0039:人狩り集団のアジトへ
「まさか、シェリーなのか・・・?」
かつて俺を解雇した【紅蓮の刃】のパーティーメンバーの1人だ。
シェリーはバツが悪そうな顔をしている。
まぁ、以前俺達を殺そうとした訳だし当然といえば当然か。
『この際、レックスでもいいわ。お願いよ、グレン達を助けて・・・』
俺でもいいとは随分な言い草だな。
シェリーは相変わらず高飛車な性格をしていた。
『は? あなた、自分が何を言っているのか分かっているの? 少し前に旦那様や私達を殺そうとしておいて!』
シェリーの言葉にサーシャが怒り出した。
そりゃ当然だよな。
サーシャの言う通り、俺達のことを殺そうとしたんだからな。
サーシャの言葉にシェリーはうつ向いてしまった。
さすがの高飛車シェリーもかなりむしの良いことを言っているということが分かっているようだ。
『分かっているわよ・・・自分でも無茶苦茶な事を言っているって分かっているわよ! でも早くしないとグレン達が人狩りの連中に殺されてしまうのよ!』
シェリーが泣きながら俺達に訴えてきた。
『もし・・・もしもグレン達を助けてくれるなら、私がレックスの奴隷になってもいい・・・だからグレン達を助けて・・・下さい。お、お願い・・・します』
あの高飛車なシェリーが土下座をして額を地面につけてきた。
かつてのシェリーから想像出来ない姿だった。
『あ、あなたねぇ、そんな事をしたって旦那様や私達を殺そうとしたことが無かったことには出来ないんだからね!』
確かにサーシャの言う通りだ。
グレン達が俺達に対してしたことは許せない。
そこに関してはサーシャと同じ気持ちだ。
だが、今のシェリーの姿を見ているとグレン達を見捨てることが出来ないな。
「シェリー、頭を上げてくれ。グレン達が捕まっている場所まで案内出来るか?」
すると頭を上げたシェリーの顔は涙と鼻水で顔が凄い汚れていた。
『旦那様! まさか、こいつらを助けてやるつもりですか?』
サーシャが少し怒り気味で俺に問い掛けてきた。
まぁサーシャの気持ちはよく分かる。
普通なら見捨てるのが正解だろう。
「アイラ、ジーナ、それにサーシャ。すまないけど俺に協力してくれないか? グレン達を助けてやりたいんだ」
シェリーの姿を見ているとグレン達を助けてやりたいというよりはシェリーの願いを聞いてやりたい、そんな感じだ。
『ご主人様、分かりました。納得はいきませんがご主人様の頼みなら』
『妾も異存は無いのじゃ。マスターの頼みなら何でも聞くのじゃ』
あとはサーシャだけだ。
サーシャの顔をじっと見た。
『うぅぅぅ、分かったわよ! 行けばいいんでしょ、行くわよ!』
これで全員一致した。
グレン達を助けに行くことにした。
シェリーがアイラ達に何度もお礼を言っていた。
あれ? 俺にはお礼が無い気がする・・・
まぁいいけどさ・・・
早速、シェリーの案内で森の奥に入っていった。
「シェリー、この奥に人狩り集団のアジトがあるのか?」
『えぇ、そうよ。私達はギルドの依頼で人狩り集団のアジトを調査しに来たんだけど、アジトを見つけたんだけど同時見つかってしまったのよ』
シェリーが言うには、人狩り集団に捕まっていたがシェリーだけ隙を見つけてアジトから抜け出したらしい。
おそらく魔法使いを非力だから監視が緩かったのが幸いしたらしい。
だが、シェリーが抜け出したことがバレると間違い無くグレン達は拷問を受けるか、下手をすると殺される可能性がある。
シェリーの案内に従って森の奥に進んでいる。
そんな中、サーシャが小声で俺に話し掛けてきた。
『旦那様、もしかして彼女達が人狩りの仲間になっているということは無いですかね?』
サーシャの疑念はもっともであるが俺はそんなことは無いと思っている。
あの高飛車なシェリーが演技で土下座は出来ても、涙や鼻水を垂らすなんて真似は出来ないだろうからだ。
「う~ん、今回だけは信じても大丈夫だと思うかな」
『分かりましたよ。でも嘘だと判明したら私の魔弓であの女を貫いてやりますからね』
「あぁ、もし嘘だと判明したら遠慮しなくていいよ」
街道から森の奥に進むこと30分ほど経過した。
