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1003/1373

1003:お出迎えはばっちり。

 さあ、これから黒衣の枢機卿さまと大聖女ウルスラをお迎えだと私が気合を入れていれば、ぞろぞろと他のお迎えメンバーが転移魔術陣が施されている部屋に姿を現す。てっきり私と外務卿さまが対応するのだろうと考えていたのに、姿を見せた方々は良い顔をして笑っていた。私は隣に立っている外務卿さまに視線で『少し失礼を』と訴えて半歩前に出る。


 「どうして皆さまが?」


 私が小さく首を傾げると部屋に入ってきた方々が私を見下ろした。男性陣ばかりだから仕方ないけれど、みんな背が高すぎる。


 「アルバトロス王国の侯爵位持ちを小馬鹿にされたからな。ナイの後ろ盾であるワシが出てきても問題あるまい。それに向こうも保護者同伴だからな。我らもそうしただけだ」


 くくくと喉を鳴らしそうな勢いでハイゼンベルグ公爵さまが、生やしている髭に片手を伸ばして撫でながら教えてくれる。もう片方には二年ほど前に私が贈ったドワーフ職人さん制作の杖を持っていた。

 あー……なんだか戦闘モードに入ってませんかねえと公爵さまを目を細めながら見ると、私の内心は彼にバレバレなのか『ふ』と軽く笑われた。まあ、陛下に迷惑が掛からなければ良いかと、一番事態を面白おかしくしそうな人物から視線を離しもう一人の保護者の方へ視線を合わせた。


 「そうですね。アストライアー侯爵に向けた行動は貴族として許せるものではないかと。我が娘から直接話を聞いております。少しばかり威圧を掛けても構わないでしょう」

 

 ヴァイセンベルク辺境伯さまがにこりと笑う。彼もまた私の後ろ盾なので公爵さまの言い分を信じるならば、今この場にいることは当然である。私が黒衣の枢機卿さまに失礼な扱いを受けたことをいたく気にしてくれている。有難いけれど、辺境伯さまも公爵さま並に独特の雰囲気を纏っている方なので、黒衣の枢機卿さまと大聖女ウルスラさまがビビり散らさないかなと心配になってきた。

 

 「今回の護衛は強面の者を集めておいた。ついでに近衛騎士にも強面の物を選出して欲しいと頼んでおいたが……悪くないな」


 「私もガタイが良く視線の鋭い者を選んでおきましたよ。聖王国教会の護衛の方には申し訳ありませんが、実戦経験などないでしょうし」


 公爵さまと辺境伯さまがお互いに視線を合わせて、はははと笑っている。外務卿さまと私はお二人とも今の状況を楽しんでいると微妙な顔になるのだった。しばし時間まで集まったメンバーで雑談を交わす。

 外務部の方々もお迎えのために同席しているのだが、エーリヒさまがいないというのが少し慣れない。お仕事の最中はエーリヒさまが引っ張り出されていろいろと立ち回ってくれていたのだが、彼は今大空の上である。楽しい空の旅になっていると良いなと思いを馳せていると、公爵さまのこつんと杖を床に軽く突いた音ではっとした。


 「さて、そろそろ時間かね」


 「はい。魔術陣にそろそろ反応がみられるはずです。魔術陣が光ればアストライアー侯爵閣下、よろしくお願いしたしますね」


 公爵さまの疑問に外務卿さまが答える。そろそろ指定の時間となっているので、魔術陣になにかしら反応があるはずだ。今まで転移をする側になることが多く、迎え入れる側に立つのは珍しい。


 「承知致しました」


 外務卿さまに返事を返して失敗しないように慎重にと私自身に言い聞かせる。あれ、侯爵位を持っているのだから、転移の受け入れは副団長さま辺りに任せて私は横で見守っているのが本来ではと疑問がふと頭に過った。

 でもまあ待っている間は暇だし、受け入れ作業が凄く繊細というわけでもない。適材適所かと納得して、転移陣が反応するのを待っていた。

 

 指定の時間から五分が過ぎている。時間にルーズな世界であるが、心象を良くするならば時間ぴったりに行動を起こす方が良い。前世日本人の感覚からすると五分前行動を基本としたいものの、待ち合わせの時間には丁度の時間に向かうか少し遅れてが普通なのである。


