0106:ケルベロス退治 その1
いよいよ辺境都市に向けて出発することになった。
スルガの町から南西に向かって馬車で移動だ。
ドワーフ国で改造した馬車は相変わらず快調で多少スピードをあげても馬車はほとんど揺れない。
辺境都市に急いで向かう必要が無いので所々で寄り道をした。
特に景色が良い場所が何ヵ所かあり景色を眺めていることもあった。
ボルボルの実のおかけでゴブリンやコボルトに襲われないで済んでいるが熊や虎等の大型野獣は襲い掛かってきた。
野獣にはボルボルの実は効果が無いようだ。
「折角倒したのだから毛皮の剥ぎ取りだけはしておこうか」
『えー、面倒臭くないですか?』
野獣を倒す度にこの会話を繰り返していた。
サーシャは面倒がっているがアイラ達はちゃんと剥ぎ取りをやってくれる。
アイラ達がやっているのでサーシャも渋々やってくれていた。
スルガの町を出発して4日目にしてやっと国境の町に到着した。
「4日ぶりにゆっくり寝れるな」
夜は見張りがあるから若干眠りが浅い。
『レックスは馬車の中で寝てたじゃない』
「そうは言っても眠いものは眠いんだよ」
そんな会話をしていると御者席にいたジーナから声が掛かった。
『マスター、町の中に兵士が沢山おるのじゃ』
ジーナの言葉に馬車から外を見てみると確かに大勢の武装した兵士たちがいた。
少なくても兵士の数は2~300人はいた。
「何かあったのかな?」
『討伐隊か何かですよね? 中々物々しいですよね、ご主人様』
『何かヤバいモンスターでも出たんじゃないですか? 旦那様』
フラグが立ちそうなことは言わないで欲しいな。
こういう時は余計なことはしないでスルーするのが一番だ。
なので無視して立ち去ろうとするとナギサが兵士に声を掛けていた。
おーい、余計なことはしないでくれ!
『レックス殿、兵士に何があったか聞いてきました』
ナギサが嬉しそうにして戻ってきた。
しっかりと情報収集をしてきました、という表情をしていた。
・・・さすがにこれでは怒れないな。
「それで何があったんだ?」
『それがですね、頭が3つもある巨大な犬がこの辺りにいるらしいです』
頭が3つ? どっかで聞いたような・・・
「あ、それって、もしかしたらスルガのギルドで聞いた奴か?」
『そう言えば、そんなことを言っていたわね。それにしてもよく覚えていたわね、レックス』
それにしても頭が3つもある犬といえばケルベロスか。
モンスター図鑑にも載っているな。
しかもランクAモンスターとしてだ。
『もしかして和の国からこっちにやって来たんですかね? どう思います、ご主人様』
「それは分からないな。その頭が3つある犬が世界中で一匹ということも無いだろうしな」
『そう言われると確かにそうですね。でもどうしましょうか?』
「もし、その頭が3つある犬がモンスター図鑑に載っているケルベロスだとしたら遭遇したくはないな。なんと言ってもランクAモンスターだからな」
『『ランクAモンスター・・・』』
正直、ランクAモンスターがどれくらいの強さなのか分からないのが不安だ。
ランクBモンスターなら何とかなる気がするのだが。
「暫くはこの町に滞在するしか無いかもしれないな」
あそこにいる兵士達が頑張ってケルベロスを退治してくれることを祈って。
『ねぇ、旦那様。とりあえずギルドに行ってみない? もしかしたら頭が3つもある犬の情報があるかもしれないよ?』
「確かにそうだな。何かしら情報が得られるかもしれないな」
馬車をキャンプ場に預けてギルドに向かった。
ギルドに到着して中に入るとギルドの中は大騒ぎになっていた。
『おい、依頼を受けられないってどう言うことなんだよ?』
『だから、先程から言っている通り、危険なモンスターが退治されるまでは全ての依頼受注は出来ません!』
『ふざけるなよ! それっていつまで何だよ?』
『それは分かりませんよ!』
どうやら頭が3つある犬が討伐されるまで普通の依頼は受けられないらしい。
ギルドとしては冒険者達が町の外に出て怪我をしないようにとの措置なんだろうが、冒険者達としては生活が出来なくなるからな。
そんな冒険者達と受付嬢の押し問答を余所に別の受付嬢に話を聞いた。
「すみません、今、話題になっているのって頭が3つある犬のことですよね?」
