0012:マジックバッグ購入
アイテム屋に行った日から20日が過ぎた。
アイテム屋のナタリーさんとの約束は30日であったが既に金貨3枚が貯まっていた。
途中からゴブリン上位種を狩るようになってからは換金の効率が予定以上に上がったのだ。
これならゴブリンを倒すだけで十分生活が出来るな。
その辺は今後どうするか考えるとしよう。
とりあえず、今はマジックバッグを購入するために金貨3枚分の金を持ってアイテム屋に向かっていた。
「ナタリーさん、マジックバッグを買いに来ました!」
『あれ? レックス君、約束の日は後10日後じゃなかったっけ? もしかして、もう金貨3枚貯まったの?』
俺は得意顔をしてナタリーさんの目の前に金貨3枚分の大銀貨、銀貨を並べた。
ナタリーさんは大銀貨、銀貨を数え始めた。
『・・・うん、確かに金貨3枚分あるね。よく頑張ったね。じゃあ、ちょっと待っててね』
ナタリーさんはそう言うと店の奥からショルダーバッグのようなバッグを持ってきた。
「それじゃあ、確認のために使って見せるね」
ナタリーさんは持ってきたマジックバッグの中に次々と色んなアイテムを詰め込んでいった。
明らかにバッグの容量を超えるアイテムがバッグの中に入っていった。
「・・・すげぇ・・・」
『確かに凄いです・・・』
俺とアイラは目をパチクリさせながらその様子を眺めていた。
『どうかしら? レックス君。気に入ってもらえると思うけど?』
「はい、気に入りました!」
ショルダーバッグのようになっているのも気に入った。
これなら戦闘中も邪魔にならないだろう。
俺が使っていたリュックサックはアイラに渡してマジックバッグは俺が持つことになった。
これで魔石やドロップアイテムが満タンになったから町に戻るということは無くなるだろう。
「よし、アイラ。早速、ゴブリンの森に行こうか。もう荷物の量を心配する必要は無くなったことだし」
『ふふふふ、分かりました。では行きましょうか、ご主人様』
『ふふふ、レックス君。無理だけはしちゃ駄目だからね』
アイラからもナタリーさんからも笑われてしまった。
でも新しい物を買ったら試してみたくなるのは仕方が無いよな。
◇◆◇◆
アイラと一緒にゴブリンの森でゴブリン狩りをしていた。
ゴブリンを倒した後の魔石やドロップアイテムをマジックバッグに入れるのが楽しい。
「さすが、容量300Kgは伊達じゃないね」
調子に乗ってゴブリンを倒していくうちに森の奥のほうに進んでいった。
すると1匹の巨大なゴブリンを見つけた。
通常のゴブリンなら130cmくらいで、上位種であっても150cmくらいなのだが発見したゴブリンは180cmくらいある。
俺よりも大きい・・・
「あれって本当にゴブリンなのか?」
顔付きや肌の色が緑色なのは普通のゴブリンと同じなのだが、普通のゴブリンと違って異様なほど筋肉隆々なのだ。
『ご主人様、ひょっとしたらゴブリンキングとかじゃないですか?』
モンスターの中には、キング、ロード、エンペラーと呼ばれる最上位種がいることが知られている。
「アイラ、仮にあいつがゴブリンキングだとしたら俺達で勝てるかな?」
『・・・正直、かなり難しいかと思います』
まだ巨大なゴブリンは俺達のことに気が付いていない。
今ならこっそりと逃げ出すことが出来る。
無理をしないことは別に恥ずかしいことでは無い。
むしろ無理をして大怪我もしくは死亡することのほうが恥ずかしい。
「なら、気付かれ無いようにゆっくりと撤退するよ」
『了解しました。ご主人様』
小声でアイラと話をして撤退をしようとしたところ、巨大ゴブリンが大声で吠えた。
『グギャッグギョ!』
一瞬、俺達の存在がバレたのか? と緊張が走ったが巨大ゴブリンは俺達とは別の方向に向かって走り始めた。
巨大ゴブリンが向かった先を見ると5人組の冒険者パーティーがいた。
『な、なんだ? あの巨大なゴブリンは?』
『それよりも戦闘準備をしろ!』
『に、逃げたほうが良くない?』
5人組の冒険者達は急に現れた巨大ゴブリンに対して明らかに慌てている。
迎え撃つのか、逃げるのか決められないうちに巨大ゴブリンと対峙することになってしまったようだ。
5人組の冒険者達を見捨てて逃げるか?