 とはいえ、今日は政治の場だ。個人的なことではなく国同士の約束事なので時間通りに行動するのがベストだろう。もしかして黒衣の枢機卿さまは聖職者なのに、少し遅れてくるのが美徳であると考えているのだろうか。

 フィーネさまが彼に同行していれば、移動の催促を促しているか顔を真っ青にしている所だろう。彼女は絶賛引き籠もり中であり、一芝居を打ったことから聖王国上層部では『大聖女ウルスラさまの誕生に耐えられずご乱心!?』となっているけれど……。

 

 「……ふ」


 「…………」


 公爵さまと辺境伯さまの口の端が伸びていた。護衛の皆さまも悪い顔になっているので、腹の中では良く思っていないようだ。ソフィーアさまとセレスティアさまも無言で覇気を出しているし、ジークとリンも私の後ろでむっとしている。私は黒衣の枢機卿さまの行動が後々彼の処分に響いてくるだろうと分かるから、なにも言うつもりはない。更に二分、三分と過ぎてようやく転移陣に光が灯った。


 「あ……起動しましたね。では繋げます」


 転移陣に私の魔力を流して、こちら側への誘導を促す。受け入れ側の反応がなければ転移が失敗となるため、必ず双方が揃った場でないと無駄な行為になるのだ。繋がった魔力の雰囲気は大聖女ウルスラさまのものだろう。お互いの魔力の相性が関係するため、受け入れ時間が長くなってしまうことがあるのだが今日はすんなりと済みそうだった。


 転移陣の上に聖王国の黒衣の枢機卿さまご一行が姿を現す。


 「…………っ」


 私は黒衣の枢機卿さまご一行の中にいる当人に真っ先に視線が向いたのだが、声を上げるのを我慢した私を褒めて欲しい。二週間前に会った彼より衣装に豪華さが増していた。更に指に嵌めている指輪の青い石の大きさも一回り大きくなっているのだが……やばい、この姿をカルヴァインさまが見れば卒倒するのではなかろうか。

 聖職者なのに欲に塗れてしまっていると……ちょっとアルバトロス王国の教会に案内するのが億劫になってきたと息を吐いて気持ちを入れ替える。ちなみに大聖女ウルスラさまはフィーネさまの衣装より控えめなものを纏っていた。


 「ようこそ。アルバトロス王国へ」


 ご一行さまの迎え入れの代表は私の役目となっているので、第一声は私が上げさせてもらった。ただ今回は頭も目線も下げていない。


 「出迎えご苦労だ。アストライアー侯爵」


 黒衣の枢機卿さまに私は顔を見上げるとふふんと笑い彼は私を見下ろす。私の身長が低くていつも伸びて欲しいと願っているけれど、嫌な方に見下ろされる不快感は嫌なので、一瞬でも身長を伸ばしてくれないだろうか。


 黒衣の枢機卿さまとは言葉は交わさず、大聖女ウルスラさまへと視線を向けた。フィーネさまは彼女のことを凄く心配していた。とりあえず経験を積んで欲しいからアルバトロス王国に向かい、教会を見学するのも良い機会だろうと手紙に記されていたのだ。

 しかし彼女にとって黒衣の枢機卿さまは孤児院で慣れない生活を送っていた所に手を差し伸べた恩人という立ち位置だから、裏切るとか見捨てるという選択が思い浮かばないらしい。


 「大聖女ウルスラさま、アルバトロス王国へようこそ。聖王国大聖堂の活動とアルバトロス教会の聖女の違いを感じ取って頂ければ幸いです」


 「はい。よろしくお願い致します!」


 私の言葉に大聖女ウルスラさまが頭を下げる。身長は彼女の方が私より高いので見た目年齢がちぐはぐになっているが、彼女は私の三歳年下である。まだまだ大変だろうし、彼女の後ろ盾が黒衣の枢機卿なのできちんとした教育を受けているのか心配である。

 私も私で教会と王国の都合により魔力制御や魔術についてきちんと教わっていなかった。私の場合は自覚していたので構わないが、彼女はそれすら気付いていない。まだまだ伸び代があるならば、優秀な聖女さまになれるだろうと私は目を細めた。


