0091:国境の町に到着
「アイラ、こちらを見張っているのは何人いる?」
『・・・ざっと3人ですね』
「そうか。だとすると斥候だよな」
距離があるため魔弓も魔法も届かないだろう。
ただ放置しておくわけにもいかない。
「う~ん、どうするかなぁ・・・」
走っていってもバラバラに逃げられると良くて1人捕まえたら御の字だろう。
出来れば3人とも捕まえたいところだ。
ならば誘い出すのが一番か。
「暫くは無視しておこうか。気付いていない振りをしておこう」
アイラ達も仕方が無いと納得してくれた。
そして気付かない振りをして見張りを開始した。
さすがにすぐに襲ってくる様子は無いが、アイラ曰く、変わらずこちらの様子を伺っているとのことだ。
『ご主人様、盗賊の人数が増えました。どうやら仲間が集まって来たようです』
馬車の中でゴロゴロしていたが、やっと盗賊達が集まって来たとのことだ。
『全部で30人ほどです』
「30人か。ちょっと多いな」
盗賊は税金が払えなくなった農民や落ちぶれた冒険者がほとんどなので一人一人は大して強く無いが30人もいると油断出来ない。
『ご主人様、盗賊達と少しずつこちらに近付いて来ています』
「分かった。残り100mになったら迎え撃つか」
俺が考えた作戦をアイラ達に伝えた。
その間も盗賊達は少しずつこちらに近付いてくる。
『ご主人様、残り100mになりました!』
「よし、サーシャ、シェリー、魔弓と魔法を放て!」
『了解です、旦那様!』
『まかせて、レックス!』
サーシャとシェリーが魔弓と魔法を同時に放った。
魔弓と魔法は盗賊達の手前に着弾した。
これは外れた訳ではなく敢えて外したのだ。
「盗賊達よ、今の攻撃はわざと外した! もしこれ以上進んでくるなら次は容赦しない!」
すると暗闇の中から1人の男が姿を現した。
『ちっ、気付いていやがったのか!』
「あぁ、3人で俺達を見張っている時からな」
『まさか、あの距離で気付いていたのか?』
「そうだ。お前達が集まって来るのも、そこから少しずつこちらに近付いてくるのも分かっていた」
『マジか、信じられねえな・・・』
「アイラ、今こいつらが何処に何人いるか分かるか?」
『はい、ご主人様。右側の草むらに14人、左側の木の陰に15人います』
今、俺達の目の前に姿を現しているボスらしき男を合わせると30人ピッタリだ。
『・・・どうらや本当のようだな・・・』
「ここまで分かっていて俺達が何も準備していないと思ってるか?」
あくまでもハッタリだ。
実は何も準備していない。
ただ戦闘になっても勝てない相手では無い。
ちょっと苦労するので避けたいが。
『ちっ、生意気な小僧だな。準備しているだぁ? ハッタリだろうがここはお前の度胸に免じて引き下がってやるよ』
そう言うと男は再び暗闇に姿を消した。
そして徐々に盗賊達の気配が消えていった。
『どうやら上手くいったようですね、旦那様』
『レックス殿、でも何故、奴等は何もしないで引き上げたんですか?』
数の上では圧倒的に盗賊達のほうが有利であったのに引き上げのが不思議でならないらしい。
「奴等も無駄に戦闘はしたくないんだよ。戦闘すれば当然被害者も出るし、下手したら全滅だってあり得るからな。だから最初の威嚇で誰も倒す必要が無かったんだよ」
仮に威嚇で誰か1人でも殺していたらすんなりと引き上げ無かった可能性がある。
仲間の敵討ちだ、と言ってくる可能性がだ。
『さすがマスターなのじゃ。人を騙す天才なのじゃ』
「ちょっと待て、ジーナ。あれは騙すじゃなくて戦術ってやつだよ」
『なるほど。戦術とはいかに騙すことである、ですよね。旦那様』
いや違うって・・・うん? 違わないのか?
