0057:ノーランドへ
結局、クラーケン討伐完了後は3日間、港町コナーンで休暇を満喫した後は商業都市には戻らずに次の町に向かっていた。
『ご主人様、本当に商業都市に戻らなくても良かったんですかね?』
「一応、コナーンのギルドには連絡をお願いしたから大丈夫だとは思うけどな」
各町のギルドは通信用のマジックアイテムで連絡を密に取り合っているらしい。
なので大丈夫のはずだし俺達は旅の冒険者だ。
ある日突然どこかの町に移動するのは普通のことだ。
『旦那様、それよりもこのまま進むと旦那様の生まれ故郷の村の近くを通りますよね。寄っていきますか?』
マッピングで確認すると確かに生まれ故郷のノーランドの北側を通り過ぎることになる。
「行っても何も無い村だよ?」
『私も行ってみたいな。だってレックスの両親や兄弟がいるんでしょ?』
俺は貧乏農家の五男坊で兄弟は全員男だった。
なので長男と次男は家にいるかも知れないが三男と四男は家を出て1人で生計を立てているはずだ。
実家には定期的にギルドを経由して仕送りをしていた。
仕送りをすることで俺が元気に生きていることを教えることになる。
なので、わざわざ実家に行く必要は無いんだがサーシャとシェリーがどうしても行きたいと言って譲らない。
「分かったよ。でも本当に何も無い村だからな。ガッカリするなよ」
何故かアイラもジーナも楽しみといった感じの顔をしている。
まぁ急ぎの旅をしている訳じゃないので俺の実家に寄ることになった。
◇◆◇◆
まずはコーランドの町に夕方前に到着した。
この町は俺が洗礼の儀式を受けた町だ。
洗礼の儀式から2年以上経過しているがあまり変化は無かった。
「とりあえず、今日はここで泊まって明日の朝にノーランドへ向かうとするか」
コーランドの町からノーランドの村までは半日程度の距離だ。
ここまで到着すれば急ぐ必要は無い。
キャンプ場で馬車を預けて食糧の買い出しに向かった。
ノーランドでも食糧の買い出しが出来るのでそれほど多くの食糧を買う必要は無い。
むしろノーランドで大量に食糧を購入するつもりだ。
それよりも別に買う物があったのでそちらを購入した。
無事に食糧を購入してキャンプ場に戻った。
最近は自炊生活にも大分慣れた気がする。
何よりもアイラ、ジーナ、シェリーも料理をするようになった。
その代わりと言っては何だが俺が雑用することが増えた気がする。
『旦那様、料理をテーブルに運んでね』
『レックス、テーブルを拭いて食器の準備をして頂戴ね』
しかし何だが心地良い。
これって新婚生活みたいだよな。
そしてコーランドでの一夜が過ぎた。
◇◆◇◆
翌朝、ノーランドに向かっていた。
予定では昼頃に到着するはずだ。
しかし、いざ故郷に顔を出すとなると何故か恥ずかしい気持ちになってきた。
「ねぇ、やっぱりノーランドに行くのは止めないか?」
『急にどうしたんですか? ご主人様』
『分かった! 恥ずかしくなったんだ!』
『マスターよ、駄目じゃ。行くのじゃ』
『そうよ、レックス。行くわよ』
「どうしても行くのか?」
『『もちろん!!』』
どうしても行くらしい。
諦めるしか無いようだった。
馬車は止まることなく進んでいった。
すると柵に囲まれた村が見えてきた。
「2年前と変わってないな」
村の入口が近付いてきた。
一応、村にも門があり門番がいる。
自警団の1人だった。
「やぁ、トムソンさん。久しぶりです」
『おぉ、誰かと思ったらレックスじゃないか。お前さんが冒険者になると言って村を出て以来だな』
「ちゃんと冒険者になったんだよ。旅の途中で近くに来たんで顔を出そうかなって」
『そうかそうか、なら早く親父さんとお袋さんのところに行って顔を見せてやるがいい』
そう言われて門を通り村の中に入った。
村の人口は300人程度であるため皆が顔見知りだ。