 「此度はよろしくお願い致します。時間も押していますし、さっそく教会へ移動致しましょう」


 私は彼に嫌味を放つ。気付いてくれているか分からないが、ちくりと皮肉を伝えるくらいは許されるはずだ。


 「あ……お時間に遅れてしまったこと申し訳ありません。慣れない転移で少し手間取ってしまいました」


 私の皮肉に気付いてくれたのは黒衣の枢機卿さまではなく、大聖女ウルスラさまだった。彼女は私に深々と頭を下げるので私は顔をお上げくださいと伝えて言葉を続ける。


 「なるほど、遅れてしまった事情はそういうことでしたか。大量の魔力放出に慣れないと難しいですからね」


 いや、大聖女ウルスラさまが謝ることではないはずだ。初手で黒衣の枢機卿さまが出迎えご苦労と抑揚に告げるより、先に謝っておけば不問になる話を怠っただけなのだから。事情は理解したとフォローを入れていると、半歩前に黒衣の枢機卿さまが歩み出た。


 「すまないね、アストライアー侯爵。彼女の不手際を許して欲しい」


 あんたが請うことじゃねーよ、と言いたいのをぐっとこらえる。公爵さまと辺境伯さまは目の前の男性の小者っぷりを理解してか、興味を失って私に任せるという視線を向けてきた。


 あれ、保護者じゃなかったのですかと問いたいが、お二人がいなくとも問題なく外交は進められるので構わないか。嫌味には嫌味を、皮肉には皮肉で返していこうと決めて私は公爵さま方と別れて彼らを城の馬車回りへと案内する。

 公式訪問となっているので、本来ならば歓迎セレモニーが開かれる。近衛騎士団の儀仗隊が整列して、賓客を迎え入れるのだが彼は気付いていない。聖王国に赴いた高貴な方としか接することしかないので、外交慣れしていないなというのが素直な私の感想だった。


 王城から三十分ほどの道のりを経て、アルバトロス王国王都の商業地区の一角にある教会に辿り着く。教会の大扉の前には教会関係者と枢機卿さま三名が揃って出迎えてくれる。

 シスターたちも揃っているし、神父さまもいらっしゃった。その中にはもちろんアリアさまとロザリンデさまもいる。新しい聖女の衣装が似合っていて、とても良きと眺めていると彼女たちの後ろには事務方の人まで出張って歓迎ムードを醸し出していた。


 ジークのエスコートを受けて私は馬車から降りると、黒衣の枢機卿さまと大聖女ウルスラさまも馬車から降りていた。

 教会の周囲は厳戒態勢となっているので王都の皆さまは驚いているが、高貴な方が教会に訪れているのだなと直ぐに納得している。そうしてカルヴァインさまが代表して黒衣の枢機卿さまと大聖女ウルスラさまの前に出るのだった。


 「ようこそアルバトロス王国教会へ」


 「カルヴァイン枢機卿、此度は我々を受け入れて頂き感謝する。アルバトロス王国の聖女は質が高いと聞き、一度は訪れたいと願っていたんだ。私の望みが女神さまに聞き届けられて嬉しいよ」


 カルヴァインさまが差し出した手を黒衣の枢機卿さまも手を差し出して握り返す。一応、アルバトロス教会の代表者を無下にしない意思を持ち合わせていたのかと感心していると、握手を解いたカルヴァインさまは大聖女ウルスラさまにも挨拶をしていた。二人のやり取りは普通に終わり、カルヴァインさまが片手を動かして教会の大扉を指す。


 「それはようございます。今日この日の出会いは女神さまの思し召しなのでしょうね。では中へ案内致しましょう」


 カルヴァインさまの声で集まった教会関係者が聖堂の中へと入って行く。さて、これから治癒院を開く予定だが、彼は大人しく見学していられるかなと私は苦笑いを浮かべるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 黒衣のオッサンご一行のお出迎えに、公爵閣下と辺境伯閣下がベストメンバーの強面イケオジを揃えてくださったこと。 無事に大空へ飛び立ったエーリヒくん。白(天)馬の王子様(騎士)になれていると…
[良い点] 祝!1000話超え  \/┏┻┓ \/  ゛♪┃お┃゛。 # 。┃め┃☆。゛ 。+°☆┃で┃。+° ,*。┃と┃゜。♪ ♪゜。┃う┃゜*。    ┗┯┛  ∧∧ ♪ (*´∀`)  …
[一言] 自分の行動は女神の意思だとも受け取れる挨拶だなあ。
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