29〜 利き手の疑問 〜
「えっ! 私気付かれて無かったんですか?! マジですかっ!」
「あはは……。でもお姉さんが何故ここに?」
「いや、服屋すぐ近くだからだよ?!」
服屋のお姉さんが指さしてる方を見ると、確かにさっきまでいた服屋さんがあった。
あれ、こんなに近くにあったんだ……。気付かなかったぞ。
「もー……。なんであんな危ないことしたの?」
「知り合ってから思ってたけど、やっぱり貴方馬鹿よね……?」
酷い言われようだっ! それにお姉さん、結構面白い人だな。
なんであんな危ないことをした、か……。
「よく分からないけど、身体が。本能がやらなきゃって反応したんだ。それだけだよ」
「「………………」」
「いや、黙らないでっ?!」
「いや、そのなんと言うか。凄いね君」
「やっぱり、貴方は馬鹿だったのね……」
結構真面目に答えたのに酷いぞ! 九條様に至っては俺が馬鹿だと1人自問自答して結論導いてるし! 俺は、馬鹿じゃない。少し勉強が苦手なだけだ!
それにしても、左腕を切られた時に感じた違和感と言うか……。ずっと昔にも同じような事があったような既視感があったが……きっと気の所為だろう! 夢で似たような物を見た時と同じような感じだし、きっと今回もそうだろう。
そんな事を考えていると、服屋のお姉さんが「左利きなのかぁ……」と呟いているのが聞こえてきた。
「あの、俺右利きですよ?」
お姉さんは、何を言っているんだろう?
「えっ?! そうなの?!」
「え、私も左利きだと思ってた……」
えっ?! なんでそんなに驚かれるの?!
「なんで左利きだと思ったんですか?」
「理由って、君。ナイフで切られる時、咄嗟に左手でガードしたじゃん?」
「貴方が言うように、右利きで右手を日頃から使っているのだったら、咄嗟に反応するのは普通右手のはずだと思うのよね……」
「でも、咄嗟に反応したのは左手だった。だから左利きだと思ったのよ」と九條様とお姉さんが一緒に説明してくれる。
確かに、言っている事はよく分かるけど……。
「生活に支障が出ない左手で本能的に守ったんじゃない?」
「ほら、利き手の右手を怪我したら文字とか書けないじゃん?」
俺が言うと、九條様とお姉さんは「それもあるか……」と呟いていたが納得していない表情をしていた。
すると、お姉さんが何か思いついたのか「あっ!」と声を漏らした。
「両利きって可能性ないっ? 君が気付いてないだけで……。うん、きっとそうだよ」
お姉さんが、「両利きいいなぁ。羨ましいなぁ」と意味のわからない事を言い出したので無視する。
でも、両利きとかそんな珍しい事に気付かないほど俺は馬鹿じゃないぞ!
……あれ……? 俺の利き手の話とか、今どうでも良くないっ?!
今になって気付いたけど、利き手の話よりも重要な事があるでは無いか。
どうして、俺は朝からつけられてたのだろう?
どうして、俺なんかを襲う必要があったのだろう?
どうして、あんなに笑っていたのだろう?
考え始めると、次々と疑問が湧いてくる。
パーカー男が何回も口にしていた「滅茶苦茶にしてやる」や「壊してやる」、「狂わせてやる」という言葉の意味も全く分からない。
考えているところで、警察官と救急隊員が駆け付けてきた。
まぁ、いいや。警察が何とかしてくれるでしょ。
俺を襲った理由は、パーカー男にしか分かるはずがないので、後のことは警察に任せることにした。
襲われた俺と九條様は一応怪我が無いかなどの検査をするらしく、救急車に乗せられ近くの病院に運ばれた。
検査をしたが、俺は左腕の切られたところ以外には怪我もなく、九條様も軽い打撲だけだった。
せっかくの休日。偶然ではあったが九條様と映画を一緒に見たり、その後ご飯を食べたり服を買ったりと楽しい気分で終わるはずだったのに……。九條様を巻き込んでしまって申し訳ないな……。
俺がもっと早く行動出来ていたら、九條様が怪我をする事もなかったのにな……。
そんな自責の念を感じて意気消沈していると、
「ありがとう」
と九條様が、今までで1番の笑顔で感謝の言葉を伝えられた。
俺は、それだけで少し気持ちが楽になった。
「ありがとう」たった5文字の言葉だけでも、こんなに感情が左右されるものなのかと驚き半分、感心半分と言った所だ。
俺もこれから、「ありがとう」って沢山の人に伝えれるようになりたいな!
俺がそんな事を呑気に考えている間に、世間では今日のショッピングモールでの事件が拡散されて、ちょっと有名人になっている事など機械音痴の俺が知るのはかなり後の話である。




