0094:ドワーフ鉱山
ギルド内は緊張のためか静かになっていた。
虎人族と一発触発寸前のところで受付嬢からストップの声が掛かった。
受付嬢はドワーフの女性らしく背が低かった。
『双方そこまでです。これ以上何かすればギルドカードを没収しますよ?』
ちょっと待って欲しい。
双方って・・・ちょっとおかしいだろ?
問題があるのは明らかに虎人族の冒険者達のほうのはずなのに。
『ザライさん! あなた方、【破壊の虎】パーティーの最近の行動は少しやり過ぎですよ。あまり酷いとギルドマスターに報告しますよ?』
本当に少しなのか?
実はやりたい放題になっていないか?
『ちっ、しゃーねぇな。今日のところはギルドの顔を立ててやんよ。小僧、次は無いぞ?』
ザライと呼ばれた虎人族の男は他の4人の虎人族のメンバーと共にギルドを出ていった。
受付嬢がため息をした後に俺達に話し掛けてきた。
『あなた達、気を付けて下さいね。彼らはかなり乱暴なところがある冒険者パーティーなんで・・・』
「えっと、何でそんな連中を野放しにしてるんですか?」
『それなんですが、色々と問題は多いんですが、それでも有力なパーティーなんですよ』
それって役に立つから多少の事は大目に見ているということか。
でもそれが逆に増長させているってことだよな。
『そんな事よりも今日はどんな用事なのでしょうか?』
そんな事って・・・まぁいいか。
「依頼で救援物資を運んで来たんだけど、どうすれば良いですか?」
『ありがとうございます! それではこちらへどうぞ』
受付嬢に案内されてカウンター奥の小部屋に連れていかれ、そこで救援物資を渡した。
「これで依頼は完了ですよね?」
『はい。その通りです。報酬をお渡ししますので少しお待ち下さいね』
「あ、そうだ。ついでに買い取りもお願いします」
ここに来るまでの道中で獲得した魔石やドロップアイテムを取り出した。
それなりの量があった。
『はい、分かりました』
とりあえず、やることは完了した。
あとは報酬を受け取るだけだ。
「査定が終わるまで時間があるから依頼ボードでも見てみるか」
依頼ボードを見てみるとやはりあった。
・鉱山のモンスター討伐
鉱山の奥で大量発生したモンスターの討伐依頼だ。
今回、救援物資の運搬依頼の原因となった依頼でもある。
『レックス、この依頼を受けるのかしら?』
「報酬も悪くないしね。ドワーフ国でマジックアイテムも少し欲しいからね。その資金稼ぎには丁度良いかな」
でも依頼を実施するのは明日だな。
もう夜になろうとしているし。
すると受付カウンターのほうから声が掛かった。
受付カウンターに行くと先ほどの受付嬢がいた。
『レックスさん、お待たせしました。こちらが報酬です』
そう言ってカウンターに置かれたのは大金貨3枚、金貨4枚だった。
「そうだ、鉱山のモンスター討伐依頼ですけど、その依頼を受けたいんですけど」
『ありがとうございます。ではギルドカードを預りますね』
ギルドカードを受付嬢に渡し依頼受付の作業をしてもらい無事に受付が完了し、報酬を受け取りギルドをあとにした。
◇◆◇◆
翌日、早速鉱山に向かった。
都市の1番奥に鉱山の入口があるらしい。
鉱山入口近くに到着すると冒険者の数が多くなってきた。
皆、目的地は同じらしいな。
『ご主人様、やたらテントがありますね』
アイラの言う通り、鉱山の入口付近にテントが無数設置されていた。
すると、鉱山入口が騒がしかった。
『おい、入口を空けてくれ! 怪我人がやって来るぞ!』
鉱山入口から板の上に乗せられた冒険者が運ばれて来た。
そしてテントの中に入っていった。
「なるほど、テントは臨時の治療所なのか」
テントの数を見ると大量の救援物資が必要なのも納得できた。
鉱山入口横に立っていた男に声を掛けた。
「すみません、ギルドで鉱山のモンスター討伐の依頼を受けたんですが中に入っても良いですか?」
『うん? あぁ、ちょっと待ってくれ』
そう言うと男は鉱山入口から奥を確認していた。
『よし、大丈夫そうだな。入っていいぞ。中は薄暗いから気を付けてくれよ』
