0016:拾ってしまった
盗賊達が襲っている馬車がこちらに向かってきている。
「アイラ、どうする?」
俺としては無用な戦闘を避けるのも有りだと思っている。
何故なら冒険者は慈善活動家では無いからだ。
ただし、一方で助けられる命は出来る限り助けたいとも思っている。
『ご主人様、助けましょう!』
何故かアイラの言葉に力を感じた。
少し違和感を感じたが、まずは目先の盗賊をどうするかだな。
徐々に馬車の姿が見えてきた。
馬車は二頭立ての馬車だ。
『ご主人様、御者席に誰もいないようです』
どうやら逃げている途中で盗賊に殺されてしまったか、御者が逃げ出してしまったのだろう。
運転する人がいない馬車はひたすら走り続けている。
御者がいない馬車は一旦放置して追ってくる盗賊を迎え撃つことにした。
馬車を追いかけている盗賊は全部で6人いた。
「攻撃支援、防御支援、回避支援、発動」
盗賊は6人とも馬に乗っていた。
馬は売ればそれなりのお金になるので出来れば盗賊達だけ倒したいところだな。
もちろん出来ればの話なので無理はしないが。
馬車が俺達をの横を通り過ぎ、盗賊達の馬が俺達の前で止まった。
すると、1人の盗賊が馬に乗ったまま前に出てきた。
おそらくは盗賊達のリーダーなのだろう。
『お前ら、俺達の邪魔をするつもりなのか?』
暗くてよく見えないがあまり強そうには見えないな。
おそらくは農民上がりの盗賊なのかもしれないな。
「もちろんだよ。見つけてしまったからには無視は出来ないからね」
『くっ、ふざけ・・・る・・・な?』
リーダーらしき男が怒声を上げようとした瞬間、アイラが【雷炎の双剣】を振るった。
雷を纏う剣、炎を纏う剣を見てリーダーらしき男の声を止まった。
『な、なんだ、あの剣は?』
『ちょ、ちょっと不味いんじゃないのか?』
『な、なぁ、逃げたほうが良くないか?』
リーダーらしき男の後ろに盗賊達も逃げ腰になったようだ。
それに盗賊達が乗っている馬達もアイラの炎を纏っている剣を見て少し興奮気味になっている。
『くそったれが! 仕方ねぇ、一旦引き上げるぞ!!』
盗賊達は一合も交えずに引き返して逃げていった。
俺とアイラも無理に盗賊達を追いかけることはしなかった。
盗賊達の姿が完全に消えたのを確認してから馬車の後を追った。
すると街道の曲がり道のところで馬車が横転していた。
おそらくスピードが出過ぎてカーブで曲がりきれずに馬車が横転してしまったのだろう。
まずは馬車に繋がれている馬を解放することにした。
次に馬車の中を確認した。
馬車の中には1人の男性の死体があった。
身体中の至るところに矢が突き刺さっていた。
「さっきの盗賊に殺されたのかな」
馬車は横転してしまったために中の荷物が散乱している。
一般的にこのような場合、荷物等は発見者の物になる。
すなわち、この馬車の中身は俺達の物だ。
まずは矢が突き刺さった死体を街道沿いに埋葬した。
そして馬車の中身を次々と馬車の外に並べてみた。
最後に馬車の奥にあった大きな布袋を持ち上げようとしたところ意外に重かった。
なので抱き抱えて持ち上げようと掴むと柔らかい感触がした。
布袋のどこを触っても柔らかい。
『ちょ、ちょっと・・・変なところを触らないでよ!』
布袋の中から若そう女性の声が聞こえてきた。
「え、人の声か?」
恐る恐る布袋の入口を開けると1人の若い女性がいた。
しかも全裸の女性だった・・・
金髪に青目をした綺麗な女性で、よく見ると耳が少し尖っていた。
俺の視線が顔から下に移った。
う~ん・・・胸は少し残念な感じだな。
特に小さいわけでは無いんだけどなぁ・・・小さいわけでないと思うが。
きっとアイラの巨乳と比べては駄目なんだろう。
『ご主人様、何をじっと見ているんですか!』
後ろからアイラに目隠しされてしまった。
アイラの指にちょっと力が入っており、俺の目が痛い・・・
「ちょっと、アイラ、目が・・・」
このまま俺の目を潰したりしないよね?
『あれ? ところで、あなた達は誰なの? 私を連れてきた男達は何処に行ったの?』
「俺とアイラはサーランドの冒険者だよ。それとその男は死んでいたよ。俺達が埋葬したのは1人だけだよ」
『ふ~ん、確か3人いたはずだけど、まぁいいか』
それでいいのか?
結構、軽い性格なのかも知れないな。
アイラに目隠しをされたまま答えた。
いつまで目隠しをされたままでいるんだろう?
