0019:スタンピードの予感
翌日、俺達3人は朝早くからゴブリンの森に来ていた。
やはり3人もいるとゴブリン狩りはかなり好調だ。
最初のうちは森の入口周辺で狩りをしていたが徐々に森の奥に向かった。
『ねぇ・・・段々、森の奥に向かっているような気がするんだけど?』
『そうですよ。昨日、ちゃんと言いましたよね?』
「あぁ、確かに言っていたよな」
サーシャには聞こえないくらいの小声ではあったが。
アイラも意外と意地悪だな。
『えぇ、本当ですか?』
サーシャは文句を言っているが俺とアイラは無視して森の奥に進んでいった。
俺とアイラは何度もここに来ている。
『ご主人様、この先にゴブリンソルジャーが5~6匹いますね』
さすがはアイラだ。
1度嗅いだ匂いは覚えているようだ。
『それってゴブリンの上位種だよね? 3人で大丈夫なの?』
「ゴブリンソルジャー程度なら俺とアイラは何度も倒しているからね。まぁ大丈夫だよ」
大丈夫だと言っているのにサーシャは心配そうな顔をしている。
俺ってそんなに信用無いのかな。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
アイラの案内でゴブリンソルジャーがいる場所に向かった。
確かにゴブリンソルジャーが5匹いた。
「まずはサーシャが魔弓で先制攻撃をしてくれ。そうしたら俺とアイラが残りのゴブリンソルジャーを倒しに行くから」
『私の魔弓がゴブリンソルジャーに通用するかなぁ・・・』
まぁそれを確認するためにここまで来ているのだから通用しなくても問題は無い。
とりあえず、やってみないと分からないだろうしな。
「攻撃支援、防御支援、回避支援、発動」
俺が使える支援を全て発動した。
攻撃支援を受けてサーシャの攻撃がゴブリン上位種にどこまて通用するかだが。
サーシャが魔弓を放つと2本の矢がゴブリンソルジャーに向かった。
1本は外れたがもう1本は命中しゴブリンソルジャー1匹の右腕を吹き飛ばした。
『え、うそっ? なんで?』
サーシャは凄くビックリしているようだが、ちゃんと攻撃支援をすればサーシャの攻撃はある程度通用することが分かった。
あとは命中率とレベルアップだな。
さすがに矢が2本では厳しいしな。
とりあえず考察は後回しだ。
まずは目の前のゴブリンソルジャー達を討伐しないとな。
アイラを先頭に俺もゴブリンソルジャー達に突っ込んだ。
突然、仲間の右腕が吹き飛んだのが驚きだったのかゴブリンソルジャー達は慌てていた。
そこにアイラが突っ込み雷炎の双剣を振るった。
一度の攻撃でゴブリンソルジャーが2匹、腹を裂かれた。
そして俺が続きゴブリンソルジャーの1匹を脳天から真っ二つにした。
いきなり3匹の仲間が目の前で倒されたためか残りの2匹が逃げたそうした。
しかし残念ながら逃がすつもりは無い。
俺とアイラはゴブリンソルジャーを背後から斬り伏せた。
『す、凄い、アイラ、凄いよ・・・あ、ついでに旦那様も』
アイラが凄いのは分かっている。
しかし俺はついでなのか。
その後もゴブリンの上位種を探していたが何故か見つからない。
アイラの嗅覚をもってしても見つからないということは異常だ。
ゴブリンなんて腐るほどいるはずなのにな。
「これだけ探しても見つからないんじゃ仕方が無いな。一旦町に戻るとしようか」
今日の成果は
ゴブリン x15
ゴブリンソルジャー x5
だけだ。ちょっと少ないよな。
今日だけなら良いんだけど明日以降も続くと生活に困るよな。
とりあえず、町に戻ってギルドに向かった。
ギルドに到着するとルイーザさんがいる受付に向かった。
『あら、レックスさん。換金ですか?』
「はい、ちょっと少ないですけど。」
『あれ? もしかしたらレックスさん達も・・・ですか?』
俺達も? どういうことなのかルイーザさんから話を聞いたところ、他の冒険者達からもモンスターが少なくなっているという報告があったらしい。
しかも、それはゴブリンの森だけじゃないようだ。
コボルト草原と呼ばれている場所もコボルトが見つからないらしい。
『レックスさん、何か様子がおかしいので暫くはあまり遠出をしては駄目ですよ』
何か良くないことが起きるかもしれないということか。
