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1000:再びのびゃぁあああ。

 ――ウルスラが私の部屋を訪ねてから十五分ほどの時間が経っている。


 凄く短い時間だけれど、私と彼女が話した内容は凄く濃いものだろう。ウルスラに就いている護衛が『そろそろお時間が……』と彼女の側で呟いているので、私と彼女に残された時間は殆どないと知る。

 ならば彼女が訪れた真相を聞いてみよう。私が彼女に聞きたかったことや彼女の昔を知ることができたので、私の目的は達成している。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんのお陰だなと、まだウルスラの側に控えている彼らに感謝の視線を送った。すると彼らは数度尻尾を振って無言で答えてくれるのだった。ウルスラもヴァナルたちと話してから少し落ち着いた様子を見せている。――さて。


 「ウルスラ、貴女が部屋(ここ)を訪ねてきたのは私の体調が気になったのもあるのでしょうが、もっと別のことを伝えたかったのではありませんか?」


 私はウルスラに問い掛ける。彼女の本音を聞き出せたけれど、まだ問題が残っているような雰囲気を抱えているような気がするのだ。上手く言えないが、大聖堂の告解室で懺悔をしている方がまだ隠し事をしているような感じに似ているのだ。告解は自身の罪を神さまに許しを請う場所なので少し違うけれど、今のウルスラは私になにか言い辛いことを隠している。


 「……言い辛いのですが、彼にお願いされたことが引っ掛かっています」


 「それは?」


 私は少し首を傾げてウルスラが告げやすいようにと誘導した。告解室では信者さんの顔は見えないけれど、私の癖なのかこうして問う時は良く首を傾げているような。目の前の彼女は口にするのを迷っているのか、少し目を閉じてなにか考えている。急かすのは無粋だろうと私は彼女の言葉を待つ。そして。


 「私の名を使ってアルバトロスの教会に赴きたいと彼が仰ったんです。そしてアルバトロス王国の聖女さま方と力比べをしようと。私は大聖堂に訪れる方への治癒がありますし、他の聖女さまと力比べをしてなにになるのでしょうか?」


 ウルスラは力比べをしてなにになるのだろうかと疑問に感じているようだ。治癒術のみならず、魔術全般は個人の能力に左右されるから彼女の言う通り、力比べをしても意味は小さいだろう。

 魔術師同士ならば己の力を誇示するために有益なのだろうが、聖女である私たちが術の効果を競っても意味は薄い。せめて技術を高めるための話し合いや実演であれば、有意義な時間となるだろう。確かにウルスラの力は凄いけれど、彼女の言う通りアルバトロス王国の教会に赴いて、そしてアルバトロス王国所属の聖女さまたちと力比べをしても『ふーん。で?』と終わってしまいそうだった。


 「……彼は本気で言っているのですか?」


 しかし黒衣の枢機卿の偉大な野望には肩を落としそうになってしまう。これ、ナイさまとウルスラに協力して頂いて彼の野望を粉々に打ち砕いてしまっても良いのではなかろうか。その方がウルスラの未来は明るいし、ひいては聖王国の未来にも繋がる。聖王国は三年前の危機的状況から脱したけれど、生命維持装置がようやく外れて自発呼吸をし始めたばかりの回復途中なのだから。


 「はい、おそらくは。でも、それって良いことなのでしょうか? 私は政治的な判断は難しくて今はできません。今までずっと彼の言葉を信じて聖女の道を歩んできましたが、私は聖王国の聖女であってアルバトロス王国の聖女さまではないので……」


 ウルスラが言葉を続け、アルバトロス王国の聖女さまたちがどんな方々なのか分からないし、唯一彼女が会ったアルバトロスの聖女さまはナイさまである。規格外であるナイさまをアルバトロス王国の聖女さまの標準と、勘違いして欲しくないので私は口を開く。

 

