1369:テキトウな創星神さま。
凄く軽い雰囲気でグイーさまがお酒片手に私とリンとアリアさまとロザリンデさまとリヒター侯爵夫妻に、ヴァルトルーデさまとジルケさまがいる場にやってきた。テラさまを放っても良いのだろうかと彼女の方に視線を向けると、これ美味しい、あれも美味しいとお皿の上に追加の料理を置いている最中だ。
ナターリエさまとエーリカさまは食べることを止めているが、二柱さまはテラさまの側でお相手を務めるようである。視線を戻して私はグイーさまを見上げれば、ヴァルトルーデさまとジルケさまが『父さん、飲み過ぎ』『親父殿、人の家で失礼を働かないでくれよ』と心配していた。
「グイーさまは楽しいですか?」
「もちろん! 賑やかな場所は好きだし、なにより美味い酒がある! これ以上の場はなかろう」
私の問いにカラカラと笑ったグイーさまはご機嫌で答えてくれる。お酒の味は私に理解ができないため、ボルドー男爵さまとハイゼンベルグ公爵さまとヴァイセンベルク辺境伯さまとアルバトロスの陛下や上層部の皆さまのお薦めを揃えている。
グイーさまが気に入って頂けたならば、その銘柄のお酒がぐんと価値を上げそうだと私は苦笑いを浮かべた。リヒター侯爵夫妻は神さまが三柱も揃ったことで、今、この場にいても良いのかとオロオロし始めている。
直ぐに察したジルケさまが『落ち着け。親父殿は気にしてねえよ』とフォローを入れている。ただ女神さまにフォローを入れて貰った以上、先程より態度に出すことは許されないのか夫妻は背を伸ばし真面目な顔となっていた。大丈夫かなと心配しながら、何度かグイーさまと話を進めているとふと頭に過ることがある。
そういえば石配りが終わったことをグイーさまに報告し忘れていた。
忙しさにかまけて、忘れ去っていたことを思い出す。グイーさまなので覗き見ていたから声掛けがなかったのかもしれないし、対策を練ったから安心して忘れ去っていたのかもしれない。
ともかく、お願いされたことを遣り遂げたので報告しなければ。神さまの島へ赴いてご挨拶するのが正しいのかもしれないが、向こうに行くためには手間と時間が掛かる。
「グイーさま、報告を失念していたのですが、預かった石を全ての国へお渡しできました。あとは堕ちた神さまが石に捕らえられてくれると良いのですが」
「あ。ワシも忘れておった! ナイ、ご苦労だった。テラに経緯を聞いて貰ったら、ナイに報酬を渡さないのかと言われてな。なにか欲しい物はあるか?」
私の後ろに控えていた皆さまが呆れていた。どうやら大事なことをすっかりと忘れていたことに呆れと驚きが入り混じっているようだ。グイーさまも忘れていたのだから良いのではと思うのだが、どこかしら抜けているという私の癖は治らないものらしい。
しかし私が欲しいもの……と考えてみる。聖女になって衣食住は事足りているし、お貴族さまとなって更に充実している。あとはみんなの幸せを願うだけであるが、幸せは本人が掴んでこそだ。 領地に住まう方たちの人生が楽しいものでありますようにとも願っているが、これは私たちアストライアー侯爵家の仕事である。
「……?」
「変な顔になるな! まあ、望みがないというのもナイらしいのか!! ま、気長に考えれば良い。いつでも儂は礼をするからな!」
ぐぬぬと考え込んでいると私は変な表情を浮かべていたようで、グイーさまが面白そうに笑った。グラスの中に入ったお酒が零れそうになり、勿体ないと直ぐにグラスに口を付ける姿は本当に呑み助なのだろう。凄く適当なグイーさまであるが、直ぐに答えを出せと私に強いてこないのは有難い。ありがとうございますと無難にグイーさまに返事をすれば、ガハハと笑ってテラさまの方へと戻って行った。