「分かりました。ありがとうございます」
そう言って鉱山の中に入っていくことにした。
鉱山の中はダンジョンと違って壁を光っていることは無かったがドワーフ達が設置しただろう照明器具があった。
それでも鉱山の中は薄暗い。
ただし真っ暗という訳じゃなかった。
『マスター、生活魔法(光)を使うか?』
「いや、ここで使うと目立ちそうだが止めておこうか」
とりあえず、マッピングスキルを駆使して鉱山の奥のほうへ進んでいった。
鉱山の中はかなり入り組んでいた。
暫くはモンスターの気配も無かったが鉱山の中を進んでいくと次第に冒険者とモンスターが戦闘している音が聞こえてきた。
それも1ヶ所ではなくあちこちで戦闘しているようだった。
「確かに鉱山の奥からモンスターが湧いてきているようだな」
戦闘中と思われる通路を回避しながら鉱山の奥へ進んでいった。
『ご主人様、この先にモンスターがいるようです』
ジーナを先頭に戦闘態勢を整えて先へ進んでいくとアイラの言う通りモンスターがいた。
『マスターよ、あれはミノタウロスなのじゃ』
牛のような顔を持ち、身体は緑色をしたモンスターだ。
しかも巨大な斧を持っていた。
「ミノタウロスは確かランクCモンスターだったよな」
モンスター図鑑にはランクCとなっているが怪力に注意となっていたはずだ。
支援を発動し、ジーナを先頭に迎撃態勢を取った。
『ヴボォォォォォ!!』
俺達の存在に気が付いたミノタウロスが雄叫びを上げながらこちらに向かってきた。
意外にもミノタウロスは素早い。
巨大な斧を振り上げて先頭にいたジーナに向けて斧を振り下ろした。
ジーナは大盾で斧を受け止めたが鈍い金属音と共にジーナが1m程後方に吹き飛ばされた。
『くぅぅぅ、何て馬鹿力なのじゃ!』
ジーナが吹き飛ばされたためミノタウロスと俺達の間に距離が出来たことでサーシャがすかさず魔弓を放った。
『このぉぉ! 喰らぇぇ!』
サーシャの魔弓が全弾命中した。
しかしサーシャの魔弓の矢は1本もミノタウロスには刺さっていない。
『え、う、うそぉ? なんで1本も刺さらないのよ?』
それだけミノタウロスの皮膚が硬いという事だ。
しかしミノタウロスは一瞬怯んでいた。
その隙にシェリーがファイアボールを放っていた。
シェリーのファイアボールがミノタウロスの顔面を直撃した。
『ウボォォォォ・・・』
魔弓の矢が刺さらない程丈夫な皮膚を持っていても燃えるのは防げないようだ。
ミノタウロスは斧を手離して両手で顔面の炎を消しに掛かっていた。
「チャンス! 一斉に倒しに掛かるぞ!」
俺、アイラ、ジーナ、ナギサがミノタウロスを取り囲もうとするとミノタウロスは斧を拾おうとした。
『それはさせないのじゃ!』
ミノタウロスが斧を拾おうとして屈んだためミノタウロスの頭が丁度良い高さになった。
そこにジーナがシールドアタックを喰らわしたところミノタウロスは尻餅をつく形になった。
「よし、絶対にミノタウロスを立たせるな!」
ここから袋叩き作戦が開始された。
ミノタウロスが立ち上がろうとすることろでジーナのシールドアタックが炸裂し、転んだところを俺とアイラとナギサで斬り掛かった。
我ながら姑息な作戦ではあるがモンスター相手に容赦しない。
徹底的にミノタウロスを転ばしまくった。
数十分程してミノタウロスが動かなくなり魔石とドロップアイテムを残して消えた。
「ふぅ、さすがにミノタウロスはしぶとかったな・・・」
アイラ達もコクコクと頷いていた。
サーシャが魔石とドロップアイテムを拾ってきた。
『旦那様、ミノタウロスの魔石とドロップアイテムですよ』
ミノタウロスは2つのドロップアイテムをおとしていた。
ミノタウロスの角と毛皮だ。
モンスター図鑑によると角のほうはレアドロップのようだ。
『ご主人様、ミノタウロスの毛皮で服を作ったらかなり防御力がある服が出来そうですよ』
確かに。
サーシャの魔弓も跳ね返すほどの防御力があったよな。
ミノタウロスの毛皮は売らずに残しておくか。
「もう少し奥に進んでみるか」




