第八話 天国か地獄か
アリスが、待っている。
その扉を開けた先の、世界で。
この今まで普通に生きてきた、まだ二十歳にもならない僕を必要とする人がいる。
そう言うと何だか大げさに聞こえるけど、ありすさんは大真面目に言った。
冗談だと信じたいが、もう現実逃避している暇はなさそうだ。
目の前で扉を一向に開けようとしない僕のことを、シュヴァルツさんが静かに睨んでいる。
そんな気がする。
いや・・・・・・気がするだけだと信じたいけど。
でも僕がここで行かなければ、童話の世界と僕らの世界は崩壊する。
つまり僕を含めて、たくさんの人が命を奪われて死んで、そして消えていく。
もちろん世界ごと壊れる訳だから、別に良いのかもしれない。
だけど僕はそんなのを、見捨てるわけにはいかない。
さすがに僕も消えてしまうわけだし、自分のせいで世界を壊すのは嫌だ。
・・・・・・だから。
気が乗らないとはいえ、僕はしょうがなく扉を開けることにする。
すぐにこっちに戻れないかもしれないけど、僕に残された選択肢は一つだけだ。
選ばなければならない。
いくら選びたくないんだとしても。
「・・・まだ、決まらないの?」
少し疲れたような声で、シュヴァルツさんが呟いた。
どうやらシュヴァルツさんはどちらかというと、気が短いらしい。
性格とは逆なのだろうか。
ってことは、きっとヴァイスさんの方が気が長いのかもしれない。
あの人は絶対に待ち合わせとかに遅れてきそうな人に、見えるけど。
「・・・・・・遅すぎる、もう良い・・・・・・実力行使する」
「え、何ですか!?」
シュヴァルツさんは表情一つ変えずに無感情で呟いた。
だけどもしかしたらその無表情の仮面の下に、怒りが隠れているかもしれない。
だけどまだ会ってから間もない僕に、そんなことは分かるはずがない。
ていうか実力行使ってどういうことなんだろう。
「・・・・・・目標を確認、実行する」
その瞬間にシュヴァルツさんが、僕の身体を掴み、扉へと一気に近づけさせる。
かと思うといつのまにシュヴァルツさんが開けたのか口を開いた扉が目の前にあった。
もう何が何だか分からない。
気が付けば、目の前には口を開いた扉。
しかも向こう側は見えなくて、ただ薄い白い光があるだけだった。
「ちょっと待っ・・・・・・うわああああああああ」
ちょっと待ってください、シュヴァルツさん!
そう言おうとしたけど、半分も言わないうちに僕はその光の中へと有無を言わさずに突っ込まされた。
どこに行くかも分からないのに。
天国か地獄か
薄い白い光の向こうは、天国か地獄かどっちなんだろう。
僕には分からないけれど、このさっきからする嫌な予感はきっと当たるだろう。