06~ 天然偽善者と借り物競争の災難① ~
借り物競争の始まりだァ〜!
「刀夜、お前膝擦りむいてんぞ?」
「あ、ほんとだ」
自分の膝を見ると、ちょっと血が出てきていた。
洋太に言われるまで気付かなかったや。それにしても、気付いた途端に痛くなったな。痛くなるなら気付きたく無かった……。
「また保健室行ってらっしゃい!」
それから俺は傷口を水で洗い、障害物競走の後に行ったばっかりの保健室に向かった。
保健室の先生に
「また怪我したの?! どうやったら、一日に2回も怪我するのかしら……」
と、驚きと困惑の表情を浮かべられた。
洋太によると、あと1回コケる可能性があるらしいですよ、先生!
勿論、そんな事が起きるはずがないので口には出さないが。
消毒してもらい、テープを貼りテントに戻ってきた。すると、クラスのみんなが「お疲れ」や、「あれは、しょうがないよな」とか「怪我大丈夫?」と声をかけてくれた。
皆……優しいな。ちょっと、涙腺崩壊しそうだったぞ! よし! みんなの期待に応えるためにも、もっと頑張らないと! 次の借り物競争とその次の男女別学年対抗リレーは、必ず1位を取るぞ!
俺は頬を両手でパチンパチンと2回ほど叩いて気合いを入れ直した。
2年生と3年生の男女混合リレーを見ていて気付いた事がある。
1人ずつめっちゃ速い人がいるのだ。2年生の人は金髪のサラサラヘアー。ザ、イケメンって感じの人。
3年生の方は、黒髪でこちらもまた、サラサラヘアー。金髪イケメンとは違って、目がキリッとしている。おまけに眼鏡付き。めちゃくちゃ真面目そうだ。ザ、優等生って感じだ。
聞くところによると、2年の金髪イケメンはこの学校の副会長らしい。
見えない……全く副会長らしくない! 金髪の副会長なんているのか?!
髪を染めてるのか、地毛なのかは分からない。けど、多分何も言われてないってことは地毛なのだろう。
地毛が金髪ってなんか、かっこいいな! 金髪って事はやっぱりハーフなのかな?! アメリカと日本とか?
まぁ、そんな事はどうでもいいか。
3年生の黒髪眼鏡の人は生徒会長とか言われていた……。
うん。わかるよ。見た目からして頭良さそうだしね。いかにも優等生で、文武両道って感じだよ。
俺はこの2人と男女別学年対抗リレーで戦わなければならない。会長と副会長と争うなんて考えるだけで、負ける気しかしない。
――だめだ! しっかりしろ俺! 弱気になってどうする! まずは借り物競争から頑張るぞ!
俺はまたまた、気を入れ直し借り物競争が始まるのを待った。
借り物競争が始まった。借り物競争は、時間がかかるから、5組前になったら並びに行かないといけないらしい。
それまでは、各自テントで応援だ。
しばらくして、同じクラスの加田野さんがこちらに走ってきた。
誰かに何かを、借りに来たのだろう。
「真田くん! ちょっと来て来て!」
えぇっ?! まさかの俺だった! とりあえず、何を借りに来たのか聞こう。
「え〜っと。何を貸せばいいの?」
俺を指名したってことは、俺が貸せるものということだが……特に貸せるものはないぞ?
「ん? 行くよ! 真田くん!」
加田野さんは質問には答えずに俺の手を引っ張って走り出した。
え? 何これ、俺自体がお題だったの?
困惑している間にも、加田野さんは俺の手を引っ張って走る。
引っ張られていると言うことはもちろん、手を握られている。
「その……加田野さん? ……手を離して貰えないかな?」
俺は恥ずかしさに耐えきれずに、加田野さんに言った。
「あぁ! ごめんなさい!」
加田野さんはそう言って直ぐに手を離してくれた。
加田野さんから解放されて、テントに戻る! なんてことはもちろんせず、俺は黙って加田野さんと横に並んで走る。
流石に公衆の面前で、女子に手を引かれて走るのは恥ずかしい! これならまだみんなの前で派手に転ぶ方がマシな気がする。この気持ちがわかる人はきっといるはずだ!
俺がブツブツと考えていたら、いつの間にかゴールしていた。
係の人が加田野さんのお題の紙を受け取り内容を確認する。
係の人が俺の方をジッとみて、「うん」と呟いた。
どうやら、お題にはちゃんとあっていたらしい。
ふぅ、よかったよかった! 俺が呼ばれた時はどうなるかと思ったけど、1位でゴールすることができて良かったな。ナイス判断加田野さん!