「親父殿はなにしにきたんだ」
「本当に」
呆れ顔のジルケさまとヴァルトルーデさまは溜息を吐いて、のしのしと歩くグイーさまの背を見つめ、二柱さまも食事を続けると元の場所へと戻って行く。私も他の方のところへ顔を出すべきかとリンを見上げ、リヒター侯爵夫妻とアリアさまとロザリンデさまに楽しんでくださいと言い残して彼らの下を去るのだった。
料理人の方が作った品が会場に新たに運び込まれて、良い匂いが鼻孔をくすぐる。食べたいけれど、お願いすればいつでも食べれるしまだ我慢だと会場を見渡した。そういえばエーリヒさまたち同年代の皆さまには挨拶をしただけと、私はリンに次に向かうところを告げる。
私とリンが会場を歩いていれば毛玉ちゃんたち三頭がちょこちょこと小走りでやってきた。彼女たちはいつの間にかどこかへ行き暫く離れていた。
「毛玉ちゃんたちどこに行ってたの?」
私がどこに行っていたのかと問えば、毛玉ちゃんたちは三頭揃って胸を張り鼻を天上に向けドヤ顔になっている。
『あちょんでもらっちゃ!』
『たのちい!』
『あちょぶやくちょくちた!』
ドヤドヤドヤと毛玉ちゃんたちが声にする。誰に遊んで貰ったかは分からないけれど、彼女たちは随分と面白かったようである。それは良かったと私が頷くと歩いている足元でちょこまかと動き回る。
尻尾をぷりぷり振りながら私の周りをちょろちょろしている毛玉ちゃんたちを見ながら歩いていると、同世代組が集まっているところに辿り着く。アリアさまとロザリンデさまは既に戻っていたようで女性組と談笑していた。皆さま仲が良くてなによりと私は笑い輪の中に入ろうとすれば、セレスティアさまが毛玉ちゃんたちも一緒にきたことに気付いて特徴的な御髪をぶわりと膨らませた。
こちらへおいでという雰囲気を醸し出すセレスティアさまにマルクスさまが呆れた顔になっていた。口に出せば肘鉄が飛んでくるのでぐっと堪えているようなので、学院生時代より彼は成長しているはず。毛玉ちゃんたちは遊び相手を見つけたとセレスティアさまの方へと寄って行き、尻尾をぶんぶん振っている。
『あちょぶ?』
『しぇれしゅてぃあ!』
『かまっちぇ!』
毛玉ちゃんたちは相変わらず元気だなあと苦笑いを浮かべていると、ジークがすっと私の後ろに控えた。やはりジークとリン、二人が揃っている方が落ち着くなと肩を揺らせばそっくり兄妹も同じ気持ちのようで小さく頷いてくれた。毛玉ちゃんたちの相手はセレスティアさまに任せようと私はエーリヒさまの方へと足を向けた。
「エーリヒさま、手紙でも記しましたが南大陸から香辛料を取り寄せております。欲しい品があれば申し付けてくださいね」
エーリヒさまの隣には緑髪くん、もといユルゲンさまもいて、外務部仲間として一緒に頑張っているようだ。ジークはエーリヒさまに無茶をあまり言わないでやって欲しいという雰囲気を醸し出しているけれど、美味しい料理のレシピを提供してくれる最大手が彼である。私が無茶を彼に申し出るのは仕方ないことなのだ。多分。エーリヒさまは私の申し出に驚きつつ小さく礼を執った。
「ナイさま、ありがとうございます。しかし高価な品なので俺に払えるかどうか……」
うーんと少し情けなさそうな顔になっているけれど、ぼったくる気はないし、そもそもタダで受け取って欲しいのに彼が受け取ってくれないから、私が適当に値を付けて払って貰っている。
「あ、値段は気にしないでください。お友達価格にさせて頂きますし、なにか料理のレシピで代替とさせて頂ければ嬉しいです」
気軽に受け取って欲しいのに彼は凄く遠慮をする。まあ、私もタダで商品を受け取るのは落ち着かないので気持ちは分かるが、やはり誰かにお渡しする時は気にしないで欲しいと願ってしまう。
