表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1052/1370

1052:女神さま教会へ。

 今日も今日とて農家の方々と料理人さんに感謝しながら美味しい朝ご飯を終え、西の女神さまの力を抑える方法をグイーさまに聞きだすために教会へと向かう。ロゼさんの転移で赴こうかと考えていたのだが、女神さまから馬車が良いと請われたため馬車での移動である。 


 子爵位の時よりも豪奢になった侯爵家の馬車に乗り込んで貴族街を抜け、商業地区へと入り暫くすれば王都の教会に辿り着く。女神さまは王都の街並が珍しいのか馬車に乗っていた時も窓から外を眺めていた。クロが声を掛けても反応が薄かったので本当に集中していたようである。馬車が教会に着いて私が改めて声を掛けるとハッとした様子でごめんと謝罪をくれたのだ。

 

 女神さまの姿が王都の方々に認知されれば騒ぎになるかもと、彼女にはフード付きの外套を纏って頂いている。女神さまの背が高いので男性用を着用しているのはご愛敬だし、似合っているのだから羨ましい限りだ。


 「では、申し訳ありませんが……」


 「ん」


 私の声に馬車の中で女神さまがフードを被る。私が先に降りてジークのエスコートを受け、私が女神さまをエスコートするというヘンテコな役割が振られていた。ちなみに帰り道はリンが私のエスコートをし、私が女神さまのエスコートを担う。


 取り決め通り、私はジークのエスコートを受け馬車のステップを降りた。ジークにお礼を伝えて少し周りを見渡してみれば、人がこちらへと視線を向けている。商業地区では朝市が開かれているのだが、服飾店や武器屋に家具屋等のお店が多く建ち並んでいる教会付近はまだ人通りが少ない。道行く方たちは豪華な馬車と護衛の方々の数に目を引かれて視線をこちらへと向けているものの、お貴族さまに不躾な視線を向けると騒ぎになる可能性があると知っているため、女神さまと私には視線を向けないようにしていた。

 そうして女神さまが馬車の座席から腰を上げ扉の方へと寄ってきて、私は彼女に向けて手を伸ばした。差し出した私の手にそっと置かれた女神さまの手は、少し体温が低い気がする。ゆっくりと馬車のステップを降りる女神さまだが、危なげなく降りているのでエスコートは必要ないものだったのかもしれない。それでも女神さまは初めての体験に目を細めて私を見下ろした。


 「ありがとう。変な感じだね」


 「男性のエスコートの方が良かったですか?」


 「ううん、大丈夫。ナイの手、小さくて可愛い」


 女神さまは私のエスコートでも満足してくれたようだが、私の身長が低いと遠回しに伝えてくれる。事実なので仕方ないけれど……あ、グイーさまには身長を伸ばすのは無理と言われたけれど、西の女神さまの見解はどうなのだろうか。機会があれば聞いてみようと決めて、私は階段を昇った先にある教会の大扉に視線を向けてる。既に教会の方たちが大扉の前に立って出迎えをしてくれているのだが、結構な人数となっている。

 聖王国の黒衣の枢機卿さまを出迎えた時より人数が多いし、顔が強張って緊張しているのも直に伝わってきた。私はこのままでは不味いと判断して、女神さまの顔を見上げる。彼女はどうしたのと小さく首を傾げて私の言葉を待つのだった。


 「えっと、教会の皆さまは緊張しているので、また気絶される方が出るかもしれません。その時はご了承を……」


 「迷惑を掛けてしまっているね……父さんに力を抑える術を聞いたらみんなと話ができると良いけれど」


 女神さまの声を聞き届けて私は腹を決めて、彼女に参りましょうと伝える。私が先頭を歩き、右隣に女神さまが進み、後ろにはジークとリンが護衛を担ってくれている。

 いつもであれば毛玉ちゃんたちがわちゃわちゃしているけれど、騒ぎになるといけないから外では影の中に入っていて欲しいとお願いしておいた。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんの説得を受けた彼らは、今日に限っては大人しく私の影の中という訳である。その時に女神さまが驚いていたのは謎であるが、問い質さないまま教会にまで赴いている。


 「ひょ、ひょううこそ、アルバトロス王国教会ふぇ!」


 教会の皆さまを代表してカルヴァインさまが声を上げるのだが、普段より三トーンほど声が高い上に言葉が変になっていた。大丈夫かなと私は彼の顔を見てみると、かなり引き攣った表情だし手は身体の横にピタリとついていた。

 他の面々もカルヴァインさまと同じ様子だし、あのシスター・ジルとシスター・リズでさえも緊張しているようである。グイーさまの分身体と北と東と南の女神さまを見ているはずなのに、西大陸を創造なさった女神さまは神職の皆さまの間では更に特別なようだった。


 「急な来訪、本当に申し訳ありません」


 「いぇ! アズトライァー侯爵閣下には普段からひょ世話になっております故にぃ、ぎょ迷惑どころかかんぴゃする次第ですぅ!」


 しゃ、喋り辛いと私が口の端を伸ばしていれば、聖女の衣装の肩口を誰かが引っ張っていた。正体は直ぐに分かるけれど、私は視線を向けてどうしたのかと無言で問うた。


 「話の邪魔をするけれど……この状況だとみんな辛いから、ナイの祝福掛けてあげて」

 

