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0011:校舎前。

2022.03.05投稿 1/4回目

 普通科から特進科への転科に驚き、掲示板側にいた年若い教諭をひっ捕まえて事情を聴いた。――曰く。


 歴代から合わせて、試験で初めて満点と次点をたたき出した受験者がおり、職員会議の結果その二人を特進科へと転科させることが満場一致で決まった、と。

 本来ならば特進科は貴族出身者で成績優秀者のみの編成だと聞いていたのに、こんなことになるだなんて。学院側は何を考えているのだろうか。目の前で困り顔を披露している教諭に問い詰めても仕方なさそうだし、ここは諦めてさっさと教室へと向かった方が良さそうだ。

 少し時間が押しているし、特進科クラスで一番下っ端になることが決定しているのだから、遅れると不味いだろう。先ほど私の隣で喜んでいたピンクブロンドの少女の姿が見当たらないので、急いだほうが良さそうだ。


 「大丈夫か?」


 「どうにかなるよ。それに、あの頃に比べたら全然マシでしょ」


 私に付き合ってくれているジークとリンも入学初日に教室に遅れて入る訳にもいかないから、笑って大丈夫だと伝えると呆れられた。

 呆れられたことに噛みつくと、私の周りでいろいろと事件が起こり過ぎてて『これもお前が引き寄せた運だろう』と言われるのがオチ。

 それに栄養失調寸前の孤児だった頃に比べれば些末なことなのだ。面倒事は増えてしまうけれども。


 「行こう、遅れると不味いし」

 

 「ああ」


 「うん」


 校舎の方へと歩き始めてしばらくすると、騎士科と特進科の校舎が別の為、二人と別れなければならなくなった。


 「ここまでだな」


 「ナイ、無茶したら駄目だよ」


 「無茶なんてしないし、無茶するようなことが起こる訳ないよ」


 リンが言った無茶なんてするつもりはないし、学校生活なのだから無茶をすることなどないだろう。ジークもリンも心配しすぎなのである。

 先程の掲示板の所で出会った貴族の人はたまたまガラが悪かっただけだ。殆どの人は私――というか平民なんて相手にしないから空気扱いするだろうし。

 

 「じゃあまた後で」


 手を軽く振り二人と別れて特進科の校舎へと続く道を歩く。整備された草花や木が実る小さな庭を突っ切りながら、周りを観察しつつ少しばかり早歩きで進む。

 校舎は近代と中世を混ぜ込んだような、不思議な感覚の建屋だった。中世っぽい国だというのに、この学院は不思議なもので日本的なもの――例えば桜――ぽいものがあったり、水洗トイレ――かなり近代的な造りだ――があったりと時代が混ぜこぜである。制服もスカート、ブレザーにネクタイという随分と服飾センスが新しい。外に出ると目立ちそうなのだけれど、街中で見かけた学院生を気にしている人など居ないので馴染んでいるのだろう。


 こういう時はこういうものなのだと納得した方が早いのは、魔力や魔術、魔物や魔獣が存在すると知った時に学んでいる。


 「待て」


 唐突に何の前触れもなく横から声を掛けられ、声の主へと向き直る。そこに立っていたのは陽に光る金糸の髪をシニヨンで纏め、端整な顔立ちの同じ制服を着こんだ女子生徒。またしても私より背が高いのは、どうにかならないものだろうか。夜にこっそり山羊のミルクとか飲んでいるのだけれど、私の背が伸びる気配は一向にないのだが。


 他所事を考えながら、もう一度目の前の生徒の顔を見る。どこかで感じた既視感をそうしてようやく思い出した。

 ああ、そうだ。公爵さまに貴族の顔や名前は覚えておいて損はないと、手紙で書かれていたのと一緒に送られてきた貴族名鑑に彼女によく似た姿絵が載っていたのだ。その人物と言うのが公爵さまの孫娘となる、ソフィーア・ハイゼンベルグ公爵令嬢。公爵さまとは似ても似つかないのだけれど、まあ公爵さまの血は薄くなっているのだろうから、似ていなくても問題はない……はずだ。


 「ネクタイが曲がっている、直せ」


 薄紫色の目を細めながら高圧的な言葉を紡ぎ、不快そうな顔をありありと浮かべ私へと言葉を投げつけた。顔を下に向けると確かに私のネクタイが曲がっていたので、彼女の指摘を無下にする訳にはいかない。

 慣れないネクタイに暫く悪戦苦闘しつつ、どうにか直すことができた。鏡があればもう少し早く結びなおせたのかもしれないが、ないものは仕方ない。


 「ありがとうございます。お陰で恥をかかずに済みました」


 教室に入って後ろ指をさされながら笑われるよりは、こうして指摘された方が助かるので頭を下げて礼を述べる。

 

 「ふん。こうして頭を下げる前に、最初から気を付けておけ。――身だしなみはきちんとしろ」


 普通、身分の高い人が下の者、というか関係もないのにこうして簡単に声など掛けない。一瞬公爵さまが彼女に私の話をしたのだろうかと考えが過るが、それはない。あの人は仕事のことを家庭に持ち込まないだろう。夫婦円満で今でも冷める気配がないと、公爵さまの部下から聞いたことがある。そんな人が家庭に仕事の話を持ち込みそうにはないから。


 注意してくれた当の本人は鼻を鳴らして踵を返しさっさと校舎の方へと向かっていった。


 腕時計――公爵さまから入学祝いだといって頂いた――を見ると、もうすぐ集合時間になる。急ぎ足を駆け足に変え、校舎の中へと入り教室を目指すのだった。


2022.03.05 am10:53追記 

 お知らせ:『特進科』は伯爵家以上の貴族の子女のみの編成――と地の文で説明していましたが、齟齬が出てくる為に設定を変えました。『特進科』は貴族の子女で成績優秀者のみの編成――としました。全て直したつもりですが、もし特進科は伯爵家以上という文字が残っていれば教えて頂けると幸いです。本当に申し訳ございません┏○))ペコ

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[一言] タイが曲がっていてよ、ってねHAHAHA
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