0036:次の目標
アルール爺さんの話を聞いたが、アルール爺さんもサーランドの出身者だった。
そのためサーランドを滅ぼした元凶のモンスターには怒りを覚えていたらしい。
なのでサーランドに巣食っていたモンスター達を倒すのに貢献した俺達に何度もお礼を言っていた。
『それじゃあ、宝箱の解錠を行うぞ。地下室に移動するから付いてきてくれ』
お礼も終わり、本来の目的で宝箱の解錠に取り掛かってくれた。
移動先の地下室は意外に広かったがあるのはテーブルだけだった。
アルール爺さんはテーブルの上に置いた宝箱に両手を添えて何やら呪文を唱え始めた。
すると宝箱から無数の鍵が飛び出し宙に浮いていた。
『うわぁ、何コレ? 凄くないですか? ねぇ旦那様』
確かに凄い光景だ。
そして驚いている俺達を無視してアルール爺さんは宙に浮いている鍵を1本ずつ宝箱に差し込んでいく。
宙に浮いている鍵は全部で30個くらいある。
アルール爺さんは1本1本の鍵をじっと見ては丁寧に宝箱に差し込んでいった。
そして最後の鍵が差し込み終わった瞬間に宝箱から宝が溢れ出てきた。
「す、すげぇ・・・」
『凄いです、ご主人様・・・』
『何コレ? 凄すぎだよ、旦那様・・・』
『マスター、驚きなのじゃ・・・』
『ほほほほ、これは中々じゃのう。金の宝箱にも匹敵する量じゃのう』
◇◆◇◆
宝箱から出てきた物を整理したところ
・金貨300枚、大銀貨200枚
・マジックハウステント
・魔法スクロール x3
魔法スクロールは使い捨てマジックアイテムで使うと魔法が覚えらる代物だ。
簡単に魔法が覚えられるが非常に高価で一般人には購入出来ない。
『儂には分からんから、魔法スクロールはアイテム鑑定屋で鑑定してもらってくれ』
これはアルール爺さんの言う通りだな。
そしてマジックハウステントだが、これが今回の大当たりなのかも知れない。
何が大当たりかと言うと広げると普通の6人用テントのサイズなのだがテントの中に入るとハウスという名前の通り家になっていた。
「すげぇな・・・これ・・・」
『ご主人様、これって家ですよ』
『旦那様、ここに住めますよ』
『マスター、ビックリなのじゃ』
ハウステントの中は2階建てになっていた。
アルール爺さん曰く、ハウステント自体はそれほど珍しい物では無いらしい。
ハウステントには空間拡張の魔法が施されているらしく見た目よりも中が広いのだが、このハウステントの広さは格別とのことだ。
『普通は金の宝箱から出るもんなんじゃがな。それにしても広いのう。こんな広いハウステントは初めて見たのう』
この際、宝箱の色なんてどうでも良いことだ。
ちゃんとした家になっていることが重要だ。
すると勝手に2階に行ってしまったサーシャが叫んでいた。
『旦那様、2階に変わった桶があるよ!』
桶? なんでそんなものが? と2階に行ってみるとサーシャが桶と呼んでいた物は風呂だった。
一般人には風呂は馴染みが無いから分からなかったのだろう。
ハウステントの間取りを確認したところ
リビングが14畳 (1階)
キッチンが6畳 (1階)
寝室が10畳 (2階)
バスルームが10畳 (2階)
トイレが1階と2階に2ずつ
といった感じだった。
今の宿屋暮らしと比較するとかなり豪華だ。
「そういえば、確かアルールさんへの報酬は宝箱の中身の3割だっけ? マジックハウステントと魔法スクロールの価値ってどれくらい?」
『ほほほ、マジックハウステントと魔法スクロール3つじゃと、恐らくは白金貨100枚は下らないじゃろうな』
「し、白金貨100枚? それの3割だと白金貨30枚か・・・」
とても払えないぞ。
そうなると折角のマジックハウステントと魔法スクロールを売らないといけなくなるな。
俺がガックリしているとアルール爺さんは
『儂の取り分は金貨100枚で大丈夫じゃ』
