0055:クラーケン討伐完了
『俺達の番が来る前に倒されるんじゃねぇぞ、この烏賊野郎が!』
マダックスが余計なことを呟いていた。
俺としては俺達の順番が来る前にクラーケンを倒してもらっても全然困らない。
むしろ倒してくれれば万々歳なのだが。
1組目のチームはクラーケンに多少ダメージを与えたところで交代した。
『さすがは【風狼の牙】だな。あいつらもランクAパーティーでな』
【風狼の牙】にも魔法使いがおり風魔法でクラーケンにダメージを与えていた。
マダックスによると今回の討伐にはランクAパーティーは2パーティーが参加している。
1つが【風狼の牙】であり、もう1つが【灼熱の斧】だ。
【風狼の牙】も風魔法で遠隔攻撃をして残りが剣で斬り付けていた。
1組目のチームは十分に役目を果たした。
しかし2組目と3組目のチームが微妙だった。
クラーケンに大したダメージを与えることが出来ないばかりか逆にダメージを喰らっていた。
そのため、予定よりも早く俺達の出番がやって来てしまった。
『よっしゃあー! やっと俺達の出番が回ってきたな!!』
マダックスは嬉しそうにしている。
俺はやれやれといった感じなんだが。
「仕方が無い、行くか」
攻撃支援、防御支援、回避支援、強化支援を発動した。
準備は完了したので【灼熱の斧】に遅れないようにクラーケンを向かって行った。
マダックス達との事前の打ち合わせ通り、まずはサーシャとシェリーが魔弓と火魔法で先制攻撃を放った。
【灼熱の斧】からも同じように弓矢と魔法が撃ち込まれた。
向こうは風魔法の使い手のようだ。
『よっしゃあー、野郎共! 突っ込むぞ!』
【灼熱の斧】は確かに野郎共だが、俺達は違うんだが・・・まぁいいか。
『俺達は左側を担当するからお前達は右側を頼むぞ!』
「分かった!」
俺達が右側を担当することになった。
確か烏賊は足が8本、触腕が2本だったな。
クラーケンも同じように足が8本、触腕が2本のようだ。
足でも触腕でもいいが、少なくとも5本を担当しないといけないな。
「ジーナ、挑発を使えるか?」
『了解なのじゃ、マスター!』
ジーナが使ったようでクラーケンの攻撃がジーナに集中し始めた。
『この烏賊野郎! 女を狙ってねぇで俺達を狙わねぇか!!』
クラーケンがジーナを狙っていることに対してマダックス達が怒っていた。
わざとジーナに攻撃を集中するようにしているんだけどな・・・
マダックス達は思っていた以上に紳士のようだった。
ジーナの挑発のおかげでクラーケンの足に対する攻撃はしやすくなっているがクネクネとしているため、大きなダメージが与えられない。
ここはサーシャとシェリーの魔弓と魔法攻撃でもう少しクラーケンを弱体化させたほうが良さそうだ。
「サーシャ、シェリー、連発出来るか?」
『補給さえあれば余裕だよ』
『私も大丈夫だよ、レックス』
「アイラ、ジーナ、という事で少し魔力支援に集中するから!」
『了解しました、ご主人様』
『任せるのじゃ、マスター』
「よし! サーシャ、シェリー! やるぞ!」
『『おぅ!!』』
サーシャとシェリーが掛け声と共に連射モードになった。
さすがに魔弓のほうが連射が早いがシェリーも詠唱短縮があるので中々のスピードで魔法を連発している。
『おぉぉぉ! すげぇな!』
マダックス達が俺達というか、サーシャとシェリーの連射に驚いているようだ。
【灼熱の斧】にも弓使いと魔法使いがいるがサーシャやシェリーほどの連射は出来ていない。
もちろん、【灼熱の斧】の弓使い、魔法使いのほうが一発の威力が高そうではあるが、手数ではこちらのほう上だ。
『なんであんなに連発出来るんだ?』
さすがにあり得ないレベルで連発していることに気が付いたようだ。
魔力支援のことは後で聞かれるかも知れないな。