1人で感心している俺だったが、ここである疑問が浮かんできた。
「加田野さん。結局お題は何だったの?」
そう。加田野さんが引いたお題は果たして何なのだろうか。俺を連れてゴールして、係の人もオーケーを出すお題……
身長が低い人。髪が黒い人。足が速い人……思いつくのはこのぐらいしかない。
自分に当てはまるものは悲しいけど、このぐらいしかない。
「えーとねー。ワタクシ、加田野が引いたお題は……」
加田野さんは少し間を開けてから、
「クラスの癒し系キャラです!」と楽しそうに笑いながら答えた。
………………えーと、つまり。俺は加田野さんの癒しなのか? それってもしかして……
「あぁー! もちろん、恋愛感情とかでは決して無くてですね! 真田くんと谷川くんの絡みをみてると、なんか微笑ましいなぁ〜とか思ったりして癒されるんですよ!」
加田野さんは、俺が考えていることが分かったかのように早口で否定した。
そこまで必死に否定されたらちょっと傷つくな……。
「あ、真田くん。急だったのに来てくれてありがとうございました!」
「あ、あぁ。全然大丈夫だよ!役に立てたなら良かった」
加田野さんは律儀にお礼までしてくれた。
「あっ! 真田くん真田くん! 真田くんって呼ぶのめんどくさいから、さなっちって呼んでいい?」
目をキラキラさせて、聞いてくる加田野さんに困惑したが、俺は、「別に呼び方とかは気にしない」と言って了承した。
呼び方でいちいち了承貰う人初めて見たや。
加田野さんと話し終えた俺は、皆がいるテントの方に帰っていった。
しばらくテントで待機していると「真田くん」と、誰かに声をかけられた。感情が籠ってないようで、透き通るようなその声は何処かで聞いたことがある気がした。
俺は、声が聞こえた方に顔を向けるとそこには無愛想な顔をした塩崎さんが立っていた。
あれ? あの声は塩崎さんの声に似てたけど、違ったのか? 塩崎さんは、何ともないような顔で立っている。
では、俺の名前を呼んだのは一体誰なのだろうか? と、辺りをキョロキョロ見渡している俺にまた「真田くん!」と、声をかけられた。
今度は語尾を強調して呼ばれる。
反射的に俺は声のした方をみる。やっぱり塩崎さんが立っていた。
だが、さっきとは違ってちょっと俯いているような気がする。
「お題が、これだから来てくれないかしら?」
そう言って塩崎さんは、俺にお題の紙を見せてきた。
そこには、こう書いてある――『青いもの』
……ふむ?青いもの?俺は何も持ってないぞ?
俺が内心でボヤいていると、それを察してか塩崎さんが、
「貴方の目が青いでしょ? だから、一緒に来てくれないかしら? 別に一緒に来るのが嫌なのなら、貴方の目玉をくり抜いて私に渡してくれないかしら?」
と、何とも女子高生らしからぬ言葉が飛び出てきた。
流石に冗談だと分かる。分かるけれども、今にでも目玉をくり抜いて来そうな表情をしている塩崎さん……
怖すぎるよ! こんなの行くしかないじゃん!
「わかった。行くから目玉をくり抜くのだけは止めて!」
俺は塩崎さんの圧に完敗。
早くゴールしないといけないので、俺は塩崎さんの手を取り走り出す。
塩崎さんも足は早いので俺たちはあっという間にゴールした。
結果は2位。俺が直ぐに一緒に行かなかったのが原因だろう。
塩崎さんに責められないかと心配になったが、塩崎さんは何故か少し俯いている。おまけに少し耳が赤くなってる。
「その、えと。あ、ありがとう」
塩崎さんは、言葉につまりながらもお礼を言ってくる。
俺はいつもと違う塩崎さんに戸惑いつつも、「どういたしまして!」と笑顔で返してテントに戻った。
それにしても、なんかさっきの塩崎さん新鮮だったなぁ〜。
それからも、借り物競争は続いて行った。
たまに俺を「身長が低い人」「髪が黒い人」「可愛い男子」なんてお題で指名してくる人達が居たけど、善ポイントを貯めるために、一緒にゴールした。
結構疲れたな……
まだまだ体育祭はこれからだ〜!