0003:ソロ冒険者になった
2年間も一緒にパーティーを組んでいたメンバーから突然解雇を言い渡された。
いや、突然では無いな。
明らかにその予兆はあった。
俺はそれに気が付かない振りをしていただけだった。
本当に俺は馬鹿だな。
そして俺はグレン達の笑い声から逃げるようにして宿屋を飛び出した。
その後は初めて飲んだ酒に酔っ払ってしまい、これまた初めての喧嘩をした。
喧嘩の理由はまったく覚えていないが原因はきっと俺だろうな・・・
ただ喧嘩をしたことだけはハッキリと覚えている。
顔が痛いしな。
その後も酒を浴びるように飲んでしまい気が付いたら道端で仰向けになって寝転んでいた。
そして意味も無く夜空を眺めながらステータスウィンドウを開いていた。
「神様の糞野郎がもっと良いジョブを授けてくれればこんな惨めな思いをしなくても良かったのにな・・・」
そして開いたステータスウィンドウをふと見てみるとステータスウィンドウに変化があることに気が付いた。
名前:レックス
種族:ヒューマン
年齢:17
レベル:3
ランク:F
ジョブ:支援術士
ジョブスキル:
【攻撃支援】【防御支援】【回復支援】
加護:
【神の恩恵】【無詠唱】
【ジョブスキル全体化】【無限魔力】
「な、なんだ・・・今まで読めなかった2つの加護が・・・読める」
【ジョブスキル全体化】
ジョブスキルが使用者も含めてパーティー全体に適用される。
【無限魔力】
魔力が無限になる。
「これって支援魔法が俺も含まれるのか? それに魔力が無限って、チート過ぎるだろ・・・」
あまりの変化に俺の頭が追い付かない。
ただ、今までは戦闘に参加出来なかったが今後は戦闘に参加出来るかも知れない。
「そ、そうだ、グレン達に・・・って、今さらだよな。俺は馬鹿だな・・・」
グレン達に知らせようかと思ったが思い留まった。
クビになった俺がこんなことを言っても信用されるはずが無いよな。
とりあえず明日からはソロの冒険者として頑張ってみるしか無いよな。
どこまでやれるか分からないけど・・・
しかし、なんで今頃になって加護が使えるようになったんだろうな。
考えられるきっかけは酒か喧嘩か神様の悪口しか無いよな?
もし本当に神様の悪口がきっかけなら本当に意地悪な神様だよな。
「あ、そういえば【神の恩恵】も中の説明が読めなかったんだよな。もしかしたら読めるようになっているかも知れないな」
ステータスウィンドウに表示されている【神の恩恵】を選択してみた。
《これを読めたということは儂の悪口を言ったということだな。そのくらいの図太さは多い結構だ。その心意気に敬意を表してこれをやろう。神より》
「・・・は? まさか、これだけなのか? 神の野郎、舐めてるのか?」
ステータスウィンドウの【神の恩恵】を睨み付けていると文字が変化していく。
【神の恩恵】が【経験値2倍】に変わった。
「・・・え? ナニコレ? まさか神のイタズラなのか?」
もう何がなんだか分からないな。
今は考えるのも嫌になってしまった。
「今日はとにかく疲れたな・・・もう宿に戻って寝るとしようか・・・」
とりあえず、今日のことはすべて綺麗さっぱりと忘れることにしよう。
◇◆◇◆
翌日の目覚めは最悪だった。
人生初の二日酔いで頭痛が酷い。
「・・・くそ、もう二度と酒は飲まないぞ」
そんなことよりも頭痛を何とかしたい。
「あ、そうか。回復支援が使えるかな?」
回復支援を使用してみると頭痛が和らいでいくのがハッキリと分かる。
「すげぇ、回復支援って二日酔いにも効くのか」
無限魔力を有効活用して回復支援を連続して発動したところで二日酔いの頭痛は完全に治った。
無限魔力に目覚める前なら回復支援を3~4回も使用したら立ち眩みをしていたはずだ。
これなら攻撃支援と防御支援を使いまくれば俺でもなんとかソロでやっていけるかも知れないな。
そう思うとやる気が出てきた。
宿屋の朝食を食べた後、急いで冒険者ギルドに向かった。
ギルドに到着すると真っ先に依頼書ボードに向かった。
依頼書ボードには各冒険者ランクに応じた複数の依頼書が貼り付けられている。
冒険者はその依頼書の中から自分の受けたい依頼書を持って受付カウンターで依頼の受注をする仕組みになっている。
受付カウンターは複数あるがお気に入りの受付嬢がいるカウンターに並んだ。
「ルイーザさん、このゴブリン討伐の依頼を受けたいんですけど」
このルイーザさんは金髪で垂れ目が可愛いらしく、しかも異世界にありがちな巨乳の美人さんだ。
『あら、レックスさん。今日はお一人なんですか? グレンさん達はどうしたんですか?』
ちょっと言葉に詰まる質問が来た。
でもまぁ、すぐに噂になるだろうから自分から説明するとしよう。
「ははは、実は【紅蓮の刃】から解雇されちゃいました・・・」
思わず乾いた笑いが出てしまった。
『え? そんな・・・【紅蓮の刃】はレックスさんの支援魔法があったからこそランクが上がったはずなのに・・・』
ルイーザさんは優しいな。
解雇された俺を気遣ってそんなことを言ってくれてるに違いない。
「まぁ解雇になってしまったものは仕方が無いんで。なので暫くはソロで頑張ってみようと思ってるんですよ」
『でも本当にソロで大丈夫なんですか?』
ルイーザさんが本当に心配しているな・・・
やっぱり俺は弱かったりするのかな?