「ありがとうございます。では、いつも通りにさせて頂きますね」
エーリヒさまは聖王国で暇な時間は料理に励んでいたそうだ。お弁当にしてフィーネさまにこっそりと渡していたとか。なんだか浪漫があるなあと目を細めるけれど、堂々とご飯を食べられないのはキツイものがある。
フィーネさまは凄く喜んでおり、お弁当をデレデレな顔で見つめていたというのはアリサさまとウルスラさま情報だ。その報が入った時、銀髪の少女は凄く顔を赤くして恥ずかしがっていたけれど。
男女の仲が良いようでなによりである。そういえばエーリヒさまが怒っているところを見たことがなく、彼が怒る姿を想像できない。でもまあフィーネさまになにかあれば、男の子として怒って奮闘するのだろうというのは安易に想像できた。
「係の者に伝えておきます。ユルゲンさま、お料理の味は如何ですか?」
私はエーリヒさまからユルゲンさまに視線を移した。
「閣下。閣下の名に恥じぬ料理の数々を堪能させて頂いておりますよ。ジークフリードが僕に美味しいと教えてくれた料理にハズレはありませんでした」
彼は胸に手を当てて穏やかな声で教えてくれる。ジークは彼らに自分のお勧めの品を教えていたようだ。口にできればなんでも良いとう貧民街時代から随分と変わったものだし、生粋のお貴族さまに料理の味を語ることになろうとは。
ジークはユルゲンさまに『言わなくて良いことを……』と文句を言いたそうであるが、彼はどこ吹く風のようでにこにこと笑みを携えたままである。私は美味しいという言葉が最大限の誉め言葉であるため、ユルゲンさまの感想は嬉しいものだった。
「それは良かったです。まだまだ料理は運ばれてきますので、お楽しみくださいね」
「はい。ありがとうございます」
ふふふと笑うユルゲンさまに小さく礼を執り、次に誰に話をしようかと視線を彷徨わせているとウルスラさまと目が合った。そういえば彼女とはあまり話していない。
どうしてもフィーネさまとアリサさまが主となってしまい、ウルスラさまはフォローを入れる形や同意をしていることが多かった。ウルスラさまはグイーさまの石の効果により聖王国で巡礼者が増えて張り切っていると聞いているので、無茶をしていないと良いのだがと彼女の前に立つ。
「ウルスラさま、食べておられますか?」
「はい! どのお料理も美味しくて驚きです。しかし大聖女フィーネさまはナットウがないと落ち込んでおられました……」
私の問いにウルスラさまが笑顔で答えてくれるのだが、フィーネさまに話が飛んでいた。エーリヒさまと話を始めていたフィーネさまは驚きで顔をぐるんとこちらに向ける。
「え、ウ、ウルスラ!?」
そ、そんなことを言わなくても! という顔になってフィーネさまは固まっていた。おそらくウルスラさまに他意はなく、納豆が高級品であると捉え提供されていないことが不思議だったのだろう。私たち転生者組は前世の知識で納豆は庶民の食べ物だと理解して、立食会や晩餐会では提供されないと分かっている。
「ではお土産にフィーネさまにお渡ししましょう。丁度良い頃合いでしょうし」
「わあ! ありがとうございます!」
私がお土産として持って貰おうと提案するとウルスラさまは極上の笑みを浮かべる。フィーネさまの役に立てたことが嬉しいのだろうと、私は一つ提案する。
「ウルスラさまは如何なさいますか?」
「え?」
きょとんとした顔のウルスラさまは自身も納豆をお土産にされることまでは想定していなかったようである。納豆をウルスラさま用のお土産にするのは嫌がらせだろうし、フィーネさまに多めに渡してウルスラさまには違う品を用意しようと周りの皆さまと笑みを浮かべるのだった。