 「聖王国の聖女は信仰の象徴的な意味合いが強いのは分かるかしら?」


 「?」


 私が言葉を放つとウルスラは疑問符を頭の上にデカデカと掲げている。そうか。ウルスラは聖王国の外に出たことがないし、他国の情報も与えられていないようだ。

 これは本当にアルバトロス王国とアルバトロス王国教会とナイさまにお願いして他国の聖女というものを彼女に知って貰う良い機会だろうか。許可が下りるか分からないけれど、黒衣の枢機卿の身柄を差し出せばハイゼンベルク公爵さま辺りはノリノリで『来い!』と良い顔で言ってくれそうである。

 

 「私も人のことは言えないけれど、ウルスラは外のことも聖王国の内情も知って考える力を身に着けた方が良いのかもしれないわね」


 ウルスラはまだ若いから、たくさん勉強して知識を得て考える力を上げて、いろいろな方と交わって世界は広いということを知って欲しい。


 「ねえ、ウルスラは聖王国のことをどう考えているの?」


 「良く分かりません。ですが私を助けてくださった方がいます。私が病気を治して、何年も私を慕ってお礼を告げてくれる方がいます。なんの取り柄のない私が唯一持っているものが『治癒』です。それを教えてくださったのは大聖堂の皆さまで感謝しています」


 彼女の口から出た言葉は恨み節ではなく感謝の気持ちだった。聖王国を愛している、なんて大袈裟な言葉は期待していないし、そもそも聖王国を愛しているなんて大仰な言葉を告げられれば私は困る。私も聖王国を愛しているかと言えば微妙だ。けれど聖王国にいる人たちや一緒に過ごしている方たちは大事な存在である。


 「分かりました。ウルスラの最初の質問に戻ります。他の聖女さまと力比べをしても意味は薄いです。治癒は……もとより魔術は個人の能力や才能に大きく左右されてしまいます。治癒に関しては個々人ができる範囲でやるべきことをやれば、それで良いと私は考えています」


 私はウルスラと確りと目を合わせて言葉を紡ぐ。ウルスラは頑張り過ぎるきらいがあるので、もう少し力を抑えて加減を覚えて欲しいが、彼女の過去を考えると難しいのかもしれない。

 社会経験を積めばマシになるだろうか。でも大聖女の地位に就いてしまった彼女が聖王国から出るのは難しい。あれ、私、大聖女なのにアルバトロス王国の王立学院に留学していた……彼女も勉強のために他国に渡ることができるだろうか。それは先任である私の動き次第かもしれないと片眉を上げる。


 「やはり、そうですよね。他の聖女さま方を見てずっと考えていたのです。力の差は確実にあるものですが、誰かを助けたいと思う気持ちに違いはないのだろう、と」


 ウルスラが胸を撫で下ろしている。黒衣の枢機卿は彼女になにを吹き込んだのだろうか。とりあえず彼女の疑問が解消したので良かったけれど、他の問題が山積みだ。


 「彼はウルスラの力を使ってアストライアー侯爵閣下に勝ちたいようですが、政治的に勝つことは絶対に無理だと断言いたしましょう」


 私はナイさまが起こした奇跡の数々を彼女に伝える。端折っているところもあるけれど、大体伝われば良い。北大陸の更に北にある神さまの島のことは言えなかったけれど、ナイさまと対峙するなら出会う可能性は十分にある。その時にウルスラと黒衣の枢機卿は平常心を保っていられるのだろうか。私は全く自信がない。


 「自身の力で成し遂げていないものを誇ってなにになりましょうか。そして、それは力を行使したウルスラが誇るべきものであり、行使した力の対価もウルスラが得なければならないでしょう」


 私の言葉にウルスラはまだ疑問符を頭の上に浮かべている。本当に黒衣の枢機卿はなにをしていたと怒りに任せて叫びたくなるけれど、私はぐっと堪えた。


 「ウルスラ。もし貴女がアルバトロス王国並びにアルバトロス王国の教会へ行くことになったなら、それは良い機会でしょう。アルバトロス王国の聖女さまと力比べをする意味は全くありませんが、アルバトロス王国と教会が定めている聖女の意味を肌で感じ取ってきてください。きっと貴女にとって悪いことにはならないでしょうから」


