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1418/1475

1418:合法面会。

 何故か同じタイミングでフィーネさまとエーリヒさまからアストライアー侯爵領領主邸に遊びに行っても良いですか、という手紙が届いていた。断る理由もないので都合の良い日を伝えれば、フィーネさまとエーリヒさまは示し合わせたかのように同じ日を指定する。


 おそらく相談していたのだろうと私は笑い、そしてお客さまがくる日がやってきていた。フィーネさまもエーリヒさまもアルバトロス城から転移陣を使用して屋敷にきてくれている。お昼前、地下室にある転移陣で私はお客さまを迎えに出ている。私の側にはジークとリンもいて、いつも通りヴァナルたちも一緒だ。ロゼさんは影の中にいてまったり過ごしているようである。


 ヴァルトルーデさまは何故か今日は顔を出さないらしい。いつもであればフィーネさまとエーリヒさまがくると知れば、話がしたいのか嬉しそうにしているのに。ジルケさまも『姉御が行かねーなら、あたしはいなくても良いだろ』と言って、天馬さま方の背中の上で昼寝をするそうである。

 ソフィーアさまとセレスティアさまも仕事を片付けておくと言って、お二人に会うつもりはないらしい。挨拶を交わす仲だし、南の島行きの面子だから遠慮なんて必要ないはずなのに。無理強いすることではないから、彼女たちがこないのであれば仕方ない。


 エーリヒさまとフィーネさまが護衛の方を連れて転移陣の上に現れれば、魔力の光が収まって行く。私の姿を認めたお二人が小さく礼を執る。


 「ご飯前に申し訳ありません。お邪魔致します」


 「ナイさま、お邪魔しますね」


 エーリヒさまが少しばかり申し訳なさそうな顔をしているが、新しいレシピを持ってきてくれているので気にしないで欲しい。今回はフィーネさまのリクエストの品だそうで『納豆オムレツ』なのだとか。

 私が納豆が苦手と知ったフィーネさまは慣れない人でも食べられるような品を捻り出したようである。レシピの提供がエーリヒさまであるところが、彼女の料理レベルを示しているような気もするけれど。熱を通すのでネバネバと匂いがなくなるらしいので、どんな味になるのか少し楽しみである。


 ご飯前の時間になったのは単にみんなでご飯を食べた方が美味しかろうという気持ちと、フィーネさまがいるなら納豆を出せば喜んでくれるからだ。銀髪ロングの美少女――中身は面白い方――が納豆をお箸で混ぜながら幸せそうにしている姿がちょっと面白いということもあるけれど。


 「いえ。ご飯を一緒に食べませんかと言い出したのは私ですし、今日はよろしくお願いします?」


 私が返事をすればフィーネさまとエーリヒさまが苦笑いを浮かべている。一応、今日の目的は聞いているため私がお世話になるはずだ。とはいえ話の流れ次第で無為になることもあるだろうし、一体どうなるのやら。

 エーリヒさまは私と話すというよりも、ジークと話をしたいようなのでお昼ご飯のあとは部屋を別れる予定である。クロとジークとリンたちもフィーネさまとエーリヒさまと挨拶を済ませたあと、地下室を出て来賓室に行こうとお二人を誘った。地下から一階に出て長い廊下を歩いていると、フィーネさまとエーリヒさまが私に話を振る雰囲気をなんとなく感じ取る。


 「ユーリちゃんは元気ですか?」


 「久しく会っていないので大きくなっているのでしょうね」


 フィーネさまが笑みを浮かべ、エーリヒさまも目を細めていた。確かにお二人とユーリは暫くの間会っていないから、小さな子供が成長していることを分かってくれるだろうか。私たちはほとんど毎日ユーリと顔を合わせているので、過去を振り返った時にしか『成長したなあ』と実感し辛い。私は後ろを振り返って、お二人と視線を合わせた。


 「元気ですよ。まだ小さいので熱を出したり、風邪を引いたりとしていますが」


 ユーリは元気そのものである。幼いので体調を崩しやすくあるが許容範囲内のはず。孤児院で過ごしていた小さな子供もしょっちゅう寝込んでいた。なにかあればシスターや聖女さまがきてくれて治癒を施してくれていたので、大事にはならなかったし。

