0088:オークキング戦
小高い丘に向かって100人近い冒険者が駆け出した。
目標は丘の上にある砦を落とすことだ。
『遠距離攻撃部隊、見張りオークを攻撃だ!』
サーシャも含めた十数人の弓士が一斉に矢を放った。
『お、おい、あの娘、魔弓を放ったぞ!』
『しかも矢の本数も結構あったな!』
サーシャは十数人いた弓士の中で唯一の魔弓使いだったらしい。
「しまったな。目立ってしまったな。」
もうやってしまったことは取り返しがつかないので気にするのは止めよう。
今はオーク共を倒すほうが大事だ。
『続けて魔法使いは火魔法を放てー!』
あ、しまった。
シェリーに手加減するように伝えるのを忘れてしまった。
シェリーはファイアボールを放った。
そして、そのファイアボールは砦に着弾すると大きく燃え上がった。
やはり範囲魔法も使っていた。
『な、なんだ? あの娘のファイアボールが燃え広がったぞ?』
『あれって範囲魔法じぁねぇのか?』
皆さん、よくご存知のようで。
『プギィィッ』
『ブモォォォ』
砦が燃えているためか、砦からオークの上位種が続々と出てきた。
『遠距離攻撃部隊は砦から出てくるオーク共を狙え!』
十数人の弓士による攻撃が行われているが、矢が2~3本刺さった程度ではオークは止まらないようだ。
『前衛部隊、お前達の出番だ! 1匹も残さずに倒すぞ!』
『『おぉぉぉ!!』』
俺達も前衛に出ようとしたところダンテに止められた。
『何か嫌な予感がするわ。レックスちゃん達はまだ私達の後ろに控えていて。乙女の勘は鋭いのよ』
だから乙女じゃねぇだろ!
ただし、嫌な予感がするってところは賛成だ。
まだオーク共を纏めている存在が不明だ。
「分かった。ただサーシャとシェリーの援護は続けるぞ!」
砦の出入口が1つしか無いためオーク共は出入口を出た瞬間に弓矢で先制攻撃を受け、その後に3方向から攻撃される状態のため次々と倒されていった。
それでもオークを統べる存在が姿を現さない。
ひょっとしたら統べる存在は元々いなかったのかも知れないと誰もが思ったときだった。
『ブモォォォォォォォ!!』
一際大きな叫び声が聞こえてきた。
次の瞬間、砦の門が吹き飛ばされた。
巨大なオークが砦の門を破壊して姿を現した。
オークは巨大な斧を持っていた。
どうやらあの斧で砦の門を破壊したらしい。
『な、なんだ? あの巨大なオークは?』
『で、でけぇな・・・』
『なぁ? あれはヤバくないか?』
他の冒険者達が巨大なオークを見てビビりだした。
『マスター、あれはオークキングなのじゃ』
「あれがオークキングか。ランクBモンスターでも上位の存在か」
かつて討伐したことがあるゴブリンエンペラーよりも強烈な威圧感がある。
『全員、よく聞け! 奴がオーク共を統べる存在だろう! ならば、奴さえ倒せばこの戦いに勝利することになる! 一気に奴を倒すぞ!』
ガボットが全員を鼓舞するように声を張り上げたが一部のパーティーはオークキングの姿を見て意気消沈していた。
あの威圧感に晒されれば仕方が無いか。
他の冒険者達は足が止まったままだ。
『レックスちゃん、あなた達は大丈夫?』
ダンテは心配そうな声で聞いてきた。
「もちろん、俺達は大丈夫だ!」
『レックスちゃん達ってやっぱり凄いのね。なら任せたわ!』
ダンテ達に向かって頷いた後、アイラ達に声を掛けた。
「よし、皆、行くぞ!」
『『おぉぉぉ!!』』
オークキングに向かって走り出した。
同時に全ての支援を発動した。
「サーシャ、シェリーは先制攻撃だ!」
『『了解!』』
サーシャとシェリーは走りながら魔弓と魔法を放った。
魔弓と魔法がオークキングに直撃した。
オークキングが怯んだ隙にジーナを先頭にオークキングの懐に飛び込んだ。
俺達がオークキングに攻撃を仕掛けたのを見て我に戻ったガボットが声を張り上げた。
『全員、レックスパーティーを援護しろ! 他のオークを彼らに近付けるな!!』
『『おぉぉぉ!!』』
ありがたいな。
これでオークキングだけに集中出来る。
ジーナがオークキングに対して挑発を発動したようだがあまり効果を発揮していない。
どうやらランクの高いモンスターには利きにくいのかも知れない。
『ぬぅ、こやつめ! 妾を狙わないのか?』
それでもジーナはオークキングの目の前に建っておりオークキングの斧による攻撃を大盾で防いでいた。