一瞬、心が傾きかけたが何とか立て直した。
暫くはソロで頑張ってみると言ったからにはやるしかない。
「大丈夫ですよ。本当にヤバければ逃げてきますから」
『う~ん、分かりました。でも本当に危険なことはしないで下さいね。逃げるのも作戦のうちですからね』
ここまで言われると何故か少し悲しいな。
とりあえず、町を出て近くの森に向かった。
ゴブリンが無限に増殖するのでゴブリンの森と呼ばれている森だ。
ゴブリンは130cmくらい身長で全身が緑色の皮膚をしたブサイクな顔をしたモンスターだ。
ゲームの世界でのゴブリンは雑魚キャラが定説であるが実際のゴブリンは面倒だった。
雑魚ではあるがとにかく数が多い。
1匹2匹倒しても次々と襲い掛かってくる。
なので決して油断は出来ないモンスターだ。
早速ゴブリンの森の中に入っていく。
出来る限りの足音を立てないようにだ。
ここにはグレン達と一緒に何度も来たことがあったがここまで緊張はしなかったな。
これがソロでの冒険か。
普段とは緊張感が全然違う。
モンスターに先制されたら命の保証が無い。
そういった緊張感からか、やたらと喉が渇く。
すると右側からパキッと枝が折れる音がした。
『ギャギャ』
『グギャギャ』
ゴブリンの声が聞こえてきたのと同時に5匹のゴブリンが襲い掛かってきた。
「攻撃支援、防御支援、発動」
ゴブリンは非常に身軽だ。
まるで猿のように木に登り、木の上から飛び掛かってくるゴブリンがいた。
咄嗟に剣を構えてゴブリンの腹を横凪ぎすると簡単に真っ二つになった。
「え、マジで? ほとんど斬った感触が無かったぞ・・・」
そして両側からも2匹のゴブリンが挟み撃ちを仕掛けてきた。
「ちょっ、ちょっと待った、2匹同時は無理だって・・・」
待ったと言ってもゴブリンは待ってくれない。
なので少なくとも右側のゴブリンだけは倒そうとして身体を右側に向け、右側のゴブリンを肩から斬り裂いた。
右側に集中してしまったため左側は完全に無防備になってしまった。
無防備になった左側からゴブリンは棍棒を俺に叩きつけた。
ガツっとゴブリンの棍棒が俺の腹に命中した。
「あれ? そこまでは痛くないな」
まったく痛くないわけでは無いが普通に我慢出来るレベルの痛みだった。
この程度の痛みなら回復支援ですぐに治る。
「次はこっちの番だ」
俺にダメージを与えられていないことに狼狽えているゴブリンの脳天に剣を叩き降ろした。
ゴブリンの顔が半分に割れた。
これはかなり気色悪いな。
「あと2匹!」
後ろから気配がした。
振り向くと残りのゴブリンが2匹いた。
剣術の心得なんてものは一切無いのでひたすら剣を振り回すだけだ。
それでもゴブリンに命中し無事にゴブリンを討伐した。
「ふぅぅ、何とかゴブリンを倒せたな。」
今回の戦闘で分かったことがいくつかあった。
1つは支援魔法はかなり有効なスキルであることが分かった。
少なくとも俺の剣の腕前でゴブリンを真っ二つにするなんで普通なら絶対に無理だ。
もう1つはもっと俺の剣の腕前を上げる必要がある。
ゴブリン相手にこれでは先が思いやられる。
剣術スキルが無くても訓練すれば多少はマシになるはずだ。
その辺りは今後検討するとしてゴブリンはもう少し討伐しておきたいな。
何故ならゴブリンの魔石はそんなに高くないからだ。
その後もゴブリンの森を歩き回り全部でゴブリンの魔石は15個になった。
サーランドの町に戻りギルドに向かった。
本日の成果はゴブリンの魔石15個とゴブリンのドロップアイテムであるゴブリンの爪が3個だ。
これで銅貨2~3枚にはなるはずだ。
なんとか宿屋一泊分になるはず。