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1155/1475

1155:何度目かのお泊り会。

 ユーリの顔見せも終わり、別館で話すべきことを皆さまと話し終え、夜がきた。


 フィーネさまたちが久しぶりにアルバトロス王国にきたからと、ミナーヴァ子爵邸に一泊する予定を組んでいる。夜ご飯――今日も美味しかった――をみんなで食べ終えて、順番にお風呂を済ませてあとは寝るだけとなっている。


 私の部屋に集まった方々はフィーネさまとアリサさまとウルスラさまに、アリアさまとロザリンデさま、ソフィーアさまとセレスティアさま、そしてリンと私という面子である。

 ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんに毛玉ちゃんたち三頭もいるので結構騒がしい。西の女神さまと南の女神さまもせっかくならばと雑魚寝を体験するようである。部屋の隅っこでジークとエーリヒさまが肩身を狭そうにしているが、あと少しで解散となるため暫く辛抱して欲しい。


 「よろしいのでしょうか?」


 フィーネさまが椅子の上で首を傾げると、正面に座っているソフィーアさまが苦笑いを浮かべ、セレスティアさまがふふんと笑って鉄扇を広げ口元を隠した。


 「言い出したナイに聞いてくれ」


 「わたくしはウエルカムですわ!」


 確かにフィーネさまたちを子爵邸に泊らないかと誘ったのは私であるが、何故か私の部屋でみんなで泊まろうとなってしまった経緯が謎である。誰かが言い出した訳でもないはずなのだが本当に不思議な出来事である。

 ソフィーアさまはふうと息を吐き、セレスティアさまはヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたち三頭がいる状況が嬉しいようである。


 「あはは……」


 「頭が混乱してきました。女神さまと同衾?」


 アリサさまが状況を把握して苦笑いを零し、ウルスラさまが緊張から少し解放されたのか明後日の方向へ思考を飛ばしていた。まあ一緒のベッドに入ることくらいはあるかもしれないが、同衾では行為に及んでいるような気がする。

 混乱し始めたウルスラさまにアリサさまが落ち着いてと宥めすかしている。別館で西の女神さまに諭されたウルスラさまだが、未だに女神さま方に向ける信仰心は篤いようである。


 「どうきん? 同衾……同衾!?」


 「アリアさん、ど、動揺し過ぎですわ。きっと言葉の綾かと」


 アリアさまはウルスラさまの言葉の意味が直ぐに理解できず、声を反芻させて意味を把握し始めた。そんな彼女にロザリンデさまが少し焦りつつも状況を理解できているようで、アリアさまを正気に戻している。

 そんな姦しい面子を西の女神さまと南の女神さまは椅子に腰掛けてじっと眺めていた。特に会話に加わろうとはせず、私たちがなにを語り、なにに興味を持ち、どんなことをしているのかが気になるようである。西の女神さまはクッションを抱き込み、南の女神さまは椅子の上で胡坐を組んでいる。私は私で二柱さまがみんなの会話に加わらなくて良いのだろうかと、視線を彼女たちに向ければ不意に声を上げる。

 

 「お泊りは初めて」


 「良かったな、姉御」


 ふふふとクッションに顔を埋めた西の女神さまに、少し呆れた様子の南の女神さまが声を上げる。お泊り自体は子爵邸で行っているけれど、女神さま方には客室を宛がっていた。

 視察の時も宿屋で別々の部屋を取っていたから、今日のように誰かと一緒に寝るのは初めてだけれど……そんなに楽しいものではないような。嬉しそうにしている西の女神さまの下に毛玉ちゃんたちが寄って行き、構ってと前脚を上げている。


 毛玉ちゃんたち三頭は人化することもあれば、元の姿でこうして誰かに構って貰っていた。彼女たち三頭が人化すると、子爵邸の中はちょっとした騒ぎになる。どうにも三歳児相当の仔が三頭揃って移動する姿は女性陣に大人気なのだ。白銀の尻尾をフラフラ揺らし、耳をピコピコ動かすさまは女性陣の心を鷲掴みにしてしまったらしい。

