0081:ダンジョンで問題発生
『ご主人様、向こうからゴブリンの気配があります』
「向こうにゴブリンがいるらしいので行きますよ」
『『はい! 分かりました!』』
中々元気でよろしい。
先頭はアイラとジーナ、俺とナギサが左右に、後方はサーシャとシェリーに立ち、生徒達を囲むようにして進んでいった。
少し進むとゴブリンが6匹いた。
そして生徒達は魔法の詠唱を開始した。
他の人がちゃんと詠唱しているのは見るのは初めてだった。
俺は無詠唱スキル持ちだし、シェリーも詠唱短縮スキル持ちだ。
・・・結構、詠唱が長いな。
ゴブリンだから気付かれていないが魔力を探知することが長けているモンスター相手だと厳しい気がするな。
ようやく詠唱が終わり生徒達が次々と魔法を放った。
火魔法が2人、風魔法が2人、土魔法が1人だった。
6匹いたゴブリンのうち4匹を仕留めた。
怪我を負った2匹のゴブリンは逃げていった。
『よっしゃー! ゴブリン討伐したぞ!』
『意外と楽勝なんじゃないか?』
初めての実戦での勝利に生徒達が歓喜の声を上げていた。
うんうん、その気持ちはよく分かるな。
俺にもそんな時があったよな。
『すみません、次のゴブリンも探して下さい』
「分かりました。アイラ、次のゴブリンの居場所を探してくれるか?」
『・・・分かりました、ご主人様』
一瞬、アイラとシェリーが本当に良いのか? という顔をした。
もちろん分かっている。
調子に乗ると魔力枯渇するだろうことを。
むしろ早めに魔力枯渇を経験してもらったほうが良いだろうという俺の判断だ。
2回目のゴブリン討伐も問題無かった。
そして、調子に乗った生徒達は3回目のゴブリン討伐で魔力枯渇の直前になったようだ。
『あ、あれ、なんか身体怠いぞ?』
『え、えぇ、私も立っていられないわ』
『普段の練習なら5回は魔法を放てるのに?』
するとシェリーが生徒達の前に立って説明を始めた。
『初めての実戦で緊張して普段よりも魔力を多く注ぎ込み過ぎたのよ。まぁ私も同じ経験をしたから分かるわ』
『そ、そんな・・・』
『そ、そうなのか・・・』
『まったく気付か無かった・・・』
生徒達は若干項垂れていた。
『でも今回の失敗を次に活かせば良いだけの話よ』
シェリーが生徒達を元気付けるように生徒達に話し掛けていた。
同じ魔法使い同士であり、先輩でもあるシェリーの言葉には良く従っていた。
『『はい! ありがとうございます!』』
シェリーと生徒達の間に何やら友情らしきものが出来ており会話が弾んでいる。
ちょっと話し掛けにくい雰囲気になったので、とりあえず少しだけ休憩した。
「えっと、ちょっといいかな? 歩けそうなら出口に向かおうと思うんだけど・・・」
『そうね、レックス。皆も歩けるかしら?』
『『はい! 大丈夫です!!』』
生徒達はもう大丈夫そうだ。
出口に向かって進むことにした。
出口までの道順は教師達から事前に教えられていたので迷うことは無い。
出口まで迷うことは無いのだがゴブリン達は襲ってくる。
しかし襲ってくるゴブリンはシェリーの火魔法で次々と黒焦げになっていった。
生徒達に
『シェリーさんの魔法を見てみたい』
とお願いされたシェリーが張り切っていたからだ。
たまに魔法で撃ち漏らしたゴブリンもアイラが瞬殺した。
結局、帰りはアイラとシェリーだけで十分だった。
『ご主人様、出口が見えてきました』
ダンジョンを脱出して生徒達を学院に送り届ければ本日の仕事は完了だ。
サーシャとナギサが生徒達の前を歩いてダンジョンの出口に向かった。
俺、アイラ、ジーナ、シェリーが殿についた。
無事にダンジョンを脱出して町に戻り、学院に到着した。
教師達に生徒達を引き渡した。
「これで今日の仕事は完了ですよね?」
『はい、これで完了ですよ。さすがはランクCパーティーですね。生徒達が誰も怪我をしていないようです』
えっと、生徒達に怪我をさせたら仕事失敗じゃないのか?