 アストライアー侯爵家もユーリが寝込めば私が魔術を施している。病気を治す魔術というより、身体を活性化させて自然治癒を促すものだけれど。ユーリの部屋に向かって顔を合わせて貰うのもアリかなと私が考えていると、フィーネさまが窓の外に視線を向けて目を丸く見開いた。


 「て、天馬さまが本当に増えてます!」


 フィーネさまが窓の方へと一歩、二歩と進んで庭を凝視し始める。彼女の視線の先には少し前から侯爵邸で過ごしている天馬さまの姿がある。番の方たちが数組おり、八頭ほどで固まっていた。

 他の方たちは広い庭のどこかで過ごしているのだろう。フィーネさまとエーリヒさまにも屋敷で過ごす天馬さまが増えたと伝えているので驚くことはないはず。けれどフィーネさまは間近で見られる幻想的な光景に『わあ……綺麗だなあ』と窓にへばり付きながら見ていた。


 「凄い。ヴァイセンベルク嬢が喜んでいそうですね」


 エーリヒさまも窓の外へと視線を向けていた。私も窓の外に視線を向けて口を開く。


 「セレスティアさまは、暇を見つけては雄の方にお願いして、よく乗せて貰っていますね。ジルケさまは天馬さま方の背をベッド代わりにしていますし……貴族の屋敷ってなんだろうってなります」


 私は深々と息を吐く。何故、いつの間にか天馬さまや竜の卵が増えるのだろうか。数を減らしている方たちなので増えることは問題ない。問題ないのだが、侯爵邸を繁殖場のように見ている気がする。私の魔力が原因だろうけれど、せめて産まれるタイミングをずらして欲しいが春には数組の仔を取り上げる予定だ。

 お貴族さまのお屋敷は広い庭の東屋で優雅に茶をシバいているイメージが強い。アストライアー侯爵家の庭にある東屋で過ごしていると天馬さまに囲まれたり、毛玉ちゃんたちに『あちょんで!』とせがまれたり、いつの間にか集まった鳥さんたちに囲まれたりと忙しない。

 

 楽しいけれど、お貴族さまの屋敷の景色とはかけ離れていた。


 某辺境伯家のご令嬢さまは鞍を装備せずに天馬さま方の背に跨っている。よく振り落とされないですねと彼女に問えば、足腰を鍛えていれば問題ないそうだ。多分、体幹が凄く鍛えられているのだろう。

 嬉しそうに侯爵邸の庭を爆走している某辺境伯ご令嬢さまの姿を見た某公爵家のご令嬢さまは『はあ……鞍くらい装備すれば良いものを』と呆れており、某お方が天馬さまに跨がることは認めたようである。


 「アストライアー侯爵家ですからね」


 「二柱の女神さまが過ごされておりますし、なにが起こっても不思議ではないかと」


 フィーネさまとエーリヒさまが乾いた声を上げた。何故か最近の皆さまは『アストライアー侯爵家だから』とか『ナイだから』と言って納得していることが多い。不本意であるが、確かに魔力量が多い私の下に不思議が集うと思えば納得はできる。

 

 「行きましょう」


 廊下で長話は不味かろうと私はお二人を急かしつつ来賓室を目指す。途中、すれ違った方たちが廊下の端に寄り頭を深く下げていた。フィーネさまは慣れているのか小さく頭を下げるにとどめ、エーリヒさまも小さく頭を下げているけれど苦笑いを浮かべていた。

 エーリヒさまはご当主さま生活に慣れたのだろうか。その辺りを聞いても良いのかもしれないと来賓室の中へと入る。侍女の方に人数分のお茶をお願いした。

 あと侯爵領領都で見つけた美味しいお菓子屋さんの焼き菓子を茶請けにして貰う。そうして椅子に腰を掛け、転生者組が集まった。この面子だけで集まるのはなんだか久しぶりのような気がする。後ろにはジークとリンが控えて、側にはヴァナルたちがいるし、肩の上にはクロたちもいるけれど。

 

