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1012/1367

1012:懐かしい光景。

 教会の中ではグイーさまが消えていったことに動揺が走っていた。そして三女神さまも戻ったことにも驚いている。自由に地上に現れる――グイーさまは制限があるらしい――ことができるのだから、自由に消えることもできるだろう。

 存在が無くなったわけではないのだから驚愕する必要もないのに、カルヴァインさま辺りはアワアワしていた。とりあえず落ち着いて貰わなければと、教会の信徒席に座り私がグイーさまと三女神さまの状況を説明し終えたところである。


 「……アストライアー侯爵閣下」


 「はい?」


 「星を創り給うた方を安易に呼んでしまわれても良いのでしょうか?」


 若干カルヴァインさまが顔を引き攣らせながら私に問うた。もちろん私も良いのかと一度は迷ったもののグイーさまの豪快な性格故か『気にするでない!』で終わってしまった。むしろもっとやることがないかとか、もっと面白くならないかと彼自身が考えていたのである。

 グイーさまが聖王国に向かう話も提案されたが、大陸宗教の拠点となっている聖王国でグイーさまが現れればどうなるかなんて火を見るよりも明らかである。また私がやらかしたのだと西大陸どころか東と北と南大陸にも伝わって、尾ひれ背びれが付いた噂が流れるだろう。

 

 「そ、そういうことでしたか。しかし聖職者として神々の皆さまとお会いできた奇跡は忘れられるものではありませんし、閣下と共にいなければできない経験でした。アルバトロス王国教会一同、感謝致します」


 「……いえ。お気になさらず」

 

 説明を聞いて丁寧に頭を下げるカルヴァインさまを見ながら私の口元は引き攣っていた。今後も彼らが教会に舞い降りることがあると知れば、真面目なカルヴァインさまはまた腰を抜かすのではなかろうか。

 シスター・ジルとシスター・リズは慣れて神さま方と普通に話している姿が想像できるのだが、カルヴァインさまや真面目な神職の方たちがグイーさまと語り合う姿を思い浮かべられなかった。下げていた頭を元に戻したカルヴァインさまを確認して、私はフィーネさまとエーリヒさまへ視線を向ける。


 「では、アルバトロス城に向かいましょう。フィーネさま、ベナンター卿」


 そろそろ登城してアルバトロス王国のお偉いさん方に報告しなければ。公爵さまと辺境伯さまは黒衣の枢機卿さまのご尊顔を拝んで直ぐ『小者だ』と判断して興味を失くしているけれど、報告は必須だしお城で待機していると言っていた。

 捕縛縄でぐるぐる巻きの刑に処されている彼は気を失ったままである。目を覚まされても面倒なのでお城に辿り着くまでは起きないで欲しい。私の声にエーリヒさまが小さく頷き、フィーネさまが席から立ち上がった。


 「はい。――教会の皆さま、この度は聖王国の者がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。アストライアー侯爵閣下の提案を受けて頂き、教皇猊下と先々々代の教皇さまが感謝しておりました。私も聖王国の大聖女として礼をお伝えしたく」


 フィーネさまが深々と頭を下げた。彼女は聖王国の大聖女の地位に就いているのに他国の教会で頭を下げることになるとは。全部、黒衣の枢機卿さまの責任だなと床に転がる彼を見る。

 お城までの移動は馬車を使うのだが彼の扱いはどうしようか。せめて教会のある商業地区から貴族街に入るまでは晒しておきたいけれど……ヴァナルの口に咥えて貰うとヴァナルの方にインパクトが向きそうだ。


 「いえ。大聖女フィーネさまと大聖女ウルスラさまに女神さまの加護がありますように。彼女が他者の命に対して少しでも理解できたなら協力した甲斐があります」


 カルヴァインさまがフィーネさまに答える。治癒師として活動をしている彼も、シスター・ジルもシスター・リズもそして協力を願った女性も大聖女ウルスラさまのことを危惧していた。

 今回、荒療治になってしまったが効果のほどは如何ばかりか。無茶を続けてしまえば自身の命を削ることにもなるし、死者を蘇らせて欲しいと無茶な願いも増えてしまう。私たちより少し離れた場所にいるウルスラさまに視線を向けると、彼女は胸に手を当ててなにか考え込んでいるようだった。私が深く彼女に関われば政治的に面倒になりそうだから、あとはフィーネさまに任せる他ないだろう。

 

 「正式な謝罪は、また後程」


 「承知致しました」


 聖王国の面々とアルバトロス教会の面々がお互いに頭を下げ合いながら教会の大扉を出た。ちなみにここまで黒衣の枢機卿さまを引っ張ってたのはジークである。床を引き摺ったので彼の黒い衣装が埃と土で汚れているのがはっきりと分かる。

 ヴァナルは私の影の中に入っており、雪さんと夜さんと華さんも既に私の影の中である。おそらく毛玉ちゃんたちと久し振りの再会を楽しんでいるはずだ。邪魔しては悪いし用がない限りはこのままだろう。


 「この人、どうしましょうか。護送馬車は用意していないので馬車に乗せるしかないのですが、乗せるのはちょっと……」


 私が黒衣の枢機卿さまを見下ろしていると、フィーネさまが『はい!』と手を挙げた。


 「強化の魔術を施して王城まで私が引っ張っていきます。彼の悪行を広めるのに丁度良い機会でしょう。聖王国まで噂が届くには時間が掛かりますが、彼が二度と政治の場に立てないように仕向けておきたいので」


