0065:獣狩り依頼完了
初の解体作業も無事に終わった後もリバーグリズリー狩りを続けた。
次は火魔法を使わないで倒せるかを確認したい。
その後も川の上流に向かって歩いたところ2匹目のリバーグリズリーが現れた。
喉元が弱点だと分かればリバーグリズリーは大した相手では無かった。
そして解体も慣れてくれば時間が短縮される。
最初は1時間くらい掛かったが2匹目、3匹目には30分くらいで解体出来るようになった。
「よし、とりあえず3匹狩ったし、そろそろ町に戻るか」
『うぅぅぅ、なんか獣の臭いが身体に染み付いた気がするんだけど・・・』
そう言って来ているのは解体に参加しなかったシェリーだ。
でも近くで解体作業を見ていたので臭いは染み付くかも知れない。
「仕方が無いな。今日も帰ったら石鹸で身体を洗うか」
『う~ん、石鹸は良いんだけどレックスが洗うのはどうかなぁ・・・』
何を言っているんだろうな。
石鹸で皆の身体を綺麗に洗い上げるのは俺の大事な仕事なのに。
とりあえず町に戻りギルドに到着し、受付嬢に依頼完了を報告した。
「リバーグリズリーの討伐依頼をしてきました」
『あれ、もう行ってきたんですか。それじゃあ、こちらに来て下さい』
カウンター奥に案内され小部屋に連れていかれた。
『じゃあ、ここにリバーグリズリーを出して下さい』
受付嬢に言われるがままにマジックバッグから解体したリバーグリズリーを取り出した。
受付嬢が剥ぎ取った毛皮をチェックしている。
『あれ? この1匹だけ火を使った形跡がありますね』
「あ、最初の1匹だけ弱点が分からずに火魔法を使ったんですよ」
『なるほど、分かりました。それでは急いで査定しますので少しお待ち下さい』
そう言われたのでカウンター奥の小部屋から出てカウンター横の酒場に向かったが冒険者達が多くいて中々騒がしい。
どうやら1人の女性に野郎冒険者達が群がっているようだ。
しかし良く見るとその女性はこの世界では一風変わった格好をしていた。
「え、あれって着物なのか?」
『ご主人様、あの変わった服を知っているのですか?』
「あ、い、いや、聞いたことがある服に似ているかなって・・・」
危なかった・・・
前世で見たことがあるなんて言えないからな。
そして、良く見ると女性が持っている武器は薙刀だった。
『しかし、彼女の持っている武器ってちょっと変わっていますよね、旦那様』
『そうじゃな、槍にも似ているが微妙に違うのじゃ』
「あれは槍みたいに突くんじゃなくて剣のように切り払うんだよ」
『え、レックス、なんでそんなことを知っているのよ?』
し、しまった。
また余計なことを言ってしまった・・・
「い、いや、だから聞いたことがあるって言ってるだろ?」
『『なんか怪しい・・・』』
アイラ達が俺に対して猜疑の視線を浴びせてきた。
何か言い訳を考えていると問題の女性が近付いてきた。
その女性は黒髪に切れ長な黒目をした和風の美女だった。
凄くスレンダーな体型をしていた。
『ねぇ、あなた。ひょっとして和の国を知っているのかしら?』
和の国?
ひょっとしたら元日本人が作った国なのか?
「い、いえ、和の国なんて知らないですよ」
『でも、あなた、私の服のことを着物って言ってたでしょ? それにこの武器のことを知っているようだし』
軽く呟いただけのはずなのに。
凄い地獄耳の持ち主のようだな。
「いや、それは聞いたことがあるだけだし」
黒髪の女性はじっと俺を見つめてくる。
そして何やら納得したように言った。
『・・・嘘は言っていないようね。でも本当のことも言っていないって感じがするわね。まぁいいわ』
何なんだろう、この女性は。
俺が転生者であることを見抜いているのか?