『それよりもここってサーランドなの? ふ~ん。それよりも何か着る物って無いかしら?』
そうだよね。
このまま全裸でいられると俺の目がマジでヤバいことになりそうです。
『ご主人様、ちゃんと目を瞑っていて下さいよ』
アイラは一旦手を離すと、先ほど馬車の外に出した荷物から服を取ってきて女性に渡した。
あまり良い服は無かったが、とりあえず今ある服で我慢してもらった。
ようやく俺の目も解放された。
改めて目の前にいる女性を見ると綺麗な顔をしているな。
身長は俺とアイラの間くらいだから165cmくらいなのかな。
『えっと、とりあえず自己紹介させてもらってもいいかな? 私の名前はサーシャね。見た目で分かると思うけどエルフ族よ』
「生まれて初めてエルフを見たな」
『私も初めてです』
『え? そうなの? 王都とか大きい都市にはそれなりにいるはずなんだけどね』
「俺が生まれたのは田舎の農村だし、サーランドから出たことも無かったしな・・・」
『私も似たようなものですよ』
『そっかぁ。まぁこの際だし細かいことはどうでもいいよね』
なんだろうな。
この能天気はエルフは。
「ところでサーシャはなんで布袋なんかに入れられていたんだ?」
『そりゃあ、奴隷狩りに捕まったからに決まってるでしょ?』
ドヤ顔でそんなことを言われてもな。
俺は奴隷狩りに捕まったことが無いから分からん。
その後、サーシャの話を聞いていくと先ほど逃げていったのは盗賊では無く奴隷狩りの集団の片割れだったらしい。
その内の数人がサーシャを盗んで逃げたようだった。
『ほら、私ってエルフじゃない? それに可愛いから高値で売れるはずじゃない? だから金に目が眩んだんじゃないかな?』
サーシャは自分がエルフであることを自慢したいらしい。
しかも自分で可愛いって言うかな。
でも、それで奴隷狩りに捕まってはな・・・
まぁ、そんなことよりもサーシャをどうするかだな。
「サーシャ、君を送り届けるとしら何処まで行けばいいんだ?」
あまりにも遠い町だと難しいが。
かといって、このまま見捨てる訳にもいかないしな。
なので一応聞いておくことにした。
すると想定外の回答が返ってきた。
『えっと・・・私、実は帰るところが無いんだよね・・・えへ』
「え?」
『え?』
サーシャが言うには、サーシャは幼い時に両親と死に別れており、その後は親戚中をたらい回しになっていたらしい。
そんな最中に奴隷狩りにあったとのことだった。
確かにそれならば帰るところが無いというのも頷ける話だ。
しかし、話は理解出来たとして俺達には扶養家族を養う余裕は無いしな。
それにサーシャの首には首輪が付いている。
明らかに奴隷の首輪だ。
落ちていた物は拾った人の物になるのがこの世界のルールだとして拾った物が奴隷の場合はどうなるのか?
サーシャをどうするかも含めて一旦町に帰ろう。
馬車にあった金になりそうな物は全てマジックバッグに詰め込んだ。
しかし、売ってもあまり金にはなりそうも無い物が大半だった。
馬車の馬を引き連れて町に戻ることにした。
馬が一番高く売れそうだな。
馬を引き連れているとサーシャが一言。
『ねぇ、馬がいるのに何で私達は歩いているの?』
至極真っ当な質問だな。
「俺は馬に乗れないよ」
『私もです。ご主人様』
『・・・私も乗れない』
なので馬を引き連れて歩くしか無い訳だ。
いずれは馬に乗れるように練習したほうが良いかも知れないな。
街道を歩き続けて町に到着したのは夜明けだ。
辺りが明るくなり始めたところで町に着いた。
「ね、眠いな・・・出来れば仮眠を取りたいな」
『ご主人様、一旦宿屋に戻りましょうか?』
「サーシャはどうすればいいかな?」
肝心のサーシャは馬に乗せている。
馬の背中でスヤスヤと眠っていた。
『このままにしておくわけにはいきませんから宿屋に連れて行くしか無いですよね』
普通に考えるとそうだよな。
仕方が無いな。
とりあえず宿屋に連れて行って女将さんに相談するしか無いか。
宿屋に到着し、女将さんに一連の出来事を説明した。
『・・・まぁ、事情は分かったけど。追加料金はあんた達が支払ってくれるなら大丈夫だよ。ただ、今日はあんた達の部屋に泊まって頂戴ね』
え、俺達の部屋に?
あの部屋に女性が2人寝るの?
ダブルベッドなんだけど?
恐る恐る、後ろにいるアイラの顔を見てみた。
顔は笑っているが目が怖い・・・




