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1106:エルフの街の畑の妖精さん。

 ――翌朝。


 朝食を終えてエルフの方々の畑を見に行った。以前と変わった所は作付面積が広がっているところだろうか。畑の妖精さんが忙しなく動いており、私たちを見て『ミズクレ』『ミズクレ』『シゴトクレ』と連呼している。


 子爵邸の妖精さんたちは『ミズクレ』『シゴトクレ』の他に『タネクレ』を連呼するのだが、こちらの妖精さんは『タネクレ』と口にしない。何故だろうと一人で唸っていると、私の肩から落ちそうになったクロが『うわ』と声を上げて、女神さまの方へと逃げて行った。

 私はごめんと視線でクロに伝えて、畑の状況を再度見る。綺麗に畝が整備されて、いろいろなお野菜が植えられていた。人参にキャベツに芋系品種とハーブ系の葉物が数種類あるようだ。ナスやゴーヤやトマトなんかも植えているそうだが、時期が時期なので今は見ることができなかった。


 「美味しそうですね。でもどうしてこちらの妖精さんは『タネクレ』と連呼しないのでしょうか?」


 分からなければ直接聞けば良いかと、私はダリア姉さんとアイリス姉さんを見上げる。後ろにはディアンさまとベリルさまが控えており、その少し後ろに赤竜さんと青竜さんと緑竜さんも一緒だった。

 私の問いにエルフのお姉さんズは微妙な顔を浮かべて、黙ったままなにも語らない。いつもであれば的確にハキハキと答えをくれるお二人なのに、不思議なこともあるなと前を向く。ふいに女神さまが私の隣でしゃがみ込んで膝を抱え、妖精さんを凝視した。


 「ナイの食欲が妖精に反映されているんじゃないかな? こっちの畑の妖精は子爵邸の妖精より穏やかだ」


 女神さまが畑の妖精さんに手を差し出すと、彼女に気付いた妖精さんが恐る恐る近寄って人差し指でタッチする。女神さまはおずおずと近づいてくる妖精さんに目を細めて、なにをする訳でもなく手を差し出したままだった。


 「……ということは、私の食い気が問題」


 なんだか子爵邸の畑の妖精さんに申し訳ない気持ちが湧いてくる。まさか私の旺盛な食欲が彼らの畑の社畜化に貢献していたなんて。女神さまとタッチした妖精さんたちは恥ずかしそうな視線をチラチラと彼女に向けながら、仕事を続けている。どうにかこちらの妖精さんのように、子爵邸の妖精さんが余裕を持った仕事量にならないかと私は目を細めた。


 「だね。でも食い気は生きるのに必要なこと」


 ふふと小さく笑った女神さまは最後の妖精さんとタッチをして、立ち上がり私を見下ろす。悪いことじゃないと言いたげな瞳で私を見下ろしているのだが、彼女の立派な胸部装甲はどうやって身に纏ったのだろう。食事で得られるものならば、食べてどうにか装甲を強化したいと願うのが人間の性では……って女神さまは神さまだから、人の理の輪から外れているんだった。


 「?」


 女神さまが不思議そうな顔になって私を見下ろす。気にしないのが一番だと気持ちを切り替えて、ダリア姉さんとアイリス姉さんの方へ視線を変えた。


 「味落ち問題は違う代の芋で、作付けしてみるとか」


 亜人連合国の皆さまに渡したさつまいもさんの味が落ちているのは、由々しき事態である。食べるならば美味しい状態のものを口にしたいし、味が落ちていた時の残念感が増すのだから。美味しい食べ物は人生において必要なものと豪語したい私は、畑の妖精さんたちが忙しなく動いている姿を見て目を細めた。


 「そちらも試したい所ね」


 「んーでもナイちゃんが魔力ドバーしてくれる方が早い気がするなあ。大人しくなったのはナイちゃん由来の魔素が少なくなって、こっちの魔素を取り込んで力が落ちたんじゃないかな~?」


