0010:【紅蓮の刃】の現状
『はははは、やっと役立たずのレックスを追い出せたな!』
『えぇ、本当に最後まで未練がましかったわよねぇ』
レックスを【紅蓮の刃】からは追い出した翌日のことだった。
宿屋の食堂でパーティーのリーダーであるグレンと魔法使いのシェリーが馬鹿笑いをしていた。
そして他のパーティーメンバーも同様だった。
支援スキルしか使えないレックスをお荷物と決め付けてパーティーから追い出した。
そして新しいパーティーメンバーも追加した。
『よし、新生【紅蓮の刃】の門出だ。ここはオークでも狩りに行くとするかぁ!』
オークは中級冒険者パーティーが狙うのには最適なモンスターであった。
魔石はもちろんのこと、ドロップアイテムであるオークの肉もそこそこの値段で売れるのだ。
『運が良ければオークの睾丸をドロップするかも知れないしな』
グレンの腰巾着であるダンも続いた。
新しく【紅蓮の刃】に加入した赤髪の女性戦士と金髪の女性魔法使いの二人は心配そうな顔をして言った。
『ねぇ、私はオークと戦ったことが無いんだけど・・・』
『ごめんなさい、私もです・・・』
『がははは、このマッカスが付いているから大丈夫だ!』
マッカスに続いてグレンも余裕であることをアピールした。
『ははは、心配するな。俺達は何度かオークとは戦っているが大したことはなかったぞ』
実際に【紅蓮の刃】はオークと何度か戦闘して討伐に成功していた。
レックスがパーティーに加入していたときの話ではあるが。
グレン達は早速ギルドに向かい、オーク討伐の依頼を受注しようとした。
しかし受付嬢から思いもよらない言葉が返ってきた。
『グレンさん、パーティーメンバーを変更したのなら暫くの間は依頼のランクを下げてパーティーメンバーの連携を確認するべきですよ』
この受付嬢のアドバイスは的確ではあったがグレンは耳を貸すつもりは全く無かった。
ちなみに依頼ランクとは依頼の難易度のことだ。
冒険者ランクと同様に依頼の難易度がGからSまである。
冒険者は自分のランクに合わせた依頼を選んで受注するのだ。
オークの討伐はランクEの依頼だ。
そして【紅蓮の刃】はランクEパーティーだ。
『はははは、大丈夫だって。お荷物が減って戦力が増えたんだからな』
最終的には冒険者の自己責任で依頼を受けるのだから受付嬢もこれ以上は何も言えない。
受付嬢はため息をついてグレン達の討伐依頼を認めた。
『分かりました。ではオークの討伐依頼をお願いします』
『はははは、任せてくれ!』
グレン達は意気揚々とギルドを出ていった。
そのグレン達の背中を眺めて再びため息をつく受付嬢だった。
『ふぅ・・・死ななければいいんだけどね・・・』
◇◆◇◆
グレン達はゴブリンの森から離れたオークの棲みかと呼ばれる森にいた。
この森もゴブリンの森の同じくオークがよく出現することで知られていた。
『よっしゃー! ここでオークを狩りまくって一気に高ランク冒険者になるぞ!』
『ちょっと、グレン。大声を出すのは止めて頂戴よね。オークどもが大量に集まって来たらどうするのよ?』
『はははは、心配するなよシェリー。俺達がオークごときに負けるはずが無いだろ?』
『がははは、そうだぞ。シェリー』
『まったく・・・あんた達は・・・』
シェリーがグレンとマッカスを睨み付けた。
しかしグレンとマッカスはまったく意に介さない。
これがシェリーを更にイライラさせた。
『もういいわ。ダン! さっさとオークを探しなさい!』
このグレン達のやりとりを心配そうに見ていたのは新しく加入した女戦士と女魔法使いの2人だった。
暫くの間、オークの棲みかを歩いているとダンがオークを発見した。
『この先にオークがいるぞ』
『魔法使いの2人は魔法で先制攻撃をしてくれ。そのあとは俺達前衛組が一気にオークを倒す』
シェリーと女魔法使いの2人が呪文を唱え始めた。
2人が呪文を唱え終わると2人の魔法が発動した。
シェリーは火魔法を、そして女魔法使いは風魔法をオークに向かって放った。
『行くわよ!』
『魔法を放ちます!』
2人が同時に放った魔法はオークに直撃した。
オークにそれなりのダメージを与えたようだった。
『ブギイィィィ・・・』
『よし、いいぞ! 残りは俺に続けぇ!』
グレン、マッカス、女戦士がオークを向かって突撃した。
先制魔法攻撃で弱っていたがオークは3人を相手に善戦した。
オークは手に持っている棍棒を振り回している。
そのためグレン達は中々オークの懐に飛び込め無いでいた。
『くそっ、オークのくせに!』
何度かオークに攻撃を与えているがオークは倒れない。
このままでは埒が明かないと感じたグレンは多少のダメージを受ける覚悟でオークの懐に飛び込んだ。
飛び込んだ際にオークの棍棒がグレンの肩にかすった。
しかしグレンはオークの懐に飛び込むことに成功した。
グレンは渾身の力を込めてオークの脇腹に剣を突き刺した。
これでオークの力は尽きた。
『ブヒィィィ・・・』
オークは断末魔を上げて倒れた。
なんとかオークを倒すことが出来た。
倒したオークは1匹だ。
オークの腹から剣を抜いたグレンは剣を地面に突き刺し、肩で息をしながら考え込んでいた。
何かがおかしい。
何度かオークと戦ったことがある。
しかし、ここまで苦戦をしなかったはずだ。
何故だ? 何が変わったんだ?
グレンの頭には一瞬レックスの顔が浮かび上がった。
まさかレックスの支援スキルが無くなったからここまで苦戦するようになったのか?
確か、レックスの支援スキルは攻撃支援と防御支援だったな。
その支援効果が無くなったからか?
いや、そんなことは無い! そんなことは絶対に無いはずだ!
レックスは・・・あいつは役立たずのはずだ!
あいつを解雇したことは間違っていないはずだ!
では、他に考えられる原因なんだ?
・・・そうか!
確かギルドの受付嬢が言っていたな。
パーティーメンバーを入れ換えた直後で連携が上手く取れなかったに違いない。
そうだ! そうに違いない!
そうでなければ絶対におかしい!
『今回はまだ上手く連携が取れていなかったな。なのでもう少し連携が取れるように訓練をする必要があるな』
『そ、そうよね。きっとそうよ!』
『あ、あぁ、そうだよな!』
グレンのこの言葉にシェリー達も同意した。
しかし、女戦士と女魔法使いの心配顔は元に戻らなかった。
『と、とりあえず、今日は町に戻ろうぜ!』
◇◆◇◆
あれから約30日が経過した。
あの日以降、グレン達はオークの棲みかには行っていない。
いや、行けなくなってしまったが正しい。
何故なら、オークの棲みかに行って帰って来たその日に女戦士と女魔法使いがパーティーからの脱退を願い出たからだ。
なんとか思い留まるように説得したが駄目だった。
なので、【紅蓮の刃】は4人パーティーになってしまった。
既にレックスを追い出していたので人数的には純減してしまったのだ。
そんなある日、グレン達はギルドで信じられない話を聞いた。
レックスがランクEにランクアップしたという話だ。
グレン達がレックスを追い出した後、レックスは1人の狐人族の奴隷を購入して2人で活動をしており、しかもかなりの報酬を稼いでいるという話だった。
その話を聞いたグレン達はすぐには信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
『あいつは役立たずのはずだ・・・俺達があいつを解雇したのは間違っていない・・・はずだ』




