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1150:悩む西の女神さま。

 私は西大陸を管轄している女神だから、一通りのことはなんでもできるけれど。なにが得意か、なにができるのか――というナイの問いに答えられなかった。


 ナイは私が居候していることを特に感じていないようだけれど、久しぶりに自室から外に出て最近出会った人間や読書を通じて世間というものを少しは理解できている。彼女には迷惑を掛けてしまっているが、私という存在がアストライアー侯爵家に滞在していることで利を得ているようだ。


 末妹も屋敷で出されるご飯の美味しさに釣られて頻繁にナイの屋敷を訪れていた。東と北の妹もナイの屋敷に興味があるようだし、父さんもどうにかしてナイの屋敷にきたいようである。彼女に伝えていないので、妹と父さんの件を黙っていようか、言うべきか悩んでいるけれど……一先ず、私にできることを探さなければ。


 子爵邸のサンルームはアルバトロス王国の冬の寒さを凌ぐには丁度良い場所だった。ポポカたちが呑気にポエポエと声を上げ、グリフォンのアシュとアスターがポポカたちの鳴き声を真似してピョエピョエ鳴いている。

 少し前に卵から孵った仔ポポカたちも順調に大きくなって、彼らの特徴である真ん丸い身体と間抜けな顔――そう見えるだけ――になっていた。ナイ曰く、春が近づけば南の島に仔ポポカたちを連れて行くという計画を立てているそうだ。南の島がどんな場所か気になるし、ナイが魔力を注ぎ込んだと聞いているから不思議なことが島で起こっていそうだ。


 少し前に南の妹が私の下を訪ねて、大丈夫かと問い掛けていた。妹を心配させるなんてお姉ちゃん失格だが、悩んでしまったのだから仕方ない。ナイもナイで私を困らせる質問を意図せず口にしたようだから、私が悩んでいることに驚いているだろうか。でも、きっと考えるのは悪いことではないし、居候をしているならばなにかの役に立ちつつ働かなければ。

 

 『お悩みですか?』


 グリフォンの雌であるジャドが私に声を掛けてくれる。こてんと首を傾げて椅子に腰掛けている私を見下ろす姿は逞しいとされるグリフォンらしくない仕草であるものの、可愛いと笑みを浮かべてしまう。


 「うん。ナイに迷惑を掛けているから、私にできる仕事はないかなって。母さんも管理している星で働いているみたいだから、私がお金を稼いでも問題ないかなって」


 私は本当にナイのお屋敷でなにができるのだろう。神の力を使って大概のことはなんでもできるけれど、自分の頭や手足を使ってできることを考えてみるとなにも浮かばない。だからナイの疑問に押し黙って食堂から出て行ってしまった。ナイは大らか……大雑把だから気にしないかもしれないけれど、クレイグとサフィールは私が部屋を出て行ったことを凄く気にするだろう。

 ジークフリードとジークリンデは気にしてくれるが態度には出さず、本当に追い込まれた時だけ手を差し伸べてくれるはず。まあ、その前にナイが解決するか手を出すので、彼らの優しさや行動はあまり表に出ないけれど。


 『女神さまがお金を稼ぐのですか?』


 「うん。子爵邸で無料(タダ)で住まわせて貰うのは違うかなって」


 今度は逆の方向にジャドが首を傾げながら、獅子の尻尾をゆらゆらと動かしている。うーんと悩んでいるようで私は彼女が続きを語るまで待っていた。


 『女神さまがお金を稼がねばならぬなら、我らも子爵邸で居候している身ですから働かなければなりませんねえ。エルさんとジョセさんも気にしていましたし……確かにナイさんのお世話になりっぱなしというのは問題でしょうか……?』


 ジャドの声に私たちの様子を外で伺っているエルとジョセに視線を向けた。どうやら彼らもナイの家に居候させて貰っているのは有難いけれど、お世話になりっぱなしだからなにか恩を返したいようだった。

 

 「エルとジョセの所に行ってみよう」


 私がジャドに声を掛けると、はいと彼女が答えてくれる。ポポカたちであるポポとカカとココとロロとララたちは働くことはできないし、仔ポポカも同様だ。ジャドの仔であるアシュとアスターとイルとイヴもまだ難しいだろう。天馬のエルとジョセは人間の言葉を扱えるので、なにかできることがあるだろうか。ルカとジアはまだ難があるなあと目を細めながら、サンルームから子爵邸の庭に出る。


