第五話 向こうの世界
「とりあえず、どこから話すんだ?白雪」
蓮ぴょんに話すことはもう覚悟した。
あの過去だけは、誰にも触れられたくはないけど。
でも、前に進まないといけないのかもしれない。
過去に囚われたままじゃ、前には進めない。
そう誰かに言われた気がする。
「・・・ 童話の世界から」
静かな落ち着いた声音で白雪は呟く。
いつでもこっちの白雪は、落ち着いている。
感情に囚われずに、まるで第三者のように冷静だ。
そこだけは、見習いたいものだな。
「えーと、 童話の世界という世界がある」
「はぁ・・・・・・」
やっぱり世界の名前を言っても、蓮ぴょんは困っている。
そりゃあそうだ。
こんなこといきなり言うなんて、どうかしてる。
だけど説明が下手な俺にはどうすることも出来ない。
だからと言って、白雪に説明させるのも余計話を混乱させる。
しょうがなく俺が話さなきゃいけない。
童話の世界は人間界の隣に位置している。
人間界と 童話の世界はお互いに干渉しあっている。
人間界にある童話というものは全て 童話の世界にある。
童話の世界が出来たわけは、
諸説あるが一番分かりやすいのは、人間が創ったという説だ。
人間達が創る童話が、命を吹き込まれてそして別世界にそれが全て集まったというような。
所詮想像にしか過ぎない、説だけどもな。
童話の世界には、たくさんの国がある。
有名なもので“不思議の国”などだ。
他にもたくさんの国がある。
それらは全て一つの童話と同じ世界だ。
例えば“人魚の国”は、童話人魚姫と全く一緒になっている。
そして、白雪は“小人の国”の主人公。
白く美しい肌で、黒い髪の白雪姫だ。
とは言っても、それはただの役名だけどな。
明るくて馬鹿な方が、表の人格“ヴァイス”
暗くて静かな方が、裏の人格“シュヴァルツ”
そして俺の住んでいた世界 “不思議の国”。
俺は色々あって、役名がそのまんま名前になっているけど。
最後に一つ。
童話の世界は、人間界とは関わることは出来ない。
しかし俺と白雪はこうして関わっている。
それは、それぞれ 童話の世界の住人には能力が備わっている。
俺は“形のないものを壊すだけの能力”。
主に空間、時とかなら壊せる。
そういうものだったら、俺は簡単に壊せる。
だから、俺はこっちの人間界に来れた。
蓮ぴょんの隣にある、誰も使っていない鍵の閉まった部屋。
そこに俺達の世界と人間界を繋ぐ、扉がある。
その扉から俺達の世界へ、行けるようになっている。
白雪もそれを使って、こっちに来たんだ。
あっちに行けば、そういう能力を持った奴らがたくさんいる。
蓮ぴょんも一応 童話の世界の住人らしいから、大丈夫だとは思うけどな。
そこで一旦話を区切る。
きっと色々たくさんのことを詰め込んだせいで、蓮ぴょんが疲れると思ったから。
「・・・・・・終わった?」
「まぁ大体、世界については」
「早く行く」
向こうの世界
さぁここからどうなるかは分からない。
蓮ぴょんを無事に、この人間界に戻させるのが一番の俺の役目。
そのためには、あの忌わしい女とだって戦ってやるよ。