 少し困ったような苦笑いを浮かべているような西の女神さまに請われる。確かに今の状況ではマトモに話ができないし、私が祝福を施せば多少の効果はあると実証済みである。祝福の効果が出なかった方には申し訳ないけれど、状況の改善をしようと私は教会の皆さまに祝福を施した。


 「た、大変失礼な喋り口調で申し訳ありませんでした。アストライアー侯爵閣下、そして西の女神さまようこそ教会へ。侯爵家のような歓待はできませんが、我々一同心を尽くして皆さまを歓迎いたします!」


 少し時間が経てばカルヴァインさまの顔色が少し良くなり、ミリも動かなかった手足が動き始めてはっきりとした発声の言葉を紡いだ。とりあえずカルヴァインさまには祝福の効果が表れたと私は胸を撫で下ろす。

 

 「そんなに気を張らなくても。父さんと連絡するには一番ここが繋がり易いってナイから聞いているから、お邪魔するね」


 西の女神さまの言葉を聞いたカルヴァインさまが少し照れている。彼女は彼より背が高いけれど、声帯の造り故に女性らしい音階の声を出す。背の高さを考慮すればもう少し低くても良さそうだが、女神さまは心地よい音域の声だった。はっと我に戻ったカルヴァインさまが中へ入りましょうと手で示して、私と女神さまと選ばれた護衛の皆さまは聖堂の中へと足を向けた。他の教会のメンバーも一緒に足を進め、祭壇の前に立つ。


 「ナイ、どうやって父さんと連絡を取るの?」


 祭壇前に辿り着いた女神さまが私に問うた。特に難しいことではないし、西の女神さまも簡単にできるのではないだろうか。彼女に方法を伝えておけば神さまの島と簡単に連絡を取れ便利になるだろうと、私は口を開いた。


 「少し魔力を放出しながら、グイーさまと心の中で唱えれば声が聞こえます。凄く不思議ですけれど」


 グイーさまや北と東と南の女神さまがどうやって私の声を察知しているのか分からないけれど、届いて交信が可能なのだから神さまパワーは凄いものである。私の言葉に目を細めた女神さまが言葉を零した。


 「……良くそんなことができるね。私だったら一度家に戻らなきゃ無理だけれど」


 「では、試してみますか?」


 「ううん、大丈夫。ナイが連絡を取れるなら不便はないよ」


 あれ、軽くいなされてしまったと私は苦笑いを浮かべる。西の女神さまはご自身でご実家に連絡を取る気はないようだ。もしかしてなにかある度に連絡を入れる役目は私が担わなければならないのだろうか。む、と口をへの字にするも女神さまの圧に耐えなければならない方々がいるから私が適任となるなと小さく息を吐いた。


 「とりあえず、祈りを捧げてみますね。前回、偶々グイーさまと連絡が取れただけかもしれませんし」


 「ん、お願い」


 失敗なんてするのかという周りの皆さまの疑問と期待が私に向けられていた。女神さまは涼しい顔で私と数歩距離を取り、物珍しそうな視線を向けている。


 「クロも念のために離れていてね」


 『分かった~』


 肩の上に乗っていたクロに声を掛ければ素直に飛び立って、ジークの肩の上に乗る。アズと並んだクロは可愛いなと心の中で惚気て、私は教会にいる皆さまの顔を見渡しグイーさまと繋がることの確認を取った。

 教会の皆さまはグイーさまと三女神さまを見ているので、声だけであれば慣れたようである。よし、と私は気合を入れて、錫杖を構え祭壇の前に立ち膝を突き魔力を練った。鳩尾の辺りが温かくなり、魔力を練った証拠として私の髪がゆらゆらと揺れる。

 

 「ああ、懐かしいね。私が大陸で人間たちに教えていた頃の空気に似ている」


 西の女神さまが声を発した気がするけれど、集中を乱せば失敗しそうだ。地面に私の魔力を通して、魔力の細い糸を神さまの島へと伸ばすような幻想が目の前に広がった。そろそろ大丈夫かなと判断して目的の人物の姿を私の頭の中に思い描く。そして。


 ――グイーさま!