『おらぁ! お前らぁ! 小僧達ばっかりに良いところを持っていかれるなよ!』
『『おぉぉぉ!!!』』
マダックスが【灼熱の斧】の他のメンバーに活を入れた。
やはりランクAパーティーは違うな。
マダックスの一言で動きが一段上がった。
クラーケンとの戦闘時間がどれくらい経過したのか分からない。
さすがに俺の魔力が大分減ってきた。
無限魔力で回復する以上にサーシャとシェリーの魔力消費が激しい。
俺が疲弊してきたのが分かったのかダミッシュが交代の合図をした。
『レックス達だけ一旦交代しろ! チーム5、行け!』
マダックス達はまだ続行らしい。
確かにマダックス達はまだまだ戦えそうだ。
俺達はチーム5と交代して下がった。
するとダミッシュが俺に声を掛けてきた。
『お前達、少し休憩したら行けるか? もう少ししたら総攻撃を仕掛けるぞ!』
ダミッシュがクラーケンのほうを指差しするとクラーケンが大分波打ち際から浜辺に上がって来ていた。
・・・いや、今は引き潮の時間帯なのか。
確かに総攻撃を仕掛けるには丁度良いタイミングなのかも知れない。
「あと10分、いや5分あれば行けますよ!」
『よし、いい答えだ! 頼むぞ! お前達も5分後に総攻撃を仕掛けるからな、頼むぞ!』
『『おぉ!! 任せておけ!!』』
他のパーティーも気合いたっぷりだ。
今すぐにでも戦闘に行けそうな様子だった。
そして5分後にダミッシュが総攻撃の合図を出した。
『全員に告ぐ! 今から総攻撃を仕掛けるぞ! ここで一気にクラーケンを倒すぞ!!』
『『おぉぉぉ!! 行くぞー!!!』』
再度、攻撃支援、防御支援、回避支援、強化支援を発動して俺達もクラーケンに突撃した。
「サーシャ、シェリー、さっきと同じように魔弓と魔法を連射していいぞ!」
『了解です、旦那様』
『マスター、分かったのじゃ』
サーシャとシェリーがそう言うと魔弓と魔法を放ち始めた。
しかし2人とも全く遠慮しないな。
俺の魔力をガリガリと削ってくるな。
『おぉ、坊主達も復活してきたか!』
マダックス達はずっと戦い続けているはずなのにまだまだ元気そうだった。
一方のクラーケンは大分弱ってきているようだ。
本体は魔法で焼かれたり、矢を突き刺されたりしており、足に関しては斬り落とされたりはしていないがボロボロだった。
『一気に畳み掛けるぞ! ここが勝負どころだぞ!』
ダミッシュが鼓舞し冒険者達も応えた。
『『おぉぉぉ!!!』』
確かにここが勝負どころだ。
「サーシャ、シェリー、俺も前衛に向かう!」
『分かったよ、頑張ってきてね』
『レックス、怪我しないようにね』
魔力支援に使っていた魔力を村正に回した。
ボロボロになっていたクラーケンの足に向かって魔力を込めた村正を振り下ろした。
ザシュっという音と共にクラーケンの足を斬り落とした。
『おぉ! やるじゃねぇか、小僧! 野郎共! 小僧に続けぇ!!』
マダックスの声だ。
その声に続くようにアイラもクラーケンの足を斬り落とした。
アイラの場合は力ずくというわけではなく双剣による連撃によるものだった。
10組の冒険者パーティーによる総攻撃だ。
しかも浜辺に上がったクラーケンは素早い動きが出来ない。
太い足や触腕で反撃してくるが、その足も1本ずつ斬り落とされていく。
その足も最後の1本が斬り落とされるとクラーケンは何も出来なくなった。
そしてついにクラーケンが動かなくなった。
クラーケンは魔石とドロップアイテムに姿を変えた。
『よっしゃあー!』
『どうだ、この烏賊野郎が!』
『ははは、思いしったか!』
冒険者達が歓喜の声を上げていた。
『おい、見ろよ。このクラーケン、宝箱を落としたぞ!』
『おぉ! マジか!』
あれ? この場合はどうするんだ?