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1048:子爵邸ご案内。

 西の女神さまを直接拝んだクレイグとサフィールは驚いているものの、南の女神さまで耐性がついていたのか食事中は普通であった。女神さまがご飯が美味しいと零せば、私が良かったですと伝えてあとで料理人の方たちにも伝えようと食事を続けていた。


 時折、西の女神さまは食堂の中を物珍しそうに見渡して、彼女に分らないものがあれば『これはなに?』と問われて私が答えるを繰り返していた。もしかして引き籠っていた数千年の間は本当に西大陸に干渉していなくて、人間の世界では技術が発展していることを知らなかったようだ。

 そういえば東大陸は古代文明があったようだけれど、東の女神さまからはなにも聞いていない。気が向いたら聞いてみようと頭の隅っこに置いて、食事を終えた西の女神さまへ声を掛ける。


 「女神さま、これからどうなさるのですか? 大まかなことは聞きましたが、細かな予定を聞かせて頂けるといろいろと助かります」


 私の疑問に小さく首を傾げた西の女神さまが口を開いた。


 「クロから聞いたけれど、ナイは暫くはゆっくり過ごすって聞いたから私も屋敷でゆっくりさせて欲しい。屋敷には図書室もあるって聞いたから、どんな本があるのか興味がある」


 西の女神さまは私の事情を知っているのでもう一度謝罪を口にして、一週間はミナーヴァ子爵邸でゆっくり過ごすと決めているようだ。クロとどんな会話を交わしたのかは知らないけれど、私がいない間に情報がクロから女神さまに渡っていたようである。

 一週間が過ぎれば、いろいろな国を見回りたいとか。とりあえず、西の女神さまに一番で解決しなければならない問題は彼女の力が駄々洩れであることだろう。クレイグとサフィールは普通を装っているが、顔が引き攣り始めている。長時間、女神さまと同席するのはキツイようなので解決方法を見つけないと。

 

 「西の女神さまのお力は偉大なので、グイーさまに制御する方法を聞いてみたいのですが、よろしいでしょうか?」


 といっても私が解決するわけではなく、グイーさまに頼る方法だけれど。私が身に着けている魔力制御の魔道具で収まれば良いのだが、西の女神さまに『身に着けて』とお願いするのは失礼だ。副団長さまと猫背さんにお願いできるけれど時間が掛かってしまう可能性が高い。ならばグイーさま一択となる。


 「ナイは父さんと繋がれるの?」


 「教会でグイーさま、グイーさまと祈れば答えてくれます」


 少し目を見開いた西の女神さまは私を見ている。教会で祈れば答えてくれるし、なんなら東と北と南の女神さまも答えてくれるのだが。不思議そうな顔をした西の女神さまは直ぐに表情をいつもの無表情へと変えた。


 「ナイは父さんに気に入られているね。さっき君が父さんに力を抑える方法を聞いてみると言っていた理由がやっと理解できた。多分、珍しいことじゃないかな……というか初めて? まあ私が引き籠っていた間は分からないけど」


 西の女神さまが言い終えると肩を竦める。初めて彼女と顔合わせした時は感情が薄そうだと失礼なことを考えていたが、表情が乏しいだけでグイーさまと同様に割と喋ってくださる。

 有難いけれど、どうして私のお屋敷に居着いてしまいますかねえと愚痴を零したくなるが、他の方の所にいかないだけマシなのだろうか。他の方の屋敷に西の女神さまが御降臨されれば、大騒ぎになるだろうし失神者が続出しそうである。そう考えるとミナーヴァ子爵邸に降りてきてくださって良かった。面倒になる割合で考えると私の所にきてくださる方が厄介な事態に発展し辛いはずである。


 「では明日、教会に赴いて聞いてみますね」


 「私も行っても良い?」


 それは大騒ぎになるのではないだろうか。グイーさまと北と東と南の女神さまが現れたことでも教会の中は凄く騒ぎになっていたのに、西大陸を作り給うた、それも信仰のご本尊である西の女神さまが顔を出したとあれば……どうなるのか想像がつかない。

 前世で神さまの人生を取り扱った映画が上映されて失神者が出たと聞いたことがあるけれど、それどころの騒ぎではないはずだ。現に騎士爵家の侍女の方は卒倒したのだから。とはいえ断る理由はない。教会は誰でも受け入れる方針を取っているのだから、女神さまが赴いたって問題はない。問題はないが皆さまさぞ驚くだろうし、信仰心の高いカルヴァインさま辺りは気絶するのではなかろうか。


 「私が明日教会に赴く旨を伝えるのですが、西の女神さまと一緒に向かうと教会に伝えても宜しいですか?」


 教会に前以て知らせておけば被害は少ないはずだ。大勢の教会関係者が参加しそうであるが致し方ない。その辺りも西の女神さまには説明しておいた方が良いだろう。

 どうにも大昔は西の女神さまが西大陸を普通に闊歩しており、当時の方々には彼女の存在が身近であったようである。文献として残っていないのは、言い伝えが途切れたか紙や竹や粘土版の情報は時間の流れで消え去ったと推測できる。古代人と西の女神さまの関係も気になるし、いつかは聞いてみたいものである。


 「それは構わないよ」


 「ありがとうございます」


 私が女神さまに頭を下げれば、彼女はゆるゆると頭を振った。そして、クレイグとサフィールが女神さまの圧にそろそろ耐えられないようで、顔が青くなっている。解散した方が彼らのためだと判断して、西の女神さまに私の部屋に戻るか図書室に行ってみましょうと声を掛けた。


 「図書室、行ってみたい」


 「良いですよ。案内しますね」


 私が席から立ち上がれば、西の女神さまも席から立ち上がり私の後ろを着いてくる。クロが私の肩に乗り、ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんがよっこいせと立ち上がり、毛玉ちゃんたちが私の前を走り去って戻ってきて後ろを着いてくる。