 『女神さま、不躾な視線を向けてしまい申し訳ありません』


 『どうしても貴女さまに目を引かれてしまいます』


 エルとジョセが私と顔を合わすなり頭を下げて謝ってくれる。天馬は特殊なのか女神である私に惹かれやすいようだ。彼らの視線から悪意を感じることはないので問題はないと伝えると、二頭はほっとして顔を上げ私にそっと身体を近づけてくる。

 私が手を伸ばしてエルとジョセの身体を撫でていると、ルカとジアが羨ましそうな視線を私に向けていた。エルとジョセから手を離して、ルカとジアを呼べば嬉しそうに駆けよってくる。幻獣や魔獣のみんなは素直で可愛いとまた手を伸ばして撫でていれば、ジャドが声を上げた。


 『エルさん、ジョセさん。女神さまはナイさんに対してなにかできることがないだろうかと悩まれていたようです』


 グリフォンのジャドが天馬のエルたちに向かって声を掛けている。縄張り争いを始めないのが不思議でならないし、天馬がグリフォンを見れば逃げて行きそうなものなのに……でもナイの下で暮らしているなら仲良くなってしまうのだろうか。

 子爵邸にはフェンリルとケルベロスもいて彼らの仔もいた。クロたち竜もいるし、本当に人間が住まうお屋敷とは思えない。やはりナイは変な子だと私が苦笑いをしていると、エルとジョセが心配そうな視線をくれた。


 『女神さまが、ですか?』


 『神さまでも悩まれるのですねえ』


 エルとジョセが私に撫でられているルカとジアを羨ましそうに見ながら声を上げる。


 「うん。私の母さんも違う星で働いているみたいだから、私も母さんみたいにお金を稼いでナイに渡したいなって。でも私にできることってなんだろう……」


 私はナイになにかお礼をしたいけれど、なにをすれば良いのか分からない。父さんの下で暮らしていた時は気にしなかったけれど、人間の世界に降りているならお金を稼がなければ。母さんもそうしながら神として自分の星で楽しんでいる。私も母さんを見習ってなにか働いてみたい。


 『落ち込む必要はないかと。私たちもナイさんにはお世話になりっぱなしです』


 『そうです。しかしなにかナイさんにお返しができると良いですよねえ』


 『ええ。一時、私たちの鬣を渡していたこともありますが、ハインツさんに渡っていますからねえ』


 ジャドとエルとジョセの声を聞きながら、私たちにできることはないかなと暫く考えているのだった。


 ◇


 毛玉ちゃんたちがフソウに滞在して三週間が経ち、今回も楓ちゃんと椿ちゃんと桜ちゃんがアルバトロス王国の子爵邸に戻ってきている。松風と早風はフソウに残っているので、今回も三頭だけの帰国だった。

 帝さまとナガノブさま曰く、松風と早風が残ってくれているのでフソウ国内のお偉方は満足しているらしい。本音を言えば神獣である雪さんと夜さんと華さんに戻って欲しいけれど、仕方ないと理解しているそうだ。


 当の毛玉ちゃんたちは権太くんから教えて貰った人化をほぼマスターできたようで、彼女たちの気分次第で元の姿に戻ったり、人間の姿になったりしている。

 人懐っこい性格をしているし女神さまにも臆することなく接しているため、西と南の女神さまは毛玉ちゃんたちの相手を良く勤めてくれていた。私も私でユーリの相手をしたあと彼女たちに構えと訴えられたので、私室に戻ってみんなで毛玉ちゃんたちと戯れている。


 参加者は西の女神さまと南の女神さま、ジークとリンに、ソフィーアさまとセレスティアさまにクロとアズとネルとヴァナルと雪さんたちがいる。ロゼさんは毛玉ちゃんたちに座布団替わりにされてしまい、私の影の中へと逃げてしまった。

 ロゼさんが怒っても毛玉ちゃんたち三頭は面白がるので、影の中に逃げたともいえる。お猫さまも毛玉ちゃんたちにぎゅーっとされるのが苦手なようで、ジルヴァラさんと一緒にサンルームに逃げてしまっていた。


 『にゃい~』


 『にゃいー』


 『だこー』


 相変わらず毛玉ちゃんたちは覚束ない声を上げながら私たちに懐いてくれている。両手を一生懸命伸ばして抱っこを強請る姿は凄く可愛らしい。子爵邸の他の方々も毛玉ちゃんたちの三歳くらいの容姿の可愛さにメロメロだった。人化しても尻尾と耳が残っているし、銀色の髪と真ん丸お目眼で可愛さが倍増されている。


