0008:アイラの実力
アイラと一緒に宿屋に戻る途中なんだがちょっと考えごとをしていた。
宿屋の女将さんにはアイラのことをなんて説明したらいいかな?
「う~ん・・・どうしたものかなぁ?」
『ご主人様、どうしたんですか?』
「あ、ちょっとね・・・」
まぁ普通に奴隷を購入したと言えば良いんだよな?
ルイーザさんも冒険者が奴隷を購入することは珍しく無いって言っていたしな。
なので特にやましい事は無い・・・無いはず。
とりあえず宿屋に到着した。
ちょっとだけ中に入るのに躊躇したが意を決して中に入った。
『あ、レックスさん、お帰り・・・なさい?』
女将さんの声が少し上ずった。
そしてビックリした顔をしていた。
「あ~、え~とっ・・・」
俺が説明しようとすると女将さんは手をヒラヒラさせて説明不要という仕草をした。
『それで部屋はどうするんだい?』
「え? どうするって?」
『鈍い子だねぇ、2人部屋に移るんだよね?』
え、2人部屋?
しまった・・・そこまで考えていなかったな。
確かに1人部屋を2つ借りるのはコスト的にキツイよな。
『ご主人様、私は床でも大丈夫ですけど・・・』
アイラが突然、変なことを言い出した。
女性を床に寝かすなんてあり得ない。
「いやいや、アイラを床に寝かせるつもりは無いよ。アイラを床に寝かせるくらいなら俺が床に寝るから」
アイラは少し困ったような表情になってしまった。
『ご主人様、奴隷は床で寝るのが普通なので大丈夫ですよ』
「いやいや、アイラが大丈夫でも、俺が大丈夫じゃないから」
女性を床に寝かしていたら俺の精神衛生上良くない。
『ほら、2人とも面倒だから2人部屋にしなさい。はい、これが鍵だからね。失くさないようにね』
こうして女将さんの仕切りで半ば強制的に2人部屋へ移動となった。
・・・いや、むしろ女将さんに助けてもらったな。
鍵に書かれた部屋番号は303だった。
部屋の中に入るとアイラはちょこんと床に座った。
「ちょっ、ちょっとアイラ、椅子に座ってよ」
『えっと、宜しいのでしょうか?』
「もちろんだよ」
ちょっとビックリだな。
これが普通の奴隷なのか、それともアイラが特殊なのか分からないが普通の生活が出来るように教育しないといけないな。
「とりあえず、荷物を置いたらちょっと早いけど夕食を食べに行こうか。あ、そうだ。食堂ではちゃんと椅子に座ってね」
『はい、分かりました。ご主人様』
アイラはちゃんと指示すれば素直に従った。
しかし何だろうな・・・アイラからは何か違和感みたいなものを感じる。
まるで壁みたいなものだ。
まだ初日だからかな?
食事後、部屋に戻る際にお湯が入った桶をもらった。
この世界では風呂は金持ちの特権であり庶民はお湯に浸した布で身体を拭くのが一般的だ。
とりあえず、お互いの背中を拭き合い、前は自分で拭いた。
さてと、これで寝る準備は出来たが目の前にあるベッドは1つだけだ。
いわゆるダブルベッドがあるだけだ。
最初に部屋に入った時からダブルベッドの存在は把握していたが意図的に無視していたが、ついに無視できないところまできた。
『あの・・・ご主人様、私は床でも大丈夫ですよ』
ベッドの前で固まっていた俺に対して、またアイラが床で寝ると言い出した。
「いや、さすがにそれは駄目だよ」
『ご主人様。では私もベッドに入っても宜しいのでしょうか?』
それは一緒に寝るということか。
「えっと、それで良いの?」
『はい、問題ありません』
ということで、アイラと一緒に寝ることになった。
お互い背中合わせで寝ることになった。
アイラが気になって中々寝られない。
すると突然、アイラが向きを変えて俺の背中に抱き付いてきた。
アイラの巨乳が俺の背中に押し付けられている。
柔らかい感触を背中で感じていた。
『ご主人様は私のことをお抱きになられないのですか? もしかして私のことをお気に召しませんか?』
このアイラの言葉を聞いた瞬間にアイラが奴隷だったということを改めて思い知らされた。
きっと今までも酷い目に合ってきたんだなと。
「俺はアイラのことを奴隷として扱うつもりは無いよ。一緒に冒険をする仲間のつもりだよ」
俺の言葉に俺の背中に抱き寄せるアイラの力がはさらに強くなった。
◇◆◇◆
翌朝、目が覚めると俺はアイラのほうを向いていた。
そして目の前にはアイラの巨乳があった。
あれ? 確か昨日はお互いにシャツを着て寝たはずだよな?
なんでアイラは上半身が裸になっているんだ?
昨日の夜に何かあったのかと狼狽しているとアイラも目を覚ましたようだ。
『おはようございます。ご主人様』
「あ、おはよう、アイラ。えっと、その、なんでアイラは上半身が裸になっているの?」
『昨日、ご主人様が私の方に寝返りをして私の胸に顔を埋めてきたんですが、シャツを着たままだとご主人様が息苦しそうにしていたのでシャツを脱いだんです』
な、なにー!