 セレスティアさまは言うまでもなくデレデレだし、ソフィーアさまも満更でもない様子である。アリアさまとロザリンデさまも嬉しそうに毛玉ちゃんたち三頭を構っているし、時折託児所の子供たちとも遊んでいる。

 

 「構うのは良いけれど、もう直ぐ寝る時間だよ?」


 『らめー?』


 『にゃいー?』


 『だこー』


 西の女神さまが毛玉ちゃんたちを嗜めているけれど、声に怒気が全く含まれていない。優しい声色で毛玉ちゃんたちに語り掛け、当の毛玉ちゃんたちは元の姿のまま声を出している。語彙は少ないし、意味もあまり理解していないようだが、彼女たちが成長している証なのだろう。


 ふはっという妙な声が聞こえるが、きっと気の所為だと視線を変えずに、私は西の女神さまと毛玉ちゃんたち三頭がどうするのか見守ることにした。


 西の女神さまは椅子から降りて床に座り込む。絨毯だし、子爵邸の二階は土足禁止となっているので汚れることはないだろう。ぺしぺしと前脚を動かして女神さまの膝の上を叩いている楓ちゃんに、側に寄り添って丸くなる椿ちゃんと、女神さまの背中に乗って抱っこしろと要求している桜ちゃんを西の女神さまは困り顔を浮かべながら順に構っている。

 そんな西の女神さまを南の女神さまは目を細めながら『なにやってるんだか』と呆れ声を上げているが、なんだか嬉しそうだった。雪さんたちは女神さまに構って攻撃をしている毛玉ちゃんたちを止める気はないようだし、ヴァナルは床に突っ伏して寝る態勢に入っている。愉快だなあと私が目を細めていると、ジークとエーリヒさまが部屋の隅から出入口へと移動する。


 「じゃあ、俺たちはジークフリードの部屋に行ってきます」


 「行こう、エーリヒ」


 エーリヒさまとジークが声を上げて私の部屋を出て行こうとする。居心地悪そうだし引き留めるのは悪かろうと私は小さく手を振りながら口を開いた。


 「おやすみなさい」


 「おやすみなさい。エーリヒさま、ジークフリードさん」


 私に続いてフィーネさまも声を上げて手を振っているのだが、彼女がエーリヒさまに向けている視線はなんとなく優しい気がする。恋とか愛は私にとって良く分からないものだし、特に相手がいるわけでもなく縁遠いものだ。

 フィーネさまに続いて、他のメンバーも二人に『おやすみなさい』と声を掛けている。いつか誰かを好いたり愛したりすることはあるのかなとエーリヒさまとジークの背を見送っていると、部屋の扉が静かに閉まるのだった。


 ◇


 億の時間を生きている者にとって、半年という時間の流れは凄く短いものであるが……この半年ほどが随分と濃密であった所為か愚痴を言いたくなっている。儂が創った星にある神の島、屋敷の庭にある東屋で身体をぐでんと倒れ込ませた。

 大理石でできたテーブルは冷たくて気持ち良いものであるが、儂の側で茶を飲んでいる北と東の娘は白い目を向けている。他の神はいないので、この星の頂点に立つ儂がみっともない姿を晒しても問題はない。


 「テラも早々に向こうに戻ってしまったし、儂、暇」

 

 一番の問題は時間を持て余していることだろう。ナイたちが神の島に訪れてから時間が流れる感覚が随分と変わったような気がする。特になにもせず今まで漫然と過ごしていたのに、西の娘が引き籠もりを解消させてからというもの暇で暇で仕方ないのだ。


 かといって儂は神の島から出られぬ身であり、なにかを触媒にして各大陸の様子を見守るのが精々である。暇潰しにナイに頼んで東大陸のアガレス帝国を覗いていたが、人間は相も変わらず営みを続けていれば、西の娘を激怒させた銀髪の男のように馬鹿な者もいて人間界は面白い。


 でも、ナイに頼んで触媒にして貰っていたぬいぐるみとの接続を切ってからやることがなかった。そりゃ、儂の力を使えば大陸の状況など事細かく知ることができるが、のぞき見は良くないとナイに怒られてしまった。