ただし、俺とアイラが横から攻撃を加えようとするとちゃんと反応してくる。
その巨体からは想像出来ないくらい素早い動きを見せてくる。
『ご主人様、私が囮になります!』
アイラはそう言うと身を屈めてオークキングの足下に潜り込む動作をして見せた。
オークキングもアイラを潜り込ませまいと対応するがアイラは元々潜り込むつもりは無い。
それにしてもアイラの動きはいつも以上に切れていた。
オークキングは足下に潜り込もうとするアイラに集中していた。
つまりは背中側にいる俺に対して隙だらけになっていた。
俺は隠密支援を発動してオークキングの背中側から近寄っていく。
オークキングはこちらには全く反応しない。
そして渾身の力を込めてオークキングの背中に村正を突き刺した。
『プギィィィィィッー!』
背中を突き刺されたことでようやく俺の存在に気が付いたようだ。
オークキングは斧を振り上げて俺に向かって振り下ろそうとした。
『『そうはさせない!』』
サーシャの魔弓とシェリーのアイスアローが斧を振り上げているオークキングの腕に直撃した。
『ブギィィィィィィー!』
それでもオークキングは斧を手放すことは無く
右手で持っていた斧を左手に持ち替えた。
「中々、しぶといな!」
モンスターにも利き手があるらしく、オークキングの斧を振り回すスピードが格段に落ちた。
ここでジーナの後ろにいたナギサが前衛に加わった。
俺、アイラ、ジーナ、ナギサの4人でオークキングを囲んで少しずつダメージを与えていった。
動きが鈍くなったとはいえ、オークキングのパワーは健在だ。
あの斧の一撃を喰らったら即リタイアになってしまうだろう。
もう10分くらいオークキングと斬り合っている。
背中を突き刺したのにまだ動けるようだ。
ただし大分動きが鈍くなっているのも事実だ。
『ブモォォォォォォォ!!』
突然、オークキングが雄叫びを上げた。
そして俺に体当たりをしてきた。
体当たりは想定外だった。
村正をオークキングの肩口に突き立てたがあまり意味が無く、俺は吹き飛ばされた。
吹き飛ばされながら考えてみた。
俺に狙いを定めたのは偶然じゃないな。
アイラを狙っても簡単に回避されるだろう。
ジーナなら大盾で防ぐ可能性がある。
ナギサは間合いが遠いのでアイラ同様に回避される可能性がある。
なので残るは俺だけだった。
こいつ、中々考えているな。
さすがはランクBモンスターだな。
ゴロゴロと派手に吹き飛ばされたが、大きな怪我は無さそうだ。
「くっそー、いってー!」
全身が痛いが骨は折れていなさそうだった。
サーシャとシェリーが心配そうに近寄ってきた。
『だ、旦那様、い、生きてる?』
『レックス、だ、大丈夫なの?』
サーシャとシェリーが俺の身体を触ってきた。
心配してくれるのは嬉しいが痛いので触らないで欲しい。
とりあえず、すぐに回復支援を使った。
回復支援を3回使ったところで痛みが完全に治まった。
「あぁ、大丈夫だ。しかしオークキングはさすがに強いな」
そう言うと俺は再度オークキングのところに向かった。
『ご主人様、大丈夫なんですか?』
『マスターよ、無理しては駄目なのじゃ!』
『レックス殿、後は私達だけで大丈夫ですよ』
「俺の方は大丈夫だ。それよりもあいつは次も俺を狙ってくるはずだ。だから俺は回避に専念するから後は頼むぞ!」
『『なるほど! 了解しました!!』』
アイラ達は俺の考えを理解してくれたようだ。
そして俺はオークキングの前に立った。
『ブモォォォォォォォ!』
オークキングが俺の方を向いて威嚇しているようだ。
「ほらっ、掛かって来いよ。この豚野郎!」
当然、俺の言葉が伝わるはずは無いが挑発していることは雰囲気で分かったようだ。
オークキングが再び俺に向かって突進してきた。
今度は最初から回避することしか考えていない。
一方のオークキングは俺を吹き飛ばす気で突っ込んで来ている。
なので簡単に足を引っ掛ける事が出来た。
転びはしなかったがオークキングはバランスを崩した。
この隙を見逃すアイラ達ではない。
『『チャンス!!』』
ジーナがシールドアタックでオークキングを転ばすとアイラとナギサが襲い掛かった。
そこに俺も参戦した。
「ここで一気に倒すぞ!」
『『おぉぉぉ!!』』




