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0029:噂だけのはずなのに


テントの外からアイラの声が聞こえてきた。

俺、サーシャ、ジーナはすぐにテントの外に飛び出した。


『ご主人様、向こうの茂みに人の気配があります。人数は7、8人程度かと思われます』


暗くてよく分からない。

だがアイラがいると言っている以上は盗賊と思われる者がいるのは間違いないだろう。


・・・


10分以上は経過したが、姿の見えない相手とのにらみ合いが続いている。

このままだと埒が明かないな。

俺は立ち上がって茂みに向かって話し掛けた。


「そこにいるのは分かっているぞ! 3つ数える間に姿を見せない場合は敵意ありと見なして攻撃を仕掛ける」


そして小声でサーシャに話し掛けた。


「サーシャ、俺が合図をしたら茂みに向かって矢を放っていいからな」


『了解です、旦那様』


「いち・・・にぃ・・・」


少しだけゆっくりと数えた。


『はははは、小僧にしては中々いい度胸をしているな』


茂みの中から1人の男が出てきた。

暗闇のため人相はハッキリとは分からない。

しかしシルエットから長身の男であることは分かった。


「お前達は盗賊なのか?」


『がははは。そりぁ、こんな時間に仕事をしているのは俺達盗賊くらいだからな』


我ながらマヌケな質問をしてしまった。

あの男の言う通りだ。

こんな時間に仕事をしているのは盗賊くらいだ。


「俺達を襲うつもりなら相手になってやるぞ」


男は頭をボリボリ掻きながら考え込んでいるようだ。


『あ~、そう思っていたんだがな・・・やっぱり止めとくわ、お前ら結構強そうなだしなぁ・・・』


戦ってもいないのにそんな事が分かるのか?

それとも俺達のことを油断させようとしているのか?


男の意図が全くもって読めない。

いっそのこと、こちらから先制攻撃を仕掛けるか・・・


サーシャに合図を送ろうとすると男が待ったをかけた。


『おいおい、こちらから仕掛けるつもりは無いと言ってるんだけどな』


この暗闇の中で俺の僅かな手の動きが見えたのか?

それとも特殊なスキルでも持っているのか?


