23 痛み
スピードを出しすぎてハンドル操作を誤った車が、歩道へ突っ込んできた。
下校中で信号待ちをしていた私は、突っ込んできた車にはねられた。
ドンッ、と音がして、世界がスローモーションになり、気がついたら生垣に突っ込んでいた。
生垣だったから私は命を取り留めた。もしもコンクリートの壁だったら命を落としていただろう。だが無傷というわけにはいかず、車とまともに激突した両足は骨が砕けた。
動かない。足が動かない。
動かそうとしたら激痛が走った。我慢できない痛みではないけれど、痛いのは嫌だった。痛みから逃れようともがいたけれど、足が動かないから逃れられない。
足の痛みがせり上がってきて、下半身を覆う。
もういやだ。そう思ったけれど、痛みからは逃れられない。
「くっ……ううっ……」
苦しくて声が漏れた。足さえ動けばこんな痛みは感じなくて済むのに。
ああ違う。痛みがあるから足が動かないんだ。
あれ、どっちだっけ?
私の足が動かないのは、何が原因だっけ?
「痛みがあるんだよね?」
美しい声が聞こえた。誰の声だろう。聞き覚えがあるような、ないような。どこか見下すような、呆れ返ったような、突き放すような声。
「それ、神経は生きてるってことでしょ? 本当に動かないの?」
痛いもの。動かすと痛いんだもの。
「リハビリって、痛いんじゃないの?」
知らない、そんなの知らない。痛いのは嫌。嫌なの。
「リハビリしたら動くんでしょ? がんばってリハビリしなよ」
美しい声は心底冷え切っていた。なんというか、面倒くさそうに、当たり前のことを言った。通院している医者にも言われたことを、その通りに言った。
なんで、そんなに冷たいの。
私は事故で足が動かなくなったのに。
「……ちゃんと思い出しなよ。本当に痛いのが嫌で、リハビリやめたの?」
美しい声はそう言ったきり、聞こえなくなった。
そうよ、痛いのよ、痛いからやめたのよ。あんまりにも痛くて、下半身が痺れて動かない。兄さんが時々リハビリとして足を曲げ伸ばししてくれるけど、それだって痛くてたまらない。
痛い。
痛い痛い。
痛い痛い痛い。
痛みに声をあげても、美しい声はもう何も言ってくれなかった。
私はあきらめて、目を閉じ、痛みを受け入れた。
「ああ……」
そうしたら痛みが薄れていった。
足は動かない。下半身はしびれて感覚がない。
でも、いい。
痛くないならそれでいい。
歩けないのは苦しいけれど、兄さんが助けてくれる。
だったらそれでいい。それでいいの、もうそれでいいじゃない。
──キリキリ、キリキリとまた音が聞こえてきた。
ああ、この音は、嫌だ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
お願い……お願い、兄さん、助けて……