 ダリア姉さんとアイリス姉さんも問題視しているようで、やはり畑のお野菜の味が落ちていることは気になる様子。一応、エルフの皆さまでいろいろと試したものの、味落ちは解決しなかったと教えてくれた。

 魔力ドバーは良いけれど、最近魔力量が増えたことでドバーすると『やり過ぎ!』と突っ込まれるから、魔力を練る量を凄く考えてやらないといけない。難しいのは苦手だが、錫杖さんがあればどうにかなるはずと、持参していた錫杖さんを手に取って前に構える。


 「えっと、構いませんか?」


 私は念のためダリア姉さんとアイリス姉さんの顔を見上げる。


 「もちろんよ」


 「お願いね~」


 お二人は良い顔をしてサムズアップをしているのだが、エルフの皆さまにもサムズアップの文化があったとは驚きだ。様になっているので羨ましいと私は畑の方を向いて、鳩尾辺りを意識する。鳩尾辺りでぐるぐると回っている魔力を意識して、渦巻く魔力の回転を速める。

 私の髪がゆらりと小さく揺れ始めた。お城の障壁展開用の魔術陣に魔力を充填する時も髪がふわりと舞うことはあるので、いつものことだ。でも魔力の巡りが良くなっているから、なんとなく普段よりも髪が揺れているような。


 「……ナイ。私が教えたことを実践してくれるのは嬉しいけれど」


 女神さまが私を見下ろしながら、複雑そうな表情になっている。何故と問いたいけれど、集中を切らしてしまえば練った魔力が霧散してしまう。


 「え? ナイちゃん? 魔力増え過ぎじゃないかしら?」


 「凄い量だねえ。放出すると大変なことになりそう~」


 ダリア姉さんとアイリス姉さんも戸惑っていた。そんなに不味い状況なのかと判断するが、側にいる竜の方々はウズウズしているような雰囲気である。クロとアズとネルも早く魔力を放出してと言いたげだし、ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちも尻尾を凄い勢いで振って私を見ていた。

 畑の妖精さんではなく、他の妖精さんもちらほらと姿を現し始め、部屋でしょげていたお婆さまも登場している。あ、これ、私の魔力放出を期待しているなと分かるものの、エルフの方々に迷惑を掛けるつもりはなかった。


 「では、どうすれば?」


 「空に打ち上げよう。魔力だから魔素になるだけで影響は少ない…………多分」


 私の問いに女神さまが答えてくれるけれど、言葉尻が不穏だなと目を細めた。でも、畑に放出するより空に打ち上げた方が影響は少ないと、畑に向けていた錫杖さんの先を上空へと向け直す。

 鳥さんに当たらないようにと願いながら魔力を放出した。魔術を詠唱していないので、純粋な魔力の放出である。術を介さない魔力放出は、術者から外に魔力が出されても自然に影響はないと言われている。

 言われているけれど、大量に放出すれば問題を引き起こす可能性が高いとも提唱されていた。なので私の魔力放出は影響を出してしまうのだろう。大丈夫かなと空を見上げていると、大きな黒い影が空に現れる。――あれは。


 「空飛び鯨の親子がナイの魔力を持って行った……凄い、偶然」


 女神さまの声に一同が驚いている。クロとアズとネルも驚いているし、ヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたちもぶんぶん振っていた尻尾を動かすのを止めて空を見上げていた。

 ダリア姉さんとアイリス姉さんは良いものが見れたと嬉しそうな顔になり、ディアンさまとベリルさまと赤竜さんと青竜さんと緑竜さんと他の竜の方たちは、魔力を吸えなくて残念という顔をありありと浮かべている。

 なんだか個人の喜怒哀楽が激しいが、まさか運良く空飛び鯨さんが魔力を回収してくれるなんて思いもよらない事態だった。でもまあ、放出した魔力を放っておけばどうなるか分からないし、空飛び鯨さんたちのお腹を満たせたならそれで良い。


