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1115:そろそろ最後。

 西の女神さまと銀髪くんが相対する。入坑前に私の魔力を抑える魔術具を彼女に渡し身に着けているので、神圧は随分と感じ辛くなっているので銀髪くんは西の女神さまだとは気付いていないようである。


 クマのぬいぐるみのグイーさまと南の女神さまが大丈夫か心配そうな雰囲気で女神さまを見守り、北と東の女神さまは面白い展開にならないかと鉄格子越しに相対する二人を見ていた。

 私は銀髪くんに対する感情は当の昔に底に着いているので、彼がどうなろうと構わない。クロは据わりの悪そうな顔をして、女神さまと銀髪くんを見ている。ご意見番さまのことを知らないはずのアズとネルはジークとリンの肩の上でご機嫌斜めなようで、尻尾を左右に振ったり縦に振って忙しなく動かしている。


 クロを連れてこない方が良かったかなと見れば、私の視線に気付いてこてんと顔を傾げる。おそらく無茶をしそうな西の女神さまを見守るために一緒に赴いてくれたのだろう。有難いと目を細めて、鉄格子の方へと私は視線を戻す。


 「どうして弱っていた白銀の竜の命を奪ったの?」


 西の女神さまが開口一番、聞きたいことを直球ストレートで放つ。


 「白銀の竜ってなんのことだよ」


 ああん、と目を見開いた銀髪くんが口元を伸ばして目の前の女神さまを煽る。西の女神さまは顔の筋肉が一瞬だけぴくりとさせて、むっとしているがなにも言葉を紡がない。


 「なあ、女。仮に俺が竜を殺したとして問題あんのかよ? 冒険者として名を上げる踏み台にする奴だっているかもしれない。強さの証明のために殺す奴がいるかもしれない。それのなにが悪いってんだ?」

 

 問題があったから鉱山送りにされてキツイ仕事に従事しお金を巻き上げられているのに銀髪くんの認知はどうなっているのだろう。確かに竜を倒せば有名になれる。ジークとリンも黒い竜を倒して貴族籍を手に入れているのだから。

 ただし、暴れてみんなに迷惑を掛けているという条件が付くけれど。ご意見番さまは人知れず深い森の奥に降り立って休憩をしていただけなのに、銀髪くんの手に寄って瀕死の重傷を負い命を落とした。

 大地から産まれ出た竜は最後の地を求めて、死出の旅へと立つのに途中で願いが叶わなくなったのだ。ご意見番さまを見守っていたなら、彼は最後の地に辿り着き大地へ還って多くの命の糧になっていたことだろう。

 ご意見番さまの願いを奪った銀髪くんの行動は短慮と言わざるを得ないし、一緒にきているディアンさまとベリルさまの雰囲気が異常に怖くなっている。そして話を聞いているダリア姉さんとアイリス姉さんも青筋を立てて彼の声を聞いていた。


 「弱い奴から奪って得られるものは少ねえけどよ、強い奴から奪えば金と名誉は確実に獲れる。竜の癖に昼寝ぶっこいていた奴の方が悪いんじゃねえの?」


 銀髪くん的には仮定の話で進ませているようだけれど誤魔化せているとは全く思えない。聞くに堪えない彼の声を何時まで耳にしていれば良いのだろうかと盛大に息を吐きたくなったその時だ。


 「ちょっと、ごめん」


 西の女神さまがぶわりと圧を高めた。私の腕の中にいるクマのぬいぐるみが『娘は相変わらず凄い圧だのう』と感心しているが、他の皆さまが耐えられないのではなかろうか。現に北と東と南の女神さまが『げ』と短く言葉を零している。鉄格子の中の人はどうでも良いとして、アガレスの案内役の方とアストライアー侯爵家一行と私はたまったものではない。

 身に着けている私の魔術具の指輪を全部外して、女神さまの神圧を少しでもマシにできるようにと私は更に魔力を練った。ぶわりと揺れ始める髪を見たジークとリンが無茶をするなと言いたそうだが、怒っているであろう西の女神さまの神圧がどれほど高まるのか分からない。さて、少し前に張った障壁は何時まで持つのかと真一文字に唇を結ぶ。

