97 vs 神 一
パチ、パチ、パチ。
衝撃波が消え、辺りが静かになると、ゆったりとした拍手が聞こえてきた。がれきに埋もれた僕は、その拍手を聞きながら楓機構を全力で動かした。
「いやはや、愉快、愉快。実に楽しい見世物だったよ」
全力だってのに、なかなか体が回復しない。無理もないか、首から下は肉片の状態だ。今攻撃されたら、よけることすらできず消滅だろう。
だけど、攻撃される気配はない。僕はようやく動けるようになると、必死の思いでがれきの下から這いずり出た。体は復活できても服は無理。おかげで素っ裸だ。すっかり見慣れた女の体に舌打ちしつつ、僕は正面を見上げた。
一段高くなった場所で、男が杯を手にゆったりと座っていた。こっちが必死で戦ってる時に酒盛りかよ。
「て……めえ……」
拍手をしていたのはこいつだろう。
黒い長髪に切れ長の目の整った顔立ち、やや着崩した山吹色の着物の着流し姿。祭壇のような場所に座り、脇息に肘をついて僕を見下ろしていた。
その男の傍には着飾った天女が控えていた。僕をちらりと見た後、汚物でも見たかのように顔を背けて目をそらすと、二度と僕を見ようとはしなかった。
「三代目一寸法師の必殺技。凄まじい一撃だな」
男が空になった盃を差し出すと、天女が流れるような仕草で酒を注いだ。
「それからお主もな」
酒が満たされた盃に男が口をつけ、静かに飲み干す。
「見せてもらったよ、楓機構の戦い方。いやはや、あれは並の神では対抗できまい」
「誰だ、てめえ」
聞いてはみたが、いまさら聞くまでもないことだ。
鈴丸。
かつて初代一寸法師が退け、二代目一寸法師が異世界へ放逐した鬼。そして、かの鬼を知る者が「あいつは別次元の存在」と口をそろえて言う鬼。
「鈴丸。ここ最近は、武田と名乗っていたがね」
やっぱりか、と歯噛みする僕を、鈴丸は面白そうに見ていたが、「おお、そうだ」と何かを思い出して杯を置いた。
「後始末をせねばな」
鈴丸が右手を前に伸ばした。その手がぼんやりと光り、僕の前に積み上がっていたがれきが崩れた。
崩れた瓦礫から出てきたのは、無残な姿となった楓だ。ざっくりと腹が裂け、血が流れ出していた。あれではもう助からないだろう。
ん?
こいつ、どうしてケガしたままなんだ? 楓機構が動いているのなら、体が修復されるはずなのに。
「やはりマガイものはいかんな」
ふわり、と楓の体が浮いた。かすかにうめいたところを見ると、かろうじて生きているらしい。そのままゆっくりと浮いていき、鈴丸の前まで上ったところで止まった。
「一寸法師の技の衝撃で、壊れてしまったよ」
うっすらと目を開けた楓が「武田教授」とつぶやくのが聞こえた。誰だかは知らないが、神崎直美だった彼女と知り合いだったのだろう。
「何度も作り直し、なかなかにうまい霊力を作るようになったのだがね。こうもろくては、使い物にならない」
鬼が笑う。
その凄絶な笑みに思わず僕が怯んだ時。
楓の腹を、鬼の腕が貫いた。
「あ……あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
楓が絶叫を上げ、ビクンッ、ビクンッ、と全身を痙攣させた。そして、みるみる力を吸い取られて干からびていき、あっという間に土となった。
ぼろり、と土が崩れ、砂となって散っていく。
「ふむ、たいして残ってはいなかったな」
鬼が僕を見て笑う。
「さて、本物の楓機構は、どのような美酒を醸し出すのかな? 興味深いところだ」
舌なめずりしそうなその顔を見て、僕の背中に悪寒が走る。
鬼・鈴丸。
こいつは、僕を食う気満々だ。




