冒険者になった
新作を始めました。
読んで貰えると嬉しいです。
俺の名前はレックス。
ダルメキア王国にあるノーランドという村の貧乏農家の五男坊だったが15歳になったタイミングで冒険者になるために村を出た。
貧乏農家では五男坊まで養う余力なんて無いから自分から冒険者になりたいと両親に願い出て両親が了承してくれた。
そしてノーランドからかなり離れたサーランドという町の冒険者ギルドで冒険者登録をして丸2年が経過した。
ここまでは普通に冒険者になることに憧れて冒険者になった男なんだが、実は俺は元日本人だ。
日本人だった頃は普通に2流大学を卒業し、そこそこのIT企業に入社したまでは良かったのだが、実はその入社した会社はかなりのブラック企業だった。
労働基準法? なんじゃそりゃ? そんなもんは知らん、が普通にまかり通る会社であり20連勤なんて当たり前の会社だった。
俺はそんな会社に五年間勤めていた。
仕事の内容は主に炎上プロジェクトの助っ人要員だった。
何故かプロジェクトが炎上する度に俺が助っ人として呼び出されて火消しをさせられる羽目になっていた。
火消しをするといっても炎上プロジェクトの中心的役割をする訳ではない。
あくまでも炎上プロジェクトがうまく落ち着くように周りをサポートするだけなんだが、何故か炎上プロジェクトの火消し作業が成功した。
そして何度も炎上プロジェクトの火消しに成功すると当然、社内で有名になった。
社内一のバフ要員として。
そして、この会社はプロジェクトを炎上させるのが好きなのか分からないが年がら年中炎上プロジェクトが発生していた。
そのため俺は休み無しで炎上プロジェクトの火消し対応をする羽目になっていた。
そのため徹夜や休日出勤の連続なんて当たり前になっていった。
そんな生活を数年過ごした結果、当然過労死したのだ。
過労死になるべくして過労死したのだ。
そんな俺を憐れんでくれたのが神様だった。
神様は俺に異世界への転生を勧めてくれた。
神様が教えてくれた転生先の異世界とは魔法が使える世界だった。
当然モンスターもいるらしいが・・・
転生先の異世界にはレベル、ジョブといったゲームの世界のような概念がある世界とのことだった。
非常にワクワクする話ではあったが1つ疑問があった。
「そんな世界に普通の日本人である俺が転生してもすぐに死んじゃうんじゃないですか?」
折角転生させてもらってもすぐに死んでしまったら意味が無い。
『安心しろ。お主には特別に儂からの加護を与えてやろう』
これって、ひょっとしたらチート能力が貰えるのか?
もしかしたら異世界に転生して俺最強とかか?
もしくはハーレムか?
『お主の適性にぴったりの能力を与えてやるからな』
うん? 俺の適性? チートじゃないのか?
「ちょっと待って下さい。好きな能力を選べるんじゃないんですか?」
『馬鹿者! 誰がそんなことを言った? あくまでもお主の適性にあった能力を授けるだけじゃ。あとはオマケとして儂の加護だな』
なんか微妙な気がしてきたんだが・・・
まぁ神様の加護があるだけマシかも知れないな・・・
たとえオマケだとしても・・・
・・・そう思うことにしよう。
「分かりました。それで結構です」
『うむ、分かれば良い。それでは転生を行うぞ。準備は良いかな?』
準備と言われても準備することは何も無いな。
心の準備くらいしか。
「はい、準備出来ました。よろしくお願いします」
『それでは、良き第二の人生が送れることを願っておるぞ』
神様がそう言った瞬間に俺の意識は途絶えた。
同時にノーランドという村の貧乏農家に生まれた五男坊が産声を上げた瞬間だ。
◇◆◇◆
貧乏農家の五男坊として育てられた俺はレックスと名付けられた。
そして何故か俺は15歳になるまで日本人だった記憶が無かった。
日本人だった記憶を取り戻したのは15歳になると全員が受けなければならない洗礼の儀式を受けた日のことだった。
洗礼の儀式とは15歳で神様からジョブを授かることだ。
この洗礼の儀式は貴族であろうと平民であろうと全員が受けなければならない。
そして、この神様から授かるジョブで人生の大半が決まるとさえ言われている。
一般的には授かるジョブは両親のジョブに影響を受けると言われている。
実際に俺の兄達が授かったジョブは【農家】であった。
なので俺が授かるジョブも【農家】か、それに近いジョブだと思っていた。
そして洗礼の儀式が行われる日に隣町の教会に向かい洗礼の儀式を受けた。
俺が授かったジョブは【支援術士】であった。
聞いたことが無いジョブだった。
教会の牧師様が言うには非常に珍しいジョブとのことだった。
【支援術士】はパーティーメンバーの能力を上げることに特化したジョブだった。
「なんか微妙なジョブだよな。でも【農家】よりはマシかな。とりあえず、これで予定通り冒険者になれるな」
本来は冒険者としてやっていくには、剣士、戦士、魔法使い等の攻撃手段を持っているジョブを持っていることが望ましいのだが。
そして洗礼の儀式を済ませると全員が使えるようになるスキルがある。
「ステータスオープン」
名前:レックス
種族:ヒューマン
年齢:15
レベル:1
ジョブ:支援術士
ジョブスキル:
加護:
【神の恩恵】【無詠唱】