 

 「な! お前、人間なのか!?」


 銀髪くんが目を見開いて驚いている。そりゃ西の女神さまは神さまなので人間なんてちっぽけな存在ではない。クマのぬいぐるみが『相変わらず凄い魔力量だなあ』と感心しているようだが、西の女神さまの動きに注視しておかねば。

 今はまだ彼女の神圧が銀髪くんへと向いているのでマシな状況だ。それを踏まえると驚いている割には意識を失っていない彼は異常とも言える。認知が歪んでいるようだから、自分に向けられていると感じていない可能性もあるけれど。

 

 「人間じゃないよ」


 「なら、なんだってーんだよ!」


 女神さまから目の光が消え、銀髪くんをなんの感情を灯さない瞳で見ている。ちょっと怖いなと横で魔力を常時練りながら見ていると、チラリと女神さまが私を見て視線を元に戻した。


 「神だよ。私は西の大陸を司っている。貴方が気絶すると困るから少し弄ってる」


 西の女神さまはなにを弄っているのだろう。言葉足らずだから意味をきちんと把握できない。銀髪くんの額には汗がうっすらと流れ始めているので、女神さまの神圧を感じているようだ。

 

 「嘘を吐け! 神だという証拠がどこにあるんだよ! 自称ならいくらでもできるだろうが!!」


 冷や汗を掻きながら銀髪くんは虚勢を張って声を上げる。その胆力は凄いけれど、別の所で役立てれば銀髪くんはもっと冒険者として活躍できていただろうに。


 「そうだね。自称に過ぎないけれど、私は何万年も生きていて白銀の竜と話をしたことがあるんだ。仲の良かった友達を奪われた、君にね」


 西の女神さまの言葉に銀髪くんが『知るか!』と言い放つ。彼女はもう会話をすることを諦めたのか、延ばしていた背を少し丸めてしまった。大丈夫かなと私が西の女神さまの腕に触れれば、彼女は力なく笑った。

 どうやら話せば理解して銀髪くんが反省をしてくれるのではないか、という気持ちが女神さまの中にあったようである。銀髪くんは行きつくところまで行きついているので、性格の矯正は無理だろう。西の女神さまは優しいなあと感心していれば、手元のクマのぬいぐるみから圧を感じる。


 『娘よ、世界には救えないものがある。西の者の魂だ。お前さんの好きにせい』


 ちと不思議な感じがするがまあ良いだろうと、クマのぬいぐるみが声を上げる。アガレスの高官の方々がクマのぬいぐるみが声を上げたことに驚いているけれど、今の状況で突っ込む気概はないようだ。


 「良いの、父さん?」


 『構わん。救いようのない馬鹿のようだからなあ』


 西の女神さまがクマのぬいぐるみに視線を向けて首を傾げる。クマのぬいぐるみは構わないと仰れば、女神さまは良い顔になった。南の女神さまには『親父殿がそこまで言うとは珍しい』と呟き、北と東の女神さまは『ええ本当に』『珍しいですね』と小さく声を漏らしていた。


 亜人連合国の皆さまは銀髪くんが最後の時を迎えると察知して怒りを引っ込めたようだ。銀髪くんの命を奪うことは彼らにとって赤子の手を捻るようなものだ。でも、やらなかったのは命を無駄に奪っても仕方ないと考えていたか、死んで楽にさせる気はなかったのかのどちらかだ。神さまの決定によって亜人連合国の皆さまの憂さが晴れると良いのだが。クロもクロで『彼は無茶を言うねえ』と銀髪くんに感心を向けている。


 「じゃあ……母さんの所に行こう。母さんなら私より良い方法を知っているはず」


 小さく零した西の女神さまが銀髪くんの方へと右腕を伸ばした。女神さまの右手に圧が集中しているのが分かる。南の女神さまが近寄るなよーと軽い調子で言い放ち、私の左手を取って少し後ろへと下げる。


