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0010:クラス編成。

2022.03.04投稿 3/3回目

 ――入学式、当日。


 一ヶ月なんてあっという間に過ぎていった。学院の正門すぐ横では桜のような木の花が咲き乱れ、花を散らして地面を桃色へ変えている。慣れない真新しい制服に身を包み、学院がここまで通学する為に用意している乗合馬車に乗り込んで、ジークとリンそして私は王城近くの学院までやってきた。


 「生徒、結構居るんだね」


 大門の横にある守衛所に目をやれば、騎士の姿。お貴族さまが通う学院だから、警備員もきちんと配置されているみたいだった。


 「ほとんどお貴族さまだけどな」


 ジークの言葉通り、この学院に通う生徒のほとんどは貴族の子女である。民間にも門戸が広がったとはいえ、その門は狭い。

 騎士科や魔術科は学科の特性上、貴族と平民の割合が逆転するけれど、お貴族さまの方が幅を利かせるのは自明の理。学院の騎士科出身だった教会騎士の人から聞いた話であるが、その鬱憤はそのうち始まる試合で晴らすのだとか。


 学院の敷地内に馬車は緊急時以外は入れない決まりなので校門前が渋滞してたことに驚いたし、それを見届けるそれぞれの家の使用人の数にも驚いた。使用人を侍らしてその数を競い合っている学院生がいるそうで、私たち三人は冷ややかな目でその横を通り過ぎてきた。


 「兄さん、ナイ……あっちにクラス編成と今日の予定が張り出されてるから、先に見ておけって」


 案内役の教師から聞いたのかリンが掲示板の方を指差した。


 「行くか」


 「ん」


 人だかりが出来ている方へと三人で歩いていき、前が捌けるまで待っていた時だった。


 「邪魔だ、どけっ!」


 「っ」


 待っていた私に新入生男子の腕がぶつかると、私の顔を睨みつけて文句を言われた。元気が有り余っているなあと目を細め、私の横に立つジークとリンの気配が一変したことで、少し頭に昇った血が急激に元に戻る。


 「申し訳ありません、次から気を付けますのでお許しいただけますでしょうか?」


 悪いのは向こうだけれど、私は平民であるので無用な争いをしても負けてしまうのがオチだし、下手をすれば不敬だと言われて首と体がお別れしてしまうこともある。なので、無難に頭を下げ謝罪の言葉を紡ぐと、かなり嫌そうな顔と舌打ちをされたのだけれど、これ以上は不味いと思ったのだろう。


 「っ、――ぼけっとするな、チビっ! くっそっ!!」


 捨て台詞を吐いて、掲示板の前へと進んでいくのだった。先程の彼は爵位が高い家出身なのだろうか。まあ高位貴族の子女ならば顔を覚えているはずだし、彼らの記憶の中に私の顔はなかったと判断してああいう言葉と悪態をついたのだろう。

 寄り親や寄り子、敵対している家。成人前とはいえ貴族の皆さまはこういうことを気にして生きていかなければならないし、嫡子となれない男子は自力で就職先を探したりどこかに婿入りしなければならないのだから大変である。楽しく馬鹿ができるのは学院生までだろうし、羽目を外したい年頃なのかとひとりごちる。


 「いいのか、ナイ」


 「いいもなにも、逆らっても意味ないし波風立てない方が余計な恨みを買わないで済むよ。それにどこの家の人か分からないからね」


 面子を大事にする貴族だ。平民に言い負かされたなんて噂は不名誉だろうし、どんな人かも分からないから。

 横の繋がり縦の繋がり下の繋がり、どこで何が繋がっているのかなんて不勉強だから分からない。彼を貶めようという人がいれば、女子生徒に無理矢理に難癖を付け罵倒し、貴族の品位を落としているとでも噂を流されるとすれば彼のほうだ。


 高位貴族の出身者くらい覚えておけと公爵さまから言われ、姿絵入りの貴族名鑑が送られてきたのである程度覚えてる。

 ただ、先程の彼に既視感がなかったので、伯爵家以下の出身だろうなと当たりをつけたけれど、貴族から売られた喧嘩は買わない方が無難だ。公爵さまの後ろ盾があるとはいえ、迷惑を掛ける訳にもいかないし。子供同士の喧嘩で親を出すようなものだから、恰好悪いし。


 「それに他の人も同じような目にあうだろうし、我慢するしかないよ」


 ムキになって言い返していたら、相手も意固地になりそうだもの。平身低頭、ことなかれ主義。ああ素晴らしきかな日本人であった会社員時代の教訓よ。セクハラ、パワハラを受けた訳でもないし、あれくらいならば可愛いものだ。

 

 「……」


 「そう怒らないでよ。それにジークやリンにも降りかかることもあるんだから、絶対に何か言ったり手を出しちゃ駄目だよ」


 「わかってはいるが……」


 「不条理だよねえ。でもこれが今の現状だからね。変えたいっていうなら革命起こして平民の中から代表者を選出するようにしなきゃ変わらないと思うよ」


 「っ!」


 「?」


 民主化なんて夢のまた夢か、何百年もかかってしまうかだろうな、この感じなら。ジークはハッとした顔をし、リンは意味が分かっていないようだった。少々危険な発言だったかなあと、周囲を見渡すけれど私たちを気にしている人はいなかったので大丈夫だろう。


 「順番きたよ」


 「……ああ」

 

 割り込まれてしまった分、少々遅くなってしまったけれど順番になったのでようやくクラス編成を確認できる。

 

 「――兄さんと私は同じクラスだね」


 騎士科は二クラス、魔術科一クラス、普通科三クラス、特進科一クラスというのがこの学院の一学年の学科編成である。さて私は普通科のどのクラスかなと、張り出された紙を左から右へと視線を動かして確認していく。


 「は?」


 「ん?」


 「?」


 普通科の編成が書かれた紙の最後に『右記二名は筆記試験の結果を考慮し、特進科へ転科とする』と書かれた場所に私の名前が載っていたのだった。


 「意味が分かんない、なんで……?」


 「だが、書かれてることは事実だろう」

 

 「すごいよ、ナイっ!」


 無邪気に喜んでくれるリンには悪いけれど『特進科』は貴族の子女で成績優秀者のみの編成と聞いていたので、二人も普通科から転科しているのか意味不明である。しかも普通科よりも勉学の内容が難しくなるので、大変になるのは確実だ。さらに授業で周辺国の言語を習得しなければならない。

 貴族の子女ならば、入学前にある程度知識を身に付けているだろうけれど、私はゼロからのスタートになるので不利極まりないのだけれど。人間関係は期待していない。貴族の、しかも雲の上の人たちと仲良くなれることはないだろう。彼らは彼らの付き合いがあるのだし。


 「え、嘘っ! 私が特進科にっ!?」


 どうやら私の隣に居たお嬢さんが、もう一人の特進科に転科となった生徒の一人のようだ。随分と可愛らしい子だなあと、一緒のクラスになる人がどんな人なのか横目で見ていた。

 緩くウェーブの掛かったピンクブロンドの長い髪に若草色の瞳に少し涙を浮かべ、胸の前で両手を組み無邪気に喜んでいるけれど、私はこれからの事を考えると彼女と一緒の気持ちになる事はなかった。


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