0015:オークの棲みかへ
妖刀【村正】を試し斬りする前に購入を決めてしまった。
アイラは少し呆れていたけどそこは気にしない。
購入を決めた後に武器屋の裏庭で試し斬りをさせてもらった。
太い竹に向かって【村正】を構えた。
『なんだぁ? 全然構えがなってねぇな・・・』
そりゃあ戦闘系ジョブ持ちじゃないんだから無茶を言わないで欲しい。
構えた【村正】を一気に降り降ろすと竹は綺麗に真っ二つになった。
「え、何にも手応えが無かった・・・マジか?」
まるで豆腐か紙でも切ったかのような感触であった。
というか、まるで手応え無かったので素振りをしただけの感触か。
アイラは真っ二つになった竹の切り口をマジマジと見ている。
それにしても魔力が吸い取られる感じは多少あったが大したことは無かった。
おそらくは【魔力無限】のおかげだな。
『ご主人様、凄いです! こんなに綺麗に斬れているなんて・・・』
『お、おい、坊主、大丈夫なのか? 魔力が吸い取られていないのか?』
店長も驚いている様子だった。
そして今さらながら安値で売ったことを少し後悔しているようにも見えた。
残念ながらもう購入してしまったからね。
これは明日にでもゴブリンの森に行って実戦で試したくなるな。
『ご主人様、明日はオークの棲みかに行ってみませんか?』
「え、ゴブリンの森じゃないの?」
俺はゴブリンの森で試してからと思っていたがアイラは違ったようだ。
アイラが言うにはゴブリンでは弱すぎて試し斬りにならないそうだ。
確かにゴブリンなら前の武器で一刀両断にしていたから試し斬りにはならないかも知れない。
それでも物には順序があると思うのだが。
しかしアイラの押しもあり提案通りオークの棲みかに行くことになった。
『それじゃあ、明日に備えて今日は早く寝ますよ、ご主人様』
ちょっと待て、それって・・・もしかして今日は無しなのか?
ガクっと項垂れている俺の耳元でアイラがそっと囁いた。
『・・・仕方が無いですね。少しだけですよ、ご主人様』
このアイラの言葉に俺のやる気が漲った。
しかし、この俺達の様子を見ていた店長は異なった解釈をしたようだった。
『おい、坊主。お前達に売った武器ならオークの硬い皮膚も問題なく斬り裂けるはずだ。だからそんなに心配するな!』
どうやら店長には俺がオークの棲みかに行くことをビビっているように見えていたらしい。
実は俺が項垂れていた理由は全然違うんだけどな。
どっちにしても恥ずかしいから敢えて訂正することはしないが。
さっさと武器の代金を支払って武器屋をあとにした。
これで今日は買う物は無いはずだ。
それにしてもゴブリンキングで稼いだお金が1日で消えてしまった。
もちろん意味のある買い物であったので問題は無い。
まぁ、明日のオーク狩りで頑張るしか無いな。
宿屋に戻ってきた。
夕食を食べてると部屋に戻ってきた。
そして、今晩もアイラを抱いた。
やっぱりアイラは最高だった。
しかし・・・
『今日はこれでお仕舞いですよ』
そう言ってアイラは俺にキスをしてきた。
アイラにそう言われては仕方ない。
渋々ではあるが明日に備えて寝ることになった。
◇◆◇◆
宿屋で朝食を食べた後、俺達はオークの棲みかと呼ばれている森に向かっている。
オークの棲みかはゴブリンの森から少し離れたところにある。
徒歩で3時間くらい歩いてようやくオークの棲みかに到着した。
オークはゴブリンほど繁殖が高くないらしくそれなりに探すのが苦労すると言われている。
なのでアイラでも探すのに苦労するかと思っていたがそうでも無かった。
『ご主人様、あっちから家畜っぽい匂いがします』
オークって豚のようなモンスターだよな。
家畜のような匂いがしても何の不思議も無い。
ただし、俺にはその匂いが嗅ぎとれない。
アイラの案内で森の奥に進んでいくと体長2mくらいの全身がダークブラウン色をしているオークを見つけた。
オークの背後から攻撃を仕掛けようと思い近付いて行くとオークがこちらに気が付いたようだ。
さすがは豚モンスターの嗅覚だ。
『ブモオォォォ』
オークは巨大な棍棒を持っており、棍棒を振り回しながら俺達に走り寄ってきた。
「ヤバい、意外に速い! 攻撃支援、防御支援、回避支援、発動!」
何とか俺の支援発動のほうが早かった。
