20〜 母さんとの会話 〜
家に帰ると、母さんは起きて俺が作っておいた朝ご飯を食べている最中だった。
時刻は6時。
「ただいまー。今日母さん起きるの遅いね。仕事間に合うの?」
「おかえり刀夜〜。昨日は急なお仕事が入ったから今日は少し遅めの出勤なんだぁ〜。それよりも、こんな朝早くからどこ行ってたの?」
母さんはまだ起きたばかりだからか、いつもよりフワフワとした雰囲気だ。
体育祭の途中で仕事が入った事にはもう怒っていないらしい。
まぁ、いつものんびりとした口調なのは相変わらずなんだけどね!
「早くに目が覚めたから、ちょっと走ってきただけだよ」
「あら、そうだったのねぇ〜。でもあんまり暗い時間に1人でいないでね。何か事件にでも巻き込まれたら母さん心配だわ」
母さんの心配性が発動するが、いつもの事だ。心配されるのは嬉しいけど、俺ももう高校生。
こんなやり取りを他の人がみたらどう思うか想像して欲しい。
『仲がいい親子で羨ましい』勿論そんなことを思う人もいるかもしれない。だが、同級生からみたら間違いなく引かれるだろう!
だが、まぁそんな心配性な母さんは嫌いじゃない。
いつもの事だと思い「大丈夫だよ」と聞き流し、汗を流すためにシャワーを浴びに行った。
シャワーを浴び終え、髪をタオルで拭きながらリビングに向かうと母さんがドタバタと急いで会社に行く準備をしていた。
あれだけ、時間は大丈夫とか呑気な事言ってたのに結局時間ギリギリだよ……。
そんな母さんを見ていると、自分の事をもっと心配した方がいいんじゃないかと俺も心配になった。
こんな事で心配になるなんて、やっぱり俺は母さんの子供だな! と思い和やかな気持ちになる。
「あ、刀夜。母さんもう仕事行く時間だから、出掛ける時は戸締りよろしくね〜」
動きは機敏なのに、気の抜けた声のせいで変な感じだ。のんびりとした口調は終始一貫して変わらないらしい。
母さんのふんわりとした注意につられて俺も何とも気の抜けた「は〜い」という返事をする。
母さんが玄関で靴を履いている時に、俺は母さんが弁当を忘れている事に気づき、急いで取りに向かった。
「母さん、忘れ物!!」
弁当を母さんに渡すと、母さんは驚いた表情をした。
「作ってくれてたの?! ありがと〜!」
そう言って母さんはガバッと抱きついてきた。
「ちょっ?!」
急なことに俺はビックリしたが、すぐに恥ずかしくなり「や、やめてよ! ほら、早く仕事行った行った!」と急かした。
抱きつかれるのは嫌じゃないけど、恥ずかしいのでやめて欲しい。
「あらあら〜。照れちゃって可愛いんだから〜」
母さんは時間に余裕が無いはずなのに、のんびりとした口調でからかってくる。
「照れてない! てか、時間! 間に合うの?!」
俺が時間を指摘すると、母さんはムゥと唸って「行ってきまーす」と少し名残惜しそうな顔でドアを開ける。
「行ってらっしゃい! 気をつけてねー!」
俺が手を振って見送ると、母さんは機嫌を直したのか元気な足取りで出ていった。
……ふむ。1人になってしまった。モール開くまで暇だな……。
何をしようか悩んだ末、テレビを観ながら時間を潰す事にした。
時計の針が、9時を回った。ショッピングモールは、10時に開くので余裕を持って行く事にした。
映画館は、10時よりも早く開くらしいけど何か行きずらい雰囲気があるというか……まぁそんな理由でモールが開いてから映画館に向かう。
ショッピングモールまでは、自転車で45分程。スーパーの少し先にある。
部屋着から、ラフな格好。まぁ、部屋着とあんまり変わらないTシャツ、半ズボンに着替える。バッグには、あまり使わないスマホや財布を入れる。勿論、カードも忘れずに入れている。
母さんに言われたように、ちゃんと家の戸締りをして、最後に玄関の鍵を閉めると「よし! 準備万端! レッツゴー!」という無意識に出た変な掛け声とともに、自転車で走り出す。
因みに、今日見る映画はSNSで人気の小説が映画化されたものだ。
普段小説を読まない俺も、ついつい内容が気になり買ってしまった。読んでみると、涙腺が緩いのも相まって、感動し、思わず号泣してしまった。
それを見ていた母さんは、何事かと思いワタワタと慌てふためいていた記憶がある。
母さんにも薦めて読ませてみると、母さんも泣いていた。
決して、母さんの涙腺が緩いからとかではない! ……と思う。少なくとも俺よりは緩くはないんじゃないかな……。
まぁ、それほどまでに感動したのだ。だから、その映画が面白くないはずがない。
もう、予告を見ただけでもうるっと来てしまった。
感動して、泣くと分かっているので事前にハンカチとティッシュは準備済みだ!
俺は期待を膨らませながら、気分上々で自転車を快走させた。




