0082:ダンジョンでトラブル
教師達が凄く慌てていた。
そして俺達のことを見つけると急いで駆け寄って早口で何かを言っているがよく分からない。
「すみません、落ち着いてください。何があったんですか?」
『も、申し訳ありません・・・実は昨日、別の冒険者パーティーと一緒にダンジョンに向かった生徒達がまだ戻って来ていないんです!』
生徒達を連れていくダンジョンは1階層までのはずだ。
なので出てくるモンスターはゴブリンだけだ。
普通にやっていれば問題が発生するはずは無いのだが・・・
それでも絶対に安全とは言い切れないのがダンジョンだ。
「それでまだダンジョンから戻ってきていない生徒の名前は何て言うんですか?」
『は、はい、キャシー、ライダー、テイラー、そしてセシリアの4人です』
「え? セシリアってこの間入学したばかりですよね? さすがにダンジョンは早いんじゃ?」
『そうなんですが、彼女は数少ない魔導師ジョブ持ちなので特待生扱いでダンジョンに入ることが許可されたんです』
「分かりました! 俺達がセシリア達を探しに行ってきます」
さすがにセシリアを見捨てる訳にはいかない。
『ご主人様、すぐにダンジョンに向かいましょう!』
『旦那様、急ぐよ!』
『マスター、妾が先陣を切るのじゃ!』
『レックス、早く行くわよ!』
『レックス殿、急ぎますよ!』
俺達は走ってダンジョンに向かった。
すぐに学院の裏側のダンジョン入口に到着した。
「アイラ! セシリアの気配を追うことは出来るか?」
『ある程度近くまで行けば追えると思います』
「それで良い! それじゃあ行くぞ!」
ジーナとアイラを先頭にダンジョンの中に入った。
早くセシリア達を救出したい気持ちは強いがダンジョンの中で焦ったりしない。
ダンジョンの1階層に到着した。
まずは周囲を見渡し、普段と異なる部分が無いかを確認した。
「アイラ、どうだ? 何か変化はあるか?」
『・・・特に変わったところは無いです』
「そうか・・・さてと、どっちに進むかだな」
正規の出入口のほうに進むか、2階層へ進む階段のほうに進むか。
正規の出入口にはモンスターが出てこないように見張りがいるはずだ。
そこで見られていないとすると2階層へ向かった可能性に高いか。
「よし、2階層へ進もうか」
1階層はそれほど広く無いので誰にも見つかっていない可能性はそれほど高く無いはずだ。
もちろん絶対では無いが。
見落としが無いように周囲を慎重に確認しつつ先に進んでいく。
1時間ほどして2階層への階段に辿り着いた。
2階層への階段の手前でアイラが言った。
『セシリア様の匂いが階段からします!』
「アイラ、良くやったぞ!」
アイラを抱きしめてあげるとアイラの尻尾がブンブンと横に振れていた。
その姿に癒されているとサーシャ達から声を掛けられた。
『『ほら! 先に行きますよ!!』』
「あ、あぁ、今行くよ!」
『え、あ、行きます!』
すぐにサーシャ達に追い付いた。
2階層は森の中になっていた。
1度だけ学院の上級生の練習で来たことがあった。
「この階層はオークがいるから少しだけ注意が必要だな」
もちろんノーマルオークが10匹程度なら全く問題は無いが上位種が出てくる可能性もある。
万が一、上位種が10匹とか出てきたら面倒なことになる。
あくまでも万が一の話であるが。
『ご主人様、セシリア様の匂いはあちらに続いているようです』
アイラが示した方向に向かって進んでいる。
森の中を進んでいるため歩みはそれほど早く無い。
「しかし、何だって2階層にまで来たんだろうな?」
『レックス殿、おそらく学院の生徒達が調子に乗ってしまい、それを護衛の冒険者達が止めなかったんだと思います』
なるほどな。
冒険者達にとってもゴブリンよりオークのほうが儲かるからな。
生徒達に2階層へ行きたいと言われると嫌とは言わないだろうな。