 星を創り給うた神さまの名前を呼べば、何故か東屋で爆睡しているグイーさまの姿が頭の中に勝手に浮かんでいた。


 『どわっ! 吃驚した。なんだ、ナイか。驚かせるな。で、どうしたんだ? 娘が迷惑を掛けとるのか?』


 私の声にはっと目を覚ましたグイーさまがきょろきょろと周りを見渡した所で頭の中の映像が消える。なんだったのかと不思議に感じつつも、無事にグイーさまと繋がったことに安堵を覚えた。

 とりあえず西の女神さまが私の下へと向かった経緯を聞き、暫くの間娘を頼むとグイーさまにもお願いされた。神さまの暫くって凄く長い期間なのではと首を傾げたくなる。そして一番聞きたかったこと、神力の力の抑え方をグイーさまに聞いてみれば『なんとなく抑えるのだ。こう、力を抜くというか? 気を抜くというか?』と微妙な回答を得るのだった。


 『親父殿、方法くらいきちんと教えてやれよ』


 『ケチ臭いですわ。お父さま』


 『ですわね。父上』


 グイーさまの微妙な回答に私が困っていると北と東と南の女神さまが助け船を出してくれた。三女神さまは割と父神であるグイーさまに手厳しいなと苦笑いを浮かべる。


 『ぐ……娘が儂に厳しいぞい』


 グイーさまが渋面を浮かべている姿が安易に思い浮かべることができる。三人のお嬢さまに立つ瀬のないグイーさまはぐぬぬと頭を捻っているようだ。


 『あ……ナイ、お主が付けている指輪は魔力を抑えるものだったな?』


 ぽんと手を叩く音が聞こえて、グイーさまの明るい声が届いた。確かに私の指には副団長さまから頂いた魔術具が三つほど身に着けている。魔力制御が下手糞なのは相変わらず――以前よりは全然マシ――なので、着けざるを得ない代物と言えば良いだろうか。錫杖のお陰でスムーズに魔力を練ることができるけれど、体内に有り余っている魔力を魔素に変えて放出してくれているのだ。


 『それを一つ娘に付けさせてみては?』


 私はグイーさまに言われるまま魔術具の一つを外して西の女神さまに渡してみる。左の中指に嵌めていた魔術具を西の女神さまは左手の小指に嵌めてぴったりだった。

 一瞬、微妙な顔になった西の女神さまだが、魔術具を身に着けた彼女から発する圧が少し弱まった気がする。そして教会の皆さまも少し安堵している様子だった。その代わり私の魔力が体内を暴れているのだが、放出しても良いだろうかと目を細める。


 「凄いね、ナイの指輪」


 左手を祭壇のステンドグラスに掲げた女神さまは興味深そうに魔術具を眺めていた。

 

 「ヴァレンシュタイン副団長のお陰です」


 私が副団長さまの名前を告げれば、女神さまは興味を持ったのか会ってみたいと請われる。おそらく副団長さまは嬉々として女神さまと面会してくれるだろうけれど、アルバトロス上層部は頭を抱えそうだなあと私は遠い目になるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力量歴代最強な~ 2024.09.05 第三巻発売!

魔力量歴代最強な転生聖女さま~ 第三巻 好評発売中!
画像をクリックして頂くと集英社さんの公式HPに飛びます!

【アマゾンさん】
【hontoさん】
【楽天ブックスさん】
【紀伊国屋書店さん】
【7netさん】
【e-honさん】
【書泉さん:書泉・芳林堂書店限定SSペーパー】
【書泉さん:[書泉限定有償特典アクリルコースター 660円(税込)付・[書泉・芳林堂書店限定SSペーパー付】
【Amazon Kindle】

控えめ令嬢が婚約白紙を受けた次の日に新たな婚約を結んだ話 2025/04/14 第一巻発売!

控えめ令嬢が婚約白紙を受けた次の日に新たな婚約を結んだ話1 2025/04/14発売!
画像をクリックして頂くとコミックブリーゼさんの公式HPに飛びます!



【旧Twitter感想キャンペーン開催!! 内容を確認して、ご応募頂ければ幸いです】

【YoutubeにてショートPV作成してくださいました! 是非、ご覧ください!】

【書泉さん:フェア開催中! 抽選で第一巻イラストの色校プレゼント! ~2025.05.13まで】

⇓各所リンク
【アマゾンさん】
【hontoさん】
【楽天ブックスさん】
【紀伊国屋書店さん】
【7netさん】
【e-honさん】
【bookwalkerさん】
【書泉さん:書泉限定特典ペーパー/こみらの!限定特典「イラストカード」/共通ペーパー】
【駿河屋さん:駿河屋限定オリジナルブロマイド付き】
【ゲーマーズさん:描き下ろしブロマイド付き】
【こみらの! さん:イラストカード付き】
【メロンブックス/フロマージュブックスさん:描き下ろしイラストカード】
【コミックシーモアさん:描き下ろしデジタルイラスト】
【Renta!さん:描き下ろしデジタルイラスト】
― 新着の感想 ―
[良い点] ナイだけが使える電話ならぬ『神話回線』w…グイー様のだらしない姿も見通してしまう映像付きの優れ物(・∀・) [気になる点] 西の女神様直々に興味を持たれた副団長w…猫背さん共々、狂喜乱舞し…
[良い点] 指輪で圧を抑えられたようでなにより [気になる点] 女神さまがつけても壊れない指輪作るって、副団長さま本当に人間か?
[一言] 更新お疲れ様です。 教会では、案の定皆さん緊張しまくってましたね (^^) カルヴァイン君、以前グィー様と三女神様達が降臨された時も腰を抜かしてましたっけw 先達枢機卿お二人、代わってあげ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