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1129:公爵領到着。

 晩餐会で出された食事は美味しかった。


 でも、一人で食べるのは味気ないというか……アストライアー侯爵家側の参加者が私だけというのは少々寂しい。西の女神さまと南の女神さまも一緒に食事を摂ると踏んでいたのに結局は二柱さまは私の側仕えのフリをしていた。


 四人の側仕えを控えさせているのはどういうことだと突っ込まれそうだったのだが、子爵家の皆さまは特に気にした様子もなく食事を食べ進めており、会話もぽつぽつと交わして無事に晩餐会を終えたわけである。そうして子爵邸の客室を借りて一晩明かし、早朝にはハイゼンベルグ公爵領を目指すため馬車に乗り込んでいた。面子は昨日と変わらず


 「個人で行われる食事会や晩餐会って昨晩のような形なのですか? もっと商談の話とか探りが飛ぶのかと気を張っていたのですが……」


 私は目の前に座しているソフィーアさまとセレスティアさまに声を掛けた。お二人は一瞬顔を見合わせて、どちらが解説するのか確認を取ったようである。西の女神さまと東の女神さまは私を間に挟んで窓の外を見ていたのだが、声を上げた私に視線を向け直した。


 「顔合わせの意味合いが強かったのだろうな。おそらくだが、社交場で会った時にナイから声を掛けられ易いようにと狙っていたのではないか?」


 ソフィーアさまが私を見ながら答えてくれた。なるほど。夜会で会った時に、昨日のお礼を子爵家のご当主さまに伝えなければと私がコンタクトを取る可能性は十分あり得る。どうやら切っ掛け作りとして昨夜の晩餐会は開かれたのかとようやく納得できた。変に身構えず、食事を楽しめば良かっただろうか。美味しかったけれど、妙なことを言い出さないかと少し警戒していたから。


 「強欲な者であれば、あの場で商談を持ち掛けておりましょう。更に欲深い者であればヴァナルさんと神獣さまの仔をと望む場合もありましょうね。至って普通の食事会だったのではないかと」


 セレスティアさまが鉄扇を勢い良く開いて口元を隠し小さく鼻を鳴らす。以前、毛玉ちゃんたちを譲って欲しいと言われたことがあるので、ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたち三頭は私の影の中に隠れて貰っていた。本当に妙なことを子爵家の皆さまが口走らなくて良かったと安堵していれば、西の女神さまが私の顔を覗き込む。


 「そんなこと言う人間がいるの?」


 「以前、実際に申し出を受けましたね」


 西の女神さまが不思議そうな顔を浮かべて私に問うのだが、実際にいらっしゃっているのである。それも割と高貴なお方だったはず。


 「それ、言っちまって良いことなのか? フェンリルもケルベロスもナイの所にいるのを望んでいるだろ。仔供たちはフソウに行く算段を付けてたからアレだけどよ」


 南の女神さまは彼らの事情を踏まえたうえで考えたようである。そして毛玉ちゃんたち三頭が自分たちが話題に上っていると私の影から顔だけをぬっと出せば、直ぐに顔を引っ込める。毛玉ちゃんたちの話題なのに影の中に戻るのは珍しい行動だが、雪さんたちに会話の邪魔をしては駄目と言われたのだろう。


 「部外者の方だったので、詳しい内情を知らなかっただけかと。あと言い出した方は失脚していますし、無理矢理奪われていたらアルバトロス王国と亜人連合国とフソウ国が怒るかと」


 本当に激怒案件にならなくて良かった。まあ彼の国の国王陛下と相談の上で失脚させたため、女神さまたちに事実を告げないままだけれど。まあ、詳しく聞かれれば答えるだけか。


 「無理矢理なら、ナイが先に怒る」


 「だな」


 何故か西と南の女神さまの突っ込みが入るのだが、ソフィーアさまとセレスティアさまは二柱さまの言葉を否定してくれない。ヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたちを無理矢理に奪われれば私はどう動くだろうか。

 連れ去りならば、ロゼさんと亜人連合国の皆さまと魔術師団を頼って捜索して頂き、犯人が見つかれば誰かに強化魔術を施して頂いてボコるくらいはするかもしれない。その状態を切れていると言われれば微妙な顔をせざるを得ない。だって、まだ理性的な行動なのだ。