『はい、そうです』
「それって、やはりケルベロスなんですか?」
『はい。よくご存じで。そのケルベロスがこの町の近くで見つかったんですよ』
やはり頭が3つもある犬はケルベロスで合っていた。
「そのケルベロスの討伐依頼って出ているんですか?」
『一応、依頼は出していますが、ランクBパーティーであることが受注条件ですよ。もしかして受注するんですか?』
「いや、俺達はランクCパーティーなんで受注出来ないですよ」
そう言うと受付嬢はガッカリしていた。
そんなにガッカリした表情をされても困るんだけどな。
とりあえず必要な情報は収集出来たのでギルドを出ようとしたところ、5人組と思われる女性冒険者達がギルドに入ってきた。
『うるさいわね! 少しは黙りなさい!』
この一声で先ほどまで騒がしかったギルドが一瞬で静かになった。
『冒険者たる者がこの程度のことでピーピー騒がないで欲しいわね!』
俺達よりも少し年上のように見える女性がかなり上から目線で文句を言っている。
すると小声でヒソヒソ話を始めた冒険者達の声が聞こえてきた。
『なぁ、あれって【一輪の花】だよな?』
『あぁ、そうだ。美人揃いで有名なランクBパーティーだ』
『あれがそうなのか。噂では実力も凄いが性格も凄いって聞いたことがあるな』
『ば、馬鹿、そんな話が聞かれたら死ぬぞ?』
ふ~ん、確かに美人揃いではあるかな。
それにしてもランクBパーティーなのか。
すると冒険者達の中から1人の男が出てきた。
『おい、何を偉そうにして・・・ふべぇ!』
『勝手に私に近づくな!』
男が喋っている途中でいきなり男を殴り飛ばした。
あの男が言いそうなことは何となく分かるがそれでも最後まで聞かずにいきなり殴り飛ばすとは・・・
なるほど。
確かに凄い性格をしているようだ。
男を殴り飛ばした女性が周囲を見渡している。
何かを物色しているようだ。
明らかに獲物を探している猛獣の目をしている。
何か怖いな・・・
こっちを見ませんように・・・
すると何故か俺のほうを向いているような気がする。
ちょっと怖いんですけど・・・
そして俺達のほうに向かって来た。
獲物を探している猛獣の目が俺をロックオンしたようだ。
じーっと俺を見ている。
視線を避けたいがそれすらも怖くて出来ない。
『ふむ・・・よし、あなた達は合格ね!』
は? 一体何に合格したんだ?
すると女性は俺の肩に手を回して言った。
『私達と一緒にケルベロス退治に行くわよ!』
「は? なんで? どうして?」
『『え、何がどうなってるの?』』
俺だけでなくアイラ達も驚きの声をあげた。
当たり前だよな。
突然、勝手にケルベロス退治に行くぞと言われてもな。
『あぁ、そうよね。自己紹介無しにケルベロス退治に行くぞは無かったわね』
いやいや、自己紹介の問題じゃないだろ?
話し方は美人らしく柔らかい口調なんだが言っていることは無茶苦茶だ。
ギャップの差が激しいな。
一言で言えば凄く勿体無いな。
『私達は【一輪の花】というパーティーよ。こう見えてもランクBパーティーなのよ』
勝手に自己紹介が始まってしまった。
とりあえずお互いに自己紹介まではした。
【一輪の花】パーティーのリーダーはミランダというらしい。
『よし、自己紹介も終わったことだしケルベロス退治に行くわよ!』
ミランダは俺の腕を引っ張って行こうとするが大事なことを伝えていなかった。
「ちょっと待ってくれ、俺達はランクCパーティーだからケルベロス退治には行けないぞ?」
『うん? そんなことは無いでしょう? あなた達は明らかに私達と同等か、それ以上の実力があるように見えるわよ』
ミランダはやたらと持ち上げてくるな。
しかし俺達がランクCパーティーなのは間違いないのだが。
俺達のギルドカードをミランダに見せると俺達がランクCパーティーであることに納得してくれたようだ。
そしてミランダは受付嬢のほうを見た。
『ねぇ、依頼を受けた私達に別のパーティーが着いて来ても問題無いわよね?』
ミランダが受付嬢にとんでもないことを言っている。
そんなの駄目に決まっているだろうに。
『そうですね、全く問題ありません!』
受付嬢は問題無いと言い切った。
ちょっと待てって・・・問題ありまくりじゃん・・・