 「女神さま、以前ナイちゃんが彼らを助けて、姿を現す回数が増えております」


 「律儀だよねえ~まあ、空飛び鯨を傷付けた馬鹿はいなくなったし、本当に良かったよ~彼らは幸運の印だから」


 ダリア姉さんとアイリス姉さんの言葉に耳を傾けているのだが、確かに空飛び鯨さんを助けるまで一度も見たことはなかった。深海と超高度の空を飛んでいる鯨さんだから、お目にする機会が滅多になくエルフの方々から幸運を呼ぶと言われている。人間が知らなかったのは、空飛び鯨さんの姿を拝む方が極僅かだったからだろう。本当に不思議な生き物だなと、小さくなっていく空飛び鯨さんたちをみんなで眺めていた。


 「空飛び鯨を傷付けた人間がいるの?」


 西の女神さまが空飛び鯨さんたちが消えた所で声を上げる。空飛び鯨さんを人間が傷付けるのは難しいのではなかろうか。副団長さまクラスの実力があれば可能だが、そうなると随分と数が絞られる。

 それに副団長さまなら仲良くなって生態の秘密を暴きましょうと言い出すから、空飛び鯨さんと敵対する可能性は凄く低い。女神さまが少しばかり気を張って問いかけ、ディアンさまとベリルさまが半歩前に進み出た。

 

 「人間ではなく竜ですね」


 「どうやら遊び感覚で襲ってしまったようです。ジークフリードさんとジークリンデさんが倒してくれたので、事なきを得ていますよ」


 ディアンさまとベリルさまが空飛び鯨さんの顛末を女神さまに伝える。話を咀嚼するようにと女神さまは目を細めながら、お二人の話を聞いていた。私たちは最初から最後まで知っているので、黙って聞いているだけだった。そうして空飛び鯨さんを傷付けた竜の最後を聞いた女神さまは小さく息を吐く。


 「あれは母さんが管理している星で一番好きな生き物と知った父さんが、こっちの星でも見られるようにって生み出したものだ」


 西の女神さまが目を細めながら、青い空を見上げる。グイーさま、テラさまのためにロマンティックなことをできる方のようである。女性陣に尻に敷かれている気もするが、決める時には決めるのだなあとグイーさまを見直す。


 「だから、あまり手を出さないで欲しい」


 確かに創造神さまが創り出した空飛び鯨さんを失う訳にはいかないし、無暗に傷付けるのも駄目な行為だろう。これ、私たちよりグイーさまが知っていれば凄く怒っていた案件なのでは。もう件の彼らはこの世にいないから、事なきを得ているけれど。悪いことを考える方は沢山いるが、悪事は巡り巡ってお天道さまの下に晒されるようである。


 「グイーさまの意外な一面を知ることができました」


 「父さんは母さんを愛しているから。会えなくて寂しいみたいだけれど」


 私を女神さまが見下ろして、割とグイーさまの外観に似合わないことを教えてくれる。テラさまのことは話題に殆ど上がらなかったので、グイーさまがテラさまと会いたくて寂しいと感じていたとは。

 凄く大柄でガハハと笑っている姿を知っているだけに、なんだかテラさまに恋焦がれているであろう乙女チックな姿は正直言って似合わない。


 ――儂の扱い酷くない?


 ――仕方ねえよ、親父殿。見てくれがな。


 ――細身の身体に作り替えれば!?


 ――そうなるとお母さまに殴られますわよ?


 ――母さまは巨漢マッチョ好きですものねえ。


 なんだか神さま一家の会話が聞こえた気がするが、聞こえなかったことにしておこうと視線を畑の妖精さんへと向けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 巨漢マッチョスキーとか絶対にオリオンやヘラクレス辺りは勿論ですけど、征服王イスカンダルや呂布(狂)好きでしょw [気になる点] だとすると母神様、地球でFGO等の巨漢マッチョが出るゲームで…
[良い点] 久々登場(上空を過っただけw)の空飛ぶ鯨とグイー様、テラ様のロマンス♪…娘達にディスられる姿は良き父親だからこそと思います(・∀・) [気になる点] 畑の妖精さんはナイのせいで社畜化してい…
[気になる点] グイーさまのことを話によって呼び方が、 『創造神』とか『創星神』になっていますが、意図的なものなのでしょうか?
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