今なら逃げることは可能だ。
5人組の冒険者達に加勢して巨大ゴブリンと戦うのか、それとも逃げるのかを悩んでいるうちに5人組の冒険者達と巨大ゴブリンとの戦闘が開始してしまった。
5人組の冒険者達は戦士系の前衛が3人、弓使いが1人、魔法使いが1人だった。
前衛の3人が巨大ゴブリンを迎え撃とうとしている。
しかし前衛3人が巨大ゴブリンを抑え切れないため後衛が攻撃に参加出来ないでいた。
「これは不味いな・・・とても勝てそうには見えないな」
『そうですね、このままでは彼らは負けると思います』
俺とアイラに意見は一致した。
そうすると彼らを見捨てるか、助けるかだが・・・
「アイラ、どうすれば良いと思う?」
『私はご主人様の意思を尊重しますよ』
どっちを選んでも良いということか。
普通なら見捨てるが正解だろう。
あのゴブリンは明らかに上位種よりも格上の存在だ。
ただ、なんとなくだけど見捨てることを選択したら俺は駄目な人間になってしまう気がした。
「アイラ、助けに行くぞ!」
『はい! 了解しました。では私が先行しますのでしっかりと後ろに付いて来て下さい!』
攻撃支援、防御支援、回避支援を発動して、巨大なゴブリンの背後からアイラを先頭に突進した。
「援護が必要か?」
念のために援護の必要性を確認した。
他人の獲物を横取りするのは冒険者のルールとして違反になるためだ。
『あ、あぁ、頼む・・・だけどそっちは2人なのか?』
援護するのに問題は無さそうだ。
ただし俺達が2人しかいないのにがっかりしたようだな。
まぁ、逆の立場ならそう思うよな。
巨大ゴブリンが俺達の存在に気付き、後ろを振り向いた瞬間にアイラが巨大ゴブリンの右目を斬りつけ、俺は右足のアキレス腱を斬りつけた。
『グギャッギャー!!』
巨大ゴブリンは手に持っていた剣を落として右目を押さえている。
今なら巨大ゴブリンは武器を持っていない。
このチャンスを見逃せない。
一気に畳み掛けた。
巨大ゴブリンは落とした武器をなんとか拾い上げようとするがそうはさせない。
俺は巨大ゴブリンの武器を蹴り飛ばした。
すると巨大ゴブリンは素手で殴り掛かってきた。
巨大ゴブリンのパンチは意外に速い。
俺もアイラも何発か喰らってしまった。
それでも俺達は攻撃の手を緩めることはしない。
パンチを喰らう度に回復支援を発動しているので痛みを感じるのはわずかな時間だ。
・・・それでも痛いものは痛いのだが。
『す、すげぇ・・・』
『あいつら2人なのに・・・』
『というか、何発か喰らってるよな?』
『あぁ、なんで動けるんだよ・・・』
俺とアイラは巨大ゴブリンとガチンコバトルを繰り広げている。
回復支援と魔力無限が無かったらとっくに死んでるかも知れないな。
でも逆に回復支援と魔力無限があるから巨大ゴブリンに立ち向かえているとも言える。
そして次第に俺達が巨大ゴブリンを押し始めた。
切り傷が多くなってきた巨大ゴブリンの動きが明らかに鈍ってきた。
そして完全に動きが止まった巨大ゴブリンの首を斬り落とした。
俺とアイラは地面に腰を落とした。
2人して肩で息をしている。
回復支援で怪我は回復するがスタミナは回復しないからな。
5人組の冒険者達がこちらにやってきた。
『すげぇな、あんたら!』
『助かったよ、ありがとな!』
『本当に凄かったわ、感動したわ!』
「はぁはぁ、とりあえず、助けられて良かったよ。ところで、あのゴブリンの魔石とドロップアイテムは俺達の物でいいんだよね?」
『あぁ、もちろんだよ。僕達は何もしていないからね。むしろ、命を助けてもらった謝礼を支払わないといけないよな』
そう言ってきているが謝礼は断った。
直前まで見捨てることも検討していたので素直には受け取りにくい。
『君達はなんて素晴らしい人達なんだ!』
どうやら少し勘違いされてしまったようだが黙っておこう。
助けたのは事実だしな。
『もし君達が何かに困ったら声を掛けてくれ。出来る限りの手助けはするよ。俺達は【灼熱の風】というパーティーだ』
俺達にはまだパーティー名が無いがお互い自己紹介して別れた。
パーティー名は名刺みたいなものだから早めにパーティー名は決めたほうが良いかも知れないな。
しかし俺にはネーミングセンスは無い気がするのでパーティー名を決めるのは先延ばしにすることにした。