「そちらから仕掛けるつもりが無いのを証明することが出来るのか?」


『はははは、そりゃ無理だよな。分かったよ、そろそろ退散するよ。その前にお前達の名前を教えてくれないか?』


とりあえず、俺達の名前を教えた。


『レックスか、俺の名はザックだ。覚えていて損は無いぞ。じゃあな』


ザックはそう言うと姿を消した。

アイラ曰く、他の連中の気配も消えたそうだ。


『中々の手練れ達のようでしたが何故襲って来なかったんでしょうかね、ご主人様』


「多分、こちらが連中の存在に気が付いていたからじゃないかな。不意を突けなくなった訳だし」


おそらくはザックの仲間もそれなりに腕が立つように思えた。

だが俺達もそれなりに腕が立つ自信がある。

少なくても不意を突かれなければ一方的にやられることは無いはずだ。


『念のため、朝までは警戒しておいたほうが良いかもなのじゃ、マスター』


という事で朝までは全員で見張りをすることになった。


『えー、私は見張りが終わったばかりだったのに・・・』


サーシャはブツブツと文句を言っていたがこればかり仕方が無い。

運が悪かったと思って諦めてもらうしかない。


夜が明け始めたところで急いで朝食を食べて出発の準備をした。


「それじゃあ、ノースランドに急いで帰るよ」


早く帰ってゆっくりと寝たい時に限ってモンスターがよく現れる。

ゴブリンだけでなく珍しくコボルトまで現れた。


『もう、何なのよ! 私は早く寝たいのよ!』


サーシャがキレ始めた・・・

寝不足がかなり効いているようだ。


モンスターが出る度に【魔弓】を連発していた。

なので当然魔力枯渇になってしまった・・・


『うぇ、き、気持ち悪い・・・うぅぅぅ』


「言わんこっちゃない・・・仕方ないな。ほら、背中に乗って・・・」


結果として、俺がサーシャを背負うことになった。


『旦那様、ごめん・・・』


まぁ、ゴブリンやコボルトならアイラとジーナの2人で余裕だから別に構わないけどな。


ゴブリンやコボルト達のせいで急いで帰るつもりが結局は昼頃に到着した。

サーシャはいつの間にか俺の背中でスヤスヤと寝ていた。


「こ、こいつは・・・」


『まぁまぁ、ご主人様。サーシャはほとんど寝てなかったですからね』


そう言われると仕方が無いな。

ここはアイラに免じて許してやるか。


ノースランドに到着したらギルドに寄ろうと思っていたが睡魔が襲ってきた。


「ギルドは明日でいいか・・・」


『そうですね、ご主人様』

『妾もそれに賛成じゃ』


全員一致で宿屋に向かった。

宿屋に到着して部屋に入ると装備を脱ぎ捨てて全員が裸のままでベッドに寝てしまった。


◇◆◇◆


朝だ・・・朝になっていた。

昨日は宿屋に戻ってきたらすぐに寝てしまった。

夕食も食べずに朝までは眠りこけてしまったようだ。

さすがに腹が減ったのでアイラ達を起こして食堂に向かった。


「副女将さん、朝食をお願いします」


『やっと起きてきたね、すぐに朝食を持ってくるから席に座ってな』


持って来てもらった朝食は定番の野菜と肉のスープとパンだ。

朝食を食べながら本日の予定を確認した。


「今日はギルドに換金しに行くけど、その後は休暇にしようか」


『そうですね、少しのんびりしましょうか』

『屋台に行きましょう、果物の屋台』

『妾も果物を食べたいのじゃ』


休暇の話になると皆楽しそうに話をするな。

当然といえば当然の話だが。

朝食も終わったのでギルドに向かったが、途中で屋台に寄っていくことにした。

何故なら皆が果物の話をしたので俺も果物が食べたくなったからだ。


『ご主人様、本当に好きなのを選んでも良いんですか?』

『それじゃあ、これとあれかな』

『妾はそれとこれじゃ』


アイラは少しだけ遠慮するがサーシャとジーナは全く遠慮をしない。

まぁ、そのほうが気楽なので問題無いけどな。


屋台で果物を買い食いしつつギルドに向かった。

ギルドに到着するといつもより少しだけ騒がしい感じがしたが、とりあえずルイーザさんのカウンターに並ぶことにした。


「すみません、換金をお願いします。あとダンジョンコアの欠片を持ってきました」


『え、もうですか?』


魔石とドロップアイテム、そしてダンジョンコアの欠片をマジックバッグから取り出してカウンターに置いた。

魔石は100個近くあり、ドロップアイテムも30個くらいはある。


『こんなに溜めておくなんて・・・まったくもう・・・』


ルイーザさんはブツブツ言っていたが溜めておいたわけじゃ無いんだがな。

これは1日分の成果なんだがあえて訂正しない。


ふとギルド内を見渡すと少しだけザワザワしていた。


「ルイーザさん、今日は少しギルドが騒がしい気がするんだけど何かあったの?」


『あぁ、それね。実はね、最近サーランドのモンスターが活発化しているらしいのよ。また大量のモンスターが溢れ出すんじゃないかって噂になっているのよ』


そんな噂があるのか。

ただ、そんな予兆があればもっと噂が広がっていてもおかしくないはずだ。

この世界にはテレビ、ラジオ等は無いので噂には敏感だ。

なので、ちょっとでも噂が出ればあっという間に拡散する。


なので今の状況では信じる必要は無いな。

もちろんサーランドのモンスターが活発化する可能性はあるが。


『レックスさん、査定が終わりましたよ』


随分と査定が早かったな。

まさか適当に査定をしていないよな?


『今日はギルド職員達が暇していたので皆で一気に査定をしましたよ』


あ、なるほど。

職員が暇するときもあるのか。


ルイーザさんがカウンターに置いた金額を見て驚いた。

金貨7枚、大銀貨5枚、銀貨4枚だった。


「え、なんでこんなに貰えるんですか?」


どうやら金貨5枚はダンジョンコアの欠片の報酬らしい。

こんなに貰えるなら何往復もしたらすげぇ金持ちに成れるのでは? と思ったがこれは初回だけらしい。

2回目以降は微々たる報酬になるそうだ。


そんなに甘い話は無いよな。

その代わりといってはなんだがサーシャとジーナの冒険者ランクがそれぞれアップしていた。


サーシャはアイラと同じランクEに、ジーナはランクFになった。

2人のランクアップに喜んでいると傷だらけの1人の男がかなり慌てた様子でギルドに駆け込んできた。


『た、大変だ! サーランドのモンスターが押し寄せてくるぞ!』

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