 妙な空気になりそうな所でソフィーアさまが小さく咳払いをし、セレスティアさまがぱちんと音を立てて鉄扇を閉じた。


 「エルとジョセとルカとジアたちが子爵領内で領民から人気になっていたのは意外だったな」


 「ギャブリエルさんとジョセフィーヌさんは温和ですもの。子供たちも良い思い出になったのでしょうね。羨ましいですわ」


 エルとジョセ一家は子爵邸で過ごすには少々手狭と判断して、お屋敷ではなく子爵領内の町に繰り出していた。もちろん護衛の方も一緒に付いているので危ないことはない。護衛の方たちが泊まる宿の厩を借りて過ごして貰う前に、天馬さまを見た子爵領の皆さまは驚きつつも歓迎してくれていた。最初は護衛の方たちとエルとジョセ一家には近づかず遠巻きに見ていたのだが、子供たちが好奇心を抑えられずに彼らの下へとやってきたそうだ。


 ちゃんと護衛の方たちに『天馬さまに触れても良いですか?』と問うたのだから、親御さんの教育が行き届いている。護衛の方は答えに困っていたものの、エルとジョセ一家である。子供は可愛いと言って構わないと伝えたそうだ。それから子供たちとの触れ合いが始まり、大人組も参加していたとのこと。陽が落ちる頃には騒動は収まり、皆さま各家に戻って行ったそうである。

 

 早朝の陽が昇る前に昨日はありがとうございましたと領の町の皆さまが宿屋の前で待っていたとか。


 「交流が持てたのは良いことでしょうね。違う天馬さまが子爵領に降り立った際に過度な警戒をされないでしょうから」


 今回、エル一家が子爵領に顔を出したのは良い切っ掛けだったのだろう。ミナーヴァ子爵領とアストライアー侯爵領では彼らは割と受け入れられているので、他の領地でも受け入れられるならば良いことだ。気を付けなければならないのは悪意を持った方は必ずいるから、気を抜いては駄目だとエル一家や他の天馬さまに注意を促しておかないと。


 「無警戒は危険だが、人間側から手を出す確率は下がっただろうな」


 「増えたとはいえ、まだまだ天馬さま方も数は少ないですし無暗な殺生は望みませんわ」


 ソフィーアさまとセレスティアさまが真面目な顔をして答えてくれた。敵意がないと知っていれば先制攻撃はされないはずである。前世でも人を襲わなければ熊は森に還す努力をしたり保護されていた。人間を襲えば駆除されてしまうのは致し方のない部分だ。幻獣や魔獣の皆さまと多く接する機会を頂いている身としては悲しいことだと考えてしまうけれど。


 「天馬は優しい仔が多いから。人間に狩られやすいんだね……残念」


 「自然に生きているからな。あたしらがあまり口を出すものじゃねえし」


 西の女神さまは目を細めながらどこか遠くを見ているような顔になり、南の女神さまは小さく息を吐く。南の女神さまは確かに口を出していないが、南大陸の方々に手を出しているのではという突っ込みは野暮であろうか。人様の容姿を揶揄していた方に限定していたようだから、やはり口にはしない方が良いなと判断して馬車の中で他愛のない会話が続く。


 ――三日後。


 公爵領に入り、ようやく公爵領領都に辿り着いた。王都からハイゼンベルグ公爵領まで五日間も移動に費やせば、ソフィーアさまとセレスティアさまと西と南の女神さまの距離感は随分と縮まっているようだった。

 西の女神さまと南の女神さまが興味を示したモノに対して、彼女たちは詳しい解説をしてくれる。女神さま方も私に聞くよりもお二人に聞いた方が確りとした回答を得られると学んだようで、疑問があるとソフィーアさまとセレスティアさまの方を見るようになっていたのだ。少し複雑な心境だけれども、幼い頃から英才教育を受けてきた彼女たちと、付け焼刃の知識しか持っていない私とでは雲泥の差がある。

 

