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1401/1475

1401:新しい風が吹く。

 簀巻きにされた自由連合国代表は大柄な男性に引っ張られている。私はこれから彼の代わりとして動かなければならない。支援を各国の陛下方に乞うはずが、何故か自由連合国の代表となるなんて全く考えていなかったけれど……簀巻きにされた男が担っているよりマシという自負があった。


 まだまだ男性の立場が強く、女の価値は認められない国だけれど……でもヤーバン王は女性であったし、アストライアー侯爵閣下も女の子だ。フィーネさまもウルスラさまも私と同年代で大聖女を務めている。私には力や知識が足りないかもしれないけれど、私を支えてくれると誓ってくれた自由連合国の彼らとダルを信じよう。

 

 聖王国の会議場にいらした陛下方は私、フォレンティーナを新たな自由連合国の代表として認めてくださった。隣国の陛下は支援と共に人材を一年間限定で貸出をしてくれるとのこと。

 大都市を管理できる者を派遣させるから好きに使えば良いとも仰ってくれている。各国から聖王国へと送られてきた自由連合国用の支援も、聖王国の教皇猊下が送り届けてくれると確約してくれた。支援を受ける代わりに、首都での教会の扱いを改善させよという命を受けた。送られてきた支援物資を自由連合国の者たちで捌かなければならないし、これからとても忙しくなる。


 聖王国の会議場を出て控室へと向かう私は首都のみんなの顔を思い出しながら歩いていれば、一人の男性が私に声を掛けてきた。


 「で、殿下? これから、どうなさるおつもりですか?」


 少し緊張した様子で問いかける彼は簀巻きの男性を会議場で殴られた方である。ついでに簀巻きの男性を引き摺っているため、周りの人たちから凄い視線を受けているけれど……簀巻きの男性を見て『ああ』と納得していた。凄く遠慮がちに問いかけてきた男性に私は苦笑いを浮かべた。


 「サンドル王国は亡びていますから、敬称を用いずとも」


 亡国の王女に価値などないし、自由連合国は周辺国、いや西大陸各国から最低評価を頂いているはず。そもそも王政を執っていた国を滅ぼし、民が主になって政治をしようと掲げた国だから各国の警戒は当然だ。

 そして一番、自由連合国の価値を貶めているのは創星神さまの使いを務めたアストライアー侯爵閣下に武器を向けたことだろう。本当に簀巻きの男性はなにを以て神さまの使いに、矢を番えた兵士を用意したのか。問い詰めたいけれど……簀巻きの男と話すよりも、やるべきことが多くある。


 「うっ……も、申し訳ございません」


 「ああ、ごめんなさい。貴方を責めるつもりはないですし、亡国となったものに対して、悲しいという気持ちは薄いので。あと、私は王族ではなく自由連合国の代表という身です。過度な敬意も必要ないかと」


 困り顔になった男性に私は苦笑いになる。他の人たちも私の後ろを歩きながら、一緒に話を聞いてくれていた。会議場の独特な雰囲気から解放されて、少し気が楽になったようである。私のことは名前で呼んでくださいとお願いして、言葉を続けた。


 「首都に戻って、私が彼と代表の座を交代したこと。あと近隣諸侯の皆さまに自由連合国を各国の陛下方に認めて貰ったことを通達します。それと共に首都へ商人を赴かせて欲しいというお願いもしようと考えております」


 私の言葉に自由連合国の人たちの顔がぱっと明るくなる。え、簀巻きの男性は基本的なこともしていなかったのかと、床を這う彼に視線を向けた。ダルが彼の後ろ首に入れた手刀は綺麗に入り気絶して、目が一度覚めたあと直ぐにヤーバン王の一撃で今も気絶したままである。

 面倒だから一生目覚めないで欲しいと願ってしまう。いや、ちゃんと自由連合国の代表としてやるべきことを行っていなかったことを糾弾した方が良いだろう。近隣諸侯の皆さまにも迷惑を掛けてしまっているのだから。


 「ふう」


 簀巻きの男性をずっと引っ張るのは大変なようで、男性がふうと息を吐いた。その姿を見たダルが右手をそっと彼に差し出す。


 「代わろう」


 「宜しいのですか? で……フォレンティーナさまの護衛は?」


 男性はダルの顔色を伺いながら問うている。ダルはいつも不機嫌な顔を浮かべているように見えるけれど、それが彼の普通である。彼のことを怖がらないで欲しいと願っていると、またダルが口を開いた。