【???】【???】
目の前にスクリーンが現れて俺の情報が表示されている。
そしてステータスの中にある【神の恩恵】という文字を見た瞬間に元日本人であった記憶が甦った。
会社の社畜として過労死してしまったこと、そして神様と出会って転生させてもらったこと等を思い出した。
『………ス、………クス、………レックス?』
牧師様が俺を呼んでいた。
「あ、スミマセン。少しぼーっとしてしまいました」
『大丈夫ですか? それでは早速ジョブスキルを選択してみて下さい』
ジョブスキルとはジョブに固有で割り当てられたスキルのことだ。
例えば、ジョブが戦士なら剣術スキル等が存在する。
そして牧師様に言われた通りにステータスウィンドウのジョブスキル欄に触れると取得可能なジョブスキルの一覧が表示された。
・攻撃支援
・防御支援
・回復支援
表示されたジョブスキルはこの3つだ。
そしてジョブスキル名に触れるとそれぞれのジョブスキルの説明が表示された。
【攻撃支援】
術士のレベルx10のダメージ付与を自分以外のパーティーに支援する。
【防御支援】
術士のレベルx10のダメージ軽減を自分以外のパーティーに支援する。
【回復支援】
術士のレベルx10の体力回復を自分以外のパーティーに支援する。
う~ん、よく分からんな・・・
そもそもステータスウィンドウには体力とかの表示が無いから10という数字が大きいのか、小さいのか分からない。
それよりも大事なのは "自分以外" というところだろう。
残念ながら支援の対象に "自分" が含まれていないのだ。
『さて、取得可能なジョブスキルの一覧が表示されましたよね? では、その中から自分の好きなスキルを選んで下さい』
俺の場合は、パーティーメンバーの攻撃力が上がってくれないと困るよな。
そうなると最初に選ぶべきスキルは攻撃支援しか無いよな。
「はい、スキルを選びました」
すると、ステータスウィンドウに表示されていたジョブスキル欄に【攻撃支援】が追加された。
『ジョブスキル欄に選んだスキルが追加されましたよね。今後はレベルが上がるに連れて追加出来るジョブスキルが増えていくはずですよ』
牧師様の説明は以上だった。
無事に洗礼の儀式を終えた俺はノーランドの村に戻り、両親に向かって冒険者になることを伝えた。
『そうか・・・レックスが授かったジョブのことを考えるとそのほうが良いだろうな』
『でも冒険者は危険な職業なんでしょ? レックスは冒険者としてやっていけるの?』
父親は賛成だが母親が若干反対であった。
しかし俺の一言で母親も折れるしか無かった。
「この家には俺を養う余力が無いだろ? しかも俺は農業系のジョブを授からなかったしね。それに俺は元々、冒険者として生きていきたいと考えていたんだよ」
その後も母親との問答は続いたが最後は母親が折れた。
『分かったわ。そこまで言うならレックスの好きなようにやってみなさい。でも駄目だった場合はいつでも戻ってくるのよ』
何とか母親を説得出来たので翌日、村を出て行くことにした。
そしてノーランドからかなり離れたサーランドという町に向かうことに決めた。
サーランドへ向かう馬車に乗る前に父親と兄達から路銀として銀貨3枚、銅貨5枚、鉄貨10枚を手渡された。
そして護身用の剣も貰った。
こちらの世界の貨幣は全てコインである。
それぞれのコインの価値は日本円に換算するとこうなる。
鉄貨1枚:百円
銅貨1枚:千円
銀貨1枚:一万円
大銀貨1枚:十万円
金貨1枚:百万円
大金貨1枚:一千万円
白金貨1枚:一億円
我が家では大銀貨しか見たことが無かった。
それも一度だけだ。
そもそも、この村なら1日を暮らすのに銅貨2枚あれば何とかなる金額だ。
なので銀貨3枚、銅貨5枚、鉄貨10枚を工面するのはかなり大変だったはずだ。
家族に感謝して有り難く使わせてもらうことにした。
◇◆◇◆
ノーランドを出発して1週間後、無事サーランドに到着した。
「さすがに腰が痛いよな・・・馬車の相乗りは厳しいなぁ」
狭い幌馬車の中ではずっと身体を縮めていたため身体中が痛い・・・
本来なら1日ゆっくりしてから冒険者として活動したかったが俺には無駄に出来る時間も金銭的な余裕も無かった。
早速冒険者ギルドに向かって登録しなくては。
冒険者ギルドに到着すると俺と同じように冒険者登録をしようとする若者達で溢れかえっていた。
各地で洗礼の儀式を受けて俺と同じように冒険者になると決めた者達が集まっているのだ。
登録するためだけの行列に一時間も並び、ようやく冒険者登録が完了した。
ちなみに冒険者登録に銀貨1枚が必要だった。
銀貨を支払った後にギルドカードを発行するまでの間、ギルドの受付嬢から簡単に冒険者ギルドの説明を受けた。
本当に簡単だった・・・
大事なのは冒険者ランクを上げることと揉め事を起こさないことの2つだけだった。
冒険者ランクはG~Sまであるとのことだ。
当然、俺はランクGからのスタートになった。
ギルドの中では冒険者登録を完了させた者達がお互いにパーティーの勧誘を始めていた。
俺も誰かとパーティーを組まなくてと周囲を見渡していた。
俺の場合はジョブが特殊だしな。
『なぁ、俺達とパーティーを組まないか?』
赤髪のいかにも戦士系の男が俺に声を掛けてきた。