『実は今日の生徒達はダンジョンに入るのは初めてでして少し心配していたんですよ』
教師曰く、初めてダンジョンに入る生徒の中にはパニックになることも珍しく無いらしい。
そうすると思わぬ怪我をすることもあるとのことだった。
おいおい、俺達だってこの仕事は初めてなのに無茶なことをさせるな・・・
教師達から話を聞いてみると、どうやらこの仕事は冒険者からすると旨味の無い不人気な仕事らしい。
ほぼ非戦闘員である生徒達を守りながらダンジョンに入る必要がある。
しかも報酬は少しばかり金と倒したゴブリンの魔石とドロップアイテムだけだ。
確かに割に合わない仕事である。
そう言われると俺も興味があったから受けただけだしな。
『あなた方がずっとこの仕事を引き受けてくれるとは思いませんが少しでも続けてくれると助かります』
教師達から切実な思いを聞いた。
確かに生徒の訓練としてダンジョンは最高の場所だろう。
ただし、訓練で命を落としては意味は無い。
「俺達は旅の冒険者です。そんなにこの町に長居はしないですが、この町にいる間に出来る限り依頼を受けるようにしますよ」
幸いなことに俺達は金には困っていない。
なので暫くはこの依頼を受けても良いがそれほど長期間は出来ない。
とりあえず今日はギルドに寄ってからキャンプ場に帰ることにした。
ギルドに到着すると受付嬢がニコニコしながら俺達のほうに向かってきた。
『レックスさん、学院からお礼が来てましたよ。是非、明日もお願いしたいとのことです』
「あ、はい、そうですか。分かりました」
受付嬢の押しに思わず頷いてしまった。
まぁ、教師達にも出来る限り受けると言ってしまった以上は仕方が無いな。
それなりに楽しめたのは事実だし。
『ありがとう、レックスさん。助かります』
受付嬢は俺の両手を掴むとブンブン振ってきた。
この受付嬢、かなり力があるな。
肩から腕が抜けそうだ・・・
本日の回収したゴブリンの魔石とドロップアイテムを査定してもらっている間に受付嬢の話を聞いてみたところ、この受付嬢も学院の卒業生とのことだった。
『まぁ、私はあまり冒険者の素質が無かったからそのまま受付嬢に転職したのよ』
なるほど、だから俺達が学院の依頼を引き受けたことが嬉しかったらしい。
依頼を受けた時に受付嬢が嬉しそうにしていたことを思い出した。
査定が終わって報酬を受け取る際に受付嬢から念押しされた。
『出来る限りで良いので学院の子達のために少しでも依頼受けて上げてくださいね』
「まぁ、出来る限りですけどね」
受付嬢と約束してギルドをあとにした。
◇◆◇◆
「今日も学院生徒の護衛か・・・」
初日の護衛から10日連続して護衛の依頼をこなしていた。
『旦那様があんなことを言うからですよ』
そうは言ってもな・・・
確かに俺が悪いんだけどな・・・
2日目の護衛を受けて依頼完了した後のことだった。
初日同様に生徒達を学院に連れ帰った時に出迎えた教師が1人の美人教師だった。
その美人教師が俺の両手をガッチリ掴み言ってきた。
『レックスさん。今後も護衛の依頼を引き受けてくれませんか?』
そう言って美人教師は俺の両手を掴んだまま自分の大きな胸に引き寄せた。
そしてあまりの気持ち良さに思わず、ウンと言ってしまったのだ。
その後は数日間、アイラ達はまともに口を聞いてくれなかった・・・
あれはちょっと、いや、かなり辛かったな。
風呂でも誰も洗わしてくれなかったし、少しでも身体に触れようとしようものなら本気で拒絶された。
一緒に食事をしてくれただけだった・・・
まるで空気のような扱いが5日間続いたのだ。
最後は土下座することで御許しが出た。
思い出すと目から汗が出そうだった。
・・・この忌まわしき記憶は忘れよう!
学院に到着するといつもと様子が違った。
慌てている教師達が俺達を見つけると駆け寄って来た。
『レックスさん! た、大変です!!』
教師達の様子を見ると何か問題が発生したらしい。