俺とアイラは左右に飛んでオークを挟み撃ちする形を取った。
しかしオークは俺達が近寄れないように棍棒をひたすらに振り回している。
危なっかしくて中々懐に飛び込めない。
このままでは埒が明かないな。
「アイラ、俺が囮になるから。その隙をついて攻撃してくれ!」
『え、ご主人様、囮なら私がやりますから』
囮といっても危険なことをするわけではない。
単純にオークの注意を俺に引き付けるだけだ。
俺はオークの懐に飛び込む仕草を繰り返した。
オークも俺が飛び込む仕草をするのでそれに合わせて迎え撃つ姿勢を取る。
ただし、実際には俺は飛び込まない。
あくまでも飛び込むフリをするだけだ。
こうなるとオークの注意は俺に向けられたままになる。
その隙をついてアイラがオークの脇腹を双剣で斬り裂いた。
オークの皮は硬いはずなんだが容易く斬り裂いていた。
しかもオークの脇腹から煙が立ち上っている。
どうやら傷口が焼かれたようだ。
【雷炎の双剣】って結構エグい武器のようだな。
『グボオォォォ・・・』
オークがかなり痛がっているように見える。
ここがチャンスと俺も【村正】を持ってオークに止めを刺しに距離を詰めた。
しかしオークは待ち構えていたかのように俺に向かって棍棒で殴りかかってきた。
『ご、ご主人様、危ない!』
ちょうどカウンターにような状態だ。
避けるのは難しい。
これはダメージを喰らったかなと思った瞬間、身体が勝手に動いた。
そして間一髪でオークの棍棒を回避した。
もしかして回避支援が働いたのか?
まだまだ発動の確率は低いが結構役に立ちそうだな。
オークの棍棒を回避した俺はそのままオークの首を斬り落とした。
「おぉ、危なかったぁ・・・」
『ご主人様、大丈夫ですか? お怪我はありませんか?』
アイラが心配そうな顔をして近寄ってきた。
まぁ多少の怪我なら回復支援ですぐに治せるから問題無いんだけどな。
それでもアイラに心配かけてしまったことは申し訳なかったな。
確かにあのカウンターのタイミングで棍棒を喰らっていたら、かなりのダメージをもらっていたはずだしな。
そして気が付くとオークの死体は魔石とドロップアイテムでオーク肉の塊に変わっていた。
魔石とオーク肉の塊をマジックバッグにしまった。
オーク肉の塊は意外に重い。
おそらく30~40Kgはあるな。
その後もオーク狩りを続けた。
3匹目のオークを倒したところで周囲が真っ暗になってしまった。
「今日はこの辺で切り上げて町に帰るとするか」
『そうですね。夜営の道具も無いですからね』
今後のことも考えると夜営道具は購入したほうが良いのかもしれない。
とりあえず、暗闇の森の中を慎重に進んだ。
視界は数m先しか見えない。
俺はモンスターが突然襲ってこないかヒヤヒヤしながら進んでいたが、アイラは平然としていた。
『周囲にモンスターの匂いはしませんよ』
そういえば嗅覚の鋭いアイラがいたんだ。
そう思うと急に安心感が出てきた。
そして、ふと思ったことをアイラに聞いてみた。
「アイラって、今、どれくらい先まで見えてるの?」
『え、視界ですか? そうですねぇ、100mくらい先までしか見えていないですよ』
マジか? 俺は数m先しか見えていないのに。
アイラは視力も驚きの高スペックだった。
アイラは抱いても良し、戦っても良し、性格も良しの三拍子が揃っている。
本当に買って良かった。
しかし値段も安かったしな。
『・・・ご主人様、どうしたんですか? 何か考え事ですか?』
「あ、いや、アイラを仲間にして本当に良かったなって」
『あ、ありがとうございます。ご主人様。私もご主人様に買って頂いて良かったと思っています』
この暗闇なのでアイラの細かい表情は分からないけど、きっと顔を赤くしているんだろうな。
その証拠にアイラの尻尾がフリフリしている。
『あ、ご主人様。ようやく街道が見えてきましたよ』
アイラが街道を見つけたようだが俺にはまだ見えないな・・・
だが、すぐに街道が見えてきた。
この世界には2つの月がある。
なので森から出れば、曇っていない限りそれなりに視界が開ける。
街道に出たところで左右を確認した。
すると町とは逆方向から明かりが見えた。
どうやら明かりは火のようでこちらに向かってくる。
『ご主人様、どうやら馬車が盗賊に襲われているようです!』