 娘たちにも儂が全権委任をした大陸なのだから、手を出すなと言われてしまっている。儂、この星を創造した神なのだが……と言いたくなるものの、娘たちが――特に西――大陸を見守っている姿を見ているのが好きだった。最近はもう見なくなったが、あれこれと考えながら悩んで手を出している時は可愛らしかった。最近は成長してしまったのか昔の可愛さはどこか遠くへと行ってしもうたけれども。


 「お父さま、それを言うならわたくしたちも暇ですが……」


 「ええ。西のお姉さまとおチビちゃんだけナイの下で過ごしているのは狡いですわ」


 北と東の娘がぷりぷり怒っているが、本気で言っている様子ではなかった。単に彼女たちは時間を持て余しているので、儂の下へきただけである。儂は側に置いてあったナイから貰った酒――ワイン――を手に取ってグラスに注ぐ。


 「お父さま、飲み過ぎでは?」


 「ええ。またお腹を壊してしまいますわ。赤いオーロラが頻繁に出ると人間が恐れ戦きますわよ」


 二柱の娘が渋い顔になる。


 「美味いから仕方ないわい」


 確かに飲み過ぎてはいるものの、美味い酒だから仕方ない。そもそもナイがアガレス帝国とアルバトロス王国の貴族たちに、亜人連合国や知り合いの者たちから美味い酒を預かってきたのだ。

 それを南の娘経由で神の島へと持ってきて貰っている。せっかく儂へと贈って貰った品ならば飲まないのは失礼だろうに。あと、飲んでナイに儂の感想を伝えねば。ナイは酒の味はさっぱり分からないというのに、律儀にメモを取って儂の好みを書き取って似合う酒を探してくれるようだしなあ。この辺りは娘たちとは違う可愛さがナイにある。


 「酔いませんし、身体に影響はありませんが……人間の身体を模しているので強くはないでしょう」


 北の娘がふうと溜息を吐いた。まあ人間の身体を模しているために、飲み過ぎたり食べ過ぎたりすると腹を壊すことがある。どうにも調子が悪いとガスが良く出て、空に赤いオーロラが現れるのだ。

 面白半分でそうなるようにと当時の儂が仕組んだのだが、人間界では天文現象として楽しんでいるようだ。儂のアレだと知れば、ドン引きする者が多数いるのだろう。綺麗なモノだしバレていないのだからなにも問題はない。知らない方が幸せなことは神も人間も一緒であろう。


 「ナイとおチビちゃんに伝えて、お酒を持ってこさせないようにしなければなりませんわねえ」


 東の娘の声に突っ伏していた身体を起こして、儂は机の上に並べられている菓子に視線を向けた。


 「それを言うなら、お前さんたちの前に並ぶ菓子もだろう?」


 北と東の娘たちの前にはナイが厳選した茶菓子が並んでいる。その菓子もナイを経由して南の娘が神の島に持ち込んでくれたものだ。儂だけに酒を贈るのは気が引けると、北と東の娘にと菓子を用意してくれたとのことだった。

 まさか娘たち二柱に用意してくれているとは思っておらず、娘たちは暫くの間ご機嫌だった。神の島では珍しい品だったし、彼女たちの口にも合ったようである。


 「う」


 「ぬ」


 儂の指摘を聞いた二柱は渋い顔になって儂から視線を逸らす。全く。


 「太るぞ~?」


 「失礼ですわ、お父さま」


 「ええ。その辺りはきちんと調整致しますもの」


 ぷすーと膨れている二柱の娘たちに儂はくくくと笑い、ナイの顔を思い出す。なにか仕出かしていそうだが、今は西の娘と南の娘の世話で手一杯であろうか。テラも地球に戻ってしまったし、やはりナイには面白いことを起こして貰いたいものだと願わずにはいられなかった。

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― 新着の感想 ―
ナイは是非フィーネちゃんとリンちゃんに挟まれて寝てほしい!
暇をもて余した2人の女神とグイー様の参戦もありそうですね。神々が度々降臨する地とか、もう聖地どころの話じゃなくなってくるな。
更新お疲れ様です。 女性陣と女神様達は、ヴァナル一家も加えて、女子会の延長線上のお泊り会。エーリヒ君とジークはジークの部屋に移動。 どうせなら、クレイグとサフィールも呼んで、親睦を深めても良いかもw…
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