0084:緊急依頼 ダンジョン調査
生徒達の救出の翌日、ギルドに向かった。
良く考えてみると昨日の護衛依頼は達成していない。
セシリア達を救出したためではあるが。
ギルドに到着するとギルド内が騒がしい。
いや、いつも騒がしいのだがいつも以上だ。
とりあえず騒がしいのを無視して受付カウンターに向かった。
受付嬢は俺を見つけるや否や駆け寄って来た。
『レックスさん、丁度良かったわ。昨日の話を聞かせて下さい!』
昨日の話って依頼失敗したことか?
やっぱり何か罰則でもあるのかな?
「えっとですね、べ、別に依頼を放棄した訳じゃないんです・・・その、非常事態だったんですよ・・・」
とりあえず弁明から始めた。
決して依頼を放棄した訳じゃないと。
『え? 一体、何を言ってるんですか、レックスさん?』
「え、昨日、護衛の依頼を達成していないことでは?」
『・・・』
「・・・」
『あぁ、そっちの件ですか。そんなことはどうでも良いんですよ。ちゃんと生徒達を助け出したわけなので依頼は達成ですよ』
「えっと、じゃあ他に何の話をすれば良いんですか?」
とりあえず事態が飲み込めない。
ちゃんと説明をして欲しいぞ。
『ダンジョンの2階層でオークの上位種が出たことですよ!』
「あ、そっちですか。確かに2階層でオークジェネラルとオークソルジャーが出てきましたよ。もちろん普通のオークもですが」
『やっぱりそうですか・・・実は昨日から2階層に行った冒険者達が怪我をして戻って来ているんですよ。怪我をした冒険者達が口々にオークの上位種を見たと言ってるんです』
オークの上位種は程度の差はあるがランクCモンスターだ。
なのでベテラン冒険者じゃないと苦戦するはずだ。
『今までの2階層はせいぜいゴブリンの上位種か通常のオークくらいしか出なかったんですよ。それでも稀なことだったんですよ。それなのに・・・』
受付嬢の言っていることが本当だとするとダンジョンの2階層で何かが起きているということか。
「そうすると緊急依頼が出るんですか?」
『まだ決定していないですが、ギルドマスター達が緊急依頼を出すかどうかを朝から会議をしています』
まぁ恐らくは緊急依頼が出されるんだろうな。
もちろん緊急依頼が出れば参加するつもりだ。
「分かりました。とりあえず買い取りをお願いします」
『え、は、はい。分かりました。それではカウンターに来て下さい』
受付嬢と一緒にカウンターに行き、マジックバッグから魔石とドロップアイテムを出した。
オーク肉は大事な食材なので売らないが。
『魔石とオークの皮ですね。査定をしますので少しお待ち下さい』
カウンター横の酒場に目を向けると冒険者達が話をしていた。
『ダンジョン2階層の話を聞いたか?』
『あぁ、聞いたぞ。オークの上位種の話だろ?』
『オークの上位種は金になるからな。お前達も討伐に参加するんだろ?』
『もちろんだ! 滅多に無いチャンスだしな』
緊急依頼が出されれば結構な数の冒険者達が参加しそうだな。
これなら俺達は参加しなくても良いかも知れないな。
すると受付嬢の1人がギルド2階から降りてきて受付カウンターの前に仁王立ちした。
受付カウンター前にいた冒険者達も酒場にいた冒険者達も注目した。
ギルド内は静まった。
受付嬢の言葉を待っていた。
『緊急依頼を発動します! ただし依頼を受けられる条件はランクD以上となります!! 受付は今から明日の夜までとなります!!』
受付嬢の言葉が終わった瞬間、ギルド内がどっと騒がしくなった。
『よっしゃー、受付に行くぞ!』
『マジかー、俺達受けられねぇのか・・・』
あっという間に受付カウンターに行列が出来てしまった。
『ご主人様、どうしますか? 私達も並びますか?』
う~ん、出遅れてしまったな。
先程の受付嬢の話では人数制限は無さそうだし少し様子を見るとするか。
「とりあえず、明日の朝に来るか」
『そうよねぇ、さすがにあの行列に並ぶのはちょっとねぇ・・・』