 「思うところがあるのでな。遠慮をしないで欲しい」


 ダルが男性から簀巻きの男性を縛り付けている縄を譲り受けた。そうしてみんなが歩き出すと、ダルは縄を伸ばして緩く握る。遅れてダルが歩き出し、縄が伸びきるところで腕に力を入れて前へと突き出した。

 すると簀巻きの男性の身体がガクンと揺れて前へと進んで、また緩ませた縄のお陰で床に転がっている。縄がまた張り詰めればダルが腕に力を入れて前へと突き出した。ガクンとまた簀巻きの男性の身体が揺れて前に進む。ダルは飽きもせずに控室まで続けるようだ。

 

 「元代表が本当に失礼を……!!」


 「私に向けたものよりも、アストライアー侯爵閣下に行ったことを謝らなければなりませんね。私の謝罪の書簡で許して頂けるとは思いませんが……なにもしないよりマシでしょうから」


 男性が平身低頭に謝ってくれるけれど、自由連合国の代表を新たに私が担ったならば、真っ先にやるべきことのひとつが侯爵閣下への謝罪だ。許して貰えないだろうけれど、手紙を送ったという事実は大事なことのはず。

 そうしておけばアストライアー侯爵閣下が自由連合国の地を踏むことは二度とないだろうし、事情を知らない方たちが侯爵閣下に迷惑を掛けることもなくなるはず。


 「私がその時に自由連合国上層部にいれば……」


 男性が凄く悔しそうに言葉にするけれど、起きてしまったものはどうにもならない。


 「悔やんでも仕方ありません。悔やみは首都の皆さまのお腹を満たせないですからね。まず行動しましょう。上手くいくか分かりませんが、結果は必ず出ますから」


 私たちがやるべきことは首都の皆さまたちの生活再建である。私が後ろを振り向いて皆さまの顔を見れば確りと頷いてくれた。男性がいうには、集まった自由連合国の方たち――ようするに革命軍の面子――は政には素人に毛が生えた程度の方が殆どなのだそうだ。彼らに教育を施さなければいけないかもしれないと息を吐けば控室に辿り着く。


 「では、帰国の準備をしましょう」


 私が声を上げれば、扉からノックの音が聞こえる。誰だろうと顔を傾げているとダルが簀巻きの男性を四人掛けの椅子の脚に括りつけ対応してくれた。大聖女であるフィーネさまとウルスラさま、聖女のアリサさまが別れの挨拶にきてくれたとのこと。私がみんなに会っても構わないかと告げれば、快く了承をくれるのだった。


 お三方とは短い時間だったけれど、聖王国でいろいろと話をさせて頂いている。私なんかの友達になってくれると言ってくれた優しい方たちだ。別れるのは寂しいけれど、泣いて別れるよりも笑って別れを告げなければ。

 でも、部屋に姿を現したお三方を見て私は目に熱いものを浮かべてしまう。お三方は笑みを浮かべながら扉を抜けて、私の前にやってきた。フィーネさまが真ん中に立ち、左右にウルスラさまとアリサさまが立っている。


 「フォレンティーナさま。首都で無理をなされませんように。どうかお元気で」


 「聖王国から第二陣の派遣団が編制されることになりました! 次はわたしとアリサさまが赴きます。どこまでご助力できるか分かりませんが、よろしくお願い致します!」


 「状況が良くなると良いですね。民の方たちが苦労をする姿は見たくないですから。私も自由連合国の皆さまの一助になれば嬉しいです。向こうに着いた際はよろしくお願いしますね」


 フィーネさまは落ち着いた声色で告げ目を細め、ウルスラさまは元気良く自由連合国への派遣団員に選ばれたと笑う。大聖女を務めているお一人だから、今度はウルスラさまが派遣団長となるのだろう。

 

 「フィーネさま、この度は自由連合国の者が大変ご迷惑をお掛けしました。あと短い間でしたが、ご一緒に過ごせて楽しかったです。ウルスラさまとアリサさまも、ありがとうございました」


 私が礼を執ると我慢していたものが頬を伝う。本当に同じ世代の友人と呼べる方が私にはいなかったので、お三方は私にとって初めての友だ。フィーネさまが泣かないでくださいと言いながら、ハンカチを渡してくれる。

