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33 麻薬

 何度も吹き飛ばされては地べたを転がされた零は、全身ボロボロになった。

 私が貸したセーターは大穴が開いてもはや修復は不可能だった。Gパンも本物のダメージパンツになっているが、こちらもダメージを受けすぎでもう履くことはできそうにない。

 そのボロボロさといったら、初めて会った夜と同じだった。もしかしたらあの夜も、こんな感じでボロボロにされたのだろうか。


 「しつこいわ!」


 哀れむように零を見ていた少彦名命だけど、零があまりにしつこいせいか怒りをあらわにした。吹き飛ばして零が倒れたところに飛びかかり、とどめとばかりに手にした杖を思い切り零の腹に突き立てた。


 「きゃっ!」


 ずぶり、と腹に突き刺さった杖を見て、私は悲鳴を上げた。少彦名命が、その時初めて私に目を向け、汚らわしいものを見るように顔を歪めた。


 「ふん、藁人形を打ち付けた人間か。ほんに、しょうもない」


 少彦名命のつぶやきに、私はギクリとした。あの夜、神社には零しかいなかった。それは間違いないはずなのに、どうして知られているのだろうか。


 「まあ、どうでもよいわ。さっさとどこぞへ行け。お前のような人間と話すだけでも穢れがうつるわ」

 「……はは……言われましたね、奏さん」

 「ほ、まだ口がきけるか」


 口を挟んだ零に、少彦名命は嘲笑を浮かべた。


 「まさにゴキブリよ」

 「ゴキブリは……三億年前から地球にいる……敬意を払えよ、新参者」

 「うるさいわ」

 「ぐわっ!」


 少彦名命は、零の腹に突き刺した杖を思い切り動かした。零がうめき声を上げ、その腹から何かが溢れ出した。


 「おうおう、ハラワタから溢れさせおって。これが神々の珍味かの?」

 「イヤラシイ顔で……見るんじゃ……ないよ、この……変態……」


 口答えした零に、少彦名命は冷たい笑みを浮かべて杖を押し込んだ。あまりの光景に悲鳴を上げると、大男に口を塞がれて「うるさいよ」と耳元で鋭く言われた。


 「もう終わる。ちょっと我慢してろ」


 少彦名命は私や大男には目もくれず、何度も何度も零のお腹を突いて傷口を広げた。開いた傷口から、ごぼり、と何かどす黒いものが流れ出し、しばらくするとそれがキラキラと光る別の物に変わった。


 「おおっ、おおっ! 出おったわ、これがそうか!」


 少彦名命は零の体から流れ出した光を手ですくい、口をつけた。


 「ふ、ふふ……ふわははははっ、これは美味! これは素晴らしい! これが、天地の創造神が味わったという珍味か!」

 「おっと、ここから先は有料放送だな」


 少彦名命が杖から手を離すと同時に、大男が私の目をふさいだ。


 「人間が見るものじゃないんでね」


 じゅるじゅる、じゅるじゅると、何かをすする音がする。少彦名命が零の体から流れ出た光を吸っている音だろうか、と想像するだけでゾッとし、喉元に吐き気がせり上がってきた。


 「おお、みなぎる、みなぎるぞ! なんというエネルギー! すばらしい、ここまでの美味とは!」

 「あーあ、ばかなやつ」


 狂喜する少彦名命の声に続いて、大男の呆れ返ったつぶやきが聞こえた。


 「麻薬をがぶ飲みしてるようなもんだって、どうして気づかないのかねえ」


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