そんな凄いことをしたのにまったく記憶に無いなんて・・・俺は馬鹿なのか?
そんなことよりも最初にやる事はあった。
俺はすぐさまアイラの前に正座をして土下座をした。
「ごめん、アイラ。寝ぼけていたとはいえ、本当にごめんなさい」
『ふふふ、別に構いませんよ。ご主人様』
あ、初めてアイラの笑顔が見れた。
やっぱり綺麗だ。
美人の笑顔は特に綺麗だ。
『ご主人様、そんなことよりも早く朝食を食べてギルドの依頼を受けに行きましょうか』
アイラの言葉を受けてさっさと着替えて朝食を食べに向かった。
朝食後はすぐにゴブリンの森に向かった。
アイラを養うためにしっかりと稼がないとな。
ゴブリンの討伐はギルドでは常設依頼になっている。
なので、わざわざ依頼の受注作業をしなくてもゴブリンの魔石を持ち込めば依頼達成となる。
ゴブリンの森に到着すると早速ゴブリンを探すことにした。
アイラが鼻をクンクンさせている。
『ご主人様、こっちから変わった匂いがしますよ』
アイラの案内に付いていくとゴブリンがいた。
狐って確か犬科だったよな。
ということは嗅覚が優れているのか。
アイラが発見したゴブリンは3匹だ。
「アイラは初めての戦闘になるのかな?」
『はい、そのとおりですが戦闘訓練を受けたことはあります』
なるほど。
ただ訓練はあくまでも訓練だからな。
アイラに俺のジョブのことを説明した。
「なので、アイラはダメージをあまりに気にしないで倒すことに集中してくれ」
『分かりました、ご主人様』
「じゃあ、行くよ!」
アイラを先頭にゴブリン達に突撃した。
攻撃支援、防御支援を発動させた。
アイラはゴブリンの棍棒をスルスルと回避してショートソードでゴブリンを斬り裂いていき、あっという間に3匹のゴブリンを倒してしまった。
あれ? 俺の出番が無かったぞ・・・
というか、初めの戦闘だよな?
『ご主人様、私の戦いぶりはどうでしたか?』
アイラがニコニコしながら戻ってきた。
「あ、あぁ、う、うん、初陣にしては良かったな」
というよりも既に俺よりも上な気がするのは気のせいだろうか?
・・・いやいや、さすがにそんなことは無いよな・・・多分だけど。
その後もゴブリン狩りを続けた。
俺が攻撃支援、防御支援をしてアイラがゴブリンを倒すということを繰り返した。
『ご主人様、大分攻撃の仕方が分かってきました』
もうゴブリンを50匹程は倒しただろうか。
アイラの進撃は留まるところを知らない。
「アイラ、そろそろ引き上げようか」
ちょうど昼を過ぎたところだ。
今日は昼食を用意していなかった。
あくまでもアイラが戦闘に慣れることを目的にしていたからだ。
そういった意味では目的はとっくに達成していた。
『そうですね。ご主人様。何事も程々が一番ですよね』
1人でゴブリンを50匹も蹂躙しておいて程々ですか・・・
末恐ろしいな・・・
とりあえず、町に戻ってきた。
ギルドに行って換金をしないと本当に手持ちの金が無くなる。
ギルドに入ってルイーザさんがいる受付カウンターに並んだ。
『お疲れ様です。レックスさん、アイラさん。換金ですよね?』
ルイーザさんに言われてカウンターに魔石とドロップアイテムをリュックサックから取り出した。
取り出したのはアイラが蹂躙したゴブリン50匹分の魔石とドロップアイテムだ。
「へぇ、凄いですね。こんなにゴブリンを倒したんですか。大したものですね」
ルイーザさんに褒められると素直に嬉しいな。
倒したのはアイラなんだけどね。
ただ、俺の横にいたアイラが何故か拗ねているように見えた。
気のせいだよな?
『レックスさん、アイラさん。ギルドカードを貸してもらっても良いですか?』
ルイーザさんに言われた通りにギルドカードを渡すとルイーザさんはカウンターの奥に行ってしまった。
ルイーザさんはすぐに戻ってきた。
『アイラさん。おめでとうございます。ランクアップです。レックスさんももう少しでランクアップしますね』
なんとアイラは1日でランクGからランクFに上がったようだ。
『ランクGからランクFへのランクアップ条件はゴブリン相当のモンスターを50匹倒すなので、もしかしたらと思いましたが本当に達成しているとは思いませんでしたわ』
確かにアイラが1人で倒したからな。
冒険者ランクが1日で並ばれてしまったな・・・
今日の報酬は大銀貨1枚、銀貨3枚となった。
とりあえず野宿にならなそうだ。
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名前:レックス
種族:ヒューマン
年齢:17
レベル:4
ランク:F
ジョブ:支援術士
ジョブスキル:
【攻撃支援】【防御支援】【回復支援】
加護:
【経験値2倍】【無詠唱】
【ジョブスキル全体化】【無限魔力】
名前:アイラ (主人:レックス)
種族:狐人族
年齢:20
レベル:2
ランク:F
ジョブ:軽戦士
ジョブスキル:
【双剣】
加護:
明日からは1日1話を目指して頑張ります。
是非ともよろしくお願いいたします。