 こういうことも初めてで凄く照れ臭い気持ちと、嬉しい気持ちが同時に溢れだしてくる。借りたハンカチで涙を拭っていると、微笑みを浮かべたフィーネさまが私の隣に立って背を撫でてくれる。


 「頃合いを見計らってお手紙を送りますね。ペンフレンドが増えて嬉しいです」


 私の顔を覗き込んだフィーネさまの肩からサラサラと銀糸の髪が流れ落ちていた。ペンフレンドの相手が私なんかで良いのだろうか。聖王国の大聖女さまと手紙のやり取りをするなんて凄く名誉なことだし、しかも個人的にやり取りをしようということだろう。突然の提案に驚いた私の涙が引っ込めば、ウルスラさまも私の前で小さく手を挙げる。


 「わ、私も良いでしょうか!? あ、でも……派遣団が首都に赴けば、直接お会いできますよね。戻って時間が経った頃に送っても良いですか?」


 遠慮している雰囲気の彼女だけれど、話が勝手に進んでいる。もちろんウルスラさまとの手紙のやり取りが嫌というわけではなく、前しか見えていない所のある彼女らしいとつい笑ってしまう。

 

 「わたしも参加したいですが、三人の相手を務めるとなると大変ですよね。なにか違う形があると良いのですが……」


 アリサさまが困ったような顔になる。確かにお三方からのお手紙を受け取るのは良いけれど、三通の返事を書くのは大変かもしれない。しかし個人的なやり取りとなれば手紙くらいしか方法がないわけで。

 どうしたものかと考えるもののなにも浮かんでこないし、私がお三方への返事を認めれば良いだけである。フィーネさまとウルスラさまとアリサさまという友人を私は失いたくないのだから。大丈夫ですよとお三方に声を掛けようとすれば、隣にいるフィーネさまがポン! と手を叩いた。


 「あ、交換ノート!」


 フィーネさまの声に私とウルスラさまとアリサさまの頭の上に疑問符が浮かぶ。交換ノートとは一体なにと顔を傾げれば、フィーネさまが説明してくれた。

 仲の良い友人たちでノートにその日の出来事や嬉しいことを認めて、順番に回していくものだそうである。愚痴でも構わないし、ムカつくことでも構わない。相談事が記されていれば、他の方が解決方法を考えるとか。四人で回すのであれば、誰かに打ち明けて、他の人には打ち明けないという不平等が起きないし、丁度良いだろうとフィーネさまが笑顔で仰られた。


 「おもしろそうです!」


 「手帳くらいの大きさなら、魔道具で送ることができますね」


 ウルスラさまが笑い、アリサさまが受け渡し方法を示してくれた。少し私的な利用になるけれど、聖王国の大聖女さま方と縁を持てるのであれば、王城にある魔道具を借りることができるはず。もし、借りることができなければ正規の方法で送り届けるしかないけれど……どうにかなるはず。


 「楽しみです!」


 私が手を合わせて喜んでいると、後ろで『良かったですね、姫さま……』と泣きそうな顔のダルがいた。心配を掛けてしまっていたのは申し訳ないけれど……少し恥ずかしい。交換ノートの方法や派遣団の到着時期について話していれば、時間は直ぐに過ぎていく。


 「では、みなさま……お元気で!」


 聖王国のとある場所にある転移陣の上でフィーネさま方と別れを告げれば、一瞬の間に自由連合国上層部が使用している首都の城へと辿り着いた。私は前を向き、戻ってきた皆さまと顔を合わて『まずは代表者が交代したことを首都の皆さまに知らせましょう』と告げるのだった。


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― 新着の感想 ―
各国へのお伺いや謝罪、その他諸々をじつは欠片もしてなかった阿呆共ですし、その分の皺寄せが殿下にってのが現状です。が、隣国の王も利益が舞い込む事を期待し文官を送ってくれると事ですし、大変だろうけど頑張っ…
あれ? えっと…… >少し緊張した様子で問いかける彼は簀巻きの男性を会議場で殴った方である  これは2つ前で >リバティーという男に殴られた者は  簀巻きの男がリバティーだから、リバティーに殴ら…
自由連合国は統治形態はこのままなのかな?代表者が替わったとしても主要メンバーは変わらないままなら反対やリバティーを解放したりしそう。 英国やタイとかの立憲民主制っぽくしたほうがある種の二重制度だけど良…
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