 きちんと理解できるなら、ウルスラが飛躍できるきっかけになろうだろう。私はそのために根回しを頑張らないと。私が所属する派閥と黒衣の枢機卿の派閥がどうなろうと知ったことではないが、聖王国とウルスラの未来は守らなければ。そして幼少期のウルスラが抱えたトラウマを少しでも軽くすることができればと願う。


 「さて、長話はここで終わりのようですね。護衛のお二方、今のことは他言無用と言いたいですが、職務上それは無理だと理解しております。ですが、聖王国と貴方方が仕えるウルスラのことを憂うのであれば、報告に上げる内容は吟味されることを願います」


 私がウルスラ付きの護衛の方を言葉で脅せば、雪さんたちが魔力を放って物理で脅している。ヴァナルは『やり過ぎ良くない』と言いたそうだけれど、黙って雪さんたちを見ているだけだった。

 ウルスラは突然部屋の中の魔力の密度が上がったことに驚いているけれど、雪さんたちと話していたことが奏したのか護衛の方より落ち着いている。おそらくウルスラと護衛二人が持つ魔力量の差も関係しているだろうけれど。

 

 「大聖女フィーネさま、お話ありがとうございました。体調も悪くないようで安心しました。しかし――」


 彼女が私の部屋を出れば私の様子を聞き出す方が沢山いるだろうと困り顔になる。確かに一週間以上部屋に籠っているから、私の様子は気になるのだろう。アリサも先々々代の教皇さまも最小限の接触に留めているし、側仕えや侍女の方は完全シャットアウトしている。さて、どうしようかと私は悩む。ウルスラを困らせる気はなく、ウルスラの地位を落とすつもりもない。それならば、と私は大きく息を吸う。


 「大聖女ウルスラ! 今直ぐ私の部屋から出ていきなさい!! 私は貴方に大聖女の立場を奪われてしまった! 治癒もウルスラより下手糞だもの仕方ないわね!!」


 私が突然上げた大声にウルスラと護衛の二人は驚いているけれど、私がウインクをウルスラに向けると意味を理解したのか、ソファーから立ち上がり部屋の扉へと歩いて行く。


 「良かったじゃない! 貴女はこの先、聖王国の大聖女として栄光の道を歩いていくんだわ!」


 更に私が声を上げると、ウルスラがやり過ぎではという顔になる。今の世情では精神的な乱心を披露すれば、重篤な病気と判断されてかなり白い目で見られる。

 私はワザと演じているので痛くも痒くもないのだが、私の実家であるミュラー家の人たちに多大な迷惑が掛かる可能性があった。でも、まあ……実家対聖王国とウルスラの未来を天秤に掛けたなら、後者の方が重いのは確実だ。

 

 「びゃぁあああああああああああ!!」


 と、私はアガレス帝国の皇宮で聞いたナイさまの叫び声を真似た。ヴァナルと雪さんたちがぺこんと耳を倒して塞いているのが、私の視界の端に映る。完全再現できているか分からないけれど、私は開錠魔術を施して驚いているウルスラたちを笑顔で見送るのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1000エピソード到達、書籍版3巻発売予定、おめでとうございます。 更新再開、ありがとうございます。 [気になる点] 聖王国には、悲鳴を叫ぶニンジンさんの鳴き声を、聴いた人はいないと思われ…
[一言] ウルスラ様の力。。。。下手するとご自身の生命削ってる可能性あるのがアレなんですよね。。。。 そんなのを、『便利な道具』扱いしてられる脳みそのやつから離してやりたいってのは 姉的な感情ですよ…
[気になる点] 完全シャットダウン 意味としてはどちらかというとシャットアウトでは? [一言] 3巻おめでとうございます\(^o^)/ そしておかえりなさい〜
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