馬車は入口で預かってもらい徒歩で村の中を歩いていくと皆から声を掛けられた。
しかし注目の的は俺よりもアイラ達だった。
『よう、レックス。その美人さん達はどうしたんだ?』
村の人達に会う度に聞かれたことだ。
その都度説明するため中々実家にたどり着けない。
ようやく実家にたどり着き、家の扉を開けた。
「父さん、母さん、ただいま!」
いきなり家の扉を開けたため、父親と母親が驚いていた。
『レッ、レックスか! 久しぶりじゃないか』
『どうしたの? 急に。それに後ろの女の子は誰なの? まさかお嫁さんなのかい?』
母親の突然の言葉に父親がビックリしていた。
そういえば、アイラ達のことをどう説明するかあまり考えていなかった。
なので村の人達にした説明と同じような説明になってしまった。
暫くすると農作業をしていた長男と次男も帰って来た。
長男と次男もアイラ達を見てビックリしていた。
俺が帰って来たことはどうでも良い感じになってきた。
『こうしちゃいられないわね。全員分の夕食を作らないとね』
と言って母親が料理の準備をしようとするとアイラが手伝いを申し出た。
『『お母様、私達も手伝います!』』
狭い調理場のため窮屈そうにしながら夕食の準備を始まった。
『食料が足りないな。ちょっと買い出しに行ってくるか』
「父さん、大丈夫だよ。ちゃんと用意してあるから」
父親が食料を買い出しに行こうとしたがマジックバッグから食材を大量に取り出した。
『おいおい、こんなにたくさんは食べられないだろう?』
「まぁ、余ったら保存食にでもしてよ」
食材の次は食べる場所だな。
実家の食卓では全員が座るのは無理なので家の外で食べるしかない。
コーランドで購入したテーブルと椅子をマジックバッグから取り出した。
いつの間にか三男と四男も来ていた。
俺の家族とアイラ達との夕食が始まった。
話題は当然、俺が子供の時の話になった。
『そうだぁ、レックスは子供の時から冒険者になりたいと言っていたな。理由が女にモテるからだっけか?』
父親が突然、変なことを言い出した。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。そんな事を言ったっけ?」
『そうね、確かにレックスは子供の時からそんな事を言っていたわね』
母親も父親の言葉を否定しない。
むしろ肯定していた。
『確かにレックスはそんな事を言っていたな』『あぁ、僕も覚えているよ』
長男も次男も同じ事を言い出したな。
俺には記憶が無いんだが・・・
『それにレックスは小さい時からスケベだったよな』
『確かに。近所の女の子のスカートをよく捲っていたよな』
三男と四男も余計な事を言い出した。
確かにスカート捲りは何となく記憶がある。
しかし、アイラ達がいる前でそんな昔の事を言うかな?
『そう言えば、近所の女の子の湯浴みを覗い・・・』
「ちょっと待った! ねぇ、ちょっと、昔話はその辺で止めない?」
昔話を止めようしたがアイラ達がもっと聞きたがった。
『もっとご主人様の子供の時の話を聞きたいですね』
『まぁ、今も十分スケベなんですけどね』
『妾も興味深いのじゃ』
『もっと面白い話が聞けそうよね』
という事で俺の昔話が止まらなかった。
俺の昔話を肴にして夕食が和気あいあい(?)と進んでいった。
俺はちょっと辛いんだけどな・・・
夕食も終わり、俺達は庭にハウステントを設置して就寝となった。
◇◆◇◆
翌朝も外で朝食となった。
『レックス達はもう旅に出るのか?』
俺の家族達は少し寂しそうにしているが、こればかり仕方が無い。
「冒険者だからね。まぁまた遊びに来るから」
『くれぐれも無理だけはするなよ』
それは常に心掛けているつもりだけど中々難しいだろうな。
多少の無理はしないと冒険者稼業は務まらないしな。
短い時間ではあったが家族の元気な姿が見れたので再び冒険の旅に出発することにした。