そして何やら背中が寒いな・・・
後ろを見るのが怖いな・・・
『あ、そうだ。自己紹介をしてなかったわね。私の名前はナギサよ。あなた達の名前を教えてくれるかしら?』
「俺はレックス、後ろにいるのはアイラ、サーシャ、ジーナ、シェリーだ」
アイラ達とナギサがそれぞれ自己紹介をした。
自己紹介を終わった後は何やら話し合っていた。
いつの間にか俺はハブられていた。
『ねぇ、レックス殿。もし良かったら私と一緒に依頼を受けてくれないか? 私、武者修行のために和の国から1人で出てきたんで仲間がいないのよ。ね、駄目かな?』
「いや、ほら、俺達にも色々と都合ってものがあるしな・・・」
『ふ~ん、まぁいいわ。もし機会があれば一緒に依頼を受けましょうね! 約束よ』
「え、ちょっと待て、約束なんか出来ないよ」
ナギサは俺の言葉を無視してギルドを出ていった。
本当に一体何なんだろう?
あっという間の出来事に呆けているとサーシャが一言。
『旦那様が美人からのお願いを断るなんて驚きですね』
「ちょっと待て。それって俺が美人には弱いみたいじゃないか」
『いや、美人に弱いじゃなくて、美人に対してチョロいんだど思いますよ』
マジか、そんな風に思っていたのか。
そしてアイラ達のほうを見ると皆が頷いていた。
「美人なら誰でも良いってわけじゃないからな」
『『はいはい、分かりました』』
凄く適当にスルーされてしまった・・・
この件に関しては全く信用されていないな。
何が原因なのか全く分からない。
すると受付嬢が後ろから声を掛けてきた。
『えっと、レックスさん。すみません、査定が終わりましたけど・・・』
「おわ? あ、査定が終わったんですね」
どうやら受付嬢は俺達の間抜けなやり取りが終わるのを待っていてくれたようだ。
受付嬢の後ろに付いていきカウンターで報酬を受け取った。
『リバーグリズリー3匹分の報酬です。大銀貨8枚、銀貨5枚になります』
最近は大金貨や金貨に見慣れていたので大銀貨や銀貨が安く見えるな。
むしろ、これくらいが普通なんだが。
とりあえず、報酬を受け取ってギルドを出た。
「ちょっと早いけど夕食にするか?」
『なら、あの食堂に行きましょうよ。ねぇ旦那様』
サーシャの意見に皆が賛成した。
今度は辛口を食べたいとのことだった。
俺も食べてみたかったので文句は無い。
「じゃあ、皆で辛口を食べに行くとするか」
◇◆◇◆
「か、辛かったな・・・さすが辛口だな」
『『辛口は二度と食べたくないです』』
店長が、『本当にいいのか?』と何度も忠告していたのに調子に乗って辛口を注文したが大後悔だった。
あまりの辛さに味が全く分からなかった。
今は帰り道の途中にある屋台で甘いジュースを買って口の中を一生懸命中和している。
「帰ったらプリンでも食べようか?」
『『はい、少しでも口の中を普通に戻したいです!』』
キャンプ場に戻りハウステントを設置するとすぐに風呂に入った。
そして風呂の後にはプリンを美味しく頂いた。
「やっぱり、風呂の後の冷えたプリンは最高だな」
本当はコーヒー牛乳がベストなんだろうけど。
ふとアイラ達のほうを見ると俺の言葉を無視して夢中でプリンを食べていた。
これはこれでちょっと悲しいな。
プリンを気に入ってくれているのは嬉しいのだが。
それはさておき、明日は何をするかだな。
・・・うん、明日考えよう。
今日はもう寝てしまおう。
◇◆◇◆
翌朝もギルドに来ている。
馬車が出来るまでの暇潰しを兼ねての小遣い稼ぎだ。
依頼ボードを見ているが目を引くような討伐系依頼は無かった。
「採取系の依頼でも受けてみようか?」
大半の冒険者は男女共に荒くれ者だ。
なので討伐系依頼に人気が集まり採取系の依頼は残りがちになる。
1つ採取系でちょうど良さそうな依頼があった。
・湿原の周りに自生しているリザナ草の採取
湿原には色々なモンスターがいるはずだ。
なので一石二鳥ではないだろうか。
そう思った瞬間、依頼書を持って受付カウンターに並んでいた。
『レックスさん、この依頼で良いですね?』
「はい、それでお願いします」
『湿原にはオークやリザードマン等がいますので注意してくださいね』
いや、むしろリザードマンに会ってみたいんだよね。
「はい、大丈夫ですよ」
適当に返事をして早速湿原に向かうことにした。
湿原までは徒歩で1日くらいらしい。




