に纏っていた学院の制服をユーリも着用することになる。なんだかイメージが湧かないけれど、きっと美人さんに成長しているに違いない。

 身長は低いままでいて欲しい。だってお姉ちゃんとしてのプライドが粉々になりそうである。だが、周りの人たちに『背が低い』『子供じゃねえか』と蔑まれることになるだろうから、平均身長くらいは伸びて欲しい気持ちもある。

 ということは現在私の身長は百五十センチちょい。ユーリが平均身長まで伸びれば百七十センチになる……少しくらい小柄でも良いかなあと勝手な気持ちを抱いていれば、肩の上のクロがこてんと首を傾げた。


 『そうなの?』


 「お貴族さまの子女は基本通うようになっているから。お金持ちの平民の子も通うし、顔を広める場でもあるね」


 クロの疑問に私が答える。低位のお貴族さまには商家に婿入りや嫁入りすることも選択としてあるそうだ。あとは資金繰りに困っているお貴族さまもか。

 いろいろと支援して貰い、商家の方には貴族の方々との付き合いが広がるという利益があるそうである。王都で有名なお菓子屋さんに嫁入りすれば、お菓子を食べ放題できるだろうか。いや、毎日甘い良い匂いを嗅がなければならないのは地獄の責め苦かもしれない。だって美味しいものを食べられないのはキツイ。やはり貴族としてお菓子を買いに行く立場の方が気楽だと私はクロを見る。


 『ナイは学院で一気に有名になったよねえ』


 確かに私は学院生活三年間の間に成り上がり過ぎた。なんでこんなに立場が上がって行くのと頭を抱えていたけれど、慣れてしまえばなんとかなるものである。変な人にエンカウントすることも多いけれど、良い方と巡り合える機会も多くあった。きっと心の在りよう次第で今の状況を受け入れられるか、られないかが決まりそうだ。


 「そうだねえ。世界中に私の名前が広まったから、もう広まる先がないね。これからは落ち着いて暮らせそう」


 グイーさまの使者を務めた件で私の名前は東西南北の大陸中に名前が知れ渡っている。今以上に私のことを知る人たちは増えないだろうし、二十代となるからこれからのんびりとした生活を贈りたい。

 貴族の仕事があるけれど、皆さまの協力によりなんとか素人の私でも所領の運営を黒字にできている。本当にこの先平和でありますようにと願っていれば、クロが私の肩の上で脚を何度か動かして声を上げた。


 『そうだと良いねえ』


 「なにか起こりそうだから、そういうのは止めよう、クロ」

 

 クロの呑気な声に私は肩を竦める。お貴族さまにつきものである婚姻話は先延ばしにしており、ジークの告白にも答えていない。ジークは私を急かすこともなく、他の人たちの方がやきもきしているように見える。リンも普段と変わらず生活している。一緒にユーリの部屋にきていたそっくり兄妹がユーリを見て小さく笑っていた。

 

 「ユーリが学院に通う姿はまだ想像し辛いな」


 「通うには十年以上先だから。その頃には大きくなっているだろうね。髪、伸ばすかな?」


 ジークとリンがユーリの十年先の姿を想像しているようだ。私は私でそっくり兄妹が十年経た姿を想像する。私もジークもリンも三十歳を迎えた時には『十代の頃の若さは失った!』と口を揃えて言いそうである。

 でもまあ、まだまだ現役でお貴族さまを務めているのだろう。ジークも領地運営をしつつ私の護衛を務めてくれるだろうし、返事次第で、は、は、伴侶になっているかもしれない。リンも結婚して子を成しているだろうか。彼女のお相手が全く想像付かないけれど、幸せになってもらいたい。


 「ユーリはその前にお貴族さま教育が始まるね。礼儀作法を小さい時から学ぶって。お貴族さまの子供って大変だ……」


 ユーリに物心が付けば周りの人たちから教育を受けるようである。五歳頃には家庭教師が就いて勉強を始めるのだとか。私の前世の幼い頃なんて施設で遊び回っていた記憶しかない。

 職員の方たちは文字の読み書きを教えてくれたり、簡単な引き算足し算を学ばせようとしていたけれど……やんちゃ盛りの子供が職員さんたちの仰ることを聞くはずもなく。ユーリは勉強から脱走したりするのだろうか。庭にはエルとジョセたちがいて、もしかしたらジャドさんたちもいるかもしれないので、直ぐ見つかりそうである。

 

 現在の侯爵領の領主邸に家庭菜園はないけれど、十年後には畑の妖精さんが誕生しているかもしれない。


 愉快なことになっていそうだと私が笑みを深めると、そっくり兄妹もクロも笑っている。本当にユーリの成長が楽しみだと部屋をあとにするのだった。


 ◇


 ――まだ返事をしていないそうである。


 邪竜殺しの英雄の兄がアストライアー侯爵に告白をしたという報を受けて一ケ月ほど経っていた。私はアルバトロス城の執務室で夜空を見上げながら、宰相に『侯爵は答えをまだ出していないのか』と愚痴を零したところである。