 それに女神さま方の疑問は私も同じように抱いていたから、今回は本当に有意義な勉強時間になった。


 ミナーヴァ子爵領とアストライアー侯爵領で運用できそうなこともあるし、街の作り方や発展の仕方を聞いて試したいこともある。城塞都市とかカッコ良いから造りたいけれど、どちらの領地も国境に位置していないので城塞都市を築き上げるのは諦めた。

 

 「もうすぐソフィーアの家に着く」

 

 「領地に入ってからも随分と時間が掛かったなあ」


 「生まれた場所という贔屓目もあるのでしょうが、良い場所だと私は自負しております」


 「あら、ソフィーアさんからそのような言葉を聞いたのは初耳ですわ」


 二柱さまとお二人の会話を聞きながら、馬車の窓に流れるハイゼンベルグ公爵領の風景を眺めていた。公爵領に入ってからは公爵家の護衛の方も帯同しているので、護衛の方の人数が多くなっていた。

 その中にジークとリンがいるのだけれど、人の中に紛れ込んでも背の高い赤髪のそっくり兄妹を直ぐに見つけられる。ジークとリンの側にはギド殿下も一緒なのだが、前より顔付きが精悍になっているような。


 気の所為なのか、久方ぶりにお会いしたのでそう感じているのか分からないけれどソフィーアさまとギド殿下の関係は順調なご様子だった。休憩に立ち寄った際は必ずギド殿下がソフィーアさまのエスコートを担っていたし、お互いに体調の確認をしていた。そんな二人を見た私は、羨ましいような気持ちもあれば、恋愛は面倒そうだという気持ちもある。


 しかし、まあ……ソフィーアさまとギド殿下は順調そうだが、セレスティアさまとマルクスさまの関係は大丈夫なのだろうか


 最近、お二人が並んでいる所を見ていないし、南の島でもド付き合いの夫婦漫才を繰り広げているのである。でもまあクルーガー家の男性は添い遂げる女性となんとか上手く行っているという性質があるようなので、そちらに期待しよう。

 そもそも他家のことなので私が口出ししては駄目である。思考の海に沈んでいると、いつの間にか公爵領領都にある領主邸に辿り着いたようだ。少し周りが騒がしくなって馬車が停まって、御者の方が許可を取って扉を開く。扉が開いた向こうでは公爵さまと公爵夫人に次期公爵さまと次期公爵夫人にソフィーアさまの弟さんが立っている。


 エスコートを受けながら順に降りハイゼンベルグ公爵家の皆さまと相対した。そういえば公爵さまと夫人と次期公爵夫人にはお会いしたことがあるけれど、ソフィーアさまのお父上と弟さんと直接会うのは初めてだ。ソフィーアさまにはいつもお世話になっているので、きちんと挨拶をしなければと気を引き締める。


 「ナイが真面目な顔になってる」


 「姉御……ちゃんとした場なんだ。ナイだって真面目な顔くらいできるさ」


 西と南の女神さまが割と失礼なことを言っているが、挨拶をしなければならないので無視である。そうして公爵さまが深く礼を執った。


 「ようこそ。ハイゼンベルグ公爵領へ。この度は西の女神さまに視察の場として選ばれたこと誠に恐悦でございます。南の女神さまもご足労頂き感謝致します」


 顔を上げた公爵さまはいつもの顔でこちらを見ている。西と南の女神さまを前にしても顔色一つ変えないのは流石公爵さまであるが、言葉使いがいつもと違って私はむず痒い物を覚えた。


 「ん。あまり気を張らなくて良いから。よろしくね」


 「あたしも畏まられるのは苦手だから、ほどほどで良い。よろしくな」


 西と南女神さまの軽い挨拶に公爵さまがまた礼を執って、公爵家の皆さまも合わせて礼を執る。彼らの姿に私は落ち着かないという気持ちを抱えながら、一先ずハイゼンベルグ公爵邸の中へと入るのだった。

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― 新着の感想 ―
心中では女神様方への不敬に気を張らせてるのでしょうけど、変わらずな顔での対応を出来るとか流石としか言えません。 次期公爵な御子息もコレ目指せと言われてるかもですし大変ですね?(苦笑) さて、子爵…
貴族としては当たり前の対応をしただけなのに、女神達を館に招いておきながらもてなしすらしなかった家となってしまった。あとから知ったらどうなることか。
地味に初登場ソフィーアの両親
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