良く分からなくなってきた・・・
『とりあえず、引き続き見張りはしましょうか』
アイラが手を叩きながらまるで先生のように言ってきた。
俺達はまるで子供扱いだった・・・
◇◆◇◆
1度だけ盗賊に襲われかけたりしたが、それ以降何事も無く順調に進んでいた。
1つだけ分かったことがある。
この馬車を牽引しているゴーレム馬のアカとクロは戦闘能力が高かったのだ。
一度だけ夜に近寄って来たはぐれオークを一撃で蹴り殺したのだ。
アカとクロがいれば夜の見張りはかなり楽になるかも知れないな。
今後も夜の見張りとして活用出来るか検討してみるか。
『ご主人様、ドワーフ国との国境の町が見えてきましたよ』
国境の町が見えてきたのと同時に国境の町に向かう馬車の数が増えてきた。
『ねぇ、レックス。ひょっとして、この馬車全部が救援物資を運んでるのかしら?』
「どうだろうな? もしかしたら、どさくさ紛れにポーションとかを高値で売り付けようとしている輩かもな」
どこの世界にも他人の不幸につけこむ輩は存在するものだ。
『うわぁ。旦那様、あれを見てよ! 凄い行列が出来ているよ!』
サーシャの言う通り国境の町の入口に行列が出来ていた。
商人の馬車だけでなく乗り合い馬車もいた。
乗り合い馬車の中には冒険者と思われる人達が乗っているようだ。
鉱山には珍しい鉱物をドロップするモンスターがいるって噂を聞いたことがある。
なのでドワーフ国の鉱山に向かって荒稼ぎを狙っているのだろうな。
「何にせよ、この行列に並ぶしか無いよな」
2時間程待ってようやく町の中に入ることが出来た。
やはり暇潰しのためのアイテムは必要だよな。
『ふぅぅぅ、やっと町の中に入れたね。疲れたよ、旦那様』
サーシャが馬車の中で背伸びをしながら疲れたことをアピールしてきた。
まぁ、サーシャだけでなく皆がうんざりした顔をしていた。
「今日はこの町で一泊するとしようか」
馬車をキャンプ場に停めて町の中を散策することにした。
「あれってドワーフだよな?」
町の中を歩いているとドワーフと思われる種族が多かった。
身長は150cmくらいと背は高く無いが男も女も筋肉でがっしりしていた。
男は腰まで伸びた立派な髭を蓄えていた。
『私はドワーフを見たことが無いで分からないですよ、ご主人様』
『私も見たことが無いよ』
『『私もー!』』
どうやら、全員ドワーフを見たことが無いらしい。
う~ん、とは言っても道を歩いているドワーフらしき人達に
「あなたはドワーフですか?」
と聞くわけにもいかないよな。
という事で屋台に行った。
串肉を買うついでに屋台のおっちゃんに聞いてみた。
気軽に話を聞くなら屋台のおっちゃんが一番だ。
「おっちゃん、あの筋肉が凄い人達ってドワーフなのか?」
『うん? あの背の低い連中のことか? あぁそうだ。ドワーフで間違いないぞ』
あれ? そういえばエルフとドワーフって仲が悪いって話を聞いたことがあるな。
よく忘れるがうちにはエルフがいる。
「サーシャ、エルフとドワーフって仲が悪いって聞いたことがあるが本当か?」
『う~ん、凄く昔の話だよね、それって。今は仲良しでは無いけど、特に仲が悪いってことは無いよ』
サーシャ曰くだが、とりあえず大丈夫そうだ。
ドワーフの国に到着してすぐに揉め事が起きたりしたら面倒だからな。
ひとまず安心出来たので食事することにした。
『マスターよ、ドワーフの店で食事をするのじゃ』
ジーナがドワーフの店で食事をしたいと言い出すと他もメンバーも同調した。
いつもと違ったものを食べたいとのことだ。
「そうだな。たまには違ったものを食べてみたいよな」
という事でドワーフの店に入ってみることにした。
特に入店お断りともならずにすんなりと入店出来た。
席に着きメニューを確認したがメニューに書かれているものがどんな料理なのかサッパリと分からない。
確か、ドワーフ料理って辛口だったよな。
そうすると注文する料理は決まってくる。
店員を呼んだ。
「すみません、一番辛くない料理をお願いします」
俺は敢えて無謀なチャレンジはしない。
辛いのは苦手だしな。
すると店の奥に座っていた1人のドワーフがこちらにやって来た。
『おいおい、ドワーフの店に来てその注文は無いんじゃないのか?』
いかにも飲んだくれといった面構えをしたドワーフだった。