 「フィーネさま……」


 彼女の言葉を聞いた私は絶望する。


 「どうしました、ナイさま。深刻な顔をなさって」


 「自分に自分の魔術を施せるんですね。羨ましいです」


 本当に羨ましい。私も自分の魔術が自分に効くなら、できることが増えて剣とか振り回せるのに。


 「あれ、ナイさまは無理でしたっけ?」


 フィーネさまが私を見ながらこてんと可愛らしく首を傾げた。そういえば私の魔術は自分には効かないと伝えていなかった。彼女と少し話して、何故か私がフィーネさまに強化魔術を施すことになる。どうやら私の魔術を受けてみたかったようで、フィーネさまは興味津々ながらも私が魔力を練るとはっとした顔をする。


 「か、加減をお願いしますね!?」


 「大丈夫です。私が加減を知らないなら治癒院で治癒を施した方々に異常が出ているはずですから」


 流石にフィーネさまが爆発四散するような事態にはならないので安心して欲しい。感情が高ぶっていれば魔力操作が怪しくなるけれど、今は平常心を保っているのだから。そもそも黒衣の枢機卿さまには今回の責任をきっちりと果たして貰わなければいけないので、私の強化魔術を受けたフィーネさまによって黒衣の枢機卿さまがどうこうなるのは避けたいし。


 「それもそうでした。疑ってごめんなさい」


 「では失礼して」


 とまあ、私はフィーネさまに強化魔術を施すのであった。討伐遠征に参加しなくなったので、強化魔術を誰かに施すのは久しぶりだ。まかり間違ってフィーネさまが筋肉ゴリラになったら面白いが、エーリヒさまの千年の恋が冷めそうである。妙な想像は止めようと首を振って幻想を打ち払う。


 「せっかくなら商業地区を抜けるまで私も歩いて行きます。その方が噂の広まり方が早くなるでしょうから」


 教会から貴族街までの距離はそう長くない。ただ人の往来は多いので目立つはずである。

 

 「ナイさまのお気持ちは嬉しいのですが、危なくありませんか?」


 「警備には護衛の方がいますし、ヴァナルたちもいれば問題は随分と少なくなります。あと大聖女フィーネさまとアストライアー侯爵家の仲は悪くないという喧伝も兼ねましょう」


 フィーネさまが警備の問題を指摘しているものの、ジークとリンがいるし、影の中にいるヴァナルたちにお願いして外を歩いて貰えば牽制になる。微妙な顔をしているエーリヒさまを差し置いて、フィーネさまと私はそうしようと決める。

 ジークとリンは呆れながらも好きにすれば良いという雰囲気だし、ソフィーアさまとセレスティアさまも止める気はないようだ。お供で付いてきた方々を歩かせてしまうけれど、少し私たちの我が儘にお付き合い頂きたい。


 「じゃあ行きましょうか」


 黒衣の枢機卿さまの護衛と大聖女ウルスラさまは馬車に乗り私たちとは別に移動する。監視が付いているし、他国なので聖王国のようには振舞えない。それにウルスラさまは女性と話した甲斐があったのか、凄く考え込んでいるようなのだ。フィーネさまも聖王国で彼女を説得していたようだし、その効果が表れているのかもしれなかった。


 「おお、軽いです! アガレス帝国のことが懐かしいですねえ」


 フィーネさま……黒衣の枢機卿さまに随分とストレスを感じていたのか表情が凄く明るい。聖王国に戻れば日和見主義な同派閥の方々にも、なにかしらアクションをしなければならないので大変だろう。私も協力できれば良いけれど、大聖堂の破壊くらいしか思いつかないので黙っていた方がフィーネさまのためになりそうである。


 「あの時の私は二人引き摺っていましたが、今のフィーネさまの方が絵面が酷いような?」


 私はフィーネさまを見ながら肩を竦める。まだ二十歳にもなっていない女性が中年男性を引き摺っているのである。時が時ならばSMプレイと勘違いされそうだが、そういえばこの世界にSMの概念はあるのだろうか。一瞬ソフィーアさまとセレスティアさまに聞いてみようかと考えたが、なんだそれと言われるのがオチのような気がして止めた。


 「ナイさま。今もあの時もあまり変わらないかと……」


 懐かしいですねえとフィーネさまと私が話していると商業地区を抜けて貴族街に入った。そうして前を向くと少し離れた位置に大きな馬車が見えてくる。お貴族さま用の馬車ではなく、護送用の檻の馬車だった。


 「お迎えでしょうか?」


 「しかし要請は出していないのですが」


 フィーネさまの問いに私が答える。もしかして誰かが気を利かせてアルバトロス上層部に連絡を入れてくれたのだろうか。ジークとリンにソフィーアさまとセレスティアさまの顔を見ると、みんな首を横に振る。そしてエーリヒさまを私が見れば彼が苦笑いを浮かべて答えてくれた。


 「俺がお願いしておきました。丁度良いタイミングで良かったです」


 どうやら気を利かせてエーリヒさまが護送車を用意してくれたようである。私たちの側で止まった護送用の馬車に黒衣の枢機卿さまを放り込んで、馬車に乗り込みアルバトロス城を目指すのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神さまが現れたと腰を抜かし、その神さまが消えていったとアワアワしているカルヴァインさま。いつまでもその純粋さを保っていてほしいです。 エーリヒくんいいタイミングで護送車を手配できましたよ…
[良い点] 更新ありがとうございます。 フィーネさまが、ナイさんの強化魔術で〝筋肉ゴリラ〟な外見に変化しなかったこと。〝面白い〟と考えただけで止めて変化しなかったのでヨシ! エーリヒくんの愛を試す……
[一言] そういやナイナチュラルに無詠唱なってるんだよなあ(今更
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