ならば仕方が無いよな。
「了解しました。暫くは遠出しないようにしますね」
本日の成果を換金してもらいギルドをあとにした。
「しかし、あちこちでモンスターが減っているのか」
『減ったというよりどこかに移動したとか無いですかね? 旦那様』
「その可能性はあるだろうな。何が原因なのか分からないけど」
『まさか、モンスター大移動・・・』
アイラがポツリと呟いた。
「アイラ、何それ?」
『あ、いえ、昔、聞いたことがありまして。モンスターはある程度の周期で生息地を移動することがあると・・・』
「もし、そのモンスター大移動が発生しているんだとするとこの町はどうなるんだ?」
『おそらく、遠からずに衰退することになるかと思います』
魔石はこの世界の大事なエネルギー源だ。
この世界の便利な道具は魔石を利用して作られている。
まぁドロップアイテムも大事だが。
そしてエネルギー源が失くなった町がそのまま維持できる訳がない。
魔石を他の町から購入する手段もあるが運搬コストが響くだろう。
そうなると、この町に愛着があるといっても別の町に行く必要があるよな。
今すぐにという話では無いかも知れないが考えておかないといけないな。
「とりあえず、今日はもう宿屋に戻って明日以降は様子を見ることにしようか」
『そうですね。今はあれこれと考えていても分からない事だらけですからね。ご主人様』
『私は難しいことはよく分からないから2人に任せるよ』
俺の頭の中ではエルフは知的な人種であったがサーシャのおかげでエルフのイメージがどんどん崩れていくな。
まぁ綺麗な人達が多いということだけはそのままではあるが。
それはさておき、俺達3人は宿屋に帰ることにした。
そして本日もアイラとサーシャをたっぷりと抱いた。
◇◆◇◆
翌日も俺達は朝からゴブリンの森にいた。
ゴブリン狩りもあるがゴブリンが本当に減っているのか確認するためだ。
ゴブリンは森のゴキブリと呼ばれるくらい大量に発生する。
なので今日は元に戻っていることを期待していたのだが。
『やっぱり、ゴブリンの数が少ないですね。ご主人様』
朝から森の中を歩き回っていたがやはりゴブリンの数が少ない。
ゴブリンが全くいないというわけでは無いのだが圧倒的に数が少ないのだ。
このままだとサーランドを離れる冒険者が出てくるのは確実だな。
まだ貯金もあるがこのままなら俺達も違う町に移動しないといけなくなるな。
『旦那様ぁ、もうゴブリンもいないことだし帰りますか?』
サーシャの言う通りだな。
無駄に森の中を歩き回っても仕方が無いよな。
アイラも力なく首を横に振るだけだった。
今日の成果も少ない。
ゴブリン x5
ゴブリンソルジャー x3
これだけだ。
それでもアイラのおかげで他の冒険者達よりは多いだろう。
ゴブリンの森をあとにして町に戻りギルドに顔を出すことにした。
換金もあるが何かしらの情報が得られるかも知れないからだ。
ギルドに到着すると多くの冒険者達で溢れかえっていた。
俺達と同じように情報を求めてギルドに集まって来ているのかと思ったが違うようだ。
他の冒険者達の話が聞こえてきた。
『おい、聞いたか? 最近モンスターが減っている原因が分かったらしいぞ?』
『あぁ、噂なら聞いたぞ。スタンピードが発生したらしいな』
スタンピードとはモンスターの大量発生のことだ。
発生といっても突然、モンスターが産まれる訳ではなく、周辺にいるモンスター達が1ヶ所に集まり行動を共にするようになることだ。
スタンピードの規模は様々だが、一度スタンピードが発生すると周辺の村や町は壊滅的な被害が生じると言われている。
もし本当にスタンピードが発生しているなら非常に危険だ。
『あ、レックスさんも来ていたのね。もう噂は聞いたかしら?』
「スタンピードの件ですか? それなら、ちょうど今聞いたところです。でも本当なんですか? スタンピードが発生なんて・・・」
『・・・分からないわ。今、ギルドで雇った調査隊が確認しに行っているわ。そろそろ戻って来るはずなんだけどね・・・』
なるほど。
だから他の冒険者達が集まっているのか。
するとギルドの外から声が聞こえてきた。
『おい、調査隊が戻ってきたぞ!』




