0040:シェリーの気持ち
シェリーと別れて洞穴の奥に向かった。
すると奥から明かりが見えてきた。
宴会の馬鹿騒ぎの声も大きくなってきた。
洞穴の壁際に沿って進んで行き、奥を覗くと空洞があった。
空洞は中々広く、空洞の中央で人狩り集団が宴会をしていた。
人数は全部で10人いたが、これなら奇襲を掛ければ何とかなりそうだ。
『ぎゃははは、今回もチョロいもんだったな』
『がははは、これで暫くは遊んでいられるな』
『しかし、冒険者が調査に来たということはアジトを変えないといけないな』
『あの女は高く売れそうだが、残りの野郎共は明日にでも始末しないとな』
グレン達は明日殺されるところだったのか。
悪運がいいな。
「とりあえず、サーシャが魔弓を放ったらジーナを先頭に突撃するでいいかな?」
『問題無いです、ご主人様』
『了解です、旦那様』
『異論無いのじゃ、マスター』
作戦の中身はいつも通りだ。
ただ、俺のパーティー構成から良い作戦だと自負している。
「よし、行くぞ!」
サーシャが魔弓を放った。
『ぐあぁぁぁ』
『なんだ? 敵襲か!』
『くそっ、見張りは何をしてたんだ?』
慌てている人狩り集団にジーナが大盾で突進をかけた。
俺はジーナに吹き飛ばされた連中を斬り倒しており、アイラはジーナの吹き飛ばせなかった連中を相手している。
宴会中だった人狩り集団は非常に脆かった。
反撃らしい反撃も無かった。
『レックス、グレン達を連れてきたわよって、あれ? もう終ったの?』
シェリーがグレン達を救出してきたようだが、既に人狩り集団は全員倒していた。
ようやく空洞に到着したグレンが聞いてきた。
『レックス、これはお前達が倒したのか?』
「そうだね。俺達で倒したよ」
グレン達は信じられないといった表情をしていた。
しかし以前のように憎しみが籠った表情とは少し違う感じだった。
とりあえず倒した人狩り集団を1ヶ所に集める作業を開始した。
何故なら人間の死体を放置しておくと病原菌が繁殖するかアンデッド化するために火葬しておく必要がある。
俺とグレン、マッカス、ダンの4人で人狩り集団の死体を1ヶ所に集めた。
そしてシェリーの火魔法で火葬した。
その後、メサリアの町まで戻ることにした。
俺達はギルドの依頼を受けていないので放置でも問題は無いのだが、グレン達はギルドの依頼として受けていた。
なのでギルドに報告する必要があるのだ。
『レックス、すまないがメサリアの町まで一緒に来てくれないか?』
とグレンに頭を下げられたのでメサリアの町に戻ることにしたのだ。
何故か分からないが、今のグレン達は以前俺達を殺そうとしたグレン達とは雰囲気が違う。
なんか毒気が抜かれた感じがする。
なのでグレンの申し出を受けてメサリアの町に向かっている。
◇◆◇◆
途中で仮眠を取ったため、メサリアの町に到着したのは翌日の夕方になってしまった。
メサリアの町に到着するとギルドに真っ直ぐ向かった。
ギルドに到着するとグレンが受付カウンターにいた受付嬢に報告した。
『俺達、【紅蓮の刃】が受けた人狩り集団の調査依頼だが・・・依頼は失敗した。』
受付嬢は渋い表情をしてグレンの話を聞いていた。
まぁ、元々依頼で失敗しているのは承知しているはずだ。
俺達にも調査依頼を受けさせるつもりだったからな。
そしてグレンは話を続けた。
『俺達は依頼を失敗したが、後ろにいるレックス達が人狩り集団を討伐した。ギルドで人を出して確認して欲しい。場所を教えるから地図を出してくれ』
受付嬢が地図を取り出すとグレンが地図に印を付けた。
確かに人狩り集団のアジトがあった場所だ。
そして、最後にグレンが驚きの言葉を口にした。
『俺達、【紅蓮の刃】の解散手続きを頼む』
グレンはパーティーを解散すると言った。