 「みんな一緒には無理だよ……」


 私に背丈と腕力があったならば、楓ちゃんと椿ちゃんと桜ちゃんをみんな一緒に抱いていただろう。でも腕の長さやらいろいろと足りないので、彼女たちの要望を叶えることはできない。

 私の言葉にセレスティアさまが顔を輝かせて『わたくしならばできますわ!』と無言で主張をしている。私は彼女の方へと毛玉ちゃんたちを向けて、一緒に抱っこをしてくれるみたいだよと耳元で囁く。

 セレスティアさまは次の彼女たちの行動を期待したのか、特徴的な御髪がぶわっと広がって目をキラキラさせている。これで毛玉ちゃんたちが『嫌だ』と言えば、彼女は立ち直れるのだろうか……無理そうだなと私が苦笑いを浮かべると三頭がセレスティアさまの方へと走って行く。


 『しぇれー』


 『せれー』


 『だこー』


 毛玉ちゃんたち三頭がセレスティアさまの方へとたどたどしい足取りで歩いて行くと、セレスティアさまは三頭をみんなを腕へ器用に抱えた。私が凄いなと感心していると、セレスティアさまは恍惚の表情を浮かべている。

 一方で毛玉ちゃんたちは私にできないことをセレスティアさまが叶えたためか、きゃっきゃと楽しそうにしていた。少しばかり嫉妬心が湧いてしまうが、多分、私以外の人たちは毛玉ちゃんたち三頭を軽く持ち上げそうな面子が揃っていた。


 「だらしのない顔をどうにかしろと言いたいが……」


 私の隣に立っていたソフィーアさまが深々と溜息を吐くのだが、子爵邸の中ということで呆れているものの態度は柔らかいものだった。そんな呆れている彼女に雪さんたちがくつくつと笑いながら顔を上げる。


 『無理でしょうねえ』


 『三週間ぶりですから、セレスティアさんの嬉しい気持ちは理解できます』


 『仔たちも楽しそうですものねえ。しかし貴きご令嬢であるならば少々問題もありましょうか』


 雪さんたちは呆れつつもセレスティアさまのヤベエ顔を受け入れているようだった。ジークとリンは見なかったことにすれば良いと考えているようである。

 ソフィーアさまは大きな溜息を吐くと、私の肩の上のクロが『許してあげて』と彼女に言っていた。ソフィーアさまもこれ以上咎める気はないようで、仕方ないと片手を腰に当てて見守りに徹するようである。当のセレスティアさまは毛玉ちゃんたち三頭にぎゅっと腕を回されて、ご機嫌度が上がっている。


 「カエデとツバキとサクラと別れて三週間。セレスティア、心に穴がぽっかりと開いておりました。戻ってきて頂けて感無量ですわ!」


 ふふふと笑うセレスティアさまはついにくるくると床を回り始める。毛玉ちゃんたちは嫌がる素振りは全く見せず、むしろ楽しんでいるようだった。


 『しぇれ、たかいー』


 『たかいーたかいー』


 『もとー』


 きゃっきゃと楽しそうな声を上げる毛玉ちゃんたち三頭の希望を叶えるべく、セレスティアさまはふん! と気合を入れて毛玉ちゃんたちを持ち上げた。三頭を一緒に高い高いしているけれど、よく落ちないなと感心する。

 ヴァナルは我関せずというか、私たちなら毛玉ちゃんたちを預けておいて大丈夫と信頼してくれているのか床の上で丸くなって寝ているようだった。そうして何故か一緒の部屋にいた南の女神さまと西の女神さまがぽかんとした顔を浮かべている。


 「セレスティアの体力は凄えな」


 「疲れないの凄い」


 二柱さまが驚いているものの、幻獣や魔獣が関わっているセレスティアさまなら、毛玉ちゃんたちを延々と抱き抱えていそうだなあと遠い目になるのだった。

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― 新着の感想 ―
 西の女神様は何でもできる(神様レベル)とおっしゃいますが、人のレベルとなると・・・金や魔石でも作りますか?  ナイさんが一番喜ぶというなら身長ですかねぇ~。  実際には、城の魔術師団に対して魔術の授…
2024/12/22 21:30 名無 権兵衛
ソフィーアさまも子供に甘えられたら似たようなことになりそう
女神様にも称賛されるセレスティア様の体力オバケ具合w ソフィーア様の真価を見せたときにも言いそうだし、結論としてナイさんの周囲は可笑しいで納得しそうw それにしても平和ですね〜。 平和だから忘れ…
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