シェリーも行列を見てウンザリしているようだった。
すると受付嬢からお呼びが掛かった。
『レックスさん、査定が終わりましたよ』
行列が出来ているカウンターを避けてカウンターの奥で報酬を受け取った。
金貨7枚、大銀貨5枚を受付嬢から直接手渡しされた。
『レックスさん達は緊急依頼を受けないのですか?』
手渡しの際に受付嬢から緊急依頼を受けるのかを聞かれた。
「一応、受けるつもりですよ。ただ今は行列が出来てるんで明日の早朝に来るつもりですよ」
『分かりました。それじゃ待ってますからね』
受付嬢はそう言うと行列が出来ている受付カウンターに戻っていった。
「それじゃ、俺達は外に出ようか」
ギルドから出ると雑貨屋に向かうことにした。
そろそろプリンの材料が無くなりそうなのを思い出したからだ。
毎日のように食べていたら無くなるよな。
なので今回は少し多めに購入しておくことにした。
『旦那様、これでプリンが沢山作れますね』
「・・・一体、何百人分作るつもりなんだよ」
『さぁ? 1ヶ月は持つくらいかな?』
「・・・そんなに作るのか」
サーシャ達はキャンプ場に戻ると宣言通りに大量のプリンを作った。
ほぼ半日の時間をかけてプリン作りに没頭していた。
◇◆◇◆
翌朝はかなり早めにギルドへ向かった。
冒険者達は何故か朝が弱い。
なので早朝にギルドへ行けば空いているはずだ。
ギルドに到着すると案の定、冒険者達はほとんどいなかった。
すると受付カウンターには昨日の受付嬢がいた。
『レックスさん、おはようございます。ちゃんと来てくれましたね』
「一応、約束しましたしね」
『それじゃ、皆さんのギルドカードを預りますね』
受付嬢は俺達のギルドカードを受け取るとカウンターの奥に行った。
暫くして受付嬢がカウンターの奥から戻ってきた。
『はい。これで緊急依頼の受付が完了しましたよ、レックスさん。明日の朝、ギルドに集合ですからね。遅刻しないようにして下さい』
まるで子供のような扱いだな。
まぁ、俺は大人の男だからあえて言い返したりはしないが。
無事に緊急依頼の受付が完了したのでギルドをあとにした。
『旦那様、明日遅刻しないように早く寝ましょうか』
「・・・俺は子供じゃないぞ?」
『でも一番年下ですよ?』
「ぐっ、それはそうだけど・・・でも子供じゃないぞ」
『でも世間的には17歳は子供扱いですよ?』
「それは世間がおかしいんだよ・・・多分」
俺とサーシャの馬鹿なやり取りをアイラ達は生暖かい目で見ていた。
今日は本当にやることが無かった。
仕方が無いのでキャンプ場に戻ってのんびりすることにした。
◇◆◇◆
翌朝、再びギルドに向かった。
今日は緊急依頼の日だ。
ギルドに到着し暫くすると100人近い冒険者が集合した。
「意外に結構な人数が集まったな」
『そうですね、レックス殿』
ナギサが小声でそっと話してきた。
『でも、強そうなパーティーはちょっと少ないように見えますね』
「そりゃあ、参加報酬が目当てのパーティーもいるだろうな」
『なるほど、そんなものですか』
実際に腕が立ちそうなのは半分くらいかと思われた。
もちろん、実際に戦闘しているところを見てみないと分からないが。
暫くすると2階から1人の男が降りてきた。
『よく集まってくれた。俺が今日の緊急依頼の指揮をすることになったガボットだ。よろしく頼む!』
ガボットはスマートな体型をしている。
もちろん筋肉質ではあるが。
『皆も知っている通り、ダンジョンの2階層にオークの上位種は現れた。これは普段ならあり得ないことだ!』
ガボットは話をする時のリアクションが大きい。
なので、どうしても芝居かかっているように思えてくる。
『そのため、2階層だけじゃなく3階層、もしくは4階層までは調査するつもりだ!』
これは事前に聞いていない話だ。
急遽追加されたようで他の冒険者達もざわつき始めた。
『ただし、報酬は通常の2倍出そう!』
この瞬間、冒険者達から歓喜の声が上がった。