 「陛下。アストライアー侯爵のことですから、いろいろと頭の中で悩んでおられるのかと」


 宰相が片眉を上げながら笑う。宰相も結果がどうなるか気にしているというのに、私の様子を見て落ち着いたようだ。アルバトロス城内はアストライアー侯爵が告白を受けたという話で持ち切りである。

 彼女が婚姻して子を成せば、上手く縁を繋ごうと考えているのだろう。今だってアストライアー侯爵との縁をどうにか繋ぎたいと強かに狙っているのだから。

 女神さま方も彼女の屋敷に滞在されたままなので、その辺りのことも勘定に入っているようである。叔父上、ボルドー男爵は侯爵と彼女の周囲から送られてくる報告書を楽しみにしているそうだ。面白いことが大好きな叔父上のことだ。侯爵家で起こることに一喜一憂……いや叔父上だから憂いなどなく、喜んでいるのだろう。私は窓から宰相へと視線を移す。


 「悩むのは結構なんだが、西の女神さまが侯爵を心配して聖王国に出掛けたり、他の国の王や貴族たちから『侯爵が婚姻するのか!?』と問い合わせを受けているからな。早く答えを出して欲しい。ジークフリードも気が気ではないのではなかろうか」


 私が宰相に向けている目を細めると、彼は苦笑いになった。アルバトロス上層部は国外に漏らしたつもりはなかったのだが、侯爵が亜人連合国を始めとした仲の良い国へ知らせたのかもしれない。そこから噂が漏れ出て各大陸の王たちがざわめいているとも考えられる。ふうと私が息を吐けば、宰相は顔色を変えずに声を紡ぐ。


 「庶民の者であれば、恋愛結婚する場合もありますからな。侯爵たちは元平民です。我らが無理強いや強制をすれば、意固地になって独身を貫かれても困りましょう」


 「だから見守るしかないのがな……王命で婚姻させることもできるのに、流石に彼女たちには使えない権限だ」


 本当に王命を下せるならば楽なことはない。だが、私が王命を下して侯爵の意に反していたなら、亜人連合国、ヤーバン王国、フソウ国とアガレス帝国は確実に怒るはず。アルバトロス王国が滅ぶ未来しか見えないと愚痴を宰相に伝えれば『ですから我々は見守るしかないのでしょうねえ』と肩を竦める。功績が偉大過ぎて配下の扱いに困っている王ってなんだろうか。

 いや、侯爵はアルバトロスに対して忠実だから迷惑を被っていることはないのだが……周りの者たちに過激な者が多いと私は順繰りに顔を思い浮かべた。はははと乾いた笑いしか出てこない面子に私は肩を落とす。

 侯爵がジークフリードの告白を受け、ある程度の時間が経てば籍入りするはず。もし侯爵が挙式をするなら、彼らも参加することになるのか。それ以外の国の王も参加したいと願い出るだろうし、侯爵のことだからリーム王や聖王国の教皇にと招待しそうである。そして……――。


 「侯爵の婚姻式には創星神さまもご出席なさるのだろうか……」


 「……となれば創星神さまのご伴侶も?」


 私が創星神さまも参加するのかとぼやけば、宰相が更なる追い打ちをかけた。確かに創星神さまがこられるならば、伴侶である女神さまもご一緒に参加なされるはずである。


 「そうなったら、東西南北の女神さまもだな」


 夫婦が揃っているならば、各大陸を司っている女神さま方も当然参加なさるのだろう。


 「神の島には創星神さまの部下である神さま方がいらっしゃると聞いておりますが、まさか……?」


 宰相の言葉に今以上に神さま方が現れてたまるかと言いたくなるが、神の島に他の神さま方がいるのは事実である。堕ちてしまった神がいるのだから、他の存在がいらっしゃってもなんらおかしくないのだから。ジークフリードが侯爵に男を見せたと我々が喜んでいたのも束の間、これから先のことを考えると胃の腑が痛くなりそうだと私は宰相と視線を合わせる。


 「宰相、これ以上考えるのは止めよう! 一杯付き合ってくれ」


 「承知致しました」


 よし、飲もうと私は席から立ち上がり、ワインセラーから年代物の一本を開封するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 なんだかアレコレと順調に?フラグが立ち並んでいっている様な・・・ま、まあ今更ではあるのですけどね (ˉ▽ˉ;)... 侍女や騎士の専門学校なら全寮制かな? と思っていたのですが…
>ユーリに視線を向ければ玩具と玩具をくっつけて何故かきゃっきゃと楽しんでいた。 ユーリ:「(牛さん・・・お米さん・・・牛丼)」 ユーリ:「(牛さん・・・豚さん・・・ハンバーグ)」 ユーリ:「(ジャガ…
ナイ、ジークの告白に中々答えが出せないままです。色々と考えちゃうんです…(苦笑) アルバトロス国王を始めとした周りの皆さんは、ヤキモキして居ますが…此ばかりは、ナイが答えを出すまで、待つしか無いです…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