 この面子であれば音頭を執るのは私かと一番最初に声をあげる。


 「自由連合国の一件、お疲れさまでした」


 私が最初に話題として挙げたのは、自由連合国の件だ。私が出張ることなく終わったので良かったと安堵の息を吐きたいところだが、代わりにフィーネさまとエーリヒさまとユルゲンさまが巻き込まれた気がする。聖王国の第二陣の派遣団の長をウルスラさまが務め、補佐役をアリサさまが担うと聞いているので今頃は支援の最中かもしれない。


 「ナイさまが苦労されている一端を知れた気がします」


 フィーネさまが私の第一声を聞いて、凄く遠い目になっていた。一応、報告としてどんなことが起こったかは知っているし、彼女からの手紙でもどんなことが起こったか私は把握している。

 リバティーと呼ばれている男性が王家を打倒したのは良いものの、結局、同じ道を歩もうとしていた。運良く担ぎ上げられそうな神輿がいたので、自由連合国周辺国と私との繋がりが強い国の方が元王女殿下を利用したようだ。


 フィーネさまはリバティーと呼ばれている男性から言いがかりを付けられて面倒極まりなかったそうだ。私との態度から推測するに、リバティーと呼ばれる男性は選民意識が強そうである。聖王国を見下していたか、神さまなんていないと信じていたのだろう。確かに変な方に絡まれるのは面倒だと私がふう息を吐けば、エーリヒさまがフィーネさまのあとを続く。


 「一先ず、首都の皆さまが普通の生活にゆっくりと戻ることを願うだけですね。各国からの支援が入っていますから……」


 自由連合国の代表が元王女殿下さまとなって、首都の状況は少しずつマシになっているようだ。随分と荒れていたようだが、元王女殿下は閉ざされていた商業流通ルートを復活させるため、精力的に動いているようである。

 各地に閉じ籠っている諸侯の説得や話し合いの場を持ち、支援を得られた国とも首都の製品を買って欲しいと交渉しているようだ。成功するかはまだ未知数だけれども、なにもしない前代表より印象は違うらしい。

 

 「フォレンティーナさま、お綺麗な方でしたよね」


 フィーネさまがなにかを思い出したかのように、元王女殿下の名前を口にする。私は元王女殿下の姿を見たことがないので判断できない。何故、フィーネさまは王女殿下の名前を出し、かつ綺麗だと遠い目をしているのだろうか。エーリヒさまは王女殿下のご尊顔を知っているから、彼に向けた言葉だろうと私は黙っておく。


 「……」


 エーリヒさまはなにかを耐えるように無言を突き通している。なんだ、これと私がジークとリンの顔を見れば『なにか言ってやってくれ、ナイ』『黙ったままでも面白そう』と言いたげである。そういえばヴァナルと雪さんと夜さんと華さんも元王女殿下の顔を知っているなあと私は彼らの方を見る。


 『人間の顔の良さ、よく分からない』


 『顔より心ですよ。フィーネさん』


 『ええ。貴女が考えているようなことにはなりませんわ』


 『本当に疑い深い方ですねえ』


 ヴァナルが困ったような渋い顔をし、雪さんと夜さんと華さんたちはフィーネさまに言葉を贈る。毛玉ちゃんたち三頭は暇だったのか、お股パッカーンしながら爆睡していた。

 

 「だって、凄く心配です。エーリヒさまはカッコいいですし」


 と、フィーネさまが頬を膨らませながらヴァナルと雪さんたちに視線を向けていた。なんだ惚気かと私は苦笑いを浮かべてエーリヒさまの方へと視線を向ければ、少し顔を赤くした彼がさっと視線を逸らすのだった。

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― 新着の感想 ―
フィーネとエーリッヒが来ても、ジークがそこにいるんじゃ、相談は出来ない………………ww
想いを伝え合ってソコソコ経ってるのに初々しいですww けど今のナイさんには二人の援護は心強いでしょうし、願ってもない来訪でしょうねー。 本人何しに来たのか微妙に理解してないけどw それにしてもあの…
向こうはちゃんとイチャイチャしてらあ!見せ付けに来たと言うか発破かけに来たのかな?もしかしたら納豆レシピがメインかもしれないけど。
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