 「ま、銀髪野郎は自業自得だ。深く考え過ぎるなよ、ナイ。姉御直々の罰が下っただけだからな」


 姉御的には子供が蟻を踏みつぶしたくらいにしか感じていないぞと続けて教えてくれる。ある意味、銀髪くんにとって一番残酷な結果となったのかもしれない。しかし女神さまたちのお母上はそんなにデンジャーな方なのか。

 疑問に思ってクマのぬいぐるみに私が視線を向ければ『テラは過激だからなあ。助言の送り方を間違えた』とぼやいている。なににせよ西の女神さまは地球に赴くのだろうか。


 「――吸収」


 西の女神さまの言葉をはっきり聞き取れなかったのだが、なにか呪文を唱えると銀髪くんの身体がぐにゃりと歪む。そうして地面から黒い触手のようなものが現れて、銀髪くんの身体を包み込んでいる。


 「ひっ! な、なんだよ、コレ!!」


 足を黒い触手に覆われた彼が短い悲鳴を上げて、今までにない表情になっていた。そういえば恐怖を抱いている顔を見るのは初めてではないだろうか。ずっと不敵な表情か、人を小ばかにしている顔しか見ていなかったから銀髪くんにしては珍しい。


 おそらく女神さまの術が未知のものだから、自尊心よりも恐怖が勝ったようである。むっと私が顔を顰めるとジークとリンが私の前に出て視界を塞いだ。どうやら見なくても良いということらしい。

 そっくり兄妹も南の女神さまも過保護だなと苦笑いを浮かべれば、鉄格子の奥に銀髪くんの姿はなかった。一先ずアガレスの高官の方たちに事の経緯を話して許可を得ること、ウーノさまにも許可を得ること、亜人連合国の皆さまにも一応話を聞いて銀髪くんの処断を西の女神さまに任せても良いか確認を取らなければ。


 もちろん、そんな手回しなんて必要ないだろうけれど念のためである。ふうと息を吐いた女神さまは外した腕輪を私から受け取って、ご自身で身に付けた。すると一気に部屋の中に満ちていた圧が下がると、今度はアガレスの高官の方が私の方へと視線を向けた。その視線で私も魔術具を着け直さなければと気付き、いそいそと指輪を身に着ける。ほっと息を吐いているアガレスの高官の方たちには申し訳ないことをした。


 とりあえず消えた銀髪くんの行方を確認しようと、西の女神さまの横に私は並ぶ。

 

 「女神さま、彼は?」


 「ん。違う空間に行って貰った」


 少しドヤっているような女神さまに私は苦笑いを向ける。違う空間というのはロゼさんと副団長さまたちが使っている収納魔術に利用する空間と似たような代物だろうか。荷物を収納するには便利な機能だけれど、人間を収納すると大変なことになっていそうだ。


 「生きているのですか?」


 「うん。時間が流れがゆっくりだから、彼にとってはこっちの千年が一秒くらいに感じているはず」


 どうやら銀髪くんは凄い空間へと移動させられたようだ。西の女神さまによれば魂の流刑地みたいなものだそうだ。救いようのない魂を女神さまの下で管理監督するのだとか。で、テラさまに会った時に銀髪くんにはどんな罰を加えれば効果的なのか聞いてみるとのこと。銀髪くんの扱いがある意味で凄くなってきていると感心していれば外に出ようとなる。


 アガレスの高官の方にまた道案内を受けて外に出れば、曇天が目の前に広がっていた。雨が降りそうな雰囲気に銀髪くんの未来を差しているようだと飛空艇に乗り込む。そうしてもう一度、アガレスの帝都を目指すのだった。

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― 新着の感想 ―
銀髪君、実は、元の世界に元の状態で、でも、経験だけはそのままで帰されるのが一番辛かったりして……………… 鉱山で経験多数だろうし………………ww
これで勘違い野郎も終わりですねー と言うかそもそも、記憶ありでこの地に来てる事自体が異常事態だし、その解明も兼ねて送るにはうってつけの相手です。寧ろ神直々に調べて貰えるかもな勘違い野郎は幸運と言える…
神の手を煩わせた人間ってある意味伝説ですよね...
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