と言ってくれた。
「でも、それだと本来の報酬の30分の1にしかならないですよ?」
『ほほほ、お主達はサーランドの敵を取ってくれた恩人じゃからのう。これ以上貰ったらバチが当たるからのう』
せめて金貨200枚でもと渡そうとした。
『儂には金貨100枚でも十分過ぎるくらいじゃ』
そういってアルール爺さんは金貨100枚以上は受け取ってくれなかった。
なので最後は丁重に礼を言ってアルール爺さんの家をあとにした。
宿屋への帰り道だ。
『旦那様、早くお風呂を使ってみたいです』
『ご主人様、旅のキャンプ場に行ってみますか?』
冒険者の中には町に定住しないで色んな町を旅している冒険者も多い。
そういった冒険者はテントを持参しているため、旅をしている冒険者向けにキャンプ場を用意している町が多い。
そして、このノースランドにも旅のキャンプ場はある。
「よし、行ってみるか」
旅のキャンプ場に行ってみると意外にもテントで生活している冒険者が多かった。
確かに宿屋と比較すると金が掛からない。
しかも身体を拭くためのお湯は桶を借りると無料らしい。
そして意外にも女性冒険者もそれなりにいた。
早速、旅のキャンプ場でハウステントを広げてみることにした。
広げたときの大きさは周囲のテントと比較しても違和感は無い大きさだ。
そして中に入ってみるとやっぱり広い。
「改めて入ってみると凄いよな」
俺が感動しているのを無視してサーシャが急かせてきた。
『旦那様、そんなことよりもお風呂ですよ』
2階に上がり風呂場に入った。
浴槽のサイズも6畳くらいはありそうでかなり広い。
『ご主人様、お風呂ってどうやって使うものなんですか?』
そうか、アイラ達は風呂を見たことが無いのか。
説明書みたいなものが無いか探してみると壁に使い方の説明があった。
「ふ~ん・・・なるほどね」
まずは浴槽に付いている宝石に魔力を流し込むと浴槽にお湯が張られていく。
『『おぉぉぉ!!』』
浴槽にお湯が張られたところでサーシャが服を着たまま浴槽の中に入ろうとしたので慌てて止めた。
「そうじゃないんだよ。服を脱いで身体を洗ってから入るんだよ」
そう言うとアイラ達は何も言わずに服を脱ぎ始めた。
まぁ今更だけど恥じらいは微塵も無いな・・・
「あ、そういえば桶が無いな。仕方無いな、今日はそのまま入るか」
浴槽に入ると身体の中から温まる感じがして気持ちが良い。
転生してから1度も風呂に入っていなかった。
そもそも風呂が一般的でないのと貧乏農家に転生したから仕方が無いのだが。
『ご主人様、ポカポカして気持ちいいです』
『温かいよねぇ』
『ぬくぬくなのじゃ』
3人とも非常に気持ち良さそうにしていた。
俺もアイラ達の事は言えず風呂を満喫した。
元日本人なので風呂が大好きなのを実感した。
1時間あまり風呂を堪能して宿屋に戻ることにした。
もちろん途中で風呂で使うための桶を買った。
宿屋で夕食を食べた後、次に行く町を決めるための会議を開催した。
ベッドの上でゴロゴロしながらだが。
「さてと、そろそろ真面目に次に行く町を決めようか」
『目的地を決める前にご主人様の方針を決めましょうか』
アイラの言う方針とは冒険者ランクを上げるために強くなることを優先にするのか、それとも金を稼ぐこと優先にするのかということだ。
「どちらかと言えば、強くなるほうを優先したいな」
強くなって冒険者ランクも上がれば金は後からついてくるだろうし、この世界は厳しいから弱いと普通の生活も難しいだろう。
『ご主人様、であるなら辺境都市が1番ですよ』
辺境都市は名前の通り、辺境にある城塞都市と聞いている。
そして辺境には高ランクモンスターが多くいるとも聞いている。
ただし、ノースランドからはかなり遠い。
途中で色んな町を巡ることも出来るな。
「なら、辺境都市を目指すとするか」