『ご主人様、この先からオークの気配がします』
セシリアの匂いがする先にオークがいるようだ。
「出来ればこちらの存在に気付かれる前に倒したいな」
『なら、私とサーシャの魔弓で倒すのが一番ですね』
隠密支援を発動させてゆっくりと進んでいくとオーク達を見つけた。
オークは全部で6匹いた。
「アイラ、サーシャ、やれるか?」
『はい、いつでも行けます』
『大丈夫ですよ、旦那様』
サーシャが魔弓を放つ準備をし、アイラは突進する態勢を整えた。
『それじゃあ、行くよ』
そう言うとサーシャが魔弓を放ち、その瞬間にアイラもオークに向かって突進した。
サーシャの魔弓が直撃した直後にアイラがオーク達の目の前に飛び込んだ。
サーシャの魔弓で4匹のオークが倒れ、続け様に2匹のオークの首がアイラの手によって斬り落とされた。
6匹いたオークはあっという間に倒れた。
オークの魔石とドロップアイテムを回収している間にアイラがセシリアの気配を探っていた。
『向こうのほうですね』
アイラの案内に従って先に進んでいくと声が聞こえてきた。
『・・・だ、・・・っちだ、おい、こっちだ』
声が地面のほうから聞こえてきた。
「どこだ? どこにいるんだ?」
『下だ、下のほうを見ろ』
下を見ろ?
とりあえず言われた通りしゃがんでみた。
すると岩と岩の間に隙間が見え、その隙間から人の顔が見えた。
「うぉ? し、死体か?」
『ば、馬鹿野郎、死体じゃねぇよ。ちゃんと生きているよ』
良く見ると若い男だ。
恐らくは生徒達の護衛に就いている冒険者達の1人だろう。
「生徒達の護衛だよな? 生徒達は無事なんだろうな?」
『あぁ、生徒達も含めて全員無事だ。この中にいる』
どうやら岩と岩の隙間の下を掘って全員が入れるスペースを作ったようだ。
誰のアイディアかは分からないが中々機転が利くな。
ここならオーク共からも見つかりにくいだろうな。
とりあえず、周囲に注意を払いつつ1人ずつ隙間から助けだした。
最後の1人がセシリアだった。
セシリアは俺を確認すると泣きながら俺に抱きついてきた。
『レックス様・・・怖かったよぉ・・・』
セシリアに抱きつかれている俺はセシリアの頭をポンポンしながら護衛の冒険者達に確認した。
「何でこんなところに隠れていたんだ?」
護衛の冒険者達は男女2人ずつの4人パーティーだ。
決して低ランクじゃないはずだ。
『あぁ、この2階層でノーマルオークを討伐していたら突然、オークの上位種が襲い掛かってきたんだ。1匹や2匹なら何とかなるがそれ以上になるとな・・・だから逃げようとしたんだが囲まれてしまってね』
なるほど。
それで岩と岩の隙間に逃げ込んだということか。
「うん? ちょっと待て。俺達はまだオークの上位種を見ていないぞ?」
『な? それは本当か? 不味いな、すぐにここから離れないと・・・』
そんな話をしていると少し離れたところから鳴き声が聞こえてきた。
『ブモォォォォ!』
『ヴボォォォォ!』
『や、ヤバいぞ! オークの上位種達がやってくるぞ!』
俺達だけならオークの上位種に囲まれても何とかなると思うがセシリア達を守りながらではかなり厳しい。
「迷っている暇は無いな。急いで1階層まで戻るぞ! アイラは先頭を頼む!」
アイラが先頭になって1階層への階段に向かっている。
その次は生徒達と護衛の冒険者達が続き、その後ろにはサーシャとシェリーが続いている。
そして俺、ジーナ、ナギサが殿だ。
もう少しで1階層の階段というところでアイラ達の動きが止まった。
『ご主人様! 前方にオークの群れがいます!』
階段の手前にいたオーク共は上位種オーク共だった。
俺、ジーナ、ナギサが急いでアイラに合流すると上位種オーク共の1匹が吼えた。
『ブモォォォォ!』
この声に反応するかのように今通ってきた所からノーマルオーク達が数匹、姿を現した。
オーク達から挟み撃ちにされてしまった。