『そろそろ人狩り集団のアジトに着くわ』
シェリーがそう言ってきた。
『ご主人様、確かに人の気配が感じます。数としては15~16人ほどかと思われます』
『・・・確かにグレン達を含めると人数はそのくらいだけど、何でこの距離でそんなに正確な人数が分かるのよ?』
「うちのアイラは優秀だからかな」
シェリーが非常に驚いた顔をしていた。
シェリーは俺よりも2年多く冒険者をしているが、その経験からしてもアイラの気配を探知する能力がずば抜けているということか。
『あそこに小さい岩山があるのが見えるかしら?』
シェリーが指差しした方向を見ると確かに小さい岩山が見えた。
『あそこの岩山に洞穴があるのよ。そこが人狩り集団のアジトよ』
ゆっくりと足音を立てないようにアジトに近付いて行った。
アジトまで残り50mほどのところまで近寄った。
これ以上はバレる可能性が高くなる。
「見張りが2人いるな。サーシャ、魔弓と誘導矢で見張りを倒せるか?」
『う~ん、結構距離があるよねぇ。何とかなるとは思うけど・・・』
何とも頼りない返事だ。
そうなると保険が欲しいな。
「ならばこうするか。アイラが見張りの所まで全力で走り始めたら、サーシャが魔弓で見張りを倒す。もしサーシャの魔弓で倒しきれなくてもアイラの走力ならすぐに倒せるだろう?」
『そうですね、ご主人様。多分ですが大丈夫だと思いますよ』
『なるほど。いいアイディアですね。旦那様』
『マスター、妾はどうすれば良いのじゃ?』
「ジーナは俺と一緒に行動だな」
俺達の会話を聞いていたシェリーがポツリと呟いた。
『・・・レックス、少し変わったわね。以前はもっとオドオドしてたのに』
「そうかな? まぁ今はパーティーのリーダーをしているからかな」
まぁ、【紅蓮の刃】にいた時は途中から自分の力が役に立っているか分からず疑心暗鬼になっていたからな。
今は昔と違って支援が役に立っている自信がある。
「今はそんなことよりも見張りを倒すことに集中しようか」
アジトの入口に2人の見張りがいた。
あまり緊張感が感じ取れないな。
まだシェリーが逃げ出したことを悟られていないようだ。
「攻撃支援、防御支援、回避支援、強化支援
発動! よし、行くぞ!」
『『はい!!』』
アイラが走り始めてサーシャが魔弓を放った。
それに続いて俺、ジーナ、シェリーもアジトの入口に向かって走り始めた。
シェリーには俺の支援効果は無いので俺達に付いて来れない。
サーシャの魔弓で見張りの1人はすぐに死んだようだが、もう1人は息があったがすぐにアイラの手で息の根を止められた。
「アイラ、奥にいる人狩り集団にはバレていなさそうか?」
『・・・はい、大丈夫そうです』
「よし、シェリー。中を案内出来るか?」
『そ、そんなの無理よ、私だって逃げるのに精一杯だったし・・・』
まぁそうかもな。
そうすると少しずつ中を進むしか無いのか。
面倒臭いけど仕方が無いな。
聞き耳を立てて入口の奥から音がしてこないか確認してみると奥から笑い声っぽい音がした。
「ひょっとしたら宴会でもしてるのか?」
『確かにそんな感じの声ですね、ご主人様』
だからシェリーが逃げ出したことにまだ気が付いていないのか。
人狩り集団に間抜けで助かったな。
とりあえず、アイラとジーナを先頭にしてゆっくりと岩山の洞穴を進んでいる。
次第に人狩り集団が宴会している声が大きくなってきた。
かなりの馬鹿笑いだった。
「グレン達は何処にいるんだろうな」
出来れば戦闘の邪魔にならないところに居てくれれば良いのだが。
『あ、それなら途中に脇道があるばすよ。そこに簡単な作りの牢屋があるわ。私が入っていった牢屋がボロかったから抜け出せたのよ』
「見張りはいなかっのか?」
『えぇ、ちょうど見張りがいなくなったタイミングで逃げ出したのよ』
なるほどね、かなり適当な集団のようだな。
歩いていくと確かに脇道があった。
そしてアイラが確認したところ、脇道の先には見張りがいなかった。
「じゃあ、シェリーはグレン達を救出してやってくれ。俺達は人狩り共を倒してくるから」
シェリーが頷くと俺達は先に進むことにした。