『本当にパーティーを解散するんですね?』
『・・・あぁ、頼む』
一瞬聞き間違いかと思ったが、受付嬢が確認を行ったので聞き間違いじゃなかった。
『分かりました。では報告としては、【紅蓮の刃】の解散と、レックスさん達が先に人狩り集団を討伐したため、【紅蓮の刃】への依頼は未受領としておきますね』
『・・・それでいいのか?』
『ええ、構いませんよ。こちらとしては人狩り集団がいなくなれば良いので』
受付嬢の粋な計らいだった。
『ただし、レックスさん達は依頼を受けていませんから報酬は普通の盗賊討伐分だけですよ』
受付嬢はニッコリと笑いながら言った。
粋な計らいは俺達には無さそうだった。
まぁ俺達は依頼を受けていないから問題無いけどな。
『レックス、ちょっと話があるんだが・・・』
グレンに連れられてギルドの隅っこに行った。
そこでグレンから思いがけない提案があった。
『レックス、俺とマッカスとダンは故郷の町に戻るつもりなんだが、シェリーはお前達のパーティーで引き取ってくれないか?』
「は? 何を言っているんだ? シェリーもグレン達と同郷なんだろ?」
『そうなんだが・・・シェリーは孤児院上がりでな。帰る家が無いんだよ。それにシェリーはレックスに惚れているしな』
は? 今、グレンは何を言った?
シェリーが俺に惚れている?
そんなはずは無いだろう?
結構酷い仕打ちを受けた記憶しか無いぞ?
俺の頭の中がグルグルしている・・・
『レックス、まさか気付かなかったのか?』
気付くも何もそんな要素が全く記憶に無いんだが・・・
『レックス、よく思い出せ! ほら、あの時のこととか・・・あんなこともあっただろう?』
グレンが色々と以前にあったことを説明してくれたが、一つ一つがとても惚れられている要素には結び付かない。
むしろ嫌われているとしか思えない・・・
『・・・ふぅ、まぁレックスが鈍いという事が良く分かったよ。ただ一度、シェリーとレックスのパーティーメンバーと話し合ってくれないか? その結果、駄目ならシェリーのことは俺が何とかするから』
グレンに言われた仕方無く、アイラ、サーシャ、ジーナ、シェリーと話をする場を設けた。
グレンから言われた、グレン達は故郷に帰るつもりだが、シェリーは孤児院上がりなので帰る家が無いこと、なのでグレンから俺のパーティーで引き取って欲しいと言われたことを伝えた。
シェリーが俺に惚れているという不確実な情報は伏せた。
というか、シェリーが俺に惚れているなんてあり得ない話だ。
あり得ない話を持ち出すと場が揉めそうなので伏せておくべきだ。
「・・・と言うことで、グレンからシェリーを引き取って欲しいという話だ。みんなの意見を聞きたい」
シェリーは顔を伏せているので表情が読み取れないが不安そうにしている。
そして無言の状況が続いていたが、ここでサーシャが切り出した。
『あなた、旦那様のことが好きなんでしょ?』
へ? 何を聞いているんだ?
聞くことが違うんじゃないのか?
『そ、そんなことは無いわよ。私はグレン達を助けてくれたら奴隷になるって約束を果たすだけよ』
あぁ、確かにそんなことを言っていたような気がするな。
でも、俺はそれについては了承していないから約束は成立していないのでは?
『いや、私は旦那様のことが好きじゃない人と一緒にいるのはお断りですね』
『そうですね、それにその約束ですがご主人様は了承していなかったはずですしね』
アイラも覚えていたようだ。
『そ、そんな・・・』
『妾もアイラ、サーシャと同じ気持ちじゃ』
シェリーは身体をプルプル震わせている。
ひょっとしたら怒っているのか?
『分かったわよ! 正直に言うわよ! 私はレックスのことが好きなのよ! これでいいでしょ!』
え? なんで?
シェリーが俺に惚れているの?




