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小人族御伽草子 呪いの珍皇子  作者: おかやす
第3章 楓機構
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53 神子・楓 伍

 「神子様、もうじきです、もうじきです! どうかお気を確かに!」


 兵の声にハッとなった。何度も何度も死線を超えてしまいそうになったが、彼の声でかろうじて意識をつなぎ止め続けた。


 「見えました、町です! 町ですよ!」


 兵も重傷を負っているのに。それなのに必死で駆け続けてくれた。

 寒かった。失われた血の分だけ、体の中から温もりが抜けていた。兵が撃ち抜かれたお腹をきつく縛ってくれたおかげで出血は止まっているけれど、果たして町までもつのか、わからない。

 また意識が遠のいた。

 もう自力で彼の背中にしがみついていることもできない。落ちそうになると、兵が急いで背負い直し、「あと少しです!」と励ましてくれた。


 「開門! 開門! 神子様がケガをされた! 医者を! 医者を呼んでくれ!」


 兵の声に、周囲が騒然とするのが聞こえた。人が集まってきて、兵の背中から降ろされ、すぐに輿か何かに乗せられて運ばれるのを感じた。


 「楓!?」


 遠くから絶叫が聞こえた。その絶叫の主が、力強い足音で駆け寄ってきて手を取ってくれた。


 「何があった!? なぜ楓がケガをしている!」

 「鬼が……鬼が神を騙り、悪霊とともに神子を我が物にせんと……」


 兵が、途切れ途切れに報告する。

 協力を申し出た神は、鬼が名を騙り変化したものだった。神子として修行を積んでいないゆえに、それを見抜けなかった。神のふりをして現れた鬼は、悪霊を倒すと言って禁忌の森へ誘い込み、神子を我が物にしようと牙をむいた。

 兵はその報告を終えると倒れたようだ。これで、一緒に行った兵と神官はみんな死んでしまった。


 「楓! 楓! しっかりしなさい!」


 先ほどとは違う声が手を取ってくれた。消えかけていた意識がかろうじて戻り、なんとか目を開けることができた。

 たくましい体つきの男と、凛とした美しい女が、心配そうにのぞき込んでいるのが見えた。


 「ごめん……なさい……悪霊に……だまさ……れ……ちゃった……」

 「しゃべるな! すぐに手当てする! 桔梗、医者を!」

 「はい!」


 美しい女が僕の手を離し、どこかへ駆けていく。

 そうだ、桔梗だ。死にかけているせいか、記憶がうまく繋がらない。幼馴染で、頼もしいお姉さんで、そして愛した人の妻となった人だ。


 「隼人様! 禁忌の森の方より、何かが来ます!」

 「なんだと?」


 そして隼人が、心から愛した人が、見張りの兵に呼ばれて駆けていく。

 隼人と、桔梗。

 心から愛した人。大切な幼馴染。誰もが蔑む中、最後まで味方でいてくれた二人。この二人だけは、何としても守りたい。


 「神……様……」


 神官長に教えられた祈りの手順を必死で思い出し、残った力をかき集めて手を伸ばした。


 「神子様、いけません!」

 「力が抜けてしまいます! 今はご無理をなさらず!」


 神官の悲痛な声が聞こえてきた。神官の声を聞いて町の人が声を上げ、「神子様!」と呼びかけてきた。

 でも、やめるわけにはいかない。

 この命が尽きる前に、何が何でもやっておかないといけない。神子として、この町の繁栄を祈る者として、神にこの願いを託したい。


 「どうか……どうか……この町を……お守りください……」


 祈りを終えると力が急速に抜けていった。

 ああ、これで終わるのか。大切な人を守れないのか。

 情けなくて、悔しくて、でもどうしようもないという諦めの気持ちで目を閉じたとき。


 「その祈り、聞き届けよう」


 どこからともなく声が聞こえた。

 ああ、祈りが届いた、きっともう大丈夫だ。そう思うと同時に緊張の糸が切れ、意識が途切れた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >でも、やめるわけにはいかない。 >この命が尽きる前に、何が何でもやっておかないといけない。神子として、この町の繁栄を祈る者として、神にこの願いを託したい。 >「どうか……どうか……この町…
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