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小人族御伽草子 呪いの珍皇子  作者: おかやす
第1章 サンライズ
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3 崇徳院

 第七十五代天皇、崇徳天皇。退位後は新院、あるいは讃岐院、そして崇徳院。

 権力争いに翻弄された生涯を送り、最後は配流先の讃岐国で憤死したと伝えられている。特に政敵だった後白河法皇との確執は凄まじく、「日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん」との言葉を残して崩御している。

 崇徳院の死後、後白河法皇の周囲で次々と不幸が起こり、崇徳院が怨霊となって祟っているのだという噂が流れた。当時の人にとってそれは噂ではなく本当のことであり、後白河法皇は崇徳院の怨霊に悩まされたという。


 「へえ、日本史上最大の怨霊、か」


 『雨月物語』でも怨霊となった崇徳院が西行と論争する、という話があるし、その他にもいろいろなところで怨霊のモチーフとして取り上げられているようだ。

 明治天皇が勅使を遣わして京都の白峰神宮へと祀るまで、日本を祟り、百年に一度大事件を起こしていたという伝説もある。崇徳院がそんな風に語られているなんて知らなかったので、少々驚いた。


 「でもこれ、一般常識というより、オカルトじゃ?」


 私は隣で寝息を立てている零を見た。

 リュックを抱えて、私の方に頭を預けてくぅくぅと寝息を立てている。姫路で乗り換えて出発した後、すぐ寝入ってしまい、まったく目を覚ます様子はない。


 これ、誘われてるのかな、と私はあらぬ妄想をした。


 零は妙にパーソナルスペースが狭い。人の鼻の頭を指でつついたり、会話する際に寄り添うように近づいたり、こんな風にもたれかかって寝たり。いつもこんな調子だとしたら、勘違いした男も多かっただろう。


 いやでも、こいつ男だから、と私は静かに頭を振った。


 見た目は可愛い女の子でも、こいつは男。私は異性愛者なので、もしも零が私を気に入って誘っているのであれば丁重にお断りしなければならない。

 いや、しかし、零ならひょっとしていけるかも、と考えかけ、慌てて止めた。

 そんな風に悶々としていたら、まもなく終点の岡山とのアナウンスが流れた。私は「おい」と零を揺さぶって起した。


 「ん……ああ、ごめんなさい、寝ちゃってた……」


 零は寝ぼけた目でふわっとあくびをした。どんな仕草も、いちいち可愛い子だ。


 「ごめん。彼女に見られたら怒られるね」

 「いねえよ、彼女なんて」

 「そうなんだ」


 零はリュックに頭を乗せ、何か言いたげに私を上目遣いに見た。


 「なんだよ?」

 「ずっといないのか、いたけど別れたのか、どっちかな、と思って」


 私が何も言わずにいると、零はククッと笑って立ち上がった。

 電車を降り、地下トンネルをくぐって瀬戸大橋線の乗り場へと移動した。高松行きの電車は意外と人が多かった。どうも団体の旅行客が乗っているようだ。意味のわからない言葉で話しているから、おそらく外国からの団体客だろう。

 私と零は、車両の後ろ側のドア横に並んで立った。混んでいることもあり、隣に立つ零とは体がくっつくほど距離が近かった。私はなんとなく居心地が悪いのだが、零は気にした様子もなく、私にあれこれと話しかけてきた。


 「大統一理論なんて、名前がかっこいいね」


 零は知的好奇心が旺盛なのか、私の研究内容について色々と尋ねてきた。私が研究してきたのは素粒子の間に働く力。重力とか磁気とか電気とか、まあそういったものである。


 「かっこいい名前だと、研究意欲湧くだろ?」

 「そういう理由で名前つけてるの?」


 そういうわけではないと思うが、個人的には「電弱強統一理論」とか呼ぶよりは意欲が湧くというものだ。


 「ま、その上には超大統一理論なんてのもあるがな」

 「そこまでいくと、あんまりかっこよくない……」

 「そうかもな」


 話をしているうちに、電車は児島を経て、瀬戸大橋へと差し掛かった。


 「夜だからよく見えないね」


 あごのすぐ下から零の声が聞こえた。私は少ししゃがんで、窓から外を見た。海面に映る月の光がゆらゆらと揺れていて、うっすらと瀬戸内の光景を浮かび上がらせていた。


 「これはこれで幻想的じゃねえの?」

 「うん、そうだね」


 零の横顔がすぐ目の前にあった。零は窓から見える景色に見入っていて、私の視線には気づいていなかった。

 何度も思うが、こいつ、本当に男だろうか。

 見た目だけなら、原宿や渋谷でもあまりいない、かなりハイレベルな美少女だ。口調こそ男っぽいが、声も女そのもので、知らなければ絶対に女だと思う。だが、女特有の生っぽさというか臭いというか、そういうものは感じられない。

 例えれば、そう、人形のようだ。


 「ねえ祐一さん」


 不意に零がこちらを向いた。私は慌てて零との距離を離した。


 「な、なんだ?」

 「坂出で、ホテルって取ってる?」

 「いや」


 そういえば忘れてたな、と私は慌ててスマホを取り出した。なにせいきなり坂出に行くことが決まった。電車は切符さえ買えば乗れるが、ホテルはそうはいかない。こんなことなら姫路から岡山へ向かっている途中で予約を取っておけばよかった。


 ──あれ?

 「どうしたの?」


 私が首をかしげると、零が不思議そうに私を見上げた。


 「ああ、いやいや。京都のホテル取ったときに、坂出のホテルも予約しておけばよかったと思ってな」

 「意外と抜けてるんだね」

 「ほっとけ」


 ククッと笑う零に苦笑いを返しつつ、私はスマホを操作して空いているホテルを検索した。


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