 私と少し離れた後ろにはジークとリンが当然の様に歩き、クレイグとサフィールは椅子の上でほっと胸を撫で下ろしていた。私は彼らに『ごめん』と無言で視線を送れば、二人は苦笑いを浮かべながら意味ありげな視線が返ってくる。おそらく『気にするな』『ナイだからね』とでも言いたかったのだろう。


 呆れてはいるけれど怒っていないクレイグとサフィールに感謝しながら食堂を出る。子爵邸の長い廊下は普段より静かで、少し不思議な感じが漂っている。妖精さんがふらふらと飛んでいないし、使用人の方も見かけない。西の女神さまと邂逅しないように努めてくれているようだ。私はふうと息を吐いて後ろを歩いている彼女に顔だけを向ける。


 「女神さまはどんな本が好みですか?」


 私は話のネタにと女神さまに話を振ってみる。凄くどうでも良いことかもしれないが、なにか情報が得られるかもしれない。クロは私が女神さまに問うたことが不思議だったのか、こてんと首を傾げながら視線を私と女神さまの間で彷徨わせていた。ヴァナルと雪さんたちはいつも通り、落ち着いた雰囲気で廊下を歩いているし、毛玉ちゃんたちは構って欲しいのか時折鼻タッチを求めている。


 「ん? なんでも読むけれど……農業がどう進化したのか気になるかな。私が父さんから西大陸を任されて暫く経った頃に人間が生まれて、弱過ぎて知恵を与えていたけれど――」


 どうやら西の女神さまは古代人と呼ばれていた方々に知恵を授けていたようだ。魔力が豊富と聞いていたので今の時代よりも優れていたのかと思いきや、割と原始的な暮らしをしていたそうだ。彼らに魔力が多いことを知っていた女神さまは魔術』という便利なものを授けたそうだ。


 「今の魔術と昔の魔術は違いが大きいのでしょうか?」


 副団長さまと猫背さんが歓喜しそうな話題だが、昔と今の魔術は違うのだろうか。もし昔の魔術の方が優れているのであれば、治癒系の術を教えてくれないだろうかという目的があった。女神さまは私の下心など知らず不思議そうに顔を傾げる。


 「どうだろう? 今の魔術がどんなものか知らないからナイの疑問に答えられない。ごめん」


 「あ、いえ。興味本位で聞いただけなので大丈夫です。答えられないことや知って欲しくないこと、言いたくないこともあるでしょうから」


 女神さまの言葉に残念な気持ちが湧いてくるけれど、行くところがなければ魔術師団の隊舎に案内するのも手だなと思いつく。魔術師の方々であれば女神さまでも気にしないかもしれないので、一番行きやすい場所となりそうだ。

 お城の皆さまは驚くかもしれないが、隊舎に入れば問題は少なくなる。ワイバーンさんたちが暮らしている小屋や訓練場にも興味を持ってくれるだろうか。ワイバーンさんたちのおっとりした感じはとても癒される。もちろん、クロもロゼさんもヴァナルも雪さんたちも毛玉ちゃんたちにエル一家とグリフォンさんとグリ坊にお猫さまたちも癒し枠であるが、ワイバーンさんは言葉が幼いから可愛いのだ。

 

 「ナイ、どうして笑っているの?」


 「あ、すみません。女神さまにご紹介できる場所がいくつかあるなと考えていただけで、他意はありません」


 女神さまが不思議そうな顔をして私を見下ろしていた。何故、私の顔は感情が丸だしになるのだろうか。いかんいかんと気を引き締めるのだが、周りの方には私の感情や気持ちは案外バレバレであった。


 「嬉しいけれど、何故?」


 「退屈なのは嫌ですからね」


 数千年振りに部屋の外に出たのなら、日常が楽しくないとまた引き籠もってしまいそうだ。引き籠もりを続けると神力を失って、女神さまと大陸が滅ぶと聞いた。

 私たちの世代は問題ないかもしれないが、やはりクロやヴァナルたちみんなのことを考えると女神さまにはエンジョイして貰わなければならない。どうか女神さまにとって楽しい日々が続きますようにと願うばかりだ。

 

 「あ、着きました。ここが図書室です。子爵位規模の屋敷なので小さいですが、雑多に揃っているはずですよ」


 私は図書室の扉を開けて中へと入る。続いて女神さまが入り、ジークとリンも入ってきた。西の女神さまはきょろきょろと図書室を無言で見渡している。本に惹かれているのか私のことは意に介さず、中へとどんどん足を進めていた。

 女神様の興味を引ける本があるのならば御の字だが、彼女はどんな本を手に取るのだろうか。先を行く女神さまの背をゆっくりと追いかけると、とある一冊の本を取り出した。

 

 ――それは。


 どうして妖精さんが勝手に屋敷へ持ち込んでいた魔道書をピンポイントで手に取るのでしょうかと、私は口の端を引き攣らせるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔術士団の隊舎に西の女神様を案内したら、アイドルになっちゃったりして…。 ところで西の女神様がひきこもったきっかけを聞いていなかったような気がしますが。何だったんでしょうか。 […
[良い点] 西大陸を創造した女神様が、その女神様を崇め奉る教会に遊びに行くとか面白過ぎるw [一言] ナイさんの異常性に気付くけど、南の女神様以外は何故かスルーしてますよねーw
[良い点]  クレイグ達が頑張り通した事。  朝からいきなりヘビーな洗礼を受けたのに・・・。  下手したら、ジークより男を見せているのでは? [気になる点]  考えて見れば、居候.(クロ)の友達が押し…
2024/09/06